その一
俺の名前は萩塚蓮。今年、私立白舞高校に入学したばかりのピカピカの一年生――といっても、七月にもなるのでクラスには各々のグループが出来ていた。
その中で俺は、孤立する訳でも中心になる訳でもなく小学校からの腐れ縁の道明寺理や善財健とつるんで……半ば強制的に連れられていた。まあ、コイツらの事は後々話すとしよう。
成績は中の上。生物だけは学年一位とか自慢しにくいスキルを持っているが、他は悲しくなるほど普通レベルだ。趣味はオンラインゲームとアニメ鑑賞。そんなごく普通な俺だが……嫌でも目立つ時がある。
それは、入学式や初めての人と会う時。何せ、俺を初めて見た人は皆同様の反応をするのだ。何故かって?そりゃあ、俺の髪が生まれつき『白い』からだ。因みにこれは、病気とかストレスの受け過ぎとかでは無く単に生まれつき色素が極端に薄いらしい。そんな特段目つきが悪い訳でも、ピアスをしている訳でもない俺を見て皆同様に「何かあったら言ってね!」「無理しないでね!」とか言ってくる。
そしてその度に、何故か俺は物凄い罪悪感に襲われる。
因みに女子との関わりは殆ど無い。というか、彼女とかリア充とか正直どうでもいい。
だがもし将来、ゲームやり放で養ってくれる女子が居たら即結婚を申し込むであろう。
でも本当に、俺に取ってこっちの世界はどうでもいいのだ。“シグプレ”があるのだから。
「おーい! 蓮?」
そう呼ばれ、窓の外で準備運動をしている女子達の太股から目を離し声の方へと振り向いた。
その瞬間、プニョ!っと効果音が出そうなくらい柔らかい何かに当たり反射的に顔を離す。
「おまっ! 何で前に立つ時わざわざ腹つき出すんだよ! わざとなの?」
「わ、わざとじゃないよー! なんか引っ込まないんだよねー」
巨体に似合わぬ子供の様な笑みで申し訳なさそうに笑う道明寺。そんな人の良過ぎる所が憎めず、家が近い事もありいつの間にか学校では話さないゲームやアニメの話も良くする様になっていた。因みにコイツも“シグプレ”をやっている。
「はぁ~ぃ席につぃてぇ♪ もぉすぐ夏休みだからって気を抜かないでよぉ? 先生ゎ……水着も買ったのに遊べないのよぉ~! だからぁ皆ゎ思ぃっきり羽目を外しなさぁ~ぃ♪」
入ってきて早々、教師らしからぬ発言をけしからん胸を弾ませ言っているのは担任の石衣雪音 ××歳。あっあれ?年齢の所に規制が入るな?じゃあ年齢不詳って事で。その豊満な胸にタレ目で明るい性格で男子生徒の憧れの存在……の筈だが、大の酒好きで絶賛彼氏募集中らしい。
プシュッ! ようやく一日の試練も終わり、下駄箱横の自販にしか売られていない炭酸飲料めろんすかっしゅの缶を開け半分位まで一気に流し込んだ。
「ふぅー」
火照った頭をキツイ炭酸が冷まして行く。夏休みと言っても予定もないし宿題を終わらせシグプレ三昧……そんな事を考えながらスーパーで魚肉ソーセージと三人分の食材を買い玄関のドアを開けた。
「ただい――」
「兄さまーっ!」「蓮兄っ!」
同時に玄関に響く統一性の無い二つの声。
「おいおい。兄さまってのは恥ずかしいから、せめてお兄ちゃんにして貰えないか?」
すると、何故か顔を赤らめ熱を帯びた瞳で口を開いた。
「れ、れんおにい……さま。」
そう答えたのは、長い白髪に猫耳パーカーをかぶった我が妹の萩塚華乃子(通称:華乃)。白髪意外、似ている所がないと言っても良い程礼儀正しく小6とは思えぬ落ち着きを持っている。
「あ、兄さまは華乃が神子みこ様と決めた呼び名なのですっ! なのでこれは絶対ですっ!」
と、得意気に十字の巻かれた右手を胸に当て微笑んだ。……前言撤回。極度の中二病を除いて。
「なあ、蓮兄ってば!」
この下で跳ねているのは華乃の双子の妹の千歳。背は低いが性格は活発でスポーツ万能。只、勉強は苦手らしく去年の成績表には見事にピラミッドが並んでいたが本人は『見よ! このキレイな成績表をっ!』とか言ってたな。でも、二人共根は優しい俺の自慢の妹だ。
「蓮兄又伸びたなっ! どうしてちーは伸びないのだ? ダンクシュートができないぞっ!」
「そりゃー成長期だからな。まぁ大丈夫だ! 俺も一生ダンクシュートなんて出来ないぞ!」
「そうか! じゃー、ちーが蓮兄より高くなってオリンピックに出てやるっ!」
そんな訳の分からん事言いながら、我がスポ魂妹はツインテールに『ヤンキーズ』と書かれたお気に入りのキャップをかぶり急いで玄関を出て行った。どうやらいつもの坊主達と遊ぶ約束をしていたらしい。にしてもあのキャップ……日本語にすると『不良軍団』とか怖すぎだろっ!
「ふにゅっ! そういえば兄さまにプレゼントがあるのですっ♪」
すると、何やら華乃がポケットから出したのは見覚えのある封筒だった。
「ああ、これか。」
それは、俺が毎日欠かさずプレイしているオンラインゲーム“シグナプレス”からの封筒。
このゲーム、通称“シグプレ”は少し変わったゲームで『リアルとゲームを繋ごう!』という怪しげなコンセプトの一環としてイベントの時期になると自宅に情報が送られて来るのだ。
その中身は特典や、ゲーム内で入力すると抽選でレア装備が当たるシリアルという物もあった。
「んーっと今回は――」
華乃から封筒を受け取り、ハサミで丁寧に封を開けると逆さまにした――チャリンッ!
「ふにゅっ? 何か落ちましたっ!」
と、カーペットの上に落ちたその小さな銀の塊を手に取ると俺の手の平に置いた。それは一見すると小さなキーホルダーの様だ。さらに同封されていたプリントも広げてみる。
『~皆様へ新イベントのご紹介です~ いつもシグナプレスをご利用頂き誠に有難うございます。今回のイベントは名付けて『キーチェーンギルド大戦』! まずは同封されているキーチェーンをご覧下さい! その表には皆様の所属ギルドの紋章とギルド名、裏にはキャラ名とシリアルが書かれている筈です!』
二人で再びキーチェーンを確認すると、そこには確かに『夜空の宴』という文字と見慣れた紋章があり裏には『†レン†』と中二病が付けそうな記号に挟まれたキャラ名があった。
「わぁっ♪ 本当にギルド名と神聖なマークに挟まれた兄さまの名がっ!」
「この妙なマークはお前が付けたんだろ!」
『このキーチェーンは全プレーヤーに送られており、ギルド未加入の方にも裏面だけが書かれた物が送られております。そこで! 今回皆さんにして頂きたいのは、これを『目立つ所に付け持ち歩いて欲しい』のです! そして、キーチェーンをリアルで見かけたらシリアルを交換しギルド未加入の場合はギルドへ勧誘! それが成功したら、シグプレでシリアル入力と『加入申請』を行うと……なんとっ! ギルドにはギルドポイントが一人につき5P加算され、プレーヤーには一人につき1000Gが付与されます!』
「す、すごい太っ腹ですっ!」
確かに今回の運営は太っ腹だ。Gはシグプレの通貨で100Gもあれば武器も買えるし、ギルド設立に必要なのは5000Gだから5人交換すれば設立も出来る!
「ギルドに加入済みの場合はどうなるのでしょうかっ?」
「えっと、この下に書いてあるみたいだな?」
『ギルド加入済みの場合もシリアル交換で通貨は貰えますが、GPは貰えず互いのギルドのGMへ連絡が行き『共闘』か『大戦』かを選びます。そこで、両者が『共闘』を選んだ場合は期間終了まで共に戦う事となり又どちらかが『大戦』を選んだ場合はギルド戦を行い敗北したギルドは期間中大戦が出来なくなります。その為、多くの強力なメンバーを集める事が今回のイベント攻略の鍵です!』
このキャンペーンの期間は7月20日~8月下旬らしいが場合により延長される事もある。
つまり、最初に敗北したギルドは一ヶ月以上大戦が出来ず平和主義なギルドになるという事だ。
「運営も無茶いいやがる」
「リアルでシリアル交換って言うのはハードルがっ……」
そう、今回のイベントは俺達にとってかなり厳しいのだ。リアルの交換は勿論だが、俺達のギルドじゃ最初に大戦を挑まれたらそこでthe End。かと言って、新メンバーを集めるにせよ只でさえ人見知りな俺達には……。
「兄さまっ! このお手紙、下にもまだ何か書いてありますよっ?」
『そうそう! この大戦、各サーバーの一位入賞ギルドには賞金orゲーム内で一度だけ使える特殊アイテムが貰えるので頑張っちゃって下さーい! (笑) シグプレ開発チームより』
最後の(笑)が妙にムカつく。絶対開発チーム楽しんでるだろ! それに『特殊アイテム』の内容が書かれていないのも不気味だ。そもそも、ネトゲでもプレイヤー数トップを誇り主婦まで家事そっちのけでネトゲにハマる時代だが、そんな身近にプレイヤーが居るもんだろうか?
「兄さまっ! 華乃のも届いてましたっ♪ ふにゅっ? 何か思いつきましたかっ?」
「い、いや何にも! だから……今回のイベはパスだなっ!」
と、わざと明るく答え華乃限定で好評のぎこちないスマイルでニッと笑った。
「ふにゅーっ♪ 兄さま今日もかっこ……ってえぇっ⁉」
「いやいや! 今回のイベは残念だけどパスだろ? 俺達で大戦なんてキツいし、仮に勧誘出来たにせよ最後まで勝ち上って一位取るってのは――」
「ふにゅーっ。で、でもっ! 負けるまでは頑張りましょうっ! 最後まで全力ですっ!」
本当にお前は変な所で負けず嫌いなんだよなー! 仕方なく「おうよ」と頭に手を乗せると、二階の自室へ上がり習慣的にPCのスイッチを入れ見慣れたアイコンをダブルクリックする。
すると、何とも眠たくなるBGMと共にサーバーへ接続され画面に白髪のキャラが表示された。
俺のキャラはヒューマンのウィザード。攻撃魔法をメインで使っている。シグプレには他にもエルフ・ドアーフ・巨人と4種族存在し、ステータスの振り分けによってファイターやウィザード、ガーディアン等に育成して行く。正直白髪にはしたくなかったのだが、もしリアルで会った時「キャラは白髪じゃないんだ!」なんて言われたらと敢えて白髪にしたのだがそもそもゲーム内の知り合いって顔見だけじゃん!と今更に後悔している。
LVは202。最高が300らしいが、強さを分けるのがこのゲームの特徴とも言える『特殊スキル』だ。このゲームには約1000種類の『特殊スキル』が存在しており、そのスキルは普通のスキルの様に習得する訳ではなくLV200時に1/100と言う確率で付与される隠しスキルの事だ。それも、何のスキルを取得したのかは実際プレイして知る以外方法は無く新たにスキルを習得する事も出来ないという何とも運頼りなスキル。LVアップと同時に特殊スキルも上がるので、運営によると殆どがMAX時には同等の強さになるらしいが……運が良いのか悪いのか、少し前に俺も特殊スキルを取得したのだが取得したのは『5秒間敵の属性が分かる』物らしくこのゲームにはモンスターと武器に属性が付いているのだが、今回は対人戦なのでその都度発動しなければ意味が無いのに発動後5分間攻撃が出来ないという超要らないオプションまで付いている。そう。同等と言うのはあくまでも『殆どの』なので、同等以下も有るという事だ。と言うか俺のスキル……戦闘能力に全く関係ないんですけど!
中にはレアスキルと呼ばれ、LV200時点で通常のMAXに匹敵する程の力を持つ物もあるらしいが……そもそも200になる事自体大変なのに折角取得出来たスキルが使えないって!
「たっだいまー!」
玄関から聞こえてきたその声に急いで俺はPCをスリープモードに移行し一階へと駆け下りた。
「毎度毎度、良くこんなに汚せるよなっ!」
「へっへー! それほどでもっ!」
「早よ風呂行ってこいっ!」
時刻はAM5:40。昨日は結局、あの後玄関の掃除をして夕食の支度やらで出来ていたキャンページページの概要を読んだ後シグプレはそれきりだ。
「善財や道明寺にも聞いてみるとするか」
布団から抜け制服と鞄を持ちリビングへと向かう。両親は出張中なので、今は俺と華乃が交代で家事をして千歳はカレーだけが抜群に上手いので週に一度はカレーの日にしている。今日は朝食当番の為、下ごしらえを済ませ三人で朝食をとり妹二人に見送られながら足早に家を出る。
「おはようハギー!」
朝っぱらからやけ高いテンションで肩を叩いて来たのは、もう一人のシグプレ仲間の善財健だ。
「だから止めろつったろ? そのハギーっての!」
「じゃあ、マイハギーっ! ……あれ? もしかして怒っちゃった?」
朝から余計なHPを消耗したくないのでここは無視を通す事した。善財も一応中学からの知り合いだが、その長身に細身で色白と言う外見からして昔から目立つ奴でモテる事も含め中学では頻繁に虐めを受けていたらしい。その現場を偶然通り掛かった俺が、ペロキャンをくわえゲームに夢中になり「くっそ! マジ何で死なないかな⁉」と苛立ちながら歩いていた所を遠めから見た上級生がタバコをくわえたイカれた奴に見えたらしく怯えて逃げていったらしい。以来、『命の恩人』とか要らない称号を付け頻繁に話しかけて来る様になった。只コイツ、外見はモテるが内面が超オタクの為女子の大半が苦笑いをして去って行き二度と近寄らないそうだ。
「お前さー。もっと趣味の事とか隠したらどうなの?」
「ええっ? 嫌だよー! それに、付き合うなら僕の趣味を認めてくれる人がいいし!」
「あぁ、あの魔女っ娘何とかだっけ?」
「魔女っ娘リンちゃんっ! 夕方から再放送もしてるんだよ! 最近は特に神回が多くて……」
と、熱弁を始めた善財を横に教室へ入り席につく。善財は隣の列なので、休み時間は窓際の一番後ろというベストプレイスな俺の席にわざわざ集まってくるのだ。そう、こんな風に……。
「でさぁ! そこでリンちゃんが『ミラクルリンちゃん』に変身して!」
「って、まだその話続けてたのかよ!」
しかもミラクルって何だよ!と、HRまで時間もあるので新イベントについて話を振ってみた。
「そういえば昨日、イベントの来た?」
「あっ、来た来た! だけど、今回結構厳しいよね?」
「おはよー二人とも! ってど、どうしたの?」
息を調えながら近付いて来た道明寺に同じくキャンペーンの話をした。
「み、見た見た! リアルでって難しいよねー」
「ハギー達の場合、もし最初に出会ってしまったら終わりだもんね!」
「ああ。そういや、お前等もうキーチェーンって付けたの?」
すると、二人は鞄を持って来てファスナー部を向けた。コイツ等……やる気満々じゃねぇか!
一時限目も終わり次は移動教室の為、鍵当番の俺は誰も居ない事を確認し扉へ手を掛けた。
「あっ、あの! まだ開いてますか?」
「へっ?」
急に後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには長い髪を耳にかけ申し訳なさそうに俺を見つめる一際目立つ女子生徒が立っていた。その生徒は正しく、今年の新入生代表にして校内のアイドル的存在となりつつある同じクラスの美少女練霧音羽だった。
「す、すみませんっ! 教室に忘れ物をしてしまい……入っても宜しいでしょうか?」
突然の出来事にフリーズしてしまった頭をフル回転させ急いで閉めかけた扉を開く。
「どどどど、どうぞこちらへっ!」
やっべ超恥ずかしい!だが、そんな返答にも関わらず彼女は柔らかな笑みを浮かべ唇を開いた。
「有難うございます! 萩塚君。」
すると彼女は、足早に席へと向かいペンケースを持つと再度深くお辞儀をして教室を後にした。
は、萩塚くんっ⁉脳内でリピートされるその言葉に浮かれつつ、扉を閉め歩き出そうとすると廊下に何か光る物を見つけ近付いて手に取ってみる。そこには、馬のイラストと“飛行馬”と言う読み方の解らない単語が書かれており裏には“wing”という文字と数字が並んでいた。
「これって……?」
チェーンは付いていないが見覚えがある。と、視線の先には先程扉を開けた女子が足早に歩いていた。……え? ええぇっ⁉ いやまさか! でももしこれが彼女のだとしたら……そんな事を考えている内に足は必死で彼女の背中を追いかけていた。
「練霧さーんっ!」
「ふわっ⁉ ど、どうなさいましたか?」
何年ぶりかに全速力で走り、ぎりぎり教室前で呼び止める事が出来た。
「あっあの! こ、これってもしかして練霧さんのですか?さっき廊下で――」
と、拾った物を目の前へ持って行くと途端に練霧の顔色がみるみる赤く変化して行く。
「わ、わわ、私のっ! じゃ、なくて! と、とにかくありがとうございまふっ!」
そう言うと、潤んだ瞳で恥ずかしそうにキーチェーンを握り締めた。こんなに慌てた練霧を見るのは初めてだ。というか、これはこれで何という破壊力っ! でも本当にあれは練霧の?
「あ、あのっ! それってその……シグプレのですよね?」
「っ!」
言葉になら無い悲鳴を上げたかと思うと、教室の扉が開き先生がこちらに向かい声を発した。
「二人共ーっ! 遅れてるぞー早く入れー!」
「「い、今行きますっ!」」
同時に答えると、足早に教室へと向かう途中に彼女が耳元で話し掛けて来た。
「あっあの! 後でお話があるので……放課後に屋上前の扉で待っていて貰えますか?」
「え? あっはい」
咄嗟にそう答えると、彼女は柔らかに微笑み一足先に教室へ入り席に着いた。
「蓮? も、もう授業終わったよ! 学食行くー?」
「うわっ! って、道明寺か。あーそうだな、今日は弁当無いし久しぶりに行くか。」
「珍しいねー? いつも妹ちゃんのも作ってるのに」
と、善財も加わりいつものメンバーで学食へと向かう。
「そ、そういえば二時限目ずっと上の空だったよねー? 当てられたの覚えてないっしょ?」
「えっ? 俺、当てられたの?」
これはヤバい。練霧との約束で頭がいっぱいで授業の内容さえも殆ど頭に入っていない。
「もしかしてあれの事考えてた? 今日の午後からの――魔女っ娘リンちゃんっ!宿敵で実姉のソーサラネネちゃんが登場する神回の事で頭が一杯だったとか!」
「ち、違うわっ! 気になってたのはあれだよ! そう、シグプレ!」
てか、魔女っ娘リンちゃんどんな修羅場展開だよ! 逆に気になって来たわ! そんなやり取りをしながら学食に着くと、小走りで席を取る道明寺の分も食券を出すと無愛想なおばちゃんが驚きのスピードで出した料理を受け取り席に着く。
「今回はどうするの? まずはシリアル集め?」
「シリアル集めっても俺、部活入ってないし」
「じゃ、じゃあ! クラスの人の鞄やペンケースを観察するとか?」
「いやそれモロ不審者だろっ!」
「取り合えず僕は部活の人に聞いてみるかなー。シリウスの人が居たら連絡するよ!」
善財はPC研究部という最早オタクのユートピアの新入部員なので少しは期待が出来そうだ。
「じゃ、じゃあ! 俺っちも先輩とかに聞いてみるかなー」
と、特盛カレーを完食した道明寺が俺の方を見た。因みに道明寺は将棋部。昔からボードゲームが好きでピッタリだが、俺の周り本当にインドアばっかな。直帰部が言えた義理でも無いが。
「んじゃー俺は取り合えず……レベ上げかな!」
だろうと思ったよ! と言いたげに笑う二人の後ろから昼休みの終わりを告げるチャイムが響くと、結局大した進歩も無いまま俺達は教室へと戻った。
今日の授業も終わり、HRで豊満な先生の胸を拝み放課後となった。
俺は部活へ行く生徒や校門へ向かう生徒達のラッシュを横目に反対へと歩き出し屋上を目指す。善財や道明寺は既に部活へ向かい他の生徒にも怪しまれずに抜け出せた。練霧はもう出たのだろうか? そんな事を考えながら階段を上っているといつの間にか3階まで来ていた。
屋上は4階。つまりあと半分登れば、あの可憐な美少女が俺の事を待っているのだ!
