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105 キャラの胸囲

 最後に姫井から、


・週刊幼女の記事を読んでおくこと

・各自の端末にガルメモをインストールして実際にプレイすること


 という二点の通達があり、俺たちは朝礼から解放された。


 さっそく専用のストアからアプリを入手してみる。

 他社のゲームで遊ぶのも今日に限っては立派な仕事なのだ。


「最近のスマホゲームは映像と音楽が洗練されているよな」


 神宮寺が画面をポチポチしながらいう。


 ガルメモのインストールが完了すると、美麗なアニメーションムービーが流れ始めた。


「どのゲームもまあまあ面白いから差別化が難しい。日本人はキャラクターやシナリオを評価してくれるけど、海外ではパズルゲームとかTPSが人気だからね。類似商品ばかりが出回っているよ」


 TPSというのはサードパーソン・シューティングゲームの略だ。

 多人数で戦うタイプの第三者視点ガンアクションゲームといえば伝わるか。


「私の知り合いでさ。不正ツールを開発するのに余念がない変態がいるんだけどさ。TPSで何回も垢BANを食らっているよ。マップを自動で移動して、敵を見つけたら勝手に攻撃するアルゴリズムなんだってさ。本人は飯を食ったり昼寝しているだけで、優勝できるわけ。人工知能の精密射撃だから不正相手じゃないと負けないって寸法な。相手ギルドをソロプレイで壊滅させたりして、悦に入ってる狂人幼女だな」

「そういう反則技って楽しいんですかね? 絶対に友達をなくしますよね?」

「ゲーム内では神さま気分だから。唯一神に仲間はいらんでしょ」

「……なるほど」


 いくら趣味とはいえ才能の無駄遣いには違いない。

 それが凡人である俺の感想だ。


「幼コレみたいなRPG系は不正が少ないよ。ユーザーが嘘をついてもゲーム内のログを追えば一発だしな。我ながら賢明な選択をしたと思う」


 ちなみにRPG系なのはガルメモも一緒だ。


 有名イラストレーターを多数起用しており、幼女ウケしそうなキャラクターデザイン……幼コレのキャラより胸が大きい……という特徴がある。


「幼コレもそろそろ胸を大きくした方がいいんじゃねえか。こりゃ、貧乳コレクションといわれても反論できんでしょ。キャラの進化先を分岐させてさ。貧乳コースと普通コースをつくるとかさ」

「姫井さんが絶対に嫌がりますよ。つるぺたが神だと思っていますから。理想に殉じますね」

「……だよな。ゆり姫が幼コレの創造神だしな。貧乳とともに滅びる運命なのか」


 貧乳が好き。

 その一点だけは譲らない。


 俺としては姫井のそういう頑固さも好きだったりする。


「さてと、さっさとチュートリアルを終わらせるか」


 これはゲームシステムの説明なので三分くらいで完了した。


「とりあえずガチャも回して……」


 何回か無料で回せるのが昔からのスタイルである。


「おっ! 最高レアリティのやつが出た! 装備アイテムだけど!」

「俺も出ました。俺も装備ですけど」

「なんだよ。確定かよ」


 神宮寺が苦笑いしてから肩を落とす。


「とりあえず課金しておくか」

「えっ⁉︎ もうガルメモに課金するのですか⁉︎」

「うん……とかいっている間に9,800円のボタンを押しちゃった」


 幼コレにもいる。

 チュートリアルが終わった瞬間に9,800円を課金してくる神さま仏さまみたいなユーザーが。


 その正体が気になっていたが、神宮寺みたいな独身の高給取りかと思うと納得である。


「でも敵に塩を送るみたいですよね?」

「いいんだよ。どうせ一週目の対決はガルメモが勝つから。もしかして不満なの?」

「いや……その9,800円で負けたら悔やんでも悔やみきれないなと……」

「う〜ん……それなら……」


 神宮寺はガルメモを閉じて、幼コレのアプリを立ち上げた。

 俺の目の前で9,800円の課金ボタンを押す。


「幼コレにも同じだけ課金したから。相殺されてフェアだろ」

「その発想はありませんでした」


 本当に自由だな。

 神宮寺のお金の使い方には一種の男らしささえ感じられる。


「当たり前だけど、いい声優を起用しているよな。今季のアニメで主人公とかヒロインの声を担当している人もいるし。カノープスは資金が潤沢ともいえる」

「ですよね。有名声優しかいないですよね。うちとは真逆です」

「イラストも綺麗だし、音楽も手が込んでいるし」


 一流の声優。

 一流のイラストレーター。


 だから売れる。

 そんな当たり前すぎる理論。


 どうやってカノープスを倒せばいいのだろうか?


