<4>
病院での検査は予想していたよりもかなり早く済み、午後の授業には出席できる時間には病院を出ることが出来た。しかし結局記憶消去術を医師から聞き出せなかった僕に、好奇の目に晒されるであろう教室へ戻る勇気があるはずもなく、丁度お昼を回った頃に母の運転する車は縁の待つ我が家へと到着した。
仕事を抜け出してきた母は、僕たちと昼食を共にする魂胆らしかったが、部下からの緊急連絡にすごすごと退散した。
「ただいまー。」
……
「あれ、縁? いないのか? ご主人様のお帰りだぞー。」
……
「おーい。」
返事がない。いつも、お帰りなさいで出迎えてくれる竜のいらえがない。
「……出掛けたのか?」
ったく、鍵は掛けてけって言ってるのに。
最近では縁も一人で外を出歩くことが多くなった。本音を言えば、人に扮する竜にやたらめったら外に出掛けられては色々な意味で心配なので大人しく自宅待機していて欲しいのだが、かといって僕が学校へ行っている間中家の中に閉じ込めておくのも、彼女の精神衛生上も人権ならぬ竜権上もよろしくないだろうということで、そこはもう諦めて黙認している。
幸い彼女は僕と違って、真昼間に街を歩いていても職務質問されることはないらしい。あの中学生くらいの見た目年齢のまま昼時に外をほっつき歩いていて、何故周囲から不審がられないのか、朝でも昼でも夕方でも夜でも時と場合の別なく、のべつ幕なしと言ってしまいたいくらいに常日頃職務質問を受けている僕には、とても理解できない話である。
全く、有害鳥獣であるところのドラゴンを差し置いて、僕などと言う有益ではなくとも無害な人間にばかり目を付けるなんて、存外国家権力というのも信用ならんことである。
――さておき、我が家の自由気ままなドラゴンが留守のようである。思い返せば、この新生活が始まってから僕の帰宅時に縁の出迎えがないのは初めてだった。毎日毎日律儀なドラゴンだと少々呆れることもあったが、こうして久しぶりに迎えのない帰宅をしてみると、それはそれで寂しいとまではいかないにしても、何だか物足りなさのようなものを感じてしまうのは、余り認めたくはないが……、いや、ただ単に認めたくないのである。
「まっ、すぐ帰ってくるか。」
あいつは本当に、腹が減ったら帰ってくる奴だからな。
取り敢えず手と顔でも洗って、食べ損ねた弁当を食べるとでもしよう。
ガチャ
僕は脱衣所のドアを開いた。洗面所を兼ねた脱衣所の、奥には風呂場のある小部屋のドアを開いた。
――そこには、僕の威厳を保つためにどうしても描写を省かなければならないものが、人物が、生まれたままの人間の姿をした、しかしそれでいて人の皮を着た異形が、立っていた。
「わー、健康的な肉体だあ~。」
と言うか、全裸の縁だった。
「ははぁ~ん。さてはこれがラッキースケベというやつだな。」
まさか実在したとは!
「成程。ではここで私が、お主の顔面に理不尽パンチをお見舞いすれば良いのじゃな?」
「その台詞を言うのと言わないのとでは、理不尽さに天と地ほどの差が出てくるな。」
「覚悟するが良い! これが嘗て大陸を六つに分けた竜の本領!」
「パンゲア大陸割った犯人お前か!」
「我が悠久たる生命の一切を賭した極限の一撃! とくと味わえ! ドラゴンッ……」
あーやばい。オーラが……神々しい。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! そんな神話級のパンチ喰らったら死んじゃう! んなもんぶち込まれたら、僕どころかあらゆる生命が絶滅しちゃうから! 何だよ、大陸を六つに分けたって! 滅ぶわ! 全人類的に滅ぶわ! お前の裸を見たことの報いが人類滅亡って、どんだけ罪深いんだよ! お前の裸には一体どれだけの価値があるんだ!?」
僕の目と価値観が正しければ、お前の裸なんて一部の危うい人種にしか需要がないはずだぞ!