よしっ!と気合いを入れ一歩足を踏み出そうとした瞬間――
「お待ちしましたか?」
又もや後ろから突然声を掛けられ、危うく階段から落ちそうになる所を手すりに助けられた。
「ご、ごめんなさいっ! 私ったら又後ろから! その、鍵を取りに行っており……」
「い、いや! 全然OKっすよ! でも、鍵?」
その彼女の右手には確かに銀色の鍵が握られていた。
「あっ、屋上の鍵です。萩塚君もご存知と思いますが、普段屋上は閉鎖しておりますが……ここからは秘密なのですが実は生徒会のみ使用が許されており鍵を借りる事が出来るのです!」
と、嬉しそうに言うと彼女は扉の方を向き施錠を開けゆっくりと開いた。
そう言えば入学式当日、いきなり教室に数名を連れた見るからに豊満……高飛車で整った顔立ちのクール美人な生徒会長が入って来たかと思うと、練霧の席に行きこんな事を言っていた。『貴方、生徒会に興味はなくて?良かったら生徒会に入りなさい』と。そして、彼女は驚きながらも直ぐに『宜しくお願いします』と答えたのだ。にしても、生徒会の特権として屋上が使えるだなんて本当に初めて聞いた話だ!
「どうぞ! あっ、因みにこの事は他言無用でお願いします!」
と、人差し指を口に当て困った様に笑う練霧。あーもう、何で一々こんなに可愛いんだ?
思わずニヤけそうになる口を堪え言われるままに初めての屋上へ足を踏み入れた。そこはもう夕方だが、太陽は元気に活動中で目を細め辺りを見回すと思ったよりも広く遮る物がフェンスしか無く町が一望出来て心地いい。隣では練霧も気持ち良さそうに伸びをしていた。
「ここは私のお気に入りの場所なのです。良くこうして風に当たりに来ているのですよ!」
「俺も入っちゃって大丈夫なんですか?」
「あっはい! でも誰にも見られないようにしなきゃですね。先生も絶対ナイショにしてくれれば入れて良いと言っておりましたし!」
「そ、そうなんですね!」
この人は今日初めて話したであろう俺をどんだけ信頼しているんだ? もし俺が話したら練霧が責任を負う羽目になるのに……まあ、俺に限りそんな事は天変地異が起ころうとしないが。
「あの……本当にごめんなさい! 今日は色々とご迷惑をお掛けしてしまい。」
「えっ! あっ、いいよ全然! 気にしないで!」
でも、何でこんな所まで呼び出したんだ? 謝るだけなら呼び出す必要は……まさかっ!
「それでその……キーチェーンの事、萩塚君もご存じでしたよね?」
「あっはい! シグナプレ……」
と言いかけた瞬間、急に練霧が扉の方を気にして『しーっ』と顔を近付けその先を遮った。
「っ⁉ あっあの……練霧さん?」
こんなに近くに顔がっ!妹以外の女子とは殆ど話さないせいで鼓動が急ピッチで耳に響き渡る。
「はっ! ご、ごめんなさいっ! ちょっと気配がした様な気がしまして」
と、急いで練霧は顔を離すと扉の外を見に行き足早に戻ってきた。
「だ、大丈夫でした! 気のせいだったみたいです」
息を切らせながら安心したように一息つく練霧。でも、確かに屋上で彼女と二人だけで会っている所を誰かに見られたりでもしたら……一気に俺の学校生活がサバゲー生活になり兼ねん。
「さっきの続きですが……その、ゲームの事を内緒にして頂きたいのです!」
顔を赤くして今にも瞳から雫がこぼれて来てしまいそうな勢いで見つめてくる練霧。
え? って事は必然的にさっきのは練霧の物と言う事になり彼女がシグプレーヤーに……だが、これを確認してしまったら冗談抜きで確実に泣き出してしまうであろう。無論、俺には泣かす勇気やなだめるスキルなど到底持ち合わせちゃいないので敢えて聞かずに話を進める事にした。
「え、えっとつまり……俺が練霧さんがやっている事を誰にも言わなければいいんですか?」
「はい……親切にして頂き、更にこんな事をお願いするのはとても迷惑な事と承知しております。ですが! も、もし内緒にして頂けるのなら私……何でも致しますっ!」
「なっ⁉ そ、そこまでしなくとも俺は内緒にしますよ! 内緒なのは俺も一緒ですし!」
何でも致しますって、上目遣いで『蓮君っ♪』とかケモ耳に尻尾エプロンで『は、恥ずかしいにゃん!』なんて……じ、実にけしからんっ!てかケモ耳尻尾エプロンってどんな装備だよ!
「よ、宜しいのですかっ⁉ で、ですが! せめて何か一つだけでもっ!」
真剣な眼差しで見つめるその瞳はビー玉の様に綺麗でどこか儚げで――本当に力になりたいという思いが伝わって来た。でも、力になりたいと言われても……何か……シグプレ?
そうだっ! あるじゃん! 彼女にしか出来ない事が! 俺はさも考えた素振りで口を開いた。
「じゃ、じゃあその……俺のギルドと次のイベントで共闘してくれたりなんて……」
すると彼女は驚いた顔をしてそのまま下を向いてしまった。やっぱりいくら何でもいきなり過ぎだよな! それに、他のメンバーの意見とかもあるだろうし……
「う、嬉しいですっ!」
「へ?」
急に彼女は顔を上げると、今度は瞳をキラキラさせ見つめてきた。
「ほ、本当に宜しいのですか⁉ こんなに良くして頂いてばかり――実は私、今回の知らせが来てからずっと今のギルドでは一位を取るにはもっと仲間を増やさなければと考えており」
つまり彼女も又、校内では人員補充は出来ず俺達同様に足止めを食らっていたって訳か!
「じゃあ、決まりですね! 俺の妹もギルメンなんですけど結構熱入ってて……どうせなら一位まで行かなくても出来る限り上位を取らせてやりたいですし!」
「駄目です……一位でなくては」
「へ?」
「あっ! な、何でもありません! そうですよね! 妹さんの為にも一緒に頑張りましょう! それにしても本当に何から何まで有難うございます」
「いやいや! 俺が頼んだのですから! こちらこそ有難うございます!」
すると、再び柔らかな笑みを浮かべ彼女は鞄から紙とペンを取り出し何か書くと俺に手渡した。
『所属ギルド:飛行馬 キャラ名:wing サーバー:シリウス シリアル:0458**』
「私のゲーム内でのプロフィールです。宜しければその、萩塚君のも教えて頂ければ……」
「あっ、はい!」
差し出された紙とペンを借り、俺のキャラ情報を書くと彼女とのプロフィール交換を終える。辺りはいつの間にか元気だった太陽も傾き奥の方からは淡い夜空が近付いて来ていた。
「これでゲーム内でもお話し出来ますね!」
「妹もきっと喜びます!」
時計の針は17:55を示していた。今日の夕食当番は華乃だが、遅いと心配を掛けるので一先ず俺達は屋上を出ると鍵を返しに行く練霧の後ろ姿を見送ると一足先に帰路へと着いた。
16年間開いてきた扉の前で一呼吸つき中を覗き込む。時刻は18:25夕食は18時半の為ギリギリセーフだ。人影も見当たらずゆっくりと扉を開けた途端……バチンッ!
「いってえ!」
すると餌に掛かった獲物を見にドタバタと階段を降りてくる2つの足音が聞こえて来た。
「ヒッヒー! 引っ掛かったー!」
「兄さまご無事ですかっ? でもっ、遅いから天からの鉄槌なのですっ!」
「お前らなぁ! まだセーフだろっ!」
頭上には開くと同時に何重もの輪ゴムが飛んでくる黒板消し落としの応用版が設置されていた。
「へへっ! すごいっしょ? ちーが作ったんだっ!」
「お前はその才能を勉強の方に生かせよ!」
「今日は兄さまの好きな聖痕ハンバーグですっ! この時は10分前に着くお約束ですっ!」
「何その神秘的なハンバーグ! 食べた事ないよ! しかもそんな約束初めて聞いたわっ!」
すると千歳はいつの間にか既にテーブルに着いていた。
「お、お兄ちゃんが悪かったって! 華乃の料理は最高だもんな!」
「むうっ……こ、今回は神の恩恵に預かり許すとしましょうっ! 早く食卓に着くですっ!」
何とか機嫌が回復したらしいので急いで手洗いを済ませ、料理を運ぶ華乃の前を通り席に着く。
「ふにゅっ? くんくん……兄さまから雌の、それもかなりの上級種の匂いがしますっ!」
その瞬間、顔から血の気が引くのを感じた。
その後、テーブルに着くなり聖痕ハンバーグを笑顔で出され妹二人に凝視されながら完食した。
「お腹一杯になりましたねっ? ではっ! 今日の学校は楽しかったですかっ?」
「蓮兄っ! 洗いざらい喋っちまいな! 華乃はしつこいぞ!」
と千歳が飛び掛かりヘッドロックを仕掛けて来た。
「ちょ、ギブギブっ! この状態じゃ話せねーから! 聖痕じゃなくて聖水が出るわ!」
興味津々の二人に溜め息をつくと俺は正直に今日あった事を話始めた。
「だから、最初から隠すつもりも無かったし特に華乃にとっては良い知らせだろ?」
「ふにゅっ? 上級種狩りですかっ?」
「何のダンジョンイベント⁉ じゃなくて、共闘するギルドが見つかったんだよ! 女子で!」
「兄さまがそんなにヒューマンの雌が好きだったとはっ! こんな美少女が傍に居るのに……」
「ちげーよっ! お前、イベント楽しみにしてただろ? それに俺達のギルド女居ないし、華乃だけじゃ寂しいかなーって。駄目……だったか?」
「むぅーっ!兄さまは……きっと神子様からの裁きを受けるのですっ!」
何故かプンスカしながらもどうやら認めてくれたらしく、慣れた手付きで茶碗を片づけ始めると、直ぐに何か思い付いた様にキッチンから顔を出した。
「あっ! 聞き忘れておりましたが、先ほどの上級種えっと名前はっ……」
「ああ、名前は練霧音羽。所属は確かひこううま……だっけ?」
途端にキッチンに居た華乃が勢い良く戻って来ると頬を紅潮させ興奮気味に聞いて来た。
「も、もしかしてそれはっ!飛行馬と書いてペガサスと読みますっ⁉」
「ん? そういや、確かそんなんだったな……(あれペガサスって読むのか!)」
と放課後に貰った紙をポケットから探し出し手渡すと、不意に華乃がふるふると震えだした。
「あ……兄さま……っ」
「ど、どうしたっ?」
「これですっ! この『飛行馬』の『wing』って!」
「お前知ってるのか?」
「兄さま知らないのですかっ⁉ この方は飛行馬のGMでレアスキル所持者とも噂されている方ですっ! 飛行馬自体もシリウスで毎回上位に入る有名ギルドですっ‼」
「え?」
何だって? あの練霧がギルマスで……しかもそのギルドもかなりの強豪ギルド?
「凄いです兄さまっ! こんな方を初日に、しかも学校で捕まえられるなんてっ!」
「あ、うん……」
停止気味な俺の思考回路に、さらに興奮気味の華乃が質問を続ける。
「その練霧って方はどんな方でしたっ? 噂によると、キャラはエルフの女剣士でスキルはメンバーにしか知らされていないとかっ! 外見は高貴な騎士の様で格好いいらしいですっ!」
いつの間にか愛用のミニPCからシグプレの掲示板にて情報収集を始めていた。
すると、俺が答える暇も無く今度は急に立ち上がると「にゅふふっ♪ 」と笑い出した。
い、いかん! これは華乃が何か企んでいる時の表情だ。
「良き事を思い付いたのですっ♪ 兄さまは今日華乃達に心配をかけましたよねっ?」
「あっ、ああ……だけどあれはっ!」
「掛けました! よねっ?」
「か、掛けました……」
「ですよねっ♪ ではっ! 兄さまは華乃のお願いを一つ聞いても良いはずですっ!」
「わーったよ! 一体何が欲しいんだ?」
「いえ、物が欲しいのでは無いのですっ! その『練霧さん』を紹介して欲しいのですっ♪」
「何だそのくら――って、はあぁっ⁉」
「ふにゅっ? 何でしょうかっ?」
こ、怖い! 目が怖いですよ華乃さん!
「いや何も!」
すると満足した様にキッチンへ戻る妹の背を見送りゆっくりと自室へ戻りベットへダイブした。
「ふぅー」
今日は色々と疲れた一日だった。あまりにも色々と起こり過ぎて、未だに現実なのか疑いたくなるくらいだ。でも、この疲労感と言い現実感と言い全てが本物なのだ。
「にしても、どうすっかなー紹介」
こればかりは練霧に直接言うしか無いよな……一応その事も華乃に言っておくか。再びベットから起き上がると、消えている一階の電気を確認し向かいの二つのドアの左側の前へ立つと、ドアの隙間からお香の煙が漂って来ていた。ドアには西洋風のノッカーが付けられており、その横には『御用のある方は二度ノックをしてから“開け魔界の扉”と唱えよ』と書かれている。
「何だこれ?」
色々とツッコミ処はあるが、取り合えず二度ノックをして一呼吸つき意を決して口を開いた。
「我の契約に従えし開け! 魔界の扉っ!」
「上がるがよい」
ええっそれだけ? セリフまで付けて超恥ずかしいんだけど! と、内心で抗議しながらもゆっくりドアを開けるとテーブルの向こうでPCの前に正座した華乃が座っていた。
「兄さまから華乃の部屋に来てくれるなんて嬉しいのですっ!」
「おっ、おう」
取り合えず中へ入り座布団に座ると、華乃が用意した菓子を手に取り話を切り出す。
「にしても……相変わらずの部屋だな」
「新しくドアノッカーを通販で注文して付けましたっ♪ 兄さまはその、何か御用ですっ?」
「あっ、そうそう。実はさっきの紹介の件なんだけど……」
「断固拒否しますっ!」
「えぇっ⁉ ま、待てっ! 俺は明日練霧に聞いてからでも良いか? と聞きに来たんだぞ?」
「ふにゅっ? それならそうと先に言ってくれればっ! もちろん了承したのですよーっ♪」
先に言おうとしたからね! でも、華乃の了承は取れても練霧にどう話しかけるかが問題だ。
「それでしたら、シグプレのチャット機能を使えば良いのではないですかっ?」
「え? 俺、もしかして口に出てた?」
「まるまる聞こえですっ♪」
もしかして俺、教室でも脳内会話が駄々漏れの独り言多い奴見たいになってないよね? かなり不安になりながらも華乃の案に思考が戻る。シグプレは通常、プレイヤーはキャラ作成時に好きな声をサンプルから選び設定するとマイクを通して自分の声が選んだ声に変換され会話が出来るという仕組みになっている。勿論、性別関係なく音声は変えられるので『ネカマ』と呼ばれるリアルと逆の性別にする事も口調をドジらない限りバレる事はない。その音声での会話を『音声チャット』と言い、文字のみのチャットやレター等会話システムは色々とある。因みにこのシステムは相手の名さえ解ればIN状態時に使え、レターはオフラインでも送る事が出来る。正に、話す機会を作る事すら考えただけで胃が痛くなる俺にとって超画期的な機能だ!
「華乃ちゃん超サンキュー!」
『か、かのちゃんっ⁉』と驚く妹の声に背を向け直ぐ様自室へ戻り早速シグプレを立ち上げる。その間いつもの様に2階の廊下にある戸棚通称『お菓子の宝箱』を開け一番下からコンソメ味のポテチを取り出した。
「やっぱ王道はコンソメだよな!」
ここで断言しておこう。俺は無類のポテチ好きだ! ここには、旅先で買ったご当地物から取り寄せた限定品まであらゆるポテチが保管されている正に俺にとっての宝箱。華乃は和菓子が好きらしく上段はどら焼きが占めており、その上は千歳のチョコレートで埋め尽くされている。再び自室に戻り、椅子へ腰を掛けると手を拭き一枚くわえながらログイン画面に入った。
「フレンド検索っと。」
右下のアイコンから検索画面に行き『wing』と入力する。すると、NPCが書物を開き始め画面に髪を一つに結んだ見るからに強そうなエルフの女剣士が現れた。
「これが……wing?」
華乃からどんな感じかは聞いて居たが、実際に見ると装備といいキャラといい――
「めちゃめちゃ強そうですねっ!」
「だよねっ! じゃないわ! 頼むから背後から近付くの止めてくれない?」
「何か兄さまの部屋から何か異臭がして……ほらっ!枕から異臭がっ! くんくんっ♪」
「やめぇーいっ! てか俺、この年で加齢臭とか出てたら死にたくなるからね!」
「それにしてもっ! 思った以上に強そうですねっ!」
そう言われ、再び画面に目を向けると確かにそこらのプレーヤーとは桁外れの存在感だ。
「あれっ? 兄さまっ! 今オンライン見たいですよっ!」
「えっ⁉ やばっ、フレ申請!」
と急いで申請ボタンを押すと直ぐに画面に『承諾されました』と文字が表示された。
ピピッ『新着チャット1件』。点滅するルームチャットアイコンをクリックすると、作成者の欄に『wing』と表示されていた。ルームチャットとは、指定したプレイヤーとしか会話が出来ないシステムでリア充や内緒話に使う様だが、俺には新人の手伝い位にしか使わない機能だ。
「てか早っ!」
申請から1分所か数秒しか経ってない。急いで俺はそのルームチャットを開いた。
wing:今晩は。wingこと練霧音羽です。申請有難うございます! これからは共闘仲間としても仲良くして行きましょうね! 宜しくお願いします。
本当に練霧だ。それにしても、この長さを数秒で打つなんてかなりの入力スピードだ!
「な、何か如何わしいのですっ! このメールには邪悪な念がっ!」
ふにゅーっ! と拗ねる妹の頭を撫でてなだめると早速返信を打つ事にした。
†レン†:今晩は! レンこと萩塚蓮です。こちらこそ共闘有難うございます! それでちょっと相談なのですが、実は今日妹に練霧さんの事を話したら凄く会ってみたいと言い出してしまってその、もし練霧さんが本当に良ければでいいのですがkiss――
「風呂沸いたぞぉ!」
急に入って来た千歳の方を振り返ると同時に画面に『送信しました』と文字が表示される。
「え?」
手元を見ると、見事に薬指がEnterキーの上に乗っていた。
ピピッ!『新着チャット1件』
「じゃ、じゃあ拙者達が先に頂くとするかな!」
申し訳なく思ったのか、千歳と華乃は足早にそのまま部屋を出ると下の階へ駆け降りて行った。そんな二人の後ろ姿を見送りながら俺は恐る恐る再びチャット画面を開いた。
wing:あの……申し訳ございませんが、kissの続きからもう一度教えて頂けますか?
「は?」
kissの続き? 何それ? さっぱり意味が分からん。そもそもk・i・s・sって――
「キ……ス。ってキ、キス⁉ キスの続きって何それ⁉」
いつの間にか官能小説かなんか書いて送ったの? んなもん書いた事すらねーわっ! と自分に突っ込みを入れながら大パニックを起こしている頭で何とか前のチャットを確認する。
そこには確かに――良ければでいいのですがkissと書かれていた。
「や、やっちまった!」
喫茶店とかで会ったり出来ませんか?と送るつもりが変換が途中で切れている。これじゃまるで脳内真っピンクのド変態みたいじゃねーか! 何はともあれ早く返信するっきゃない!
†レン†:すみません! 妹が急に入って来たので間違えて送信してしまい……本当は喫茶店とかで会ったり出来ませんか? と送ろうしたのです!
これで誤解が解ければ良いが……直ぐに鳴ったピピッ!という音にチャットを開いた。
wing:そうだったのですね! 大丈夫ですよ、私も間違えて押した事ありますし! それと喫茶店の件ですが、大変申し訳ないのですがお店だと周りの目が気になってしまい。ですのでその、私も萩塚君の妹さんに会ってみたいので……
ん? 何か言い辛そうだ。店以外で人目の気にならない場所――と、自然に指が動いていた。
†レン†:俺の家とか
うわっ、本当に打っちゃった! 急いで付け加えようとしたが、直ぐに電子音が耳に響き渡る。
wing:ほ、本当に宜しいのでしょうか? 何だか無理をさせてしまった様で……
†レン†:えっいいの? じゃなくて! 練霧さんこそ本当に良いんですか?家に来るなんて。
wing:萩塚さんが宜しいのであれば……是非、お言葉に甘えさせて頂きたいです!
