<零>
鉄の塊が体の中心を貫き、鮮やかな血液がその鉄塊の刃を伝って滴り落ちる。
巨大な凶器を以って僕の肉体を突き刺した男の瞳は、薄暗い街灯の明かりを鈍く反射していた。その表情は、驚愕にも狂気にも歓喜にも染まっていない。ただただ事実をありのままに受け入れている。
それが堪らなく恐ろしかった。人を殺しておいて、この男は何も感じていない。そう思うと背筋がぞっとした。
尤も、本来ぞっとすべき背筋も、その大半を切り裂かれ、今や大きな洞穴と化してしまっている。
男が剣を引き抜くと大量の血液が飛沫を上げて溢れ出、腹からは何かがどぼどぼと音を立ててアスファルトを打った。
そうして僕の体には、巨大な空洞が残った。
痛くて、怖くて、気持ちが悪い。自分の体に修復不可能な損害が発生していることに対する嫌悪感で吐き気を催したが、既に胃も腸も壊れていて、口から吐き出されるのはねっとりとした血液ばかりだった。
壊れているのは胃腸や皮膚だけではない。肺は破裂し、いくら空気を吸っても胸に開いた穴から抜けてしまう。背骨は砕け、髄液は流出し、その反射で痙攣が止まらない。心臓に至っては最早原形を留めていないだろう。血液供給は完全に停止した。
僕は死ぬ。今日、ここで。得体の知れない男によって、殺される。そう悟ったが、悟ったからと言って、受け入れられるはずもなく。
醜くも悍ましく、僕は思ってしまう。霞んで行く景色と薄れ行く意識の中にあっても、体温が低下し、地に倒れ伏して尚未練がましく、死にたくないと、願ってしまう――。
何故こんなことになったのか。原因は何だったか。
始まりは昨日の夕方。あの少女との出遭いが、全ての切っ掛けだった。彼女に出遭いさえしなければ、僕は、こんなことにはならなかったはずだ――。