「いやじゃって、お主らの世界では、この日本には、雄が雌の裸を意図せずに目撃した場合に、雌の方が我を忘れるほど怒り狂い、ほとんど責のない、少々抜けているだけの雄に殺人的な一撃を見舞うという伝統芸能があるのじゃろう?」
「ねえよ! そんな伝統も芸能もねえよ! お前の人間に対する理解は、どうしてそうも漫画やアニメに影響されてるんだ。あと、たとえそういう文化が実存してたとしても、お前の報復はスケールがでか過ぎる。と言うかパンゲア大陸って何年前の話してんだよ。」
お前まだ生まれてねえだろ。
「まあそれは冗談じゃ。言葉に箔が付くと思っての。迫力が出ると思っての。」
壮大な冗談だ。
「しかし、日本語には八つ裂きにするという表現があるじゃろ。お前を八つ裂きにしてやる! とか。それに比べればどうじゃ? 同じ裂くにしても、八つに裂くのと、六つに裂くのとでは、やはり八つに裂く方が、刑罰としては重いのではないじゃろうか。八つ裂き、に比べれば六つ裂きは、可愛いものなのではないか?」
「そもそも裂くという言葉に可愛げの欠片もねえよ。それに八つ裂きって言うのは、あくまで比喩的な表現であって、実際に人体を八つに裂くような猟奇的な人間はほとんどいないし、お前の裂くは人体じゃなくて大陸に係っちゃってるから。はなから『同じ裂く』じゃない。」
ほとんどいない、と断定を避けなければならないところが人間の怖いところなんだけど。
「何じゃ。人は裂かんのか。」
「……人間が裂いて良いのは、精々チーズくらいなもんだ。」
「ほう。チーズか。それは是非とも一度試さねばならんの。」
やっぱり食べ物への喰い付きは良いんだな。
「時に、お主よ。」
「何だよ、すっぽんぽん。」
「私は竜じゃ。じゃから私としては一向に構わんのじゃがな。こうしてまじまじと裸を、お主が言うところのすっぽんぽんな姿を凝視されることに本来何の抵抗もないのじゃが、しかしここ数か月の人間としての生活で僅かにも生まれつつあった羞恥心、と恐らくは人がそう呼ぶ気持ちの片鱗が、今現在進行形で消滅しかかっておるのじゃが、お主に直視され続けることによって元の木阿弥になろうとしておるのじゃが、それは良いのか? いや、私は本当に別に構わんのじゃ。恥じらいがなくとも特段不便ということもないし、これまで通りに何の気兼ねもなく過ごせるわけじゃからのう、寧ろ有り難いとさえ言える。」
「……。」
バタンッ
「へえ。ふうん。お前にも、そういう感情が芽生えてきたのか。喜ばしいことだな。まあそれを確かめるために、お前の裸を眺めてたってのが、今回の事の真相なんだぜ? そう。これはお前を試すためのテストだったんだ。」
「何じゃ。その、字の間違いを生徒に指摘された時の先生みたいな言い訳は。」
「何故お前がその喩えを知っている!?」
「ふんっ。私を見くびるなと、いつも言っておろう。そんなことは常識じゃ。」
偏った常識だ。
「ふうっ。これで良いかの。」
――脱衣所から出てきた縁は白の質素なワンピースをだらしなく着こなしていた。彼女のお気に入りの衣装である。何でも、着衣の習慣のなかった縁は、服を着るのが余り好きではないらしく、着るにしても布や装飾の少ない、着心地の良いものばかりを好んで着ている。