マ、マジか⁉こんな簡単に予約が取れるとは思っていなく真っ白な頭でその後数回チャットを交わし、本当に急遽共闘前と言う事で『明日』練霧が我が家に来る事になったのだった。
その事を華乃へ伝えると、以外にもすんなり了承し『術式を作らなくてはっ!』とか言いながら部屋へ戻って行った。次いで千歳の部屋に向かうが、テントから寝息が聞こえたので静かに扉を閉め自室のデスクチェアーへ腰を下ろし開けっぱなしだったポテチへと手を伸ばす。
「ちと湿気ったか」
PC画面へ目を移すと『新着チャット2件』と表示されていた。2件? 一先ず開いてみる。
wing:明日楽しみですね! 宜しくお願いします。地図は出来ましたら不用心ですのでPCの方へお願いします。
確かにルームにせよ家の地図を載せるとか色々とヤバ過ぎる。急いで簡単に我が家へのルートを作りアップすると『PCへ送信』ボタンを押し、宛名に『wing』を選択した。
†レン†:送りましたよ! それにしても練霧さんってシグプレの機能に詳しいですね!
wing:受け取りました! 有難うございます。そ、そんな詳しくなんて! それと、明日のお時間ですが17時頃でも宜しいでしょうか?
†レン†:はい! 道に迷ったりしたら電話して貰えれば妹に迎えに行かせますので!
wing:有難うございます! それでは又明日お会いしましょう! おやすみなさい。
†レン†:おやすみなさい。
返信を打つと直ぐにwingの表示がオフラインになった。時刻は22:40。
もう寝たのだろうか?ピンクのパジャマにぬいぐるみを抱き――思わず想像してしまった。
再び画面を見つめ、もう一件の新着チャットを開くと差出人は『黒天使』華乃のキャラ名だ。
黒天使:兄さま、先に落ちますね! あと、明日の時間を教えて下さい!
何でこいつはわざわざ向かいに居るのにチャットをしてくるんだ?
†レン†:何でチャットなんだよ! いい加減†見るの嫌になってきたわっ! 17時だよ。
黒天使:了解でーす! おやすみなさい兄さま♪
華乃も落ちた所で取り敢えず眠気が来るまでソロプレイをする事にした。
シグプレには酒場と言う協力プレイの掲示板がある案内所なる物が町に一箇所設置されている。そこに行けば必ずと言っていい程人が集まっているので一時的な仲間としてPTを組み短時間で攻略且つ報酬や経験値を山分け出来るのだ。早速俺は近くの酒場に向かった。
「えっとパーティー募集は――」
早速掲示板を開くと、自分のLVに合った募集中のダンジョンが幾つか出て来た。どうやら今募集しているのは5つ。その中から俺は適当に『難易度:普通 リーダー:ふうま パーティー:残り1名魔法系求む。時間若干短め』という物を選び参加ボタンを押した。
ピピッピピピッ!
6:30を告げる目覚ましの音に体を起こすと、机の上で寝てしまったらしくPCは点けっぱなしで体の節々が痛い。結局、あの協力プレイが終わったのは3:00過ぎ……
「どこが若干短めだよっ!メンバー残り1人って俺だけじゃねーか!」
と、叫んだ所でパジャマのまま階段を下りて行くとリビングからいい匂いが漂ってきた。
「あっ、兄さまっ♪ お早うございま――って! クマが出来ているじゃないですかっ!」
「ああ、おはよー」
テーブルに並べられた和食の前に座るとソファーの上で千歳がTVを見ながら笑い転げていた。
「はーい出来ましたよーっ! 二人共さっさと席について誓いを立てるですっ♪」
「「へーい」」
「ではっ! 今日も神から授かりし全ての命に感謝を込めて……」
「「いただきまーす!」」「アーメン!」
いつも通り、華乃流の挨拶を済ませると3人で食事を始める。
「ふにゅっ! そう言えば兄さまはちーちゃんに今日来るお客さんの事は伝えたのですかっ?」
「あっ! そうそう千歳! 今日家に俺の友達が17時頃来るからな」
「むむ? 蓮兄の……友達?」
「そんなあからさまに友達なんて居たっけ? みたいな顔しなくていいからっ! 前に善財や道明寺だって連れて来たろ! それに今回は女子だぞー? それも別嬪のっ!」
「ふにゅーっ。べっぴんさんなのですねーっ?」
と華乃が笑顔でこちらを見て来たので俺は咳払いをした。
「そうじゃった! 二人だったな!」
「うっ……ってな訳だから千歳も華乃も宜しくな?」
「ふにゅーっ♪」「あい、分かった!」
そうして無事千歳にも伝えた所で、身仕度を済ませ二人に見送られながらいつも通り家を出た。
「はぁー」
練霧の事はリアルは秘密にするにせよ、共闘の事は一応あの2人にも話しておくか。
「む、難しい顔してどーしたのー?」
その声に顔を上げると、目の前で道明寺が心配そうにこちらを見ていた。
「お、おう。いや、いよいよ明日かーって」
「め、珍しく大分頑張ってるみたいだねー?」
「頑張るも何も、頑張らざる負えなくなってるっつーか」
「せ、成果は?」
「まぁ一応」
「す、凄いじゃんっ!」
そんな事を話ながら学校へと向かい教室の扉を開けるなりいきなり練霧と目が合ってしまった。
うわっ、どうしよう? 取り敢えず軽く会釈をすると練霧も笑顔で返してくれた。
な、何このドキドキ感! 社内恋愛ってこんな感じなのか? お、落ち着け萩塚蓮! ここは社内でも無いし恋愛なんてあり得ない!暴走する思考を冷却し何事も無かった様に席に着いた。
キーンコーン――やっと昼まで辿り着き、今日は弁当持参だが三人で食堂へと向かいwingの事は華乃の知り合いと言う事にして共闘する事について二人に話した。
「へぇーっ! 良くそんな強い人仲間に出来たね! こっちのサーバーでも飛行馬って結構有名だよ! 僕ももう少し探してみるかなー」
「おう、サンキューな」
「お、俺っちも賛成だよ! こっちは取り合えず皆の鞄を確認したけど無かったよー」
「お前……まさか、部員全員の鞄見たのか?」
「うん! ちゃ、ちゃんと確認したよー? 帰りに駒が入ってないか確認する時に」
「いや普通、将棋の駒とか飛ばないだろ!」
「そ、そんな事ないよ? 先輩とか滅茶苦茶飛ぶんだよ! カッコいいよなー」
将棋……だよね? どっかの時代の人が乗り移ったりしてないよね? 思わず後ろを確認する。
「ま、まあともかく明日からだな」
「だね! 僕はこっちで頑張るよ! うちのギルマスも結構張り切ってるみたいだしっ!」
「どこも大変だなー」
とチャイムも鳴ったので急いで弁当を片すと足早に教室へと向かう途中――トスンッ!と何かが腹部に当たった感じがして視線を下ろす。
「うわっ、ごめん! 当たったよね?」
そこには、教室から出て来たのか随分と小柄なマスク姿の少女が鼻を擦っていた。
「問題ない……」
小さな声で呟いたかと思うとその少女はすぐにどこかへ走って行ってしまった。
「蓮ー授業始まるよー?」
いつの間にか先を歩いていた道明寺の声に急いで教室へと向かうが、どうも走る度に何かが足に引っ掛かる。だが、確認している暇は無いのでそのまま席へと着くと足元を確認した。
「な、何だこれっ⁉」
思わず声に出てしまい、数人が振り向いたが苦笑いで誤魔化すと上履きに刺さった『物』を引っこ抜く。それは手の平よりも少し小さく、厚さは3ミリ程で緩やかにカーブした4つの先端と中心には穴があき全体的に黒光りしていた。これは恐らく『手裏剣』と呼ばれる類いだろう。しかし、手裏剣なら玩具屋でも売られているがこれは鉄製らしく、重みもあり何より刃が恐ろしい程鋭利に光っている。これがもし足に刺さっていたら……考えただけでも痛くなってきた。
でも、何で俺の上履きにこんな物が刺さってんだ? そもそもいつから? 必死で思い返すが幾ら考えてもあの少女にぶつかってからとしか思い付かない。
あの少女……なのか? 先生に目が合わない様に教室を見回してみるがやはり見当たらない。そうこうしている内に授業も終わり、帰りのHRを終えると放課後の音楽が流れ始めた。
「ハギーっ! 又明日ね!」「よ、夜INしたら教えるねー」
声を掛けて来た二人に向かい手を挙げ時計を確認する。
16:25……やっべ!練霧の席を確認するが既に教室を出たらしく姿が見当たらない。急げば家まで20分。慌てて教科書を突っ込み廊下に出ると、石衣にぶつかりそうになり胸が当たった気もするが今は感触に浸る暇もなく「すみませんっ!」と言うと朝来た道を全速力で戻る。
「た、ただいまぁーっ。ふぅー」
「おお、蓮兄! 今日は早いな!」
時刻は――16:40。自己最高記録更新!
「お疲れ様ですっ♪ 麦茶を用意してありますよっ!」
と、座り込んだ玄関から立ち上がり手洗いを終えると華乃から麦茶を受け取り自室へと上がる。
「まあ、大して片付ける所も……」
整理された本棚に片付いている机とPCテーブルそしてケースに入った美少女フィギュア達。
「って、あったな」
ネトゲをやっているとはいえアニメ好きとは限らないし何より俺が恥ずかしいっ!
「よしっと!」
美少女達を慎重にクローゼットへと一時撤退させると、俺にとっての一番マシな服へ着替え部屋に消臭スプレーを掛け一応枕にも掛けると下から千歳の声が聞こえてきた。
「蓮兄ーっ! オナゴから電話だぞーうひひっ!」
その声に急いで階段を駆け降り受話器を受け取る。
「も、もしもしっ!」
「あっ! 萩塚蓮君でしょうか? 私、白米高校1年A組の練霧音羽と申します。」
うっしゃ蓮君ゲーット! 黙ってたら又聞けるかな? いや、流石に止めておこう。
「そ、そうです!」
「あっ、あと10分程で到着出来そうです! それと……学校ではお話出来ずにすみません」
「そ、そんな事気にしなくて大丈夫っすよ! こ、これから家で話せるんですからっ!」
これから家で……何かすげぇ恥ずかしいっ!
「うふっ、そうですね! いっぱいお話ししましょう! では後程」
「はい!」
ツーツー。緊張したぁーっ! しかも学校で話せなかった事気にしていてくれたなんて。
「おい蓮兄っ! 華乃がいじけてるぞー?」
と千歳が指差す先にはプクーッと頬を膨らませた華乃がこちらを見つめていた。
ピンポーン! 玄関から聞こえて来たチャイムに言葉よりも早く千歳が玄関へと走り出した。
「ちょ! 俺が出るからっ!」
急いで後を追うが、後ろから黒子の様にしがみついた華乃のせいで思う様に足が動かない。
ガチャッ!
「いらっしゃーい! ネリキリねーちゃん!」
時すでに遅し。開いたドアの先には白くふんわりとしたワンピース姿の練霧が立っていた。
「今晩は! 蓮君の妹さんですね? ご丁寧にお出迎え有難う。えっとお名前は……」
「千歳! 萩塚千歳小学6年生っ! 趣味は野球とテレビと運動だぞ! ちーと呼びたもう!」
何だそのご長寿クイズ番組みたいな自己紹介!お願いだから恥ずかしいから止めてくれっ!
「ちーちゃんね? ちーちゃんはスポーツが得意なのですね!」
「水泳とバスケも好きだぞ!あと侍と……」
「その辺にしておけっ!」
「あっ! お、お邪魔しております!萩塚君」
こちらに気付き丁寧にお辞儀をして来る練霧。だがどこか辿々しい。緊張しているのか?
「と、取り敢えず中へどうぞっ!」
玄関に上がり、靴を揃える彼女の姿は白のワンピースが似合い丸で羽をまとった天使の様だ。
「確かに上級種……侮れないっ」
そんな声が背後から聞こえてきた。
「あのー華乃さん? 背後霊みたいだから止めてくれないかな?」
すると、靴を揃え終わった練霧が不思議そうにこちらに近付いて来た。
「萩塚君、その後ろの子は?」
「あっはい! こいつは……」
すると、珍しく決して前へ出ない極度の人見知りの華乃が俺の後ろから自ら前へと出て来た。
「わ、私は兄さまの妹の華乃子ですっ! ちーちゃんの双子の姉……ですっ」
「か……可愛いっ!」
「「へっ?」」
と同時に口にした瞬間――もふっ! と華乃の顔は練霧のふくよかな胸の中に埋もれていた。
「ふ、ふにゅっ⁉ くるひぃでふっ!」
「ふわっ! わ、私ったらごめんなさい! その、あまりにも可愛くてつい……」
練霧が珍しく慌てている。と言うか何なんだこの状況⁉ う、羨ましすぎるぞ華乃っ!
「あ、貴方もその……私程では無いですがそこそこなのですっ! それと華乃でいいですっ!」
そう言い放つと、華乃は何故か胸の辺りを気にしながら急いで自室へと走って行った。
「もしかして、嫌われてしまいましたでしょうか?」
「だ、大丈夫ですよ! 恥ずかしがってるだけですから!」
華乃が名前で呼んでいいだなんて滅多に言わないのだ。すると、安堵した様子で胸を撫で下ろす練霧。いかんっ! と、俺は胸元へ向く引力を無理やり引き離し彼女を二階へ案内した。
「ど、どうぞっ!」
「お、お邪魔します!」
と、珍しそうに部屋を見回した彼女はゆっくりと丁寧な所作で用意した座布団へ腰を下ろした。
今16年間家族以外入れた事がないこの部屋にあの練霧音羽が座って居る‼やっぱ夢じゃ……と逃避しそうな頭を冷やす為お茶の準備に立ち上がると華乃と千歳がお茶を持って入って来た。
「おっおお、気が利くな!」
「ちーが毒見してやったぞっ! んじゃー拙者は野暮用があるんで、皆の衆さらばじゃー!」
と言うなり、千歳はいつものキャップに野球セットを持ち飛ぶ様に家を飛び出していった。
仕方なく千歳から受け取った盆から練霧と自分の分のお茶を出す……あれ? 一つ多い?
「それは華乃のですっ♪」
「あ、そっか! って、おまえも居るのかよっ⁉」
「ふにゅっ? 兄さまと巨にゅ、練霧さんが魔界の物に囚われては困りますのでっ♪」
「魔界? あっ、私は良いですよ! 多い方が楽しいですし、華乃ちゃんもメンバーですから」
といつもの柔らかい口調と愛らしい笑みがこちらに向けられた。
「そ、そうですよねっ! あっ、因みに華乃はかなりの中ニ……」
「兄さまっ! 華乃は断じてあの手の痛々しい方々とは違うのですよっ!」
いや違わんだろっ! 代表になれるレベルだわ!こうして華乃も含め三人で話す事になった。
「じゃ、じゃあ……折角なので紙に書いてシグプレのキャラ紹介とかはどうですか?」
「いいですね!」「ふにゅっ!」
俺達は各々のキャラ情報を紙に書き出す。
「なんか練霧さん緊張してます?」
「へっ⁉ い、いや実は、男の人の部屋に入った事がなくあまり異性の方と長時間お話をした事も無いので……初めてでちゃんとお話し出来ているかどうかと」
は、初っ! でも確かに、生徒会以外で男子と話している姿をあまり見た事が無い気がする。
「おっ、俺も! 女子とは殆ど話さないですし、遊んだ事もないですよ!」
「そうなのですかっ⁉ では……一緒ですね!」
「はっ、はい! じゃ、じゃあ俺から始めますね!」
危ない危ない。あの笑顔を直視していてはいくらHPがあっても足りない。
「えっと、まず俺のキャラ名は『レン』でレベルは――」
ざっと自分のシグプレでのキャラ情報の説明を始めた。
「あと、一応特殊スキルを持っているんですけど……」
「予知スキルなのですっ!」
「よ、予知スキルですか⁉ それはつまり、相手の行動を予知すると言う事でしょうか?」
と練霧は目を輝かせながら興味津々な眼差しで見つめて来た。
「いや! そんな大層な物じゃなくて、例えばダンジョンに入ったとしてその場でスキルを発動したとすると俺はその場で『5分間攻撃が出来なくなる』代わりに『5秒間その場の敵の弱点属性が視界に表示される』というスキルなんですけど……」
シグプレには火・水・木・光・闇と5つの属性が存在し、敵は大体1体につき1つの属性を有している。だが更にプレーヤーの武器や魔法にも属性が存在するのだ。その為、プレーヤーは敵と戦いながら属性を探り反対の属性なら大ダメージつまり火なら水、木なら火という形で属性を変えながら攻撃して行く事が重要なのだ。
「つまり、萩塚君のスキルを使えば5秒間は相手の弱点属性が直ぐに分かるのですね?」
「はい。でも欠点が多くて……」
ここで俺は、欠点の発動時は5分間逃げ回らなければ行けない事や数が多いと属性を覚えるのにも限界がある事。そして、リタイム時間が異常に長くソロには向かない事等を話した。
「な、なのでっ! 兄さまがスキル発動中は華乃達が援護と攻撃に回るのですっ!」
「成る程。では動く事は出来るのですね? それと効果範囲とリタイムの詳しい時間を!」
と、彼女は先程とは違う真剣な眼差しで訊ねてきた。
「あっはい! 発動中動く事は出来ます。ヒール等も勿論出来るんですけど、これは最近気付いたんですが発動中は惹き付けが発動するらしく敵が多い時はヒールも間に合わなくて……。リタイムは5分間でスキルの発動範囲は目にスキルが発動するので視野に映る範囲です!」
一通りの説明を終えると練霧が何かをノートに書いている事に気付いた。
「あの、それは?」
「あっ! こ、これは折角なので皆さんの情報を覚えておきたいなと。だ、駄目でしたか?」
「いや全然っ! それにしても本当に真面目ですねっ!」
「そんな事ないです! 只、こうしてゲームのお話を出来る機会が無かったもので……何だか嬉しくて。なので、折角なら皆さんのスキルや特性を覚えて少しでもお役に立てたら……と」
さすが上位ギルドのマスターっ! こう言う所でも性格って出るもんなんだな。
「こ、今度は私の番なのですっ! わ、私のキャラ名は『黒天使』え、エルフのウィザードですっ! 攻撃は回復魔法メインで戦闘は苦手ですっ。LVは191でスキルはまだ無いのですっ!」
と、突如割り込んで話し出した華乃の自己紹介の間も練霧はノートにペンを走らせていた。
「有難うございます!お陰でデータが取れました。それでは次に私のキャラ紹介を……と言いたい所なのですが私のスキルは言葉では表しにくい為、お二人共今日の夜お時間ありますか?」
「よ、夜?」
「わ、私は今日は生憎時間があるので……付き合ってあげても良いのですよっ!」
何でコイツはさっきからツンデレなんだよ?
「有難う華乃ちゃん! 萩塚君はどうでしょうか?」
「お、俺も大丈夫ですよ!」
「有難うございます! では、今日の夜に集まり実際に自己紹介と言うのはいかがでしょう?」
「了解です! 時間は20時頃でも大丈夫ですか?」
「はい! ではその時に『飛行馬』のメンバーもご紹介しますね!」
「じゃ、じゃあ俺も道明寺を誘っておきますよ!」
「道明寺君? まあっ! 道明寺君もメンバーなのですね!」
「昔からの幼馴染みで……あっ! 練霧さんの事は勿論内緒にしておきますよっ!」
「それは……何だか私だけ知ってしまって申し訳ないですね」
「大丈夫ですよ! アイツはバラす様な事は絶対にしませんからっ!」
すると彼女は嬉しそうに「とても仲が良いのですね」と優しく微笑んだ。
ドガァッ! そんな最中、下から勢いよく玄関のドアが開く音と共に忙しなく行き交う足音が家中に響いてきた。あいつ……ドア壊してないだろうな?
「あ、兄さまっ‼」
「ん? あっそうか! 練霧さん! そのもし時間があれば……夕食食べていきませんか?」
「へっ⁉ ですが今、下で誰かっ!」
「ええ。今まさに下でコックが夕食を作っている最中です」
「今日はカレーの日ですっ♪ あの濃厚な後を引く美味しさ……華乃も手伝ってきますっ!」
「おう! 火の元気をつけろよー」
「大丈夫ですっ! これでも結構成長してるのですよっ? まだ揉めば大きくなるのですっ!」
そう言うとピョンと立ち上がり台所へと駆けて降りて行った。
揉む?何の事だ?
