011 幼女の権利
幼女ニュース Vol.005
永田町。
国会議事堂へと通じる路上。
この日は3,000人もの幼女デモ隊が駆けつけて、テレビ局のカメラの前に陣取っていた。
デモの参加者たちの腕にはピンク色の腕章がつけられている。
毎月ニ回か三回くらい集まって『幼女たちの恐ろしさ』を時の政権に知らしめているのだ。
幹部らしき人物がカメラの前に立つ。
そのバックに映っているのは『幼女の権利を守る会』という派手な横断幕。
「いまの日本の男女比をご存知でしょうか。総務省の発表によりますと、男性48に対して女性52なのです。なぜか? 幼女の性別について、戸籍上は女性として扱うことを、政府が尻込みしているからであります!」
別の幼女にカメラが切り替わる。
「このデモは性選択の自由を求めるものであります!」
そこに幼女たちの惜しみない拍手が注がれる。
ジャーナリストの投稿。
『内閣支持率、13%まで低下』
『ついにデッドラインを割り込む』
『幼女総理の誕生が不可避となりそうな情勢か?』
どこの先進国でも似たような現象が起こっている。
※ ※
社長の名前は瀬古いのり。
若手経営者にしてカリスマ幼女のひとり。
いまは『レーズンに含まれていたラム酒』にやられてダウンしている。
瀬古いのりの知名度がこの一年で上がったせいか、会社の代表窓口にセールスマンからの電話がよくかかってくる。
・ウォーターサーバーのレンタル
・オフィス用品の通信販売
・業界誌の売り込み
向こうも仕事でやっているのかと思うと、少しは同情してしまうのだが……。
会社の代表電話がプルルルッと鳴った。
俺はすぐに対応する。
「はい、幼女株式会社の須田でございます」
受話器の向こうから幼女の声が聞こえた。
「わたくし『幼女の権利を守る会』の者でございます。御社の瀬古いのり代表はいらっしゃいますか?」
いま日本で一番ホットな団体からであった。
ピンク色の腕章が彼女たちのトレードマークである。
「申し訳ありません。ただいま外出しております」
「さようでございますか。お戻りの時間はわかりますか?」
「本日は社外とだけ聞いていますので、帰社しない可能性が大きいです」
小さい嘘をつく。
「わかりました。でしたら日を改めてお電話差し上げます」
俺は、はあ、とため息をついてから受話器を置いた。
『幼女の権利を守る会』
それから
『幼女の心を考える会』
『関東幼女連合センター』
『立ち上がれ幼女ネットワーク』
といった市民団体。
彼女たちの相談内容というのは決まっている。
『ぜひ我々のスポンサーになってくれませんか?』
社長は何回も断ったのだけれど、向こうは性懲りもなく電話してくる。
だから俺がすべて断っているのだ。
幼女株式会社はたくさんお金を持っている。
そう思われているに違いない。
ちょうど先輩が俺の席までやってきたので、
「どうにかなりませんかね~」
と愚痴をこぼしてしまった。
「どうしたの? またやつらからの勧誘?」
「そうです。すべてお断りしております、と伝えているのですが……」
「相手さんも本気だな~」
「うちは大企業でもないのに、何回も電話してきますかね?」
「それだけ瀬古いのりが有名人ということだよ」
先輩はキョロキョロと視線を泳がせる。
「社長って外出する予定だったっけ?」
「え~と、郵便局へいっているはずです」
「そうか。だったら30分くらい帰ってこないよね。確認したいことがあったんだけれど」
「急ぎの用件ですか?」
「うん、幼コレの次回のアップデートのことでね。念のために許可をもらっておきたいんだよ」
「メールならすぐ返信がくると思いますよ」
「なるほど、ね」
先輩はその場でメールを打ち始める。
ブルルルッ!
バイブレーターの振動音が休憩エリアの方から聞こえてきた。
「さっき向こうから何か聞こえたよね?」
「音がしたような、音がしなかったような……」
「偶然かな?」
「だと思います」
先輩はもう一通メールを打つ。
またバイブレーターの振動音がした。
「やっぱり休憩エリアに何かいるよね?」
「さあ、俺には何も聞こえませんでしたが」
「まさかツインテールの社長が寝ていたりしないよね? これは私の勝手な想像なのだけれども」
「考えすぎではないでしょうか」
「う~ん、気のせいか……」
どんどん深まっていく疑念。
「まあいいや。ありがとね」
先輩はそういって自席へ戻っていった。
『郵便局へいっている』なんて嘘をつくから。
その嘘を見破りつつも、スルーしてくれた先輩の対応に、俺はちょっとだけ感動した。
「さてと、仕事、仕事……」
ひと息ついたとき、また会社の代表電話が鳴りだした。
ぞくり、と嫌な予感が背筋を冷たく流れる。
「はい、幼女株式会社の須田でございます」
「わたくし『幼女の心を考える会』の者でございます。御社の瀬古いのり代表はいらっしゃいますか?」
ああ、もう!
社長が有名人なのも考え物である。