白のワンピースなんて、一見すれば清楚な印象を受けてしまいそうだが、その実この竜に限っては、ただ単に他の服を着るのを嫌っているだけなのだ。
「洋服というものはどうも肌に合わん。のう丙、やっぱりあのローブでは駄目なのか? あれが一番窮屈でない。」
「んあ? あー、そういえばあれ、お前の鱗なんだっけな。」
魔女によって生成された深紅のローブ。縁はあれを痛く気に入っている。まあ、元々は自分の体の一部だったのだから、肌に合うはずである。肌に合う、と言うか、あれはそもそも縁の肌そのものなのだ。
「駄目だ、駄目。あんな防御力の低い布切れ一枚で家ん中うろつかれたら、たまったもんじゃねえよ。」
僕の貞操が心配だ。
「防御力の話をするならば、あれに勝る衣服などこの世に存在せんじゃろう。たった二枚分とは言え、竜たる私の、金剛石より硬いとさえ言われる鱗から紡がれておるのじゃぞ?」
「物理的な防御力の話をするな。」
今時、服に物理防御の性能を求める人間なんていない。
「魔法防御も高いぞ! あの強大な魔女の魔法を弾いたのを、お主も見ておったではないか!」
「そんな鼻息荒く言われてもな。攻撃に対する防御の話をしてんじゃねえんだよ。視線に対する防御力の話をしてるんだ。裸の上にあんなひらひらな布だけを纏って、お前は僕を悶々とさせて、果ては悶死させる気か?」
「ほう? お主は私のあられもない格好を見ると悶々とするのじゃな? ムラムラするのじゃな?」
それはする。あまり公表したくはないが、男の子として当然だ。
「露骨な言い方をするな。そりゃあ僕だって、一端の男子高校生なんだから、年頃の女が薄着で家の中を歩き回ってたら情欲が湧き立ってきてもおかしくはないだろ。」
「情欲って、そちらの方がよほど露骨ではないのか?」
「馬鹿な。情欲なんて二字熟語が露骨であるものか。何となく漢字表記な分、意味が伝わり辛いだろう?」
「……お主。一度、情欲という言葉を辞書で引いてみるが良い。」
僕とて馬鹿ではない。情欲の意味くらい勿論心得ているが、しかしここは戯れに縁の指示に従ってやるとしよう。
「どれ……。」
――情欲。色情、色欲に同じ。異性同性間の肉体的な欲望。
「……まあ、調べちゃ駄目だよな。」
スマートフォンの普及によって何事も迅速に調べられるようになったのは、大局的に見れば良いことなのだろうが、曖昧なものを曖昧にしておきたい場面では、便利過ぎるのも考え物だと、僕は思う……。
「ところで、今日はやけに帰りが早いの。何かあったのか?」
「ああ、ちょっと学校で色々あってな。」
具体的に言えば、体育の授業中に高くジャンプし過ぎて、バスケのゴールのボードに頭をぶつけ気を失い、同級生の前で同級生にお姫様抱っこで保健室へ搬送されるという、一年くらい穴蔵に引き籠りたくなるような事件が発生しただけだ。
「いじめか? いじめられたのか? お主の籍がなくなっていたのか?」
「おい。その漢字だと、僕をいじめてるのって完全に学校だよな? お前僕をどれだけの嫌われ者だと思ってんだ。嫌われるほど僕は皆に知られてねえよ。」
そもそも何でこいつは学校で色々あったって言っただけで、まず初めにいじめを疑うんだ?