「とても、お兄さん想いの優しい妹さん達ですね」
「そうですかね? でも、腹立つ事とかケンカする時もあるけどやっぱり二人が居て助かってますね。ってなんか俺、凄い恥ずかしい事言ってますよね! わ、忘れて下さいっ!」
「そうでしょうか? とても素敵です。実は私にも丁度同じくらいの妹が居るのですが、いつも部屋に居るので……あっ!それでその、折角誘って頂き本当に申し訳ないのですが家で妹が待っているのでごめんなさいっ!それと私、素敵な言葉は忘れない性分ですよ?」
と悪戯に笑って見せた。な、何この子? 超可愛い! でも練霧ってこんなキャラだったっけ?
と、カレーのスパイシーな薫りが開けっぱなしのドアから2人の嗅覚を刺激した。
「じゃ、じゃあ持って行きませんか! 妹さんの分もっ!」
「そ、そうですっ! ちーちゃんのカレーはそんじょっそこらのお店には負けませんよっ!」
何その江戸っぽい喋り方? ってか、いつの間に戻って来たの?
「で、では……お言葉に甘えさせて頂いても宜しいでしょうか? 甘納もとても喜びます!」
「「もちろんっ!」」
その後、華乃がタッパーに詰めた千歳カレー2人前を渡し今日の集まりはお開きとなった。
「今日は本当にお土産まで頂き有難うございました! とっても楽しかったです。ちーちゃんもカレー有難う! 妹と頂きます♪」
「うむ! 今度は妹殿も連れてくるがよいぞっ!」
ナイス千歳っ! こういう時にフレンドリーな性格ってある意味最強な!
「そう……ね! 甘納にも伝えておきます。それでは華乃ちゃん萩塚君、また夜に。」
「おう!」「ふにゅっ!」
と、手を振りながら別れを告げた練霧はふと何か思い出した様に俺と華乃の耳元で囁いた。
「あ、あとその……ゲームでの私のキャラは気にしないで下さいね?」
「え? あっはい!」
咄嗟に答えると彼女は安心した様に玄関を後にする――が、しきりに左右を確認している。
「途中まで送りましょうか?」
「えっ⁉ えっとその……お願いします!」
結局途中まで送って行くと何度も頭を下げる彼女を見送り再び家へと戻った。
時刻は19:25。一先ずシグプレを起動させ、宝箱へ向かうと先客がモゾモゾ動いていた。
「何してんの華乃?」
「ひゃっ⁉ ひゃーんだ! はにはまでひたはっ!」
「いや、殆ど『は行』しか聞こえないからね? 一先ず口からどら焼きを出して貰えないか!」
しかも何でどら焼き食ってるのに菓子探してんだよっ!
「むにゃ……ゴクリ! ここで待っていれば兄さまに会えると思い待っていたのですっ♪」
「俺の部屋、目の前だけど?」
「ちょ、ちょっとどら焼きに誘われ……ところで兄さまっ! やはり上級種でしたねっ!」
「何だ急に? それにお前が褒めるなんて珍しいな。ま、確かに練霧は完璧だからなー」
「完璧……そのっ! 練霧さんはいつも学校でもあの様に笑っているのでしょうかっ?」
「ん? まぁ確かにいつも笑顔だなー。優しくて頭が良くて誰にでも好かれて人気者だよ。」
「そう……ですかっ。で、ではっ! 兄さまはあの方をどう思われますかっ?」
「どうって、普通に真面目でいい子だなーって。そもそもそんなに見てないしっ!」
「兄さまがチキンでよかったのですっ! 私には少し無理をしている様に見えたのでっ」
「無理? 練霧が?」
でも、無理はしているかも知れない。華乃は昔から人の心に敏感で、初対面でもその人の事が何となく解ってしまう様でその為、人付き合いが苦手で昔は俺や千歳としか笑う事が無かった。
「ふにゅっ! そろそろ約束の時間ですっ♪」
「お、おう!」
そのゲームやアニメやらが華乃を良いのか悪いのか今の華乃へ変えていったのであろう……。
俺も急いで一袋取り出すと、北海道限定「バター醤油」を持ち部屋へ戻りながら袋を開けた。
「中央広場の時計台だったよな?」
キャラを走らせながら時計を見ると時刻は19:55。何とか時間までに辿り着けそうだ!
時計台は待ち合わせ場所として使われる事も多く、既に数名が時計台の前に座っていた。あの女剣士のキャラは――見当たらない。と、黒髪に黒いフード姿のキャラが近付いて来た。
「前から思ってたけどその格好、逆に目立ってるよ?」
「ふにゅっ⁉ 黒は一番深くて混ざる事の無い唯一無二で神秘的な素敵な色なのですっ!」
「何か白髪を否定されてるみたいなんだけどっ!」
「お、おーい! よかったー先に居て!」
と、今度は巨体と言うか機動戦士みたいな外装がこちらに向かって手を降って走って来た。
「えっとニュータイプだっけ?」
「て、鉄人だよっ!」
鉄人こと道明寺も揃った所で一件の音声チャットが入った。発信者には『ルナ』と表示されている。ルナ? 練霧のメンバーだろうか? 取り合えず出てみる事にした。
「えっと、初めまし――」
「おーっすれんたん! わっしは飛行馬のルナだよん!んじゃ、上見て受けとってねーんっ!」
挨拶も最中やけに馴れ馴れしい声が反ってきた。
「上?」
その言葉に上を向くと「やっほーん」という声と共に上空から何か……人が落ちて来てる⁉
「全然受け取れる領域越えてるんですけどーっ!」
そもそも防御力とか超弱いし! 落ちただけでダメージ受けるレベルですけどっ! 考えている内に既に間近まで迫って来ていたので覚悟して両手を伸ばした。そして見事に隣へ着地した。
「あれん? 受けようとしてたんっ? よく考えたらダメージ与えちゃうかなーってん!」
「あの……それ、先に言ってくれません?」
もう一人で天空の城にでも行きたい気分だわっ! ニコッと笑う目の前のルナは、長い金色の髪に切れ長の瞳と大胆にヘソを出した服装と見れば見る程珍しい格好をしている。それに……。
「あ、あのっ! それは狐のお耳ではっ?」
「うっわーん! この黒子ちゃんもかんわいいーんっ! うりうりんっ!」
「ふにゅっー! く、黒天使ですっ!」
「黒天っ! よく分かったねん? わっしはドアーフの短剣使い。んで、スキルは狐使いなのよんっ! この耳と尻尾も狐さんのよーんっ!」とルナは尻尾を振って見せた。
「ふにゅーっ! かわいいですっ!」
「わっしにとっちゃ手足みたいなもんよんっ! っと、人も多いし場所変えよっかん?」
そう言われ辺りを見渡すと、確かに明日から大戦の為かプレーヤー達が殺気立っている。
しかも、ルナも特殊スキル使いな訳で敵にスキルをあまり知られる訳にもいかない。只でさえ特殊スキル使いはSPSと呼ばれ、注目の的だし単独を狙われる事もよくある話だ。その為、大概のSPS所持者はギルドを設立する事が多くGMが殆どなのだ。
「にしてもこれ、どこに向かってるんすか?それにwingさんは?」
と、ルナは俺たち一行を引き連れどんどんと町を遠ざかり先へと進んでいた。
「ん? ああ、ダンジョンだよん! ボス達は先に行って待ってるよーんっ!」
「ダンジョンっ⁉」
「た、戦いですかっ⁉」
「いんやー先にメンバー紹介っしょん? ほれんっ!」
やっと丘を登りきると焚き火が見えて来た。そこには、赤く照らされた2つの人影が見えた。
「あれが飛行馬……」
「な、なんだか意外と人数が少ないんだねー?」
「ボスーんっ! saltーんっ! 連れてきやしたぜーんっ!」
俺達は捕虜かよっ!
「おっ! 有難う!」
「来た来たぁ~♪ 可愛子ちゃん揃いぢぁなぁ~ぃ♪」
おっ? 今、あの練霧らしきキャラが言ったよな?
「ど、どうも! 夜空の宴GMの萩……レンっす! ヒューマンのウィザードです。宜しく!」
あっぶね! 危うく雰囲気に流されて本名言う所だった。
「わ、わたひはエルフのヒーラー黒天使なのですっ! ど、どら焼きが好きですっ!」
「お、俺っちは巨人族のガーディアンの鉄人です! す、好きな食べ物は……」
「その流れもういいからっ!」
恥ずかしいからやめてくれ二人共っ! でも、俺もポテチって言った方が良かったか?
「了解した。私は飛行馬GMのwing。種族はエルフの剣士。スキルは後でお見せしましょう。以後お見知り置きを。」
んん? やっぱり微妙にいつもと口調が違うような……?
「わっしはご存知の通りサブマスのルナでーすんっ! 皆仲良くしてねんっ!」
と、3人の視線がもう一人の豊満な胸と露出度の高い装備に浅黒い肌のメンバーへ注がれた。
「あらぁ~♪ そぉんなに注目されるとぉ興奮してきちゃぁうっ♪」
「ゴホンッ! salt、自己紹介を。」
「アタシゎエルフの弓使いでSPSゎ無しぃ~気になる事があったら何でも聞いてぇ♪」
「今はこんな感じのメンバーだが、明日からの共闘宜しくお願いします!」
saltさんエルフのイメージとかけ離れ過ぎだろ! どう見てもエロい妖魔にしか見えない。
「あ、あれ? 本当に飛行馬ってこの3人だけ?」
「アタシの妹のステラってのもいるゎょ~? でもぉ~ぃまゎ受験で忙しぃみたぁ~ぃ♪」
妹っ⁉ この妖魔の? どんなサキュバスだろ?
「salt……又呑みながらプレイしているのかい?」
「んぁ? ちょっちねぇ~♪」
本当に大丈夫なのかこの人? 半ネトゲ廃人の俺が言えた義理でもないが……。
「こ、こちらこそ全然強くないけど宜しく!」
「それでは、揃った所で紹介も兼ねてダンジョンにでも行きますか!」
と、一同はwingに連れられダンジョンゲートへと足を踏み入れた。
こうして俺達は模擬共闘をする事になったのだった。ってあれ? このダンジョンって――。
ありえねえ……頭上を木の葉の様に舞って行くlv30は有する無数の敵。そしてwingの周囲を飛ぶ様々な光と踊る様に目にも止まらぬ速さで空間を切り裂いていく剣筋。更にその周りをルナのスキルか無数の狐が敵に噛み付いて行く。これが飛行馬の……たった2人の実力っ!
「兄さまーっ。とっても綺麗ですねーっ」
「ああ、そうだなー」
「と、と言うか俺っち達…何にもしてないよねー?」
「そうだなー」
3人で只呆然とその二人の迫力と綺麗さに見惚れていた。
「ってちょっとーんっ! そこのお三人っ! 見学してないで手伝ってよんっ‼」
と、ルナは瀕死状態の目の前の敵を空中で蹴り飛ばし俺達の方へ狐を連れ戻って来る。
「ボスーんっ! こっちは片付いたんでちょっとレン助達んとこにいってますよーん!」
すると、随分と先の方から「わかった。直ぐ行くー!」と返事が反ってきた。
そう言えばあの妖魔さんはどこに行ったんだ?
「wingさん一人で大丈夫なんすか?」
「ああ、大丈夫だよん! このステージ、ボス一人で越した事だってあるんだからーんっ!」
「ひ、一人でですかっ⁉」
華乃が驚くのも無理はない。何せこのステージ、ボス的な敵は居ないが数が多くしかも個々がlv30以上の敵がゴロゴロしている。その為、上級者のレベ上げにも使われているステージだ。
「最強の剣術とスキル使いだからねーんっ! んま、チョット天然で意地っ張りだけどんっ!」
「ゴホンッ! えーっと、誰が天然で意地っ張りだって?」
その声に後ろを振り返るといつの間にかあんなに遠くに居たwingの笑顔がそこにあった。
「ボスんっ⁉ い、いやー流石の速さっん! このルナ感服いしましたよんっ!」
「そっ、そうかな? あ、あまり誉められるとその恥ずかしいでは……」
ええっ⁉何その信じやすさ! やっぱりこの人、口調は変わっても人の良さは変わらないなー。
「あっ、そう言えばさっき言ってた二人のスキルって?」
「おんっ! わっしのスキル名付けて『七尾の刻印』はねー七尾たんを分身させて敵に噛み付く事により刻印を付け、その印から徐々にHPを吸い取り本体に流し込むっつー仕組みよん!」
「七尾たん?」
「ありゃん? 紹介まだだったっけん? そんじゃー」
と、ルナが首から下げた笛に口をつけ思い切り吹いた途端…地面に振動が走り揺れ始めた。
ワオォォンッ! という凄まじい遠吠えと共に、空からデカイ犬みたいなのが降りて来たかと思うと俺達の前でおすわりをした。その首には赤い首輪が付いており余計に犬度を増している。
「な、何このやたらデカイわんコロっ‼」
「わっ、わんコロじゃないよんっ! 七尾たんっ! 神獣の狐だよんっ!」
「でもさっき、結構な大きさでワォーンって…」
「ち、違うんっ! 風邪引いてるんだよんっ!」
ルナの有無を言わせぬ剣幕に押され、ここは大人しく狐で納得する事にした。
「それはそうと、このわん……いや七尾には何が出来るんだ?」
「ん? 七尾たんは、ある程度の雑魚モンスターならさっきの刻印だけで時期に倒れるんだけど即効性は無くてねーん! だからこうして一定のHPを集めておっきくなると……」
「その倍の量が吸いとれるとか?」
「さっすがレンちゃーん! ヒヒッ!」
「へいへい。で、どの位の量吸い取れるんすか?」
「えっとーん……分身前は一体で5分間に10で、七尾になるとそれが100になるんっ!」
「た、確かLV10の敵でHPが約1000でLV100以上だと10000以上するよね?」
「つまり、短期戦には向かないスキルって訳か。そのスキルはプレーヤーにも効果あるんすか?」
「プレーヤーには使った事無いなーん! 何なら試して見よっかん? レン助のHPは……」
「す、すいません! 見た目騙しかよ⁉ 何て微塵も思ってません! 超カッコイイっす!」
「兄さまっ……」
「まっ、七尾たんはHPも多いし、飛べるし、早いし! 超万能なんだよーんっ!」
「ね~ぇ? 皆ぁアタシの事、忘れてなぁ~ぃ?」
そんな声と共に今度は頭上から妖……saltが降りて来た。
「あれ? 今までどこに?」
するとsaltは近くの木上を指差した。
「saltは弓使いだから、近接戦闘は苦手でいつも上に登って援護してくれているんだよね」
「木に登る?」
そのままsaltは近くの木の前に立ち弓矢でその枝を射る。すると、弓の先から粘着質の物が出て見事に枝に張り付くと同時にsaltの体を弓ごと枝まで引き上げた。
「す、すごいのですっ!」
「でしょ~ぉ? SPSが無くとも弓スキルを上げればこんなのお手の物……っていやぁ~!」
悲鳴と共に枝が折れ、saltの体がまっ逆さまに地面に――落ちる所を道明寺が受け止めた。
「んぁっ! あ、あんがと。さ、さっすがその外見ゎ伊達ぢぁなぃわねぇ~♪」
「ふひっ! 調子に乗り過ぎたから天罰でも食らったんじゃないんっ?」
「う、うっさぃゎょこの犬耳! ちょっと枝が細かっただけよぉ~っ!」
「二人共っ! それにしても鉄人さん防御力強いね! あの距離でダメージを受けないとは!」
「お、俺っち防御を一番上げてて……あ、あの位は全然何ともないですよ!」
「凄いね! それでは明日からも防御役として改めて頼むよ!」
「あっ、えっとその……」
すると、道明寺は下を向くと俺の元に一件のルームチャットが入った。
鉄人:ごめん蓮。実は俺っち、明日からの大戦出られそうに無いんだ。
†レン†:え? どうしてだよ? あんなに張り切ってたじゃん!
鉄人:うん実は、部の夏の大会が近くて一年からも一人出す事になったんだけど俺っちが出る事に……でも、蓮が仲間を集めてくれて一位も目指したかったから中々言い出せなくて。本当にゴメン! この穴埋めは必ずするから! だからその……友達でいてくれるかな?
ブッ! あっぶね! ポテチの上に麦茶を吹く所だった。何なんだコイツは? 小学生かよ!
†レン†:で、何で嬉しそうじゃないんだよ? 選ばれたって事は実力を認めて貰えたって事だろ? 将棋は分からんがお前はその大会で戦えばいいだろ? 俺達はこっちで戦うからさ!
鉄人:蓮……有難う! 俺っち頑張るよっ!
と、ルームチャットを閉めた所で画面に戻ると俺達以外の4人が目の前に集まっていた。
「おんっ! 終わったかいん? 思春期の男子会議んっ!」
「変な言い方しないでくれません?」
「どぉ~せ高校生位でしょぉ? 匂いと口調でわかるゎよぉ♪」
この人色々と怖過ぎるっ!
「それで、さっきの鉄人さんの事って?」
俺はリアルの事情で鉄人が今回の共闘には参加出来なくなった事を皆に伝えた。
「そっかーん。防御役は惜しいけど、しゃーない事だもんねんっ! 鉄人っちフレ登録っとん!」
「そうだね。鉄人さんもあまり無理しないで次の時は一緒に戦おう!」
「ざんねぇ~ん。又貴方の体に抱かれ……」
「あ、兄さまの前でえっちいのは駄目ですっ! 鉄人さんっ! 頑張ってくださいっ♪」」
「お、俺っちも又皆さんと会えるの楽しみにしてます!」
こうして、鉄人は笑顔で皆に見送られながらログアウトして行った。
「防御役が一人減っちゃったねーん」
「そういえば、飛行馬のメンバーって攻撃系ばかりの様な?」
「アタシゎヒールも出来るゎょ~♪ でもぉ~どぉせなら敵を倒したいじゃなぁ~ぃ?」
本格的に駄目だなこの人! だとすると回復は誰が? あの犬……狐にも出来そうにないし。
「それでは次に、私のスキルも紹介しよう!」
と、wingが立つと同時に辺りに再び無数の光が飛び始めた。
「これが……?」
「そう。これが私のスキル『精霊使い』。この赤が火・緑が木・青が水・黄が光で黒が闇と分かれて飛んでいるのがそれぞれの精霊だよ。」
目を凝らして見ると、確かに5色に分かれていた。
「そしてこれは、無属性の剣『グラム』。武器には普通、属性が付いているがこれには付いていない。その為、私が望む属性に精霊が変えてくれるのだよ。ルナ、お願い!」
「はいなーんっ!」
とルナが今度はさっきとは違う笛を取り出し思いきり吹いた。すると、地響きと共に今度は奥の方から数匹――いや、数十匹の足音が聞こえて来た。
「ア、アンタ強く吹き過ぎだってのぉ! ア、アタシゎ一先ず上に退散するわぁ!」
「ちょ、saltずるいーんっ! 七尾ーっん!」
あっという間に俺達は奥の方にいた平均lv40は有するモンスター達に囲まれてしまった。
「これは、想定外の多さだね。黒天使ちゃん! 君はルナと一緒に七尾に乗って加護をっ!」
「は、はいですっ!」
「saltは空からの援護と敵の数をお願い!」
「りょ~♪ えっとぉ~敵はざっと二人の周辺で30空にゎ……居なぃゎねぇ♪」
「了解! レンっ!」
「はっはい!」
「君は私の後ろでスキルと援護をお願いします! スキル中は私の後ろから離れない様に!」
「りょ、了解!」
「よし、じゃあ皆……行くよ!」
その声と同時にスキルを発動させる。同時に視界に敵の属性とリミット時間が表示された。
「wingさん! 目の前の敵、左の小さいのから赤、黄、赤、緑――」
「了解! じゃあ、その瞳で私の剣を見てて。」
「え? あっはい!」
凄いスピードで目の前を舞う彼女の剣を必死で目で追う。すると確かに、俺の言った通りの色に剣が光り的確に敵の急所を貫いて行く。
「すげぇ……」
「レン! 次は援護お願い!」
「はっはい!」
「ひえーん! ボス達すんごい楽しそーじゃんっ! にーちゃんも中々やるねん? 属性が見える目に自由に属性が変えられる剣――ふひっ! なんかワクワクして来たーんっ!」
「ルナさんっ! 兄さまのヒールに向かって下さいっ!」
「あいよんっ! わっしらも負けてられないねん! 飛ばすよーんっ!」
「と、飛ばさなくてもっ……ひやあぁぁっ!」
や、やっと終わった……。
「皆、お疲れ様!」
「やっぱ凄いっすね! wingさんのスキル!」
「それは君のスキルもだよ! 先に属性が分かると無駄な攻撃が省けるので助かったよ! じゃあ最後に黒天使ちゃんに全体ヒールを――って、ダメかな?」
と、華乃を見ると目をくるくると回していた。
「つ、つい飛ばしすぎちゃってん! にしてもん、GM同士も仲良くなれた様でよかったねん! レンっ! とか呼んでたもんねん?」
「っ! そ、そんな風に呼んでたかな⁉ す、すまない! つい熱が入ってしまい……」
「ぜ、全然いいっすよ! 寧ろ仲間っぽくて嬉しかったっすよ!」
「じゃ、じゃあその……これからもレンって呼んでもいいかな?」
「……。」
「だっ、駄目だよね! い、いいんだ! 私はそのっ――」
「ろん」
「へ?」
「もちろん大歓迎っすよ!」
当初の目標の『レン君』を飛び越してしまったがこれはこれでっ♪
「ええーん⁉ 『レンちん』の方が絶対いいのにーん!」
「やだよっ! 温めるどころか呼ばれる度に寒気がするわ!」
と皆で笑っているといつの間にかHPが回復している事に気付いた。あれ?いつの間に……
「本当に皆お疲れ様。明日に備えゆっくり休んで下さい。明日の時刻は又メールにて送ります!」
「おんっ! んじゃ、わっしはお先に失礼しやーすん!」
「アタシも落ちるわぁ♪ 又ねぇ~黒子ちゃんとぉ兄さん♪」
「く、黒天使ですっ! わ、私もちょっと目が回りましたので先におちますね兄さまっ♪」
そうしてダンジョン攻略後の焚き火の前には俺と練霧だけが残された。
「きょ、今日は本当にお疲れ様でした! 付き合って頂いてとっても楽しかったです。」
気を使ってか、すっかり見慣れた女剣士のキャラからいつもの練霧の口調が聞こえて来た。
そのあまりの似合わなさに思わず可笑しくなり笑ってしまう。
「ふえっ⁉ わ、私、何か変な事を⁉」
「いやその、口調があまりにキャラと合ってなくて……」
「やだっ私ったら! でも確かにそうですね。その……私の口調、やっぱり変でしたよね?」
と改まって目の前の女剣士は目線を下にした。
「あっその! 確かに最初は驚きました。でも、いつも練霧さんって敬語だし優しくて笑顔で皆に好かれて……だけど、こっちの飛行馬のGMのwingも話しやすくて好きですよ!」
「好きですか?」
「い、いやっ! す、好きと言うのはそのキャラとしてと言うか……好意というかっ!」
「嬉しい……です」
「へっ?」
その言葉に顔を上げると、そこには女剣士のアバターだが確かに練霧の笑みと少し頬が染まっている様に見えカメラを通して彼女が今この表情をしていると思うと余計に鼓動が高鳴る。
「私、本当は不安だったのです。萩塚君や華乃子ちゃんに嫌われてしまうのではないかと……でも、どうしてもこのキャラで戦いたくて一位を取りたくて!なので本当に嬉しいです!」
そう言い顔を綻ばせるwingの姿は、無邪気で気品があり本当に高貴な騎士の様だった。
『少し無理をしているように見えたので――』ふと、脳内に華乃が言った言葉が浮んだ。
確かにリアルでこんな表情をしている練霧はあまり見た事がない。寧ろリアルで見たかった!
