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竜の心臓移植 (旧題 ある竜の転生)  作者: こげら
三章 ある罪の報酬
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 全く世の中というものは不平等にできている。


 なんてことは、十七年人生を歩んできて、既に分かり切ったことではあったし、他の誰かから見れば僕もまた不平等の中の上位にいるかもしれないということは分かっている。しかし彼のような人物を目の当たりにしてしまうと、ついつい未練がましくもそんな風に僻んでしまうのだ。


 彼がどんな人間性を有しているかと言えば、例えば、授業中にお腹が鳴って恥を掻くことがないとか、よく考えれば平凡な発言でも何故か周りからの受けが良いだとか、そんなどうしようもないことなのだが、しかし僕のような、所謂持ってない人間からすれば、それは切実に羨ましい能力なのである。


 お気付きかもしれないが、別に僕は周囲に受けたいなんて願望はこれっぽっちも持ち合わせていない。ただ、恥を掻かなくて済む特質というのは、白状してしまえば、何よりも望む能力である。僕に限った話ではなく、恐らく多くの日本人がその意見に賛同するはずだ。極度に恥を恐れるというのが僕たちの持つ国民性だ。


 裏を返せば、彼のような人種は、恥を掻くことを恐れないのかもしれない。恥を掻くことを知らないから、失敗を恐れずに済むし、だからこそ堂々と何の不安もなく、常にベストな精神状態で振舞えるのかもしれない。好循環というやつだ。


 ――何をしても上手くいく奴、失敗しない奴、才能がある奴、持ってる奴、ついてる奴、そんな神に愛されたかのような人間は実際に存在し、そして彼こそが、僕の知る限りでは、その最たる例である。


 尤も彼の場合は、『神に愛された』でも、『ついてる』でもなく、『神に憑かれた』と言うべきなのかもしれない。


 成功に満ちた輝かしい人生をこれまで彼は送ってきた。友人に、家族に、才知に恵まれ、誰の目から見ても幸福な人生だったことだろう。当の本人もまたそう感じていたはずだ。


 そこに多少のストレスがあったとしても、そんなものは些細な問題でしかなかったはずなのである。黙っていればいつかは感じなくなるような小さな綻びだったはずである。


 その些細な、本当に小さな、苦悩とも、悩みとさえ言えない、一時の気の迷い、贅沢な物足りなさのようなものが、しかし結果として彼の人生を一変させることになる。


 彼が望んだ結果としてそうなったと言えば、確かにそうだ。彼は自らの決然たる意志の下にその結末を迎え入れた。


 彼は不正を許さない人間だったと、つまりこれはそういう話だ。


 だからこそ、そんな彼だからこそ僕は、彼のこれまでの成功を、功績を、あの一柱の神の恩恵ではなく、彼自身の努力の賜物だと、そう言ってやりたくなるのだ。



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