「いやまあ、いじめられたっていうか、自滅したっていうか。客観的に見て、存在を認知されたという点に於いては、状況は改善されたということになるんだろうけど、だけど主観的に見れば最悪というか。身の破滅というか。」
「何じゃ。要領を得んのう。」
「……なあ縁。」
「何じゃ丙。」
「明日とてつもなく学校に行きたくないんだけど、どうにかしてくれないか。」
のび太くんみたいなお願いだった。
「何故それを私に頼むのじゃ。」
「えっ? だってお前って、人間の願望のことごとくを魔訶不思議な力で叶えてくれる、あのナメック印の伝説の竜じゃなかったのか? ……ああ、そうか。決まり文句を言うのを忘れてたぜ。やっぱり形式美って重要だよな。」
すうーーー
「出でよ! 神龍!」
「出でんわ! と言うか、もう出でておるわ。」
「何だよぉう。ギャルのパンティくれないのかよう。」
ケチな神龍め。
「その発言は今のご時世では大分際どいぞ。お主。気を付けろよ? 冗談でもそういうことを言っておると、私に掛かった呪いが解けて大惨事になりかねんぞ。」
――尤もな忠告だった。今ここで縁の魔法が解けてしまったら、僕は勿論、このアパートごと潰されてしまう。
まだ試したことはないが、縁に掛けられている魔法を解除するための権限は僕に移っている。出でよ! などと安易に口走って、それをきっかけに本当に竜の姿が出でてしまわないとも限らないのだから、滅多なことを言うものではない。
「そう言えば、どうやって魔法解くのか聞いてないんだよな。」
一緒にインスタントラーメンを食べた夜以来、魔女は僕たちの前に姿を現していない。だからあの晩聞き逃したことの一つである、縁の魔法の解除方法を未だに僕は知らないでいる。
幸いこの二か月間、縁の竜としての力が必要な場面にはまだ遭遇していないが、今日学校で僕の身に起きたような突発的な災難が起きないとも限らない。緊急時に備えてそろそろその辺りの確認を一度しておくべきなのだろう。
「魔女に連絡を取ってみてはどうなのじゃ?」
連絡、ねえ。
「つっても、連絡手段がねえんだよ。あいつ、携帯とか持ってなさそうだし。」
「いやいや。あの抜かりのない魔女のことじゃ。連絡手段を与えなかったということは、何か方策があるのじゃろう。必要な時に必要な連絡が取れるような方策がのう。私やお主を完全に放置するほど、あの魔女は無策でもドライでもなかろう。一見、そうは見えんが。」
確かに態度や口振りに反してあの魔女は親切だし、勤勉で抜かりがない。縁の時もそうであったように、あの魔女なら不測の事態に対する備えを、既に施している可能性も十分に考えられる。
しかし如何せん僕は縁や魔女に比べて、魔法のような、非常識的な常識に疎い。手段が用意されているのだとしても、具体的にそれが何なのかを、推測することさえ困難だ。
「方策って、つまりはどういうことだ?」
「あやつは魔女じゃ。用いるのは言わずもがな、魔法じゃろう。」
まあ、そうだろうな。そうなんだろうけど……。
「それで? 僕は、じゃあ一体具体的にはどうすりゃ良いんだよ。どうやって、必要な連絡ってのをあの魔女に伝えるんだ?」
「そこまでのことを私が知るわけもないが、しかしまあ取り敢えず、呼んでみてはどうじゃ? 大きな声で。」
「そんな馬鹿みたいな方法で魔女が来るかよ。いくら魔法だからって、何もかも万能ってわけじゃないんだろ?」
まあ一応やってみるけどさ。
「おーい。魔ぁー女子さあーん!」
僕はベランダに出て魔女を呼んだ。当然本当にそれで魔女が来ると思っていたわけではない。ただ他に思いつく方法がなかったので、縁のどこか投げやりな提案に、僕の方も投げやりに、駄目で元々くらいの気持ちで、いや、ちょっとした冗談のつもりで乗ってみただけなのだ。
――ガサゴソッ、もぞもぞ
何だろう。部屋の中から物音が聞こえる。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃ、うっ、あ、ぐぬぬ。つっかえた。……そこなドラゴン。ちょっとそっちから引っ張ってくれまいか。」
…………。
「ああ、うむ。よし、引っ張るぞ?」