「あっあの! 練霧さんって、趣味とかあるんですか?」
取り合えず会話を続けたく振ってみたはいいが、自分の会話力の無さに言った側から後悔する。
「趣味ですか? そうですね、ゲーム以外ですと……自然に触れる事でしょうか。お花を育てたりお野菜を作ったりしている時が一番癒されますね。」
そんな質問にも優しい笑みで答えてくれる練霧。貴方は天使ですか?
「な、何かピッタリっすね! 俺も料理や買い物は嫌いじゃないんすけど育てるのって場所もですけど結構大変そうですよね!」
「わ、私も家は狭くて日当たりも悪くて……なので、会長や石衣先生には感謝しております!」
練霧の家が狭くて日当たりが悪い? それに何でここであの胸デカ教師が出てくるんだ?
「あっ! そう言えばお話しておりませんでしたよね? 私の入っている同好会の事を!」
「同好会?」
「はい! 会長が生徒会活動の一貫として同好会を開いて下さり、その顧問を石衣先生が引き受けて下さったのです! そうですっ!」
すると、急に女剣士が立ち上がったかと思うと俺を見つめとびきりの笑顔でこう言った。
「明日のお昼休みお時間空いておりますか?」
結局あの後、『明日の昼休み屋上に集合』という約束をして互いにログアウトしたのだが……。
「気になって全然眠れなかった!」
取り合えず今日は朝食当番の為に早く起きたはいいが、思う様に目が開かない。
「えーっと、トマトと卵と……やべっ! 野菜の買い置き忘れてたな」
パンを焼きトマトスクランブルエッグの朝食を作るとニ階に向かって「飯だぞー」と叫んだ。すると、直ぐ様ちびっ子自衛隊が階段を駆け降りて来ては扉を開いた。
「うむっ、早いではないか! 今日も中々じゃのぉー! んっ!」
伸ばされた手にいつもの魚肉ソーセージを渡すと満足そうな顔をして席に付く。
「遅いなー?」
いつもは早起きの華乃だが中々降りて来ない。すると、ゆっくりドアが開き黒い猫耳の物体が入って来ては椅子へよじ登った。
「お前も寝不足か?」
「わ、私にとって闇は友の様な物……睡魔族等にこの私が負ける筈が……こくんっ」
「言った側から負けてますけど⁉ それにお前クマ出来てるぞ?」
「ふにゅっ⁉」
「それなら蓮兄もだぞっ?」
「うにゅっ⁉」
この調子だと昨日の戦闘メンバー全員クマ出来てんじゃないだろうか?
「兄さまっ……朝食を食べたら、少しの間だけ睡魔との契約を結ぼうかと思いますっ」
「結局二度寝するのなっ!」
そうして今日は1人少ない見送りで夏休みまで残り一日の学校へと向かったのだった。
「みなざぁ~ん、おはよございまぁ~ふ!」
「先生ー、又二日酔いですかー?」
あきれ混じりの生徒の声もその筈、服はいつも以上に乱れ何しろ酒臭くクマまで出来ている。
「飲みすぎたぁ~先生ゎ保健室にいますのでぇ、何かぁったら呼んでくだはぁい♪ ひっく!」
ホント良く教師になれたよな? 石衣が出て行き教室に平穏が戻ると早速善財が近付いて来た。
「聞いたよハギーっ! 道明寺君が出来なくなったんだって? 今日からだけど、大丈夫?」
「まぁ、何とかなるっしょ」
遅れて道明寺もやって来た。
「き、昨日はゴメンねー。あ、あの後どうだったー? 共闘!」
「何それっ⁉ 飛行馬ときょ、共闘したの⁉」
「おまっ! 声がデカイって!」
「あっ、ゴメン!」
急いで周りを見渡すが、誰も気付いた様子は無かったので一息つき話を続けた。
「ありゃ多分、どのギルドよりも強いんじゃねーか?」
「いいなー! でもシリウスって『朱雀の理』とか『聖栄旅団』とか強豪ギルド結構いるよね?」
「何それ?」
「前から思ってたけど……君達ってあまり他のギルドとかSPSの事知らないよね?ギルイベって、他のギルドの事とか知らなきゃ結構厳しいよ!」
「そ、そうなのか?」
「はぁーハギーって、結構行き当たりばったり的な所あるよね! じゃあー一応シリウスの情報も集められるだけ集めておくから昼にでも教えようか?」
「おう! サンキュ……ってあ! わりー今日の昼はちと用事があってな」
「か、鍵当番だっけー?」
「いや、違うんだけど……ちょっとな。」
「そっか、じゃあ帰ったらメールしておくよ!」
「さっすが役に立つな! 情報屋っ!」
「何か僕、いっつもハギーに乗せられている気がするんだけど?」
「気のせいだ!」
チャイムに席へ戻ると、一瞬視線を感じた気がしたが特に気にせず授業を受け始めた。
キーンコーン――昼休みを告げる音に席を立ち練霧を見ると、彼女も視線に気付きニコッと微笑むと足早に教室を後にした。俺も少ししてから教室を出て歩き始めようとする――と、やはり何か視線を感じる。だが、待っている練霧に悪いので逃げる様に足早に教室を出た。
ゴクリ! 今、俺の前には屋上へと続く扉が立ちはだかっていた。鍵は空いている様だ。
昨日あんなにゲームで話したと言うのに、どうしてこうも緊張するのだろう? 意を決して、ゆっくりと鉄の扉を開くと――強い日差しと共に甘酸っぱい香りが嗅覚をくすぐった。
「この匂い……」
ザーッ! 丁度入口の裏の方から雨の様な音が聞こえて来たので俺は裏側へと足を運んだ。
「こんな所にもスペースが……ん?」
「りん、ひょう、とうしゃっ――』」
更に近付くと、雨音の他にも何か聞こえて来たので恐る恐る壁の後ろを覗き込む。
するとそこは、小さな畑が広がり横で楽しそうに水を撒くマスク姿の少女が立っていた。
あれ? この子どこかで……?
「ああっ! この前の手裏剣少女っ!」
思わず叫んだ途端、こちらに気付いた少女は猛スピードで自分のスカートをめくった!
「ひえっ⁉ へ、変態⁉」
咄嗟に両手で目を覆おうとするが、スカートの中から現れたのは黒いレース――では無く黒光りする何本もの手裏剣らしき物が収納されている装備だった。
「何……だと?」
「死、あるのみ」
同時に少女が装備へと手を伸ばし、黒光りする物を数本投げ付けようとした瞬間――
「ま、待って柚奈ーっ!」
後ろから駆け足でこちらへ向かって来たのは本物の練霧音羽の姿だった。
「た、助かった……」
一瞬、『男子高生校内で手裏剣により死亡!』なんて見出しが脳内を過った。
「ごめんなさい萩塚君! 大丈夫……では無かったですよね! 怪我とかないですか?」
「あ、うん。一瞬見出しに載りましたけど」
「無事で何よりです! 柚奈さんっ! この人は、今朝お話した見学予定の萩塚蓮君ですよ!」
「萩塚蓮……知ってる。見てたから」
「視線の正体はお前かっ!」
「二人共お知り合いだったのですか?」
「いや、ちょっと前に廊下でぶつかり……あっそうだこれ!ずっと返そうと思ってて!」
と、一応制服のポケットに入れていた手裏剣をマスク少女へと手渡した。
「これ……探してた。やはり君が」
直ぐに手から手裏剣を取ろうとしたが、一旦その手を止め俺を見上げた。
「ん? どうした? 要らないのか?」
「お礼……」
そう言うと、近くにあった鞄から何やら取り出すと俺の手の平に手裏剣と交換でそれを置いた。
「お、おう! サンキュ……って⁉ 何でスルメなんだよ!」
その手の平にはスルメの足が数本置かれていた。
「君、善人。スルメ、好物。顎、鍛える。タウリン、豊富。」
「イカ臭い男子高生とか色々アウトだろ! でも一応、有難な! で、何で口元が動いてんだ?」
「タウリン」
「マスク剥がそうか?」
「っ! にょ、女人のマスクを剥がす等……この破廉恥がっ!」
と顔を赤らめると同時に再び手裏剣に手を掛けた。
「ひいぃっ! す、すいませんした! だから、その物騒なモンはしまってくだせい!」
「駄目ですよ柚奈さんっ! 又会長さんに怒られちゃいますよ?」
と渋々忍者少女は装備から手を離す。
「萩塚君も申し訳ないのですが柚奈さんはマスクを取る事が一番恥ずかしいらしいので。」
と耳元で練霧が囁いた。そもそも、生徒会の一員でマスクと武装って会長が良く許したよな!
「そういやお前、えっと……」
「羽二重柚奈。この学校の風紀委員を勤めておる」
「えっと、ごめん。何委員だって?」
「風紀委員だ」
と練霧を見ると笑顔で頷いた。
「風紀を乱す者は……我が裁く」
何か滅茶苦茶物騒な事言い出しちゃってるよこの子!自分で風紀乱してどうすんだよっ!
「あの、練霧さん。会長は何も言わないんですか?」
「柚奈さんの事ですか? 最初は注意しておりましたが、優しい方なので今は何も言われませんよ! あっ! 昼食が済んだら一緒に生徒会室に来ませんか? 会長も会いたいと言っておりましたので」
「会長が俺に?」
「はい!」
と、練霧が鞄から出したピクニックシートを広げると空かさず羽二重が座りだした。
「音羽……お茶」
「お前は色々と図々しいよなっ!」
「うふっ、二人ともすっかり仲良しさんですね!」
すると、俺達の前に可愛らしい大きめのお重が出された。
「これは?」
「実は今朝、皆さんで食べようと思い作って来たのです!」
と、ゆっくり蓋を開けると中には唐揚げやら卵焼きが綺麗に詰められておりどれも旨そうだ!
「練霧さんって料理も上手いんですね! では、お言葉に甘えさせて頂きます!」
その中から俺はアルミカップに入ったトマトグラタンを取り出し口へと運んだ。
「う、うまっ! トマト甘っ!」
トロリとしたソースにカリカリのチーズとベーコンに厚切りトマトが何とも食欲をそそる!
「お口に合い何よりです! 実はこの野菜は全てここで栽培した物なのですよ!」
と、嬉しそうに練霧は先程俺達がいた畑を指差した。
「こ、これってもしかして部員はタダで貰えたりとか?」
「はい! 種代は部費から出しますし、花壇にお花を植えるのも私達の活動なのですが結構力仕事なのでその……もし萩塚君が宜しければお手伝いして頂けたらと。ご、ごめんなさいっ!」
「俺……入りますっ! この同好会!」
「ほ、本当ですか⁉ 嬉しい! では、今日から萩塚さんも同好会仲間ですね!」
と嬉しそうに微笑みながら練霧は俺に手を差し出した。
「は、はいっ!」
これから毎日この笑顔を昼休みに拝めるなんて……くぅーっ! 何たる幸せ!
「あっ! 因みにこうして集まるのは生徒会の無い水曜のみになりますので、それ以外の日は石衣先生に言えば鍵を貸して貰えますのでいつでも畑を使えますよ!」
「ええっ⁉」
「クスッ。この破蓮恥殿、毎日こうして……」
「それと、種植え等の大きな活動は放課後に行いますのでその時は前日にお伝えしますね!」
「あっ、はい……」
すると、練霧は箸を置き食べ終えた食器を片付けながら遠慮がちに口を開いた。
「それでは、私は報告もあるので一度生徒会室へ戻りますが……萩塚君はどうしますか?」
ここは隣の校舎の3階。校長室や会議室のある一般生徒は殆ど足を踏み入れないエリアだ。その一番奥にある通常の二倍はありそうな扉の前で練霧は足を止めこちらを向く。
「ここが生徒会室です。会長は理事長のお孫さんでもありとても優しい方ですよ!」
そう言い、練霧はゆっくりと扉を2回ノックすると直ぐに中から声が返ってきた。
「どなた?」
透き通り芯のある声。いつもは壇上で聞くだけだが、こうして間近で聞くと更に緊張感が増す。
「練霧です。新しく同好会に入って頂いた萩塚さんもお連れしました」
「入りなさい」
すると、中から生徒会らしき双子が出て来て扉を開けてくれた。
部屋の中は大きな机やソファーやらが並んでいて、その中央の大きな机に何やら忙しそうに書類を見るどこか近寄りがたい雰囲気の美少女が長い髪を横に束ねて座っていた。
「ごめんなさいね。今は手が離せないから少しだけ待っていて貰えるかしら?適当に掛けて」
と、書類に目を向けたまま目の前のソファーを指差した。
そこで、俺達は言われたソファーへと腰を下ろすと後ろから先程の双子が紅茶を運んで来た。
「「どうぞ」」
やけに高そうなカップだ。これも学校の資金なのだろうか?そんな事を考えていると、隣に居た練霧が急に立ち上がり会長に声を掛けた。
「会長! その、私に何かお手伝い出来る事がございましたら!」
「お心遣い有難う練霧さん。けれど、これは貴方には出来ない仕事なの」
「わ、私こそ差し出がましい事を! 申し訳ありません」
そして、再び会長の書類を捲る音だけが室内に響き渡りその横で双子がそれを見つめている。
――何だこの空気? 緊張する所か息するのも精一杯なんですけど!
「あのー練霧さん? 生徒会室っていつもこんな感じなんですか?」
「いえ、今日は夏休みの課題の最終チェックがあり今日中に目を通さなくてはならないので」
「えっ? 夏休みの課題も全部会長がチェックしているんですか!」
「ええ。先生が作った物の最終チェックは五家宝会長にしか出来ないお仕事なので……」
と、不意に書類を捲る音が止み小声で話す俺達の前にスラリと白くて長い脚が組まれた。
「お待たせしました。思ったより時間が掛かってしまいましたわ。さて、私がご存じだと思いますがこの学校の生徒会長兼理事長の仕事も勤めております五家宝凛です」
そう話す彼女は2つ上とは思えない程に落ち着いており大人の魅力とオーラに溢れていた。
「おっ俺は、練霧さんと羽二重……さんと同じクラスの萩塚蓮です。よ、宜しくお願いします!」
「主……その間は何だ?」
お前が言うかっ! 散々三点リーダー乱用しやがって!
「あら。練霧さんが連れて来たので気になっておりましたが、柚奈ともお知り合いだったのね?」
「いや! 羽二重さんとは先日廊下で偶然ぶつかり、ちゃんと話したのは今日が初めてです!」
「そう。練霧さんとはどこでお知り合いに?」
「えっ? あ、えっと――」
「萩塚君には先日、私の大切な物を拾って頂いてそれからお話をする様になりました!」
「あら、そう。時に貴方、部活には確か入っていないのよね?双子の妹さんが居て」
「あっはい! でも、何で知って……?」
「あら、面白い事を言うのね? 私は会長でもあり、先に言った様に理事長の仕事も引き継いでいるのよ? 生徒の情報を把握しているのは当然でしょう」
と、冷静な口調で飛んでもない事を口にした彼女は「そろそろ時間ね」と立ち上がった。
「貴方、気に入ったわ。時間が有る時に今度は生徒会の手伝いをしに来なさい」
そう言うと再び机に戻り仕事を始めたので、仕方なく俺達は挨拶をして生徒会室を後にした。
「緊張しましたか?」
「やっと息が出来るって感じです……。でも会長さんってその、あまり笑わないんですね?」
「確かにあまり表情には出しませんね。ですがとてもお優しい方ですよ! いつも見ていてくれますし、花壇の花植えや会長室のお掃除までさせて頂いております!」
そう嬉しそうに話す彼女を見ていると『それって単に雑用をさせられているんじゃ?』なんて口が滑っても言えなかった。
「練霧さんがそう言うならきっと、いい人なのかも知れませんね!」
「無論。凛様……いい人」
「っておわ⁉ お前いつの間に! それに今、凛様って――?」
マスクをモゴつかせながら突如俺達の前に現れた羽二重に二人で足を止めた。
「凛様は……昔からの知り合い」
「それは私も初めて知りました!」
「当然。秘密事項」
「それって言っちゃヤバいんじゃ?」
「問題ない。それに……仲間」
昼休みも終わり、職員室へ向かった練霧と羽二重よりも一足先にクラスへ戻り席へ着いた。
「あーあ」
「ど、どしたの?」
後ろからの大きな溜め息に道明寺が振り向いた。
「いやー夢でも見てんじゃねーかなって。なんかさ、最近あまりにも非日常でね」
「え、えーっと? よく分からないけど、蓮にとってリアルはどうでもいいんじゃなかったの?」
「それがどうも、そうは行かなくなりそうでな……」
でもよく考えると、こんなに非日常な人達と知り合ったのもあのキーチェーンが原因な様な?
と、丁度次の先生が入って来たので道明寺は前に向き直った。
クラスの人気者の練霧や美人会長、そして羽二重もマスクをしているがその上からでも人形の様な顔立ちが伺える。そんな彼女達と数日で一気に知り合うなんて――どんな男だって、思わず自分が物語の主人公にでもなった様な気分になる筈だ。只、俺は戸惑っているだけだ。
一応ノートに只でさえ苦手な古文を達筆で書いた解読不能な黒板を写そうとペンを取り出した。
「ん? 何だこれ?」
ペンと一緒に出て来た紙を広げると、そこには『放課後屋上で待つ ふうま』と書かれていた。
やっと古文のノートを書き終え、HRを済ませると紙を握りしめながら再び屋上の扉を開いた。
「羽二重ー来たぞー」
声をあげると直ぐに慌てた様子でさっきのミニ畑から見慣れたマスクっ子が顔を出した。
「ぬ、主っ! 偽名を使ったのに……もしや読心術の使い手!」
「人型とか使うの周りにお前位しか思い付かんわ! ふうまって、どうせ風魔小太郎だろ?」
「どどどど、どうせだと?」
「すんません! 風魔様でしたっ!」
今、例の黒光りする物を出されたら今度は誰も助けに来ないかも知れないのだ!