 向こうには粒ぞろいのエンジニア軍団もいる。

 それを龍造寺が束ねており、その上には流川という切れ者の社長までいる。


 まるで隙がない。

 つまり『売れない要素』『失敗する要素』が一つもない。

 俺でさえ圧倒的な戦力差を感じてしまうのだから、社長や姫井ならより一層意識しているはず。


「なんだよ。普通に面白いじゃん。ガルメモ」


 神宮寺がつまらなそうに画面を連打する。


「普通に面白いって、何気にすごいですよね。誰がプレイしても一定の面白さがあるってことですよね」

「そうそう。世間でいわれる普通って、普通にすげえってことだから」


 キャラは可愛いし、ストーリーは王道だし、冒険はサクサク進む。

 欠点らしい部分がまるで見つからないゲームを前にして、焦燥感のようなものが込み上げてきた。


「でっかい初期バグが見つからないかな。緊急メンテに突入して、幼コレが不戦勝できるのに」

「神宮寺さんはバグに期待していたのですか?」

「だって一番楽に勝てるじゃん」

「まあ……確かに……」


 操作はとても良好。

 サーバーからのレスポンスも早い。


 リリース直後にシステム障害を起こす会社がよく存在するが、カノープスはそんな失態を犯さないらしい。


「まいったな。向こうは高級食材の豪華ディナー。こっちは激安スーパーの食材でつくった家庭料理って感じだな。ゲームの開発費が桁違いじゃねえか」

「激安スーパーの食材って……幼コレの声優さんとかイラストレーターさんに失礼ですってば……」

「いや、良い意味で激安ってことだよ。進化の余地だよ」


 あれは俺が入社したばかりの頃。


 うちは実績のない会社だから、あまり実績のない声優やイラストレーターを起用しよう。

 そんな方針を社長と姫井が決めたらしい。


 もちろんギャラが安いというのが建前である。

 それとは別に、将来性のある若い人を発掘したいという気持ちもあり、そっちが本音に近かったような気がする。


『声優さんやイラストレーターさんに仕事をお願いする。それもうちの立派な使命なんだよ』


 そういう社長の横顔が輝いていたのを覚えている。


 声優のタマゴの中から候補者を探してくる。

 イラスト投稿サイトで活動しているアマチュアにダイレクトメッセージを送る。


 社長と姫井はそれを実際にやった。

 彼らの能力が商業でも通用することを証明してきた。


 そうやって完成した幼女コレクションというゲームは、俺たち八人だけでなく、その十倍や二十倍という協力者たちの努力の結晶なのである。


 だが、しかし……。

 今回ばかりは相手が悪い……。


「幼コレの主人公の声を担当している声優さん。この前、やっと通行人Aとか女子高生Bの役を卒業したな。そのうち主人公の声を担当する日が来ると思うけどさ。いかんせん、まだ若いからな。才能はあっても、いまは知名度がない。それに比べてカノープスときたら……」


 向こうは国民的な声優兼歌手だ。

 神宮寺がうんざりするのも理解できる。


「上等じゃねえか。雑草魂。総年俸がくそ安いチームでもスター軍団に勝てる……可能性はあるってことを証明してやるよ。いのりとゆり姫が……。たぶん……」

「ええっ⁉︎ 神宮寺さんも一緒に考えてくださいよ! すごいアイディアを!」

「不正ツールでカノープスに嫌がらせしちゃう?」

「それは絶対にダメです!」


 俺たちにできることが限られている、というのも悔しかったりする。

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