すぽっ
――我が家のゴミ箱から、魔女が現れた。偉大なる我が家の竜はそれに冷静に応対していた。
「…………。」
「ふぃー。じゃあ、改めて。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃ」
「お帰り下さい。」
「は。」
「お帰り下さい。お帰り下さい。ゴミ箱の中身をぶちまけながらのっぺりのそのそ登場する期待外れな魔女はお帰り下さい。何ほいほい出てきてんだよ。じゃじゃじゃじゃーんじゃねーよ。こっちは、ががががーんって感じだよ!」
何故だか、ゴミ箱から無理矢理捻り出るように現れた魔女の姿を見て、驚くより先に、とても残念な気持ちになったのだった。
「おいおいそれは流石にないんじゃないかな。こんな真昼間に魔女であるボクを呼び出しておいて、人のことを、デッキブラシに乗って空を飛ぶことにしか能のない低級な魔女みたいに呼んでおいて、その扱いはあんまりにもあんまりじゃないのかい。」
「ゴミ箱から出てきたくせに、あの健気な女の子のことを能無しとか低級とか言うな。」
無駄に敵を作ろうとするな。
「それで? 何の用だい? 僕を呼んだってことは、何かそれに相応しいだけの要件があったんだろ?」
「いや。それで? はこっちの台詞なんだけど。説明しろよ。何でお前が、僕の家のゴミ箱から出てくるんだ? もしかしてお前は夢の島からの遣いか何かなのか?」
駄目だ! 人がゴミ箱から這い出してきたことへの驚愕を、ここへきて改めて実感している所為で、巧いツッコミが見つからない!
我が家のゴミ箱(燃えるゴミ用)は、言うまでもなく、業務用ゴミ箱のように人が一人入れるほどの大きさを有していない。円柱形の、直径は精々二十五センチくらいのごく一般的なゴミ箱だ。そこから、奥行きもほとんどない穴から、人が、相も変わらない黒のマントに身を包んだ顔見知りの魔女が貞子よろしく這い出てきたのである。残念な絵面に思わず驚くのを忘れてしまっていたが、十二分に驚愕すべき異様と言える光景だった。
それを魔法だから、の一言で片づけてしまうことは、誇るべきか恥じ入るべきか、僕にはまだまだ到底できないのである。
「何言ってるんだい。呼び出したのはそっちじゃないか。ボクはその呼びかけに応じたに過ぎない。」
「そういうことじゃなくて。確かに呼んだけど、どうせ来ないだろうと思いながら呼んだけど、何でわざわざゴミ箱なんだって聞いてるんだ、僕は。そんなところから出て来なくても他に方法はいくらでもあったんじゃないのか? 普通に玄関から入ってくるのじゃ駄目だったのかよ。お前には、人としての尊厳みたいなものがないのか。」
いくら魔法が何でもありだからといって、いや寧ろ、何でもありだからこそ、わざわざゴミ箱を選んで出てくる意味はないのではないだろうかと僕は魔女に問いたい。
「おやおやお兄さん、その口振りじゃあまるでお兄さんには、人としての尊厳があるみたいじゃないか。」
「あるわ!」
何で僕に人としての尊厳がないことが全人類の共通認識みたいに思ってんだ、この魔女は。
「ええ! 嘘だろ。だってお兄さん。尊厳って、尊いに厳めしいと書いて尊厳だぜ? 一体お兄さんのどこに尊い部分とか厳めしい部分とかがあるって言うんだい!?」
ぐぅっ。痛い質問だ!
しかしここで引き下がってなるものか。そんなこと、ゴミ箱から出てくるような奴に言われる台詞じゃない。
「無表情キャラであるところのお前が、無理して驚愕を表そうとするな。僕の尊厳は今まさにお前によって踏みにじられてるよ!」
「お兄さんは卑しさと軽薄さの化身だ。」
断言した。断言された。
「そんな悲しい化物はいない。」
「そうかい? 今まさに僕の目の前に、学校では一言も喋らず一人で弁当を食べているくせに、家の中では飼いならしたドラゴン相手にやたらと偉そうなことを言ったり、セクハラをしたりする、悲しい内弁慶がいるような気がするんだけど、それは気のせいなのかな。」
「やめろおおおお。やめてくれええええ。僕の現実を言葉で的確に表現しないでくれえええ。」
何と言うかもう、消えてなくなりたい気分だった。