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第12項―新たなる地平線

 刻一刻と時は短くなっている。

 今こうして生きているのもあとどれくらいだろうか。

 遠くで爆発音が聞こえる。もうはじまったようだ。


 自分が生きている感触を味わいつつ、果実の最後の一口をほおばった。

 果実は甘いのに、どうしてこうも人は死にゆくのか。

 笑い声が遠くまで響いて、魂を揺るがす。


「時は来た。闇がまた世界を覆う」


 笑い声は遠くへ消えていった。


     ***


「あっ! 目を覚ましたよ!」


 若い少年の声が聞こえる。

 ぼやけた目と頭を覚醒させ、少年の表情を伺った。

 ここはどこだろうか。


 洋風の町のなか。そこにいた。

 高い建物もなく、目立った物と言えば、商店街のようなところの人だかりだろうか。


 あ、赤い果実のような物が売られている。

 転がっていってしまった。


 ……あれは。

――転がっていった先に、木が生えている。

 路傍に生えていそうな、針葉樹みたいに尖った先を持つ木だった。


 人がいる。木の下にいる。

 少年が顔をのぞき込んで、手を引いた。


「あれが気になるの? じゃあ行ってみようよ!」


 ちょっと待って。急ぎすぎだよ。

 とは言えなかった。

 ただ、暖かい気持ちがした。


「おねえちゃん!」


 おねえちゃん?


「あら、××。なにをしているの?」

「この人転移してきたんだ」


 転移してきた?


「あらそう。こんにちは。トラベラーさん」


 トラベラー?

 自分のことだとは思えなかった。

 横になっていたところに落ちていた肩下げバッグを持って、商店街の人混みに紛れた。


「安いよ安いよ!」

「いつもの入ってるよ!」


 客引きが目立ってうるさい。行動するにしても、人が多すぎて動きづらい。

 ひとたび人の波に流されると、岸まで帰ってきてしまう。

 押して返すも、一人の力ではどうにもならない。


「なあ。なにしてるんだ?」


 少年が声をかける。

 いきなりいたもので驚きを隠せなかった。

 動揺しているところを見ると、少年はおいでよといった。


 手を引かれて商店街を突っ切ると、人が流れているように見えた。

 皆、皆。流されているような気がした。


「×××××!」


 少年が声を発すると、手前にあったドアが開き、そこから人が出てきた。


「トラベラーだよ」

「あらそう」


 優しそうな声だった。

 表情豊かな女性は、ドアから出てきた人は、どうぞといって中へ通した。


「今時トラベラーなんて珍しいですね」


 トラベラーとは。尋ねてみた。


「あら、トラベラーじゃないんですか?」


 詳しく聞くと、トラベラーとは旅団のことで、今は先の町に滞在しているらしい。勘違いしたのは、トラベラーは下っ端に先にある町の調査を行っているからだそう。

 しかもそのトラベラーはいろいろな団があるらしい。良い団もあれば悪い団もあるそうな。


 トラベラーか……。


「あなたはじゃあ、なんなのですか?」


 わからないから困っている。

 どうしたものか。


「トラベラーの人に聞いてみたらなにかわかるかも」


 そうか。じゃあ、そのときまで外で野宿しよう。

 そう思っていたが。


「それでしたら、トラベラーがいらっしゃるまで休まれては? トラベラーの人のお金をとりますから」


 この人優しい顔をして実はえげつない人みたいだ。


――数日後。


 トラベラーがやってきた。


「なんだおまえ」


 トラベラーの近くによってすぐ、トラベラーは強面で言った。


 恐れおののくと、後ろに立っていた優しそうな人が言った。


「頼みたいことがあるんです」

「ほぉ?」

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