「にしても『うまって結構使う奴いるもんだな?」
「我は任務の時は……この名」
何の任務だよっ⁉
「いや、この前俺がやってるゲームにも同じような名前の忍が居たなーって。まぁ、忍者好きの外人とか――って⁉」
気が付くと、目の前で話を聞いていた彼女の顔がみるみる青から赤くなり汗ばんでいた。
「も……問題ない」
「大ありだわっ! やっぱこの夏場に長袖にマスクとタイツって不健康にも程が!」
「無論。これ……夏仕様」
どこが? 見ているこっちが汗出そうなんですけどっ!
「その忍……緑?」
「ああ、ゲームの? そういや確かに……そうだ! 何で緑なんだ? って思ったんだ!」
「馬鹿者っ! それは、あの地形が夜が少なく緑が多いからに決まっておるじゃろっ!」
「え?」
「あ……」
と、羽二重は顔を赤くして黙り込んだ。
「えっと、もしかして知り合いとか?」
「も、もしや主……あの時のろざりおレンろざりお殿か?」
「ちょ、ちょっと待て! 今、ロザリオって2回言ったよね?」
「吸血鬼の番組で以前……十字をその様に言っておった」
「華乃じゃあるまいしそこまで拗らせてないわ! あれは只の記号で名前はレン! お前が見たのは聖職者が持ってる十字架の事だろ? 常に持ってる奴も身近にいるがな」
「殿があの時の……申し遅れました! 我はあの時助太刀して頂きましたふうまです。その節は大変お世話に」
と、今度は急に態度を変え俺の前に跪いた。
「お前が緑の忍者……」
先程からは考えられないその嬉しそうな姿に、散々な目に合ったが怒る気すらなくなっていた。
「なんか嬉しそうだな?」
「殿が初めてだから……げーむの話が出来るの」
殿っ⁉ まぁいっか、嬉しそうだし。
「それにしてもお前、ゲームなんかするのな?」
「本当は野外でも活動したかったのだがそうも行かず。凛さ、会長があの玩具を教えて下さり……だが中々弱く」
「会長がっ⁉ あれ? レベルっていくつだっけ?」
「LV205の人間の暗殺者。会長のご両親の手掛ける企業の一つ……玩具の製作会社」
つまり、五家宝凛は正真正銘のお嬢様って事か!
「なるほどね。にしても、日本語で言われると物騒度が半端ないな! しかも俺より上だしっ!」
「片仮名は苦手な故。朝から晩まであの電子機器と向き合い……だが、こーんとろーが苦手故」
朝から晩までって、立派な引きこもりじゃねーかっ!
「コントロールね! それだとコールスロー見たいだから。だからあのダンジョンに居たのか」
「無論。殿はその……組織には入っておるのか?」
「ああ、ギルド? 一応GMだけどあっでも、今日から飛行馬と共闘するから――」
そうだっ! 今のGMは練霧だし、羽二重がやっている事を知ったら絶対喜ぶ筈! でも待てよ? 練霧がプレーヤーという事は内緒だから……ここは先に伝えてからの方が良さそうだな。
「飛行馬⁉」
「ん? そうそう。そのギルドと今日から共闘するんだよ」
「と、殿っ‼」
「はっ、はぃ!」
「宜しければ……我をその組織に入れて頂けないか聞いては貰えないだろうか!」
「お前、無所属だったの? そんな事ならお安いご用よ!」
「……今は」
「ん? 何か言ったか?」
「否。殿には忠義を誓おう! 感謝する!」
「忠義とかいらんから! んじゃ、結果はチャットで教えようか? それまで死ぬなよ?」
「御意!」
「にしても、何で俺を呼び出したんだ? まさかこの話っ!」
「否……会長の事」
「会長?」
と、羽二重は鞄から透明の袋を取り出すとマスクの下から数本吸収した。イカ……だよな?
「会長とは……従姉妹。昔は一緒に遊んだりどこへ行くのも一緒で本当の姉様の様だった。明るくていつも笑顔で優しい凛様が我は大好きだった。だが、今はあの様に……冷静で笑う事も無くなってしまったのだが。それでも只1つ、最近変わった」
「最近?」
「練霧音羽。彼女が来てから、今まで人に興味を示さなかった凛様が初めて生徒会に五家宝の家に縁のない者を招いた」
って事はあの生徒会って……云わば五宝家軍団だったのかっ!
「まぁ、練霧さんなら分からなくもないがな」
「それに……音羽は殿と出会ってから何処と無く楽しそうに感じる」
「それでこの話を俺に?」
「我は、凛様が笑顔になれるのならどんな手段でも使う。もし、我の一生分の幸せを渡せる事が出来たらどんなに幸せな事か……。殿には、何も知らずに嫌って欲しくは無い」
ふと目の前の彼女を見ると、その小さな拳を震わせながら只ただ主人を思い慕うが故に心を痛める羽二重という忍の様な少女が写った。
「あのなー。嫌うも何も、俺はそもそもリアルには興味がねーんだよ。……でもまあ、同好会にも入ったしシグプレーヤでもある仲間の達を悪く言う様なGMにはなりたくは無いわな」
「殿……ぐふっ!」
「んだよっ⁉ うわやべっ! 今日買い出し行くんだった!」
時計を見ると針は丁度夕刻17:00を示す所だった。と、羽二重は足音も立てずにミニ畑の方へ向かうと何やら抱えて来た。
「殿。これは我の育てた野菜だが……その、豊作だったので持って行くが良い」
「その言い方だと、献上の品にしか聞こえないんですけど?」
「有無を云わず持ってけ! 礼は……殿の収穫した品で良い」
「どっちが殿だよ⁉ でもサンキューな! 助かるよ!」
と、自然に羽二重の頭の上に手を置いた。
「殿……この手は何だ?」
「うわっごめん! 何かお前と話してると、妹と話してるみたいで安心しちゃって……」
「ど、同級生だ!」
と、結局夕暮れの屋上に可憐に数本の手裏剣が舞ったのだった。
時刻は19:00。羽二重の臨時収入でパスタを作ると洗い物は華乃に任せ自室へ上がる。
「今日の相方は――博多明太子!」
幾らお宝でも、期限が迫ってちゃ食べるしかない。切らして捨てるなんて最早犯罪に等しい!
「うん! 今日もうまかばい!」
いつもの様にPCのスイッチを入れシグプレを起動させると大戦ページを開いた。大戦は一日に15:00、17:00、20:00、21:30、23:00の計5回1時間制で行われ、その中でGMは予め希望の時間帯を大戦ページに掲載し戦闘をする。つまり、その時間帯以外はレベ上げするも装備を買うも良しの平和な時間帯なのだが20:00から30分置きってのは学生や社会人を配慮すると妥当なのかも知れんが、下手したらほぼ付きっ切りと言う事になり兼ねん。
「ここの運営は散々人と話させた後、今度は引きこもりに仕立てあげるつもりかよ?」
すると、早速ギルドページに『飛行馬』からの申請が来ていたので迷わず『共闘』ボタンを押すとメッセージが表示された。
『ギルド“飛行馬”との共闘を開始します。尚、総GMには双方ギルドの総戦闘力が高い方のGMに設定されますが宜しいでしょうか?』
宜しいですよーっと、承諾を押すと『GM:†レン†』が『総GM:wing』に変更された。
「総GMね……ってか、まんまな!」
内心GMに少々飽きて来ていた俺は安心しつつプレーヤーを装着しシリウスサーバーへと繋ぐ。
ピピッ『新着チャット一件』。待っていたかの様に鳴り響くチャット音にアイコンを開いた。
wing:共闘有難うございます! いよいよ今日からですね!
†レン†:こちらこそ! 俺達なんか練霧さんに会わなかったら絶対に即負けしてましたよ!
wing:あらあら! 大戦はこれからですよ? 萩塚君のSPSや華乃ちゃんのヒール、期待しております! 大戦スケジュールはメールにて送信しておきましたのでご確認下さい。
その言葉に急いでチャットを縮小すると、点滅しているメールアイコンを開いた。
『差出人:wing 今日から大戦ですね。初日から共闘をする『夜空の宴』のお二人も改めて宜しく! それでは本日のスケジュールを連絡します。第一戦 20:00第二戦 21:30第三戦 23:00※ これからの様子を見て変更の可能性有り。基本夜メインなので、他にも希望があったら連絡下さい! ☆ 集合は時計台に19:30でお願いします。以上』
20:00から計3回……。俺や華乃の事を思って減らしてくれているのだろうが、イベントをほぼ無視していた俺にとっちゃかなりの拘束度と本気度だ!
「こりゃ、夏休みでもなかったら半端ない引きこもり製造オンラインだよな……」
†レン†:メール見ました! 計3回で大丈夫ですか? 俺達に気を使ってるんじゃ?
wing:以前も3回から始めましたので大丈夫です! 抜けたのも丁度2人だったのですよ。
†レン†:たった2人⁉
wing:ええ。一人は私と同じ女剣士で、一緒にレベ上げをしたり遅くまで語り合ったり……とても優しくて強い方でした。
†レン†:その人はもう、やっていないのですか?
wing:フレンドは何度申請をしても消えてしまいますが……もしかすると、他のギルドで活躍しているのかも知れませんね。ですが、もし会えたらそれはそれで嬉しいです! 実際に会った事は有りませんが、同じ時を過ごした仲間が元気にしていてくれるのなら。それに……
†レン†:それに?
wing:又一緒に戦えるのであれば、誠意を持って応じる限りです! あっ、そろそろ集合時間ですね! それでは、勝ちに行きましょう!
†レン†:はいっ!
チャットを閉めると急いで時計台を目指し走り始めた。時刻は19:20。瞬足を鍛えたこの足なら余裕で間に合いそうだ。と、時計台のある中央広場に入るといつもは個人商店等で賑わうそこは商店は数店しか見当たらずその代わりかなりの数のギルドが辺りに陣取っていた。
「うっわ、どこも殺気立ってんなー」
毎回こんなんだったらおっかなくて回復薬も買いにくい。その集団の間を視線を感じながら通り抜けると時計台が見えて来た。
「ふぅーって、あれ?」
待ち合わせスポットともあり時計台の下にもかなりの人が……と思いきや、何故か皆そこを避けるかの様に散らばっている。だが、人混みから抜けると直ぐにその理由が分かった。
「お、俺……あの中に入るのかよ?」
そこには先に着いたルナとsalt、そして黒天使とwingが話をして……と、ここまでは想定出来るのだが何故か皆がお揃いの妙な白い面を付けているのだ。
「なっ⁉ 何だこの面は?」
「いいっしょん? さっき珍しい仮面屋が出ててーん! ピンと来て全員分買っちったんっ!」
「いや、そうでは無く……」
「何でアタシがこぉ~んなダサぃの被んなきゃぃけなぃわけぇ~?」
「saltは黙って被ってればいいんだよん! ほらっ、色白になれたじゃん!」
「二人共っ! 皆が見ているではないか!」
「み、皆さんもっと前から見ている気がっ……」
うわぁ、どうしよう? すっげぇ帰りたい! 周りからは「何あれお多福?」「皆上級装備じゃね?」「戦隊もの?」「よく見たら女ばっかじゃん! どこのギルドだろ?」等々聞こえて来た。
「おっ! レンちゃん来たキタキターんっ!」
やばっ先に気付かれた! すると即座に「レンちゃん? 美少女か!」と声が上がりルナが俺に向かって投げた面の着地点に視線が集まる。そして俺は、直ぐに面を付け口を開いた――。
「お、お待たせぇ~!」
「フヒッ、フヒヒヒッ! やっば腹痛っん!」
「お前なぁっ! レンちゃんは辞めろって言ったろ!」
「ゴメンゴメン! 今度からは男っぽくレン助でどうよん?」
どうしてこう俺の回りは変な呼び方をする奴ばかりなんだよ?
「で、何でこんな仮面付けてるんすか?」
取り敢えず視線も気になるので場所を変え、山道を少し歩いた所で一同足を止めた。
「やだなーん? 正体隠す為に決まってんじゃん! 初っぱなから朱雀とか聖栄に合ったら洒落にならないっしょん?」
朱雀と聖栄……善財が言ってた奴か。そういやメールが来てたっけ? と、メールを開くとそこにはギルド名と人数がリストアップされており『☆ は人数集めてから戦った方がいいよ!』と書いてあった。その☆ には、『聖栄旅団』『朱雀の理』『大きなお友達』そして――
「飛行馬……か」
「おん? 飛行馬がどったのん?」
声につられて画面に戻ると耳を生やしたお多福が顔を覗き込んでいた。
「怖っ! いや、ちょっと他のギルドの事を友達に調べて貰って――」
「ふーんっ? んで、何か分かったん?」
「え? えっと、大体このサーバで強いのは――」
と、俺は善財のメールを元に上位のギルドと人数等を話した。
「へぇーんっ! やっぱり聖栄旅団ってそんなに人数居たんだんっ!」
アンタも知らなかったんかいっ!
「ゴホンッ。えっと、ルナ。この面の意味は分かったが……どうするかな?」
すると、後ろにいた華乃が急に腕を突いて来た。
「ん? トイレか? ってお前……どう見ても使い魔じゃねーかっ!」
「ふにゅっ? このお面、視界が制御されて結構いいのですっ♪」
嬉しそうに回る華乃。お前はあれか? 前髪やメガネで視野を狭くすると落ち着くタイプか?
「く、黒天使ちゃんがそう言うのであれば……イメーチェンも時には良いかも知れないね!」
そのwing言葉に、ルナとsaltは急にそっぽを向くと肩を震わせながら歩き始めた。
「あっ、兄さまイメ――」と、言い掛けた華乃の頭に手を置き、「いいか? 何があってもGMに付いて行くぞ?」と言いきかせ俺達も再び歩き出した。面の大切さを改めて理解しながら。
大戦まで残り10分。歩き続けて来た一行は既に山の頂上付近まで近付いて来ていた。
「でも何で山に?」
「うん。この山は私達がイベント等で良く使う山なのだが、何か気付くかな?」
そう言われ、華乃と二人で辺りを見回す。山の高さは他とそう変わらないし、特に平地が多い訳でも土も至って普通だ。それに木の高さも――と頭上を見上げた。
「気付いたみたいだね?」
「木の高さが……入った時よりも随分高くなっている様な?」
「そう。この山は木の高さが奥に進む程に格段に高くなっている。つまり、一番奥の木上からは下の様子が丸見えって事だよ」
そう言えば入り口の木がやけに小さかった様な。
「ボスーんっ! 今んとこ辺りに敵は見当たらないよんっ!」
「了解。ではこの辺で、各自所定位置へ着くよ!」
「ラジャーん!」「りょ♪」と二人は各々木上と茂みへと即座に姿を消した。
すると、画面にほぼ同時に『3、2、1…ギルド大戦開始!』の文字と音楽が流れ出した。
「えっ、えっと?」と、キョロキョロしている俺達にwingが「私から離れない様に付いて来て!」と声を掛けると、直ぐに遥か頭上のsaltから音声チャットが入った。
「北西入口から敵さぁんのぉ出ましよぉ~! 人数は5、ギルド名ゎ~ちっ、無名ねぇ」
「wing了解。100m内に入ったら攻撃を開始する! 幾ら無名でも手は抜かないよ?」
「りょ♪ 先にアタシに全滅させられないよぉ~に♪」
この山には入口が2つある。中でも俺達が入ったのが北西口つまり今正に敵が入って来た口だ。
「黒天使ちゃん! 皆に加護魔法をお願い!」
「ふ、ふにゅっ!」
「レンは私が敵を引き付けている内に、近くの茂みに隠れてスキルで敵の属性を!」
「はっはい!」
「ルナ! そっちの様子は?」
「うーん、今んとこ見当たらないねん?」
「了解。そのまま警戒を!」
「あいよん!」
「マスタぁ♪ 残り距離120……115……」
「各員、ルナを除き戦闘準備を!」
その声に俺は近くの茂みに身を潜めた。長年プレイしているゲームだと言うのにこの緊張感は何だ? 思わずゲームだと言うのに息を潜めると耳に鼓動が響き渡った。
「105…100ぅ~♪」
「戦闘開始!」
wingの掛け声と同時に空から凄まじい量の矢が降り注ぐと敵が姿を表した。
「ひいぃっ⁉ 何だ? あの薄気味悪い面はっ!」
その隙に、俺もSPSを発動し敵の属性を確認する。
「こちらレン! 敵の属性は前の二人が右から赤、緑。その後ろが……黄、青、赤!」
「りょ~♪」「了解! 属性変更っ!」
意表を突かれ、慌てふためく敵の前にお多福wingが立ち塞がる。だが、saltの攻撃もありHPを減らしているにも関わらず何故かwingは攻撃をせずに敵のボスに話し掛けた。
「待ち伏せしてすまない。君達は私達と共闘する気は無いか? 私は――」
「共闘だぁ⁉ がはっ聞いて驚け! 俺達は元聖栄のメンバーでSPSも所持している! さっきは少し面食らっちまったが、今度はそうはいかねーぞ? 何処の誰だか知らんが、まぁ頭下げれば共闘してやってもいいけどなー? がははっ!」
「そうか……ならば――」
と一歩下がるwing。まさか、謝るのか?
「残念だが、君達とは戦わなければならない様だね」
そのまま静かに剣を構えたwingは、向かって来た敵4人の攻撃を見事に全て避け舞う様な一撃で相手のゲージをみるみる減らして行くのを俺はじっと見つめながら息を呑んだ。
「バ、バカなっ⁉ 剣が折れないだと? しかも一撃で……ま、まさかその剣とスキルっ‼」
「そういえば名乗り忘れていたね。私は飛行馬GMのwing。以後、お見知りおきを」
と彼女は攻撃を止め丁寧に頭を下げた。
「ど、道理で……だが、飛行馬はPK出来ないギルドじゃ?」
「それは違う。私達は戦う気の無い者とは協力するが、戦意があるなら誠意を持って剣を抜く」
すると、wingの剣の色が青色に変化した。
「生憎、私達も一位を狙っているのでね!」
「はっは、威勢の良いねーちゃんだ! じゃあ最後まで……付き合ってもらうとするかねっ!」
と、敵が剣を振り上げた瞬間――その剣は可憐に宙を舞った後、俺の目の前に突き刺さった。
あっぶね! 一面草だから全然気付かなかった! 急いで敵を見るとHPは0を示していた。
「こりゃー良い冥土の土産だな……だが、ねーちゃん。今本当に怖いのは朱雀――」
そう言い残すと敵の姿は光の粒子となり空に消えていった。
「お、お疲れ様ですっ! 今ヒールをっ!」
「有難う黒天使ちゃん。でも、大丈夫だよ! レンもsaltも有難う助かったよ!」
「あぃよぉ♪」「お疲れ様です!」
敵5人の一斉攻撃に無傷って……にしても、確かにこの顔で前に立たれたら気味悪いわな。
「そういや、さっきの敵ってSPSを所持してたんっすか? それにPKしないとか何とか?」
「あっすまない! 話すのが遅くなってしまい。PKの件はさっき話した通りだよ。それと、敵のSPSは武器の硬化の類いかと思う。敵の剣と触れ合う前に少し色が変わったからね!」
「武器の硬化……」
そう言われwingの剣を見ると、傷どころか刃こぼれ一つしていない。
「マスタぁの剣ゎ特別なのよぉ♪ ちょっとやそっとじゃ折れなぃわょ? 太くて硬くて――」
「そして長い」
「「え?」」と、思わず全員がwingの顔を覗き込んだ。
「え? この剣の材料の話……だよね? 太くて硬くて長い鋼鉄の牙の黄金マンモス」
「はぁ~これだからぁ天然マジメちゃんなのよねぇ~?」
俺を含めその場の全員が安堵の溜息をついた所で華乃が口を開いた。
「あ、あのっ! お、黄金のマンモスってあの伝説の極級ダンジョンのですかっ⁉」
「あっ、うん! 良く知ってるね!」
黄金のマンモス。それはシグプレーヤなら誰もが聞いた事がある筈の、とある上級ダンジョンの奥に住むと言うとにかく大きく最強クラスの防御力を持ち属性が部位によって違い出現率もかなり稀なモンスターだ。因みに、善財のギルドでは10人で太刀打ち出来ず逃げたとか。
「あの時マンモスを倒せたのも皆のお陰だったよ! それにクロエもドルチェも――」
「皆さーんっ! わっし抜きで歓談中悪いんですがーお客様ですよんっ! ヒヒッ!」
「了解! 直ぐに向かう! saltもお願い!」
「ぁぃょ~♪」
「レンと黒天使ちゃんは私に付いて来て!」
と、凄い早さで走り出す背中を必死で追いかけ俺達は新たな敵の元へと向った――。
『ギルド大戦22:00回終了!』画面に表示された文字に一同はその場に座り込んだ。
「んーっ! 終わったーん」「あぁ~ん、しんどぉ~!」
「saltは年だからじゃん? ヒヒッ!」
「ぁ~ん? まだピチピチよぉ肌も胸も♪ あら、お子ちゃまにはまだ刺激が強いかしらぁ?」
「ちょっと二人共っ! 本当に疲れてる人もいるんだから!」
wingは俺と華乃の方を申し訳なさそうに見つめた。
「き、気を使わなくていいですよー」「ふにゅー」
慣れない早打ちをしたせいかまだ手がビリビリしている。
「皆、本当にお疲れ様! そして有難う! 今日だけで結構順位も上がったと思うよ!」
「ニヒッ、やっぱ新入り二人のお陰かねーん?」
「そうだね! この調子で行きたい所だが、これからは戦力も数も桁違いが増えてくると思う」
「そぉねぇ~♪ うふっ、戦いに狂った人々の姿……堪らないゎねぇ♪」
「ギルド戦はこれからがメインだねん!」
この人達は化物かっ! 俺は見付からない様に隠れながら援護するのに必死だってのに!
