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第11項―とある人生観、冤罪

 僕がこの世に生を受けて、早、30年も目前。

 空の天気は晴れていて、明日には雨になるそうだ。

 そしてそんな雨の中僕は30歳の誕生日を迎えるんだろうなと思っていた。気分は上を向いていた。

 裾の擦れた長ズボンに、ボロボロでもとの形がはっきりしない汚れたTシャツ。そんな恰好をした見るに堪えないような男。それが僕だ。

 だが、29歳の夜。友人と酒を交わしながら話していたところ非常ベルが鳴った。

 この非常ベルは、僕の住む村になにか厄介事が起きた時、あるいは、朝に誰かが亡くなっていた時に鳴らされる。

 窓により、外を眺めてみると、近くの山が燃えていた。夜だというのに明るく、水を浴びせる人や布で火を止めようとする人が何人か見かけられた。

 僕達は顔を見合わせると、僕らの中でリーダー格の男に目を向けた。

 その男の名はアルノ。僕の幼馴染だ。僕は29歳だが、彼はもう32歳だった。

 アルノとの出会いは、あまり覚えていない。小さいころから家が近くでいつも遊んでいた。それくらいしか思い出せない。

 アルノは丈夫そうなコートを羽織って、下には長いブーツを履いている。とてもかっこよくあこがれるがそんな金は僕にはない。身長も高く昔から女の子によく声をかけられていた。うらやましかった。

 そしてそんなアルノが静かに言う。


「火、止めるぞ」


 僕ら一人ひとりを指揮して僕らは信用して彼の言うことを進めた。

 30歳にもなる大人がなんで人の指示で動かなくてはいけないんだなど、思ってない。ただ、彼が指示した事実があればそれ以外なんでも良かった。

 そして僕達が悪戦苦闘すること10分。見事鎮火することに成功した。


「良くやった、俺は上のヤツらに状況報告してくる」


 アルノはそう言って、僕達を解散させた。

 そうして家につく頃には日が出始め、30歳になった。


 僕の名はライト。30歳になった。

 そしてそれを祝に昨日の友達が家に来てくれた。


「今日はありがとう」

「んなこたあいいんだ。とりあえず昨日のこと話す」


 どうやらアルノは僕の誕生日を特別祝ってる様ではないようだ。


「お前らも昨日見たと思うが、昨日、モネ山が山火事になった。原因は放火だろうな」

「なんでそう思うの?」


 僕の隣に座っていた女性・サーリが立ち上がって興味ありそうに聞いた。

 サーリは僕が7歳くらいのときに両親の都合でこっちに引っ越してきたきり、アルノに恋している乙女な女性だ。歳は今年で27になるそうだが、家庭をもって落ち着くのはもうちょっと先でいいらしい。昨日もいたメンバーだが、僕とはあまりしゃべらなかった。僕はそれでいいと思っていたし、彼女も楽しそうだった。

 サーリはとてもきれいな衣装で僕たちと会った。冬が終わりそうだが、まだ寒いこともあってマフラーをしている。髪色が金髪なのは昔からでとてももてたらしい。僕はあまり告白されているところを見たことはない。あとはアルノと同じようにロングコートを羽織ってヒールを履いている。


「昨日、近くに住む人から怪しい人を見たと聞いたんだ。だから今日はその目撃情報をもとに、村中探し回ろうかと思ってるんだ」


 どうやらアルノは僕の誕生日よりもそちらを優先したいらしい。

 正直、僕が三十歳になったからって何があるわけでもないし別にいいかと思って、僕は一緒に行くよと言った。

 しかし、アルノは……。


「お前らはダメだ。ここでライトを祝ってろ。俺一人でかたずけにゃならん用があってな」


 どこか悲しそうな顔をして、アルノは僕たちにそういった。

 すると、僕のサーリのもう片方の隣の席に座る友人・ヨークが言った。

 ヨークはサーリの姉弟きょうだいで、僕たちと昔からとてもまじめだった。

 眼鏡をかけていてとても頭がいい。ただアルノはそれを軽々と超えているらしい。よくは知らない。パーカーのような厚手のものを着ていて中には迷彩柄のTシャツを着ていた。


「なんで一人なのさ。私も助けになりたいです」


 アルノは首を横に振った。

 そして、僕たちはアルノを見送って、僕の誕生日をアルノ抜きで祝った。


 それから数日たち、アルノが家に来た。ボロボロだった。

 家に入れてほしいというので家にいれると、彼のあとを追って、六十歳近い男性がドアを叩いた。

 僕がドアを開けるとすぐさま口を開いて言った。


「アルノはこの家に来ていないか?!」


 僕はもしかしてアルノがなにかやってしまって、それで僕の家に来たのか。そう思った。

 本当なら正直に言うべきなのだろうが、僕はアルノを信用して、アルノはいない、と嘘をついた。人生ではじめて嘘をついた。


「アルノはきてませんけれど……。でもどうしたんですか?」


 ものすごい急いで息を切らしているようで、僕をにらんでいるようなきがした。そのまなざしに動揺したのか、嘘をついたことで動揺していたのかわからないが、僕は声が震えていた。


「そうか。別にそれならいいんだ。それじゃあ」


 ずいぶん勝手な奴だと思ったが、アルノを守れたことには変わりない。六十近い男性は、すでに五十メートルほど離れて行ってしまった。

 アルノにもう行ったみたい……というと、アルノは、そうかと言った。うん、と応えた。

 それから恐る恐る聞いてみることにした。


「アルノ教えて、なにをしたの?」

「お前には関係ない」


 アルノはそれから何もかも拒み、それから別れ惜しそうに去っていった。

 そして数日が立ち、アルノ帰ってこなかった。


 なにやら外が騒がしい。朝から祭りかと見間違うように盛り上がっている。


「一体なにがあったんだ?」


 外の様子が確認出来ず困っていると、サーリとヨークがドアを叩いた。

 驚きの表情でオドオドしていると、サーリが言った。


「アルノが……。アルノがぁぁ!!」


 僕は走って外に出た。なにか嫌な予感がした。いつもあんなに強がりで泣きもしないサーリが泣いている。アルノになにかあったのか? と思った。

 そして、人々が集まるところにあったのは、処刑台の上に立つアルノだった。


「アルノ!!」


 僕はたまらず叫んだ。アルノが振り返り、僕は処刑台の前に立つ。


「なにしてるんだ! なんで処刑台なんかに登る必要があるんだよ!!」


 アルノは、しょうがないだろと、ボヤいた。

 わからない、わからないよ!

 処刑者を詠む人殺しの幹部のもとまで歩いた。

 殴りかけて、手を止めた――。いや、止められた。


「かのものは放火犯の1人である。よって処刑されるのだ。なにか悪いか」


 放火犯のひとり?! アルノは僕達とずっと一緒にいた。サインやそれらしいことも何一つしてない。絶対関係ない。そう思っていたが口には出せなかった。

 確証がなかったからだ。


「でも、アルノはそんなことする奴じゃなくて……。嘘だろ……」


 アルノの前で嘘だと言ってくれと求める。

 アルノは、できれば俺じゃないと言いたいところだが、反抗できないんだ、と言った。

 その表情は暗かった。

 そして、そんなことをしているうちに、腕を掴まれお前も仲間か、じゃあ処刑だ! と言われた。

 なにか反抗しようとすると、頬を たれ、なにも言えない。悔しかった。

 そして僕とアルノは仲良くギロチンで首を落とされた。

 頭は悪党を処したということで掲げられた。

 そしてその後日に、山火事があり、以前もやったと主張する別の犯人が処刑台の上に立った。

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