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悪役令嬢が書けない

婚約していたらしいが破棄されたらしい

作者: ライナス

(こ、ん、や、く、は、き、さ、れ、た、な、う)


ポチポチとSNSに投稿した。

すぐに長ちゃんと中ちゃんから反応があった。


(kwsk。ていうか会おうぜ)

(同意。婚約とか初耳)


初耳だったのは私もだ。

今日父親から婚約のことを知らされたと同時に破棄されたと言われた。相手の名前も顔も知らん。ネタにしかならん。


戸田 恵理子。わたしのあだ名は戸田ちゃんです。

親が小さな会社を運営している。今の社長は父親だ。


私は別の会社に努めている。普通のOL、違うなオタクなOLだ。


休みがあった日曜日。

長ちゃんと中ちゃんと大手カフェチェーンで待ち合わせる。


「社長令嬢ちーっす、傷心?ねえ傷心?」

「おまたせ戸田ちゃん」


煽っていくスタイルが長ちゃんで、煽らないけど時々爆弾を落としてくるのが中ちゃん。

高校の同級生で、大学は別。就職が3人とも地元になったのでまた遊ぶようになった私たち。

形は違えど2次元への愛を燃え上がらせているので、3次元の恋愛話などない。


そんなトリオの中の私が婚約破棄された。

由々しき事態である。ネタ的に。


「で、結局なんで婚約破棄されたん?ていうか婚約とかいつの間にしてたん?」


黙秘するならお前のコーヒーにスティックシュガー流し込むぞと構えている手が怖い。


「婚約してたのは昨日聞いた。そして破棄されたのも昨日聞いた。正直自分でも何を言ってるのかわからない」


だから砂糖の封を切るのやめろ、とコーヒーをガードする。


「戸田ちゃんの知らないうちに婚約されてたってことかー。で、破棄になったよって言われたけどそもそも婚約自体初耳だったのね」


そうよ中ちゃん。相変わらずホイップ増っし増っしだな。それどのあたりがコーヒー?


「相手は知ってる人なん?」

「んやー、破棄された、って言われただけで名前も聞いてない。びっくりしすぎて。あ、そうすか初耳ですわ、としか返してないし、父さん会社からの電話でそんなこと言うんだもん。今の時期忙しいから、昨日は帰ってこなかったし」