「ふにゅっ! さ、早速今の大戦の順位が更新されてますっ!」
「おぉん! さっすが黒天丼!」
「く、黒天使ですっ!えっと、飛行馬の今の順位は……125ギルド中、さ、35位ですっ!」
「35っ⁉ それってかなり高いんじゃ!」
「まてまてレン助ん。黒天っち、現在の総ギルド数は?」
「総ギル……67ですっ!」
「まぁまぁかしらねぇ~?」
「そうだね。でも、初日だけでこの結果ならかなり期待は出来ると思うよ! 只…」
「上位の動きにもよる。でしょ~ぉ?」
コクリとwingは頷いた。
「でも! この調子で上位の動きも見ながら明日も皆で協力して行こう!」
こうして、次の大戦が始まる前にルナとsaltそして華乃もログアウトするとwingもログアウト仕掛けた所で俺は昼の羽二重との約束を思い出し急いで引き留めた。
「ど、どうしたの?」
「すみませんっ! 急に引き留めてしまい……その、大事な事を言い忘れる所でした!」
「大事な事?」
「実は今日、学校で飛行馬と共闘したいと言う人を見つけて……」
そう口にした瞬間、「本当ですか!」とwingの綺麗な瞳が画面に大きく写った。
「えっ、ええ! 実は――」
と、俺は激しく鳴る心臓の鼓動を耳にしながら今日の放課後の羽二重との出来事を伝えた。
「ゆ、柚奈さんがっ⁉」
俺の話が終わると、今まで黙って聞いていた彼女の大きな瞳を更に大きくして聞いて来た。
「俺も最初、凄く驚きました。羽二重ってゲームとかPCとかやらなそうなイメージだし」
「ですね! でも、私に話して宜しかったのですか?」
「そ、それは了承を取ったので大丈夫です! あっ、勿論練霧さんの事は言ってませんよ!」
「それでは明日、私から柚奈さんにお伝えしますね!」
「へ? で、でも練霧さんは……」
「私だけ隠しているのはフェアじゃないですからね! 道明寺さんにも後でお話しますよ!」
そう言うと悪戯っぽく笑った。俺はこの時、少しだけ彼女の本当の強さが見えた様な気がした。
「あっあの……呼び捨てで良いですよ! それと、明日は生徒会がないのでお昼にご予定が無ければいつもの場所で!」
そう言うと、呆然と立ち尽くす俺に向かい頬を赤くしながらお辞儀をしログアウトして行った。
「音……って、名字の方だよなっ! ははっはは!」と思わずPC上の美少女達に話し掛けた。
それから、ふうま宛にギルドに歓迎の事と明日の昼に屋上に集合のメールをして床についた。
「兄さまーっ! 朝でーすっ!」
「ん……もう朝か」
今日は華乃が朝食なので、一緒にリビングに下りると三人で朝食を済ませ弁当を受け取る。
「愛妹弁当ですっ♪」
「おう、いつもわりーな!」
「蓮兄っ! ちーからの愛妹膝蹴りっ!」
「ってぇよ! んなもんいらんからっ!」
膝を擦りながらいつもの道を通り、これ又いつも通り道明寺達に会い一日が流れて行く――。
「あら、随分と平凡な一日を過ごしている様ね? 萩塚蓮」
そんな俺の平凡は、突如向かいから発せられた艶やかで冷やかな声に引き裂かれた。
「へっ⁉ あっ! お、おはようございます!」
「おはよう」
目の前の彼女は、俺の横でさらに目を丸くしている二人を見ると再びこちらに視線を戻した。
「この前は落とし物を拾って下さり有難う。今日の放課後、手伝いに来て頂けるかしら?」
落とし物? 混乱しながらも取り敢えず手伝いの件は聞いていたので「あっはい!」と答えると彼女は少しだけ口角を上げ直ぐに又後ろに数人を引き連れ歩き出した。
「い、今のって……我が校の生徒会長にして理事長の孫で五宝家財閥の一人娘の――」
「ご、五宝家生徒会長だよね⁉」
「あ、ああ…」
「や、やっぱ凄いよハギーっ! 会長の落とし物を拾うなんて、中々近付ける人じゃないよ⁉」
すっかり彼女の嘘を信じ込んだ二人は羨ましそうにその後ろ姿を暫く見つめてから歩き出した。
そっか、彼女はは二人に気を使って――。席に着くと、明日から夏休みともあり自習の多くなった授業を受けながらも窓の外を見ながら昼と放課後の予定を思い出していた。
「いやっほー飯だ飯!」そんなチャイムと共に響いた誰かの声に現実へと引き戻される。
「れ、蓮は今日どうするー?」「ハギーは今日も用事かい?」
こいつ等にも同好会の事は話しといた方が良いよな……と、二人の顔を見ながら口を開いた。
「実は俺、最近同好会に入ってさ。今日は昼は集まりがあるんだよ」
「ど、同好会?」
二人して不思議そうな顔をしたが直ぐに善財が口を開いた。
「分かった! じゃあ行って来なよ! その代わり……今度教えてくれよー?」
「うんうん!」
「おうっ! サンキューな!」
こういう時に何も聞かないのがこいつ等なのだ。俺は急いで愛妹弁当を持つと教室を後にした。
すっかり見慣れた階段を一段飛ばしで上り鉄製のドアへと手を伸ばす。
「って、あれ?」
「殿。これを忘れておろう」
「あっ、そうそう! 鍵鍵ーっておい!」
後ろを向くが声の主は見当たらない。だが、下を見ると代わりにイカの足が1本落ちていた。
「おっ、こんな所に居たのか! いやー小さいから気付かなかったわ!」
「お、おい殿っ! それはゲソであろう! 我はそんなにイボイボしておらぬ!」
直ぐに天井から羽二重が降りて来ると――俺の肩に着地した。
「軽っ!」
「無論。鍛え方が違う。足音や速度を早める為……余分な物取らない」
「へいへい。そーっすか」
「ソースは取らぬ。無論、醤油派」
「そんな駄洒落とかいいからっ! 早よどいてくれ!」
と、羽二重が下りた所で下の階段から練霧が顔を覗かせた。
「お、お待たせしました! 柚奈さん、萩塚さん!」
「音羽……見てた」
「へっ⁉ みみみっ、ごめんなさい見てました! どのタイミングで出て行けば宜しいかと…」
本当に見てたんだっ!
「そんな気を使わなくていいですよ! 俺達同じ――」
「同好会仲間」
「うふっ! お二人は本当に仲良しさんですね♪」
「音羽も」
「はいっ♪ あっ! 今日もお弁当を作ってきたのでもし良かったら」
と、練霧が鞄から弁当を取り出した瞬間――羽二重の口が動き始める。
「今日も美味。殿、何を見惚れておる」
「お前の相変わらずの吸い込みっぷりに見惚れてたんだ!」
「あ、あのっ! 今日、柚奈さんを呼んだ理由なのですが……」
「呼んだの……殿」
そう言うと、羽二重は不思議そうに俺を見つめた。
「その事で一つ、柚奈さんに隠していた事がございまして今日集まって頂いたのです」
「秘め事?」
「ええその……実は、私と萩塚君はとあるゲームのイベントがきっかけで知り合ったのです」
「……シグプレ。音羽、殿の頭領?」
「えっ⁉ あっ、はい! そうなの……です?」
今度は不思議そうに練霧が俺を見つめたので急いで首を横に振った。
「……キーチェーン」
「そ、そうです! 柚奈さんのお話も昨日萩塚君から伺い、隠していて本当にごめんなさいっ!」
「音羽……隠してない。聞かれたら言えばいい。只……一つ悪い。我、柚奈」
「へっ? あっ、はい! ゆ、柚奈!」
「御意」
それから再び練霧と華乃の弁当を堪能した後、シグプレでの今日の待ち合わせ時間等を決めた。
「あっそれと! この同好会ですが、明日からの夏休みの間もご都合が宜しければ水やり等がございますので職員室で先生に言えば鍵を貸して頂けますので宜しければお願いします」
「夏休みもっ⁉」
「野菜……毎日水やり当然」
俺は夏休みに練霧に会える事に驚いたんだ! だって夏休みと言えば私服っ! 正に至福!
「天使……いや、練霧は毎日来るのですか?」
「はい! 出来るだけ毎日行きます。お昼の支度とアルバイトもあるので13:00頃でしょうか。それに、夏休みも学校に行けて野菜に会えるなんてちょっとお得な気分ではないですか?」
お得どころか超特徳ですよ!朝から並びたい気分ですっ!
「13:00……御意」
「お、俺もなるべく行きますよ! 食料調達もありますし!」
「有難うございます! では、ご都合が宜しければ種植えもあるので集まりましょうか? 連絡は……今日の夜、集まった時にしましょうか?」
「はい!」「御意」
すると、丁度チャイムが鳴り出したので俺達は片付けた弁当を持ち練霧は鍵を返しに行くとの事であまり目立たない様に羽二重と距離を置きながら一足先に教室へと戻った。
「はぁ~ぃ皆ぁ明日から夏休みねぇ! だからって発情……暴走? しないよぉ~に♪」
どっちもアンタだろ! とツッコミたくなる能天気な発言と共に帰りのチャイムが響いた。
「きょ、今日は大会の練習だから先に行くねー! ま、また連絡するよー!」
「お互い向こうで頑張ろーね! ハギーっ!」
「おーう」
忙しなく立ち上がる生徒達のラッシュを眺めながら一歩遅れて立ち上がると、俺も教室を後にした。……あれ? 何か大事な事を忘れている様な? と、廊下に出て朝の光景を思い出した。
「今日の放課後っ!」
そう。俺にはまだ一大イベントが残っていたんだ!
「走る……のは止めておくか」
さすがに、会長に会いに行くのに全速力で廊下を走って向かう勇気等持ち合わせちゃいない。それに、あの会長に何か冷たく言われた日には俺のメンタルゲージが耐えられそうにない。
精一杯の早歩きで隣の校舎へと向かうと、階段を駆け上がり静かに例の扉の前で呼吸を整えた。
「開いてるわよ?」
と、ノックより先に声が聞こえると勝手に扉が開かれた。思わず俺は天井を見上げる。
「カメラなんて付いていないわよ? それより、待っていたわ萩塚蓮」
前回同様、彼女は中央の机で足を組み座っていた。だが、今日は高い位置で髪を纏めている。
「何かしら?」
「あっいえ! 今日はその、髪型が違うんだなーと」
「ああこれ? 書類整理に邪魔なので。それに、今日は動くからね」
「動く?」
「そう。実は、あの段ボールを職員室まで運んで欲しいの。だから貴方にも声を掛けたのよ」
と長く綺麗な指が示した先を見ると――半端ない量の重そうな段ボールが山積みになっていた。
「男手が足りず困っていたの。では、お願いしますね。詳しい事は隣の者に聞いて下さい」
それだけ言うと再び彼女は何か書き始めた。男手なんて会長が言えば誰でも手伝うだろうに…。
「殿、早く」
「お、おう……ってお前か! 普通に忍び足で横に居るの止めてくれない?」
「我……忍。これ持つ」
「重っ‼」
裕に10㎏はあるだろう箱を軽々と持ち上げ渡して来た。こいつ……本物か!
そうして、二人して40分も掛かったが何とか全て運び終えると外は薄闇が広がっていた。
「ふぅーやっと終わった!」
「殿、感謝する」
職員室の壁にもたれ掛かると何とも冷たさが心地いい。途中で家に電話を入れといて本当に良かった!途中で羽二重が話し掛けて来てから電話が切れたのが何とも不安だが……。
「ここに居たのね。お疲れ様」
その声と同時に二人に冷えた缶が手渡された。
「あっ、有難うございます! 会長!」
「わ、我まで宜しいのですか⁉ 凛さ、会長!」
「これ以上、部下に逃げられては困るのでね」
「わ、我は!」
「先に帰りなさい羽二重。貴方はまだ少し大丈夫?」
「え? あっはい。妹が待っているので少しなら……」
「そう。では、それ飲んだら又生徒会室に来て頂けるかしら?」
そう言うと、再び歩き出す後ろ姿を手渡されためろんスカッシュを飲みながら二人で見つめた。
「皆……分かろうともせずに決め付ける。殿、すまぬが我は先に帰る。21:00だったな?」
「お、おう」
「殿には貸しが……2つ出来た」
そう言うと、急に窓を開けたかと思うと「閉めて」と言いそのまま下へと飛び降りた。
「って、ちょっ! ここは3階だ……ぞ?」
急いで下を見ると綺麗にパラシュートを広げ着地した羽二重がキメ顔で親指を立てていた。
アイツ……この世界がネトゲだったら間違いなく最強のアサシンだな!
生徒会室の扉を開けると、いつものお付きのメンバーは帰った様で五家宝一人きりだった。
「遅くまでごめんなさいね」
「あのーやる事って?」
「ええ。そこの書類を番号順に並べて欲しいの」
そう言われた先にはテーブルの上に番号付の書類が数枚置かれていた。この量なら自分で出来るんじゃ? と思いつつ目の前のソファーに座り手を伸ばすと不意に会長が話し掛けてきた。
「ねぇ、貴方もその……練霧さんのファンなのかしら?」
「はあっ⁉ あっ、すみません! 俺と練霧さんは只の同好会仲間ですよ。と言うか、知り合わなければ話す事も……只のクラスメイトでしかなかったですからね」
「彼女は違うでしょう?」
「ああ、そうですね。只のではないですね」
「ふふっ。人と関わるのが苦手なのね?」
「というか、人に合わせて笑ったり動いたり……そう言うのが苦手なんですよね」
ソファーで下を向き、終わった1組の紙を揃えていると白くて細い足が目の前で脚を組んだ。
「ふぅーっ。あぁ、気にしないで続けなさい。私も少し手伝うから」
いやこれ、貴女の仕事なんですけどっ?と喉まで出掛けた言葉は会長の視線によって撤退した。
「さっきの、練霧さんはどう違ったの?」
「へ? あぁ、いや実は……最初は少し苦手だったんすよ。いつも笑顔で人気者で誰にでも優しい……そんな奴が本当にいる訳がないって」
「でも彼女は本物だった?」
「練霧と少し話す様になって思ったんすよ。本物とかじゃなくて練霧は……本当に心から相手の事が知りたくて、何事にも一生懸命なんだって。真っ直ぐに相手を見ていると言うか――」
「そうね。努力は何れ本物になる」
「えっ? でも会長は練霧の事……」
「あら、気付いていたの? ええ、嫌いよ。見ているとイライラするわ」
そんな事を真顔で笑顔一つ見せずに言う所がこの人らしい。
「羽二重から聞いていないかしら? 私の昔話」
「昔は優しくていつも笑顔だったとか」
「そう。昔の私はいつも仮面を被っていた。まぁ、今も被っているけれどね」
「仮面?」
「ええ。私の家は想像通り裕福な家庭でね。両親は仕事で海外に行く事が多いのだけれど、その取引先の方が家に来る事も多くて私は幼い頃から色々な国の言葉を習い、綺麗なドレスを来ていつも笑顔で両親の隣に居た。貴方が最初に思った練霧さんの様な仮面を被ってね……」
そう話す会長の瞳はどこか遠くを見つめ深く哀しげな色をしていた。
「決められた教育を受け、友人は取引先の子供とだけ作り祖母が作った高校に入学した私は自動的に一年生で生徒会長となった。勿論、他のメンバーも殆ど父の知人の子供達でね」
「でも、学校では仮面は被らないんですか?」
「あら? 貴方は自分の部下や配下の者にまで媚を売るの?」
「いやそれは……」
んな事言われても、普通は一生配下とか持たないからね? でも殿って呼ぶ忍なら……。
「あっでも! 羽二重には昔優しくしてたって?」
「あの子の家系は一応私の親戚に当たるのだけれど、同時に祖先の頃から主従関係だったみたいでね昔は忍として仕えていたらしいわ。だからあの子には幼い頃に優しくしておいたのよ」
「仮面を……被って?」
「勿論。その方が後々楽でしょ? 現に今も尚仕えて居る。ずっと昔の仮面の私を信じてね」
と彼女はさらりと当たり前の様に答えた。
「それって――でもアイツはっ!」
一瞬、血の上りかけた頭は目前の冷めきった視線によって冷まされ開き掛けた口を閉ざした。
そもそも、俺は人の話を聞いてそいつの事が分かった様な顔をするのが一番嫌いなのだ。
「ふふっ。でもその内に気付いたの。私は、本当に笑ったり怒ったりした事が無かったのだと。仮面を被り続けてたら本当の自分の顔さえ分からなくなっていたのよ」
その時、俺はいつの間にか整えた筈の紙を握りしめていた。
「あら、同情でもするの? 貴方も最初に言ったわよね? 人と関わるのが苦手と。私の場合は無意味な感情に飲み込まれる事が嫌いなのよ。だからあの子も……」
「練霧……」
「そう。今年入って来たあの子は、私のやらなかった事をわざわざ目の前でやってのけた」
「それはわざとじゃ!」
「勿論、直ぐに分かったわ。でも尚更性質が悪い。だからここに呼んだのよ。ついでに家まで調べてね。貴方……あの子の家には行った事があって?」
「いえ」
「ふふっ。そんな度胸は無さそうだものね? でも、調べれば調べる程に分かったわ。あの子は本物だと……さて、無駄話はこのくらい。貴方ももう帰っていいわよ? 手伝い有難う」
と、彼女はテーブルの書類を片付けいつもの机へと向かった。そこで、仕方なく俺も鞄を手に取るとソファーから腰を持ち上げドアの方へ向かう途中で振り返った。
「あの……会長」
「何?」
目も合わせずに答える彼女を見ながら俺は話し掛けた。
「何故俺にこの話を? 俺が羽二重や練霧に言う事も……」
「それは無いわ」
「なっ⁉ お、俺も一応同じ同好会の仲間なんですよ?」
「ええ。でも、それ以前に人と親しくなる事を嫌い平凡を望む1人の少年でもある。そのくらい話をしていれば分かるわよ。その証拠に、さっき怒鳴らなかったでしょ? それに……」
すると彼女は顔をあげ俺の瞳を真っ直ぐに見つめるとこう呟いた。
「何故かしらね? 貴方と以前も話した事がある様な気がして……でもきっと、私の勘違いね」
「そりゃ、確かに勘違いっすね」
何せ俺は忘れられにくい髪質なんでね。それに例え貴方が忘れても、俺がこんな高貴な美少女を記憶喪失にでもならない限り忘れる訳がない。そうして俺は扉に向き直りノブに手を掛けた。
「嫌われてしまえばどんなに楽な事か……一人になりたいのになりきれないそれが私の弱さね」
そんな背後から聞こえて来た声は、いつもよりどこか儚げで優しく聞こえどんな表情をしているのか気になったが何となく振り向いては行けない気がしてそのまま扉を開けた。
「又……何かあったら呼んで下さい。それでは、お先に」
恐る恐るメンタル的に重くなった我が家の扉の前に立つと、上下を確認してから静かに開く。
「蓮兄、どーみても不法侵入にしか見えぬぞ?」
開けた途端、死角で待機していたらしいツインテールが出て来ると指を指してきた。
「誰のせいだよっ! それに俺は仕事をしてたんだ! 生徒会の手伝い! 電話で言ったろ?」
「ほーぅ! 只でさえ目立つ主が生徒会の手伝いとな! あの陰干しの様な生き方の主がな?」
「誰が陰干しだっ! それに、その武士言葉いい加減止めてくれないか?学校でも聞いててな」
「ほほぉ! 学校にも侍が居るのか?」
「あぁ。侍というか忍がな」
すると、千歳は目を輝かせムッホォー! と言いながら二階の自室へと走って行った。
「……何だ?」
「あ、兄さまこそ何なのですかっ!」
「げっ!」
声のする方を見ると、そこにはエプロン姿の華乃がおたまを片手に立っていた。
「ひ、酷いですっ! しかも……くんくんっ! ま、又新たな上級種の……それも2体っ!」
こいつ、鼻に識別探査機か何かでも付いてるのだろうか?