「ある意味ドラマティックだな」

「良い発音ありがとう」


長ちゃんの飲んでるのはわからんな。蓋してるし。限定のラテかなんかかなー。後で一口飲ませてもらおう。


「しかし、婚約破棄とかリアルで聞くとは思わんかった」

「2次元前提の言葉感あるよね」

「私もそう思ったからおまいらに連絡した」


長ちゃんはレイヤー、中ちゃんはゲーマー、私は漫画とアニオタ。

まあ、メインがそれってだけで、3人とも広く浅く、だが深い沼に首まで使っているオタクである。


「婚約破棄といえば悪役令嬢じゃね?」

「あー、投稿サイトでよくある」

「戸田ちゃん社長令嬢だし、悪役令嬢やってみようず」

「やってみようってなんだやってみようって」


長ちゃんの悪ノリが始まった。レイヤーの彼女、人をコスプレさせるのも割と好きなのだ。


「悪役令嬢かー。まって、検索する」

「中ちゃんやめて、止めてください」


中ちゃんはわざわざタブレットを取り出して画像検索を始めた。

やばい、中ちゃんまで面白がっている。


「髪の長さは十分だし、ウィッグ使わずに地毛巻くかー。化粧どうしよっかな、悪役令嬢ってつり目イメージ。アイラインはハッキリだよなー」

「ポーチの中身確認するのやめてください。なんで鞄の中にアイロン入ってんのレイヤーの必需品なの?」


画像出たよー、と中ちゃんが気にせずコスメ用品の上にタブPCを置く。そこには文庫化された悪役令嬢ものの表紙がたくさん表示されていた。


「ドレス、この系統はゴスかなぁ。社長令嬢ドレス持ってないのドレス」

「ドレスなんて他人の結婚式用しか持ってませんよ」

「リアルで悪役令嬢っぽくするなら黒かなぁ。黒ロリで検索ー」


中ちゃんが横から手を伸ばしてスイスイと入力する。

また違う画像が出た。


「うーん、黒すぎる。悪役令嬢ってよりも普通にゴスロリ」

「了解、甘ロリも候補に入れた。って、あー」

「こっちはフリルとピンクだねー、あとアリス系」

「丈も短いし、どう着ても令嬢にはならないなぁ」


よし、このまま話題よ終わっておくれ。


そんな私の気持ちは2人には伝わらなかった。


「リアル服装で悪役令嬢感出すならどんな格好させる長ちゃん」

「えー?むずい。ご令嬢、お嬢様、フェミニンとかコンサバ?」


ふむふむ、と中ちゃんがまた検索。

フェミニン系はパステルカラーのゆるふわフリル、コンサバ系はあれだ、もうちょいかっちりしたキレイめの服装というか。

お嬢様風ならフェミニンかもしれないけど、悪役令嬢が着るか?とイメージするとなんか違う。

うーん、と気がつけばわたしも一緒になって考え込んでいた。


「パンツスーツはできる女って感じでご令嬢感はないよね。かといって下がフレアスカートになってもスーツはスーツ」

「いいとこのお嬢さんだろー、ワンピースとか」

「モノトーンのワンピは?黒よりも若干白多め」


あー、これとかいいかも。と始まるワンピ探し。


「悪役令嬢には身体のラインを綺麗に出して欲しい。でもセクシー過ぎるのはただの悪女になるので露出は控えめで」

「じゃあ、ストンとしたワンピは除外されるね」

「ウエストマークとか?あ、これとかぽいよ」


おおー、これこれ!令嬢!でも清楚とはちょっと違う系ね!

と盛り上がり、靴の話に。


「ピンヒールよりもしっかりしたヒール履いて欲しい」

「しっかりしたヒール?」

「そう、高めで、存在感ある太さのヤツ。太すぎると野暮ったくなるから難しいけどさあ、こう、カッカッカッ、よりはコッコッ、ってイメージなのあたしの中では」


長ちゃんその説明はオノマトペが過ぎるぞ。


「ワンピはシックな感じだけど、靴はどうする?マット?皮?エナメルもいいよねー」

「タイツってあり?ストッキング一択?ワンピだから絶対領域ニーソとかガーターの出番はないよね。いやガーター萌えるけど」

「アクセも悩むよなぁ、上質なものってのは当然だけど、大振りのものつけるか小振りなやつか」

「どっちを耳と首につけるかで印象かわるもんね、あ!ネイルは!?」


だんだん私も楽しくなってきた。


「「「お嬢のネイル!」」」


やばい、リアル悪役令嬢妄想楽しい。


「悪役っぽいインパクトは出したいけど、悪女にならないようにだろー」

「そう、あくまでお嬢様なんだよねぇ悪役令嬢って。妙齢の女性ってよりもいい意味で小娘感を残したい。やり過ぎるとヘマとかしそうにない女になっちゃう」

「長ちゃんはコスのときネイルどうしてるの?」


そういう中ちゃんはネイルしない派だ。私は休みの日にたまに塗るかな、くらい。


「あたしのコスは見本があるもん。キャラ絵に合わせるよ基本」

「悪役令嬢ネイルデコるかな…」

「ジェルネイルとかで花ついてるやつとかあるよね」

「いやー、ヌーディとかゴージャス系のラメ色で統一してるかも。上品さ重視しそう」

「それな」

「でもネイルだけ薄いピンクとかオレンジの可愛い系だったらそれはそれで萌える気がする。お嬢かわいい」

「中ちゃん天才だな!」


はー、楽しい。


「やばい、リアル悪役令嬢見たい」


ポロッと口にしてしまった。

すかさず長ちゃんが食いついた。


「おけ、明日戸田ちゃん家で着せ替えしようぜー」

「わーいお着替えお着替えー。アクセとかそれっぽいのあるからわたし持ってく!」

「ちょ、ま、今の無しで」


ダメでーす、と長ちゃんも中ちゃんもノリノリだ。


「あたしはメイク用品とー、ウィッグも一応持ってく。小物もなんか探しとくから。戸田ちゃんはワンピとか靴とかな」

「長ちゃんも私も服と靴探しておくけどー、やっぱかさばるからね。量は持ってけないし。戸田のご令嬢よろしくっすー」


じゃあの!とそのまま押し切られてしまった。

どうしてこうなった、と思いながら帰った自宅で、クローゼットを探る。

悪役令嬢コスするなら3人一緒だ、1人だけ弄ばれてたまるか。

このワンピはモノトーンじゃないけど、長ちゃんが着たら映えそう、スタイルいいし。靴は私ならこれ履くな!でも中ちゃんならこっちかなー、と並べていく。


あれもこれも、と悩んでいると夕飯に呼ばれた。


今日は父も帰宅している。

食卓についた私に、父は気まずそうに告げた。


「昨日は突然すまなかったな、婚約破棄とか大げさに言って。そもそも、わしと相手との口約束だけの話だったんだ、子どもが産まれたら結婚させようくらいの。だから」


「ああいいよ、全然気にしてなーい」



そういや私、婚約破棄(通達)されたんだった、と今思い出した。

わすれていた。

そしてもうどうでもいい。


お父さん、オタクの娘はその妄想で今日元気になりました。


世はおしなべて事もなし。


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― 新着の感想 ―
[一言] ただの親父の中での婚約破棄だったので、これから主人公が 関わっていく話が読んでみたいです。
[良い点] 楽しそう…というか混ざりたいですw 着せ替えさせて楽しいくらいの容姿なら、それはもうみんなで ノリノリで弾けますねw でもせっかくだから、中世というかファンタジー風、 中華風、日本風な…
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