「これは生徒会会長と同じ同好会のだな……そうだ! 今日から一緒に共闘する仲間だよ!」
「ちょっと切れ味の良い物に変えてきますので暫しお待ちをっ……」
「いやいや本当だからっ! 今日の21:00から紹介する予定だったんだって!」
「ふにゅーっ。貸し1つですっ!」
「はい」
その後、手洗いを済ませ華乃の出した麺のわりに汁が少なく全体がラー油らしき赤い液体で染まっている『嫌がらせ冷やし中華』を汗をかきながら堪能し洗い物を済ませて自室へ上がった。
「辛えーっ!」
口がまだビリビリしている。時刻は19:55。華乃には先に入って遅れる事を伝えて貰っている。早速シグプレを起動し、宝箱へと向かうと「INしたら教えて下さいっ!」と向かいの扉から聞こえてたので「わーったよ!」と適当に袋を取り1枚くわえながらPCの前に座った。
「辛っ! 何これ⁉」
ログインと同時にポテチの袋を確認すると『京都限定七味風味』と書かれていた。
「マジかよ……」
そんな心境とは裏腹に陽気な音楽が流れだしメールとチャットを告げる効果音が響いた。
黒天使:あ、兄さまっ! 今どこですっ?
†レン†:いや、いつもの時計台だけど?
黒天使:えぇっ⁉ もうINしちゃったのですかっ!
†レン†:え? うん。
何だ? と辺りを見渡すと、いつもの時計台が赤く染まりまるでダンジョンの様な雰囲気だ。急いでログアウトボタンを押すが、何も反応が無い。
「レンっ! 今、時計台に居るんだね?」
「あっはい! も、もしかしてこれって!」
「落ち着いて聞いて。ルナの話だと今、その周辺に聖栄のメンバーが6名と他にも5名程が彷徨いているらしい。今私達は生憎他のダンジョンにいて、七尾でも最速で10分は掛かる」
「つまり、俺がここで敵に遭遇したら……」
「大丈夫! レンは10分間とにかく逃げて! 大戦時間中はログアウト出来ない事を説明していなかった私にも非がある。今そちらに向かって――」
その時、俺は練霧の言葉を半分そっちのけで今の状況を打破する方法を必死に考えていた。
「あ、あのー聖栄って確か、鎧の様な装備にマント姿でしたっけ?」
「え? そうだけど……? ってまさか! レン? レンっ!」
心配する声を傍ら、視界に敵を捉えた瞬間――即座に100mはあった距離を瞬間移動でも使ったかの様な速さで目前に敵が数名飛んで来た。
「あっれぇ? こんな所にウィザードの兎ちゃんが1匹居ますゼー? ひゃひゃっ!」
「何だ何だ? どこのギルドだー?」
ここで俺が飛行馬のメンバーだとバレる訳には‼と、急いで後ろへ下がり反対へと走り出した。
「何だ鬼ごっこでもするのか? ひゃひゃっ! いいだろう付き合ってやろうじゃないか!」
随分空けた筈の距離を物凄い速度で追い詰めて来る。
「せ、せめて時間稼ぎくらいはっ!」
ドンッ‼
「おやおやー? 後ろばかり気にしていては食べられちゃうわよ? 兎ちゃ~ん♪」
と、今度はやけにデカイ長身の騎士が立ち塞がり剣を振り上げた。
キーンッ! と鳴り響く金属音。何とか法具で受け止めたが右左からも仲間が向かってきた。
くそっ! 咄嗟に残りのMPを使い防御フィールドを展開するがこれも持って1分程度だろう。
「ちっ、フィールドを張ったか! まぁいいわ! フィールドごとぶっ壊しちゃいましょ~♪」
ガリッ! ガリガリッ! そんな音と共にフィールドの防御力が弱まって行く。
「くっ、こんな所でっ!」
「グアァァァーーーーーッ!」
「っ⁉」
それは最初に追いかけて来た敵の悲鳴だった。何だ? 援軍? もしや飛行馬っ!
「ど、どうしたの⁉ 敵はどこの誰なの! はぁ? 1人? しかも無所属ですってぇ⁉」
連絡を取っているのか目の前のカマっぽいボスが攻撃を止め怒鳴っている。
無所属で1人? そんな疑問よりも早く、騎士達に負けず劣らずのスピードでその姿が近づいて来た。小柄で鮮やかな緑色の装備、そして鼻の上まで覆った同色のマスクと独特の武器――
「あ、あんな小娘1人に何手こずってるのよっ! それでもアタシの部下なの?」
みるみる内に1人、2人と遥かに大きな巨体を小柄な体を生かした連続攻撃で倒して行く。
「は⁉ 消えたですって? っもぉ! どいつもこいつも雑魚ばっか! そうだわっ!」
今度はこちらを見てニヤリと笑うと、近くの死にかけの仲間から剣を奪い「制裁よ!」と仲間の体へと突き刺すと続けて俺のフィールドへと二つの剣を振りかざした。
「あんたが死ねば一石二鳥じゃなぁ~い♪ もぉ~出来の悪い部下を持つと大変ネ♪」
「げ、限界かっ!」
と、フィールドが割れた瞬間――何かが地面の中から現れ敵の二つの剣を受け止めた。
「不愉快」
「なっ⁉ ア、アンタ! 私の部下達は?」
すると、彼女が無言で指差した先にはさっきまで追って来ていた騎士達が倒れていた。
「お前……やっぱりふうまっ!」
「助太刀致す」
「ば、ばっかじゃないの⁉ あんな雑魚に勝った位で! アタシが……ってどこに行くのよ⁉」
するとふうまは、受けていた二本の剣を押し返し俺の手を引き後ろへと飛んだ。
「忍務、殿守る。お前倒す……違う」
「はあぁ?」
「そうだねーん! ハローふーたんっ!」
後ろから聞こえてきた聞き覚えのある声に振り向くと、そこには大きな獣と4人が立っていた。
「へ~ぇ結構やるぢぁなぁ~ぃ♪」
「兄さまっ!」
「あっ、あんた達まさかっ!」
「そう。君を倒すのは……私達“飛行馬”の仕事だね!」
「ち、違うの! 知らなかったのよ、あの子が貴方達の仲間だとは! 本当よ? だから――」
「見逃して欲しいと? 戦う気は無いとでも? 弱い者には手も差しのべずに倒しておいて」
「そ、そんなの弱い奴がっ! それに貴方達、私を倒したら聖栄に喧嘩を売った事になるのよ?」
「もう倒してる」
「ヒヒッ! そーゆーこっちゃんっ! 悪いがわっし、往生際の悪い男が大嫌いでねーん?」
「では、大戦と行きましょうか!」
「い、いやあぁぁぁぁーーーーっ!」
フィールドに響いた気持ちの悪い悲鳴に溜め息をつくとwingはそこにキャンプを開いた。
「あれ? こんな目立つ所にキャンプって……」
「大丈夫だよ。時計を見てごらん!」
と、時計台を見た途端大戦終了を告げる音楽が流れ始めた。
「あっ! そう言えば羽二……ふうまは何であそこに? 20時前だったけど?」
「呼ばれた」
すると、wingが木の下に腰を掛けながらにこやかに頷いていた。
「でも、本当に助かったよ! あの……ふうまさん? だからもう、手を離して貰えないか?」
「殿がこうしてる方がいいかと……」
「ふ、不謹慎、不潔、汚いですっ! わ、私の兄さまに手を出すなんて……泥棒ですっ!」
「忍は盗みもする」
「ち、違うのですっ! 兄さまっ! 誰ですこの泥棒はっ!」「殿、この騒がしい黒子は?」
「いやいやだから! この緑の忍が新しい仲間のふうま! こっちの真っ黒のは妹の黒天使!」
「「なるほど」」
息ピッタリだな! それから一通り皆で自己紹介をすると、時間と共に体力も回復していった。
「へぇーん! ふーたんって、レン助の知り合いなんだねーん!」
「主従関係。殿には以前……救われた。忍、恩忘れない」
「ばっ!」
「へぇーん? そう言えばさっきから殿とか言ってたもんねーん?」
ル、ルナよ!何だその蔑むような瞳はっ!
「ちゅ、中二病ですっ!」
それをお前が言うかっ!
「にしてもぉ、さっきのスキルってレアよねぇ~?」
「影取り」
「影取り……確か、影の中を自在に行き来出来る――ってど、どうしたの?」
wingが話し出した途端、ふうまは瞬時に彼女の元へと移動し顔を覗き込んだ。
「主が……wing」
「あっ、うん! 私がさっき紹介した通り飛行馬のwingだよ! よ、宜しくね!」
「御意」
その後始まった21:30、23:00の部も、ふうまを加え順調に順位を上げていった。
「い、今の飛行馬の順位は――47位ですっ! 凄いですっ!」
「最終結果は1:00」
「へぇーん! ふうまも詳しいんだねんっ!」
「わっ、私だってその位! 昼飯前ですっ!」
「昼飯の前は朝飯」
「お、おっきなお世話ですっ!」
と、華乃は羽二重をポカポカと叩くが見事に交わされている。
「そう言えば、まだ聖栄のボスには会ってませんね? 結構怒らせたかと思ってましたが」
「そうだね。多分向こうも今は戦力を集めて一気に向かってくるつもりだと思うよ」
「そいやー朱雀にもまだ会ってないよねーん?」
「朱雀……」
すると、今まで華乃の攻撃を軽やかに交わしていたふうまの動きが止まった。
「ん? どうしたふうま?」
「いや」
「まあ、何れにせよ朱雀や聖栄には後々嫌でも遭遇するだろうからね。」
「そういや、聖栄のマスターには会った事あるんですか?」
「んっ! ダメだよーレン助んっ! ボスに聖栄のマスターは禁句だよん?」
と愉しそうにルナは歯を見せ人差し指を口の前に当てた。
「あっ、いいんだよ! 禁句と言うか只少し……苦手なだけかな」
あのwingが苦手とする聖栄のマスター……一体どんな奴なんだろう?
「じゃあ、今日はこの辺にしておこうか? それと、明日から私は15:00頃からIN出来るので皆も参戦出来る時間帯があれば集計して行けそうなら参戦して行きます!」
「おっ! ボスやる気だねーん!」
「りょ~♪ やっぱりマスタぁわ学生さんかしらぁ~?」
「リア情報を探るのは禁止事項だよ?」
「はぁ~ぃ♪ ぢぁ又ぁした♪」
と、ルナとsaltがログアウトして行った。
「あっ兄さまっ! 白舞高校は明日から夏休みでしたかっ?」
「そうだよ! ってか、何で俺のリア情報のみバラすんだよ⁉ わざわざ校名まで言ったよ?」
「大丈夫です兄さまは強いのでっ! 華乃は明後日からなので……兄さまも早めに宿題をっ!」
とだけ言い残して満足げにログアウトしていった。
「黒天使殿……侮れ難し」
「いや、感心するとこじゃないし! すみませんギルマス。俺も明後日からに……」
「妹さんを大事にする気持ちは大切な事ですからね! それに、黒天使ちゃん可愛いですし」
と、両頬に手を置きうっとりしている姿は外見がwingなのでどうも妙な感じだ。
「音羽……黒天使に会ったみたい」
「へ⁉ あっ! そ、そうですね……」
本当に嘘を付けない性格だよなこの人っ!
「華乃ああ、黒天使が前に紹介してほしいって言って来たから俺が練霧を紹介したんだよ」
「あっあの! それと明日、お二人は13:00時頃お時間空いておりますか?」
「俺は大丈夫ですよ!」
「右に同じ」
「では! 明日、夏休み初めての同好会と言う事でいつもの屋上でお待ちしておりますね!」
「了解!」「御意」
すると、一足先にwingがログアウトした所でふうまがポツリと呟いた。
「我も……殿の家行く」
「え?」
だが、聞き返した時には既にその姿は無くなっていた。
「それでは兄さまっ♪」「蓮兄っ!」
「「いってきま~すっ♪」」
「へいへい、行ってきなー」
二人を見送り時計を確認して洗い物を済ませる。9:10いつもなら学校に着いている時間だ。「そうだっ! こんな時こそエアコンの掃除を……って、これじゃあいつもと大差ないわ!」
小学生の頃に先生に夏休みにやった事を聞かれて皆が「虫取り」や「花火」と言ってる中、俺だけ「家中の掃除」と答えた時の皆の呆気に取られた顔を思い出した。
「掃除は良いよなっ! 気分転換になるし汚くて困る事はあるが綺麗で困る事は無いもんな!」
と家中の掃除を済ました所で、腹も減ったので少し早いが残り物の野菜で炒飯を作り始めた。
コツン、コツンッ!
「何だ?」
急に庭の方からガラスに何かが当たる音が聞こえて来たので急いで出来立てのチャーハンをテーブルに置き玄関から千歳のバットを持ってくると静かにベランダの扉を開けた。
「あのー誰か居ますかー?」
家の庭に向かって何言ってんだ? とは重々承知しているが、小心者の俺にはこれが精一杯なのだ。一通り広くもない庭を目で一周するが特に何も見当たらない。
「居ません……よねっ!」
するといきなり頭上から何か白くて丸い物が目の前に落ちて来た。
「うわっ‼」
「ホッホ」
それは小さくてコロリとした珍しい真っ白の鳩だった。
「鳩で驚くとは……小心者。もぐもぐ」
その声に後ろのテーブルを見ると、マスク少女が俺の炒飯をスプーンに取り口を動かしていた。
「お、お前っ! 一体どこから⁉ それを不法侵入つーんだよっ!」
「城に忍び込む時……忍入る時、門から入らない」
「ダジャレっぽく言い直しても同じだよ! あとそれ……俺の昼飯」
「中々美味。今度、もう少し野菜多めがいい」
「ここは定食屋じゃねーよ! あーあ、殆ど食べてるし! どーしてくれんだよ昼飯―」
「商店街……行く」
「はっ? それにお前……それ私服か?」
その姿は大分予想していた私服とはかけ離れ――と言うか、マスクからして全身黒一色だ。
「無論。素材涼しい。殿、着替える」
「あーもう、わーったよ! そこで大人しくしてろよ?」
結局何故か自分の昼飯を買いに渋々近くの商店街に行く事になり着替えに自室へと戻った。
「ったく、何で俺が自分の飯の調達に行かなきゃ……」
ってあれ? これはもしかしてデー……いや、そもそもこの状態は一つ屋根の下に二人きり!
「殿……まだか?」
「っておい! 何入ってきてんだよ⁉ 直ぐ行くから下で待ってろって!」
駄目だ。相手が羽二重じゃ何も起こる気がしねぇ!寧ろ、面倒な事しか起きる気がしねぇ。
「いいか? 余り目立たないでくれよ?」
「御意。溶け込むの……得意」
いやーその格好と肩に鳩乗せてる時点で十分目立ってますけど!
チーンッ!チンチーンッ!
「殿っ! 何だあれは!」
「ん? ああ、あれは路面列車だよ。この辺来ないのか?」
「路面列車……初めて見た! こっちあまり来ない」
と、どこから出したのかこれ又旧式のカメラで写し始めた。
「と、殿っ! あれは何だ?」
今度は寂れてきた商店街のアーケードを指さし、子供の様に楽しげにシャッターを押す羽二重。
「その写真どーすんだよ?」
「これは凛様に……と、殿っ! イカ焼きが! こっちにも!」
「わーったから。あんまはしゃぐなよ?」
コイツ……本当にずっと会長の事だけを思って――
「って、お前なぁ! こんなに買ってどーすんだよ!」
「問題無い。それに……知らなかった」
「何がだよ?」
「殿、有名人だった! 店の者が皆、殿に献上の品を!」
「妙な言い方すんなよ! 俺はこの町で育って顔馴染みなんだよ。だから皆家族みたいな感じ……っておい! 人が良い事言ってるんだから聞けよ!」
「うむ。殿は凄いのだな、しかしこのイカ焼き美味! 音羽にも分けよう!」
「ああ、そうだなーって、今何時⁉」
「午後零時五十五分」
「約束の時間まで後5分しかねーじゃねーかっ! 学校迄走っても10分は掛かんぞ⁉」
すると、急に横に居た羽二重がイカ焼きをくわえたまま俺の手から荷物を取り腕を掴んだ。
「おっ、おい?」
「殿、高所は平気か?」
「え? ああ、まあ」
と、そのまま羽二重は俺の手を引き――軽々と自分の背中に俺の体を背負った。
「え? おっおい! 何して――⁉」
「問題無い。100人乗っても大丈夫」
「お前はどこぞの物置かっ! じゃなくてう、うわあぁぁ――っ!」
薄れ行く意識の中、アーケードを飛び越え街の人々が驚きながら俺達を指を指す姿が見えた。
だから嫌だったんだ。俺は――
気が付くと、目の前に天使の様な白い服の美しい黒髪美少女が俺を見つめていた。
「俺……死んだのかな?」
「だ、大丈夫ですかっ⁉ 萩塚君!」
「あれ? 練……霧?」
「柚奈から聞きました。学校に来る途中、目を回してしまったとの事――具合はどうですか?」
「あっ! も、もう大丈夫ですよ! 有難うございます。そう言えば……羽二重は?」
辺りを見渡すと、そこはどこかの部屋の様で俺は布団に寝ていた。保健室……でも無さそうだ。
「こ、ここは私の部屋です。なのでその、あまり見られると……恥ずかしいのです」
そう言う彼女の頬にうっすらと赤みがさした。
「実は、最初は柚奈と保健室へ行ったのですが開いていなく――取り敢えず一番近い私の家へと柚奈に運んで来て貰ったのです。ですが、柚奈は用事があると言い先程帰ってしまい……」
なっ⁉ じゃ、じゃあ何か? 俺が目を回している間、ずっと練霧が看病を⁉
「ず、ずっと見ていてくれたの?」
「え、ええ。でも、本当に良かったです。あっ! 何か飲みます? 少し待っていて下さいね!」
練霧は扉を開けキッチンへと向かうその後ろ姿を俺はじっと見つめた。ここが……練霧の部屋。そして家! 待てよ? そうなると……ご両親とか居るんじゃ⁉
「やべっ、トイレ」
忘れていた尿意を思い出し少しだけ扉を開け外を確認する。そこは、想像していた廊下とは違い、木製の足を付けるとミシッと音が鳴りそうな短い廊下と、その先にはエプロン姿の練霧の後ろ姿が見えた。だが、練霧がもう戻って来そうなので再び部屋へと戻り扉を閉める。
チリンチリーンッ!
「なっ、何だ?」
隣の部屋から急に聞こえて来た鈴の音に「今行くからねー!」と練霧が答えた。
やっぱり誰かいるのか! まさか、お父さんが怒ってるんじゃ⁉
「お待たせしました! 冷たい麦茶と、さっき柚奈に頂いたゼリーです!」
そして、少ししてからドアからピンクのエプロン姿の練霧が入って来た。
「あっ有難うございます! (エプロン姿♪)その前に……御手洗いをお借りしても?」
「あっはい! 出て向かいの扉です!」
部屋を出て用を足してから再び戻ろうとすると、さっき音がした隣の部屋の扉が少しだけ開いていた。そこから小さな白い顔と大きな瞳が覗いており――俺に気付くと直ぐに閉まった。
「ざ、座敷わらし⁉」
ホラー系は得意ではないので、足早に部屋へ戻ると練霧が正座をして待っていてくれていた。




