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アビス(奈落)

「それで、地上に出てその化け物達をやっつけているのがネクスターなのか」


「いや。私達は地上にすら戻れないんだ」


「どういう事ですか?」


「このミシュテカは500階毎に10層に分けられていて、メインシャフトというエレベータによって繋がっている。そしてそのメインシャフトは地上から化け物達が降りて来られないように、閉じられている」


「500階登っては、エレベータを開けないといけないんですか」


「そう。そして500階上、地下4500階にあるのがネクスターの基地だ。そこまではメインシャフトで登る事は出来るが……閉じたままにしてある」


「懸命だな。開けたら人々はパニックを起こす。そしてネクスターという存在も含めて、全て、何も知らない方が、ミシュテカでは平穏に生きていける」


 まだ100年しか歴史のないこの街でも、平穏が保証されているのならば、それを守るべきだろう。でも、その秘密主義を良くないと思う者も居る。それが反乱者達なのだろう。

 ミシュテカの人々が全員で結託すれば、地上へと戻れるし、化け物達も倒せるはずだ。そんな事を言い出しそうだった。


「その化け物って、強いんですか? 我らが故郷は何と言ってるんですか?」


「さぁ? ネクスターの偉い人なら何か知ってるかもしれないけど、ここに居るのはただの庶民だよ? 私も含めて」


 皮肉っぽくそういうカガネさんに、エルイルが皮肉で答える。


「もし、地球軍が、化け物を殺せていたら、もう助けはここに来ている。来ていないという事は、負けているって事だ」


「さて、分かっているとは思うが、この事について市民に口外するつもりなら、刑務所行きだ。知った以上は、兵士として、地上を目指してもらう」


「故郷の大軍勢でも倒せない、地獄の悪魔を俺達が倒しに行くのか」


「まぁ待てエルイル。そこまで悲観的にならなくていい。もっと悪い事実があるんだ」


 とカガネさんが更に皮肉な笑みで言った。それはもう、お手上げなんだけどね、とでも言いたげな表情だった。


「この地下5000階のシェルターは、この100年間、ひたすら増築され続けているんだ。アビス、という自動修復装置によってね」


「あ、それで迷路!?」


 と俺が言うと隊長が頷いた。


「アビスというのは、500階単位でフロアを管理している自己修復システムで、どんどん地下を平行に掘って怪物達を迷わせている。そしてその迷路には自動警備装置や巡回ロボット、罠も仕掛けられている。怪物達が侵入したら殺すように」


「俺達も外に出られないじゃないですか」


 とエルイルが笑って言うと、カガネさんは大きく頷いた。


「最悪だ……俺達は俺達を守る為のシステムと戦いながら、今なお広がっている迷路の中をさまよい歩き、そして500階毎にあるアビスとやらを壊してエレベータを開けていくのか。それを一体何年かけてやれって言うんだ?」


「まぁ70年ぐらいは頑張ってるみたいだな」


「それで、今はもう地下1000階ぐらいまでは行けてますかね?」


「だから、そういう事は、知ってる人に聞いてくれ」


 俺も分かってて言ってるんです。とカガネさんに言い、向こうも笑っていた。


「セトル君は平気なの? 私、なんだか、気が変になりそう……」


 小稲が顔面真っ青になっているのを見て、さすがに可哀想になって頭を撫でた。すると小稲は嫌な顔をせず、困ったままの顔で大人しく俺に頭を撫でられていた。

 こんなふうに 小稲の頭を撫でててやるのは初めての事ではなかった。小稲は暇があると俺の側に来て、俺がゲームを遊んでいるのを見ていた。そして一段落すると、嫌な事があったと不満と愚痴を俺に言い、俺は苦笑しながら彼女の頭を撫でていた。

 そんなだから、小稲は俺の事が好きだ、という噂がたつ様になったが、小稲自身、それを否定しなかった事で、俺達は半ば公認状態になってしまっていた。ただし、俺に恋愛感情が無い事も皆は知っていた。


「俺達に解決しろって言われてる訳じゃないよ。上にも一杯仲間が居てしかも70年も戦ってるベテランが居るんだ。俺達は新兵として、そのベテランさん達についていくだけだよ」


「そ……そう……それなら……いいけど……」


「小稲、私もチームリーダーとして一緒に行くんだ。安心しろ」


「えっ? カガネ隊長もですか?」


「お前達が全員行かないか、或いは全員工兵になったなら、私も花端と同じ様に休暇を取ってるよ。お前達が行く以上は、隊長である私も行く。それが嫌ならこの赤い鍵は捨てて、刑務所に行くか自決して口封じしろってのが上からの命令さ」


「そんな、ひどい……」


「仕方が無いんだ。見てみなよ、あの街を……ミシュテカがこうして100年もの間、平穏を保っていられるのはネクスター達のおかげだし、秘密を守るのもまた大切な事なんだ」


「大体、自分の父も母も誰か分からないんだ。この広い街のどこかにいる誰かが卵子バンクに行って卵を提供して、どこかのお父さんが精子バンクに精子を登録して、その組み合わせで産まれてきたのが私達だ。秘密はもうそこから始まってる」


「両親と子供、そして保証された一生をミシュテカは提供します、か。何度も学校で聞かされた言葉だ」


「……俺は……性分なんだろうが……先が見えないってのが怖いんだ」


 エルイルが苛つきながらそう言う。


「自分は何の為に何を成すか。どこまで行けるのか、自分の力の限界を感じるなら、そこで死ぬ事に恐怖はない。でも、何も知らずに死ぬってのは嫌なんだよ」


「まず、私達、カガネ小隊の目標はこの上500階にあるネクスターのベースへ向かう事だ。そこに行くまでに機体を撃破されれば、振り出しへ戻る事になる。ただしネクスターは私達を殺さない。こちらも出来ればネクスターは殺さない」


「ああ……まずったな……俺、いきなり本気で撃っちゃった……」


「そうだね。上の奴らは怒ってると思うよ。戦闘訓練なのに殺される所だったってね」


「……でもまぁ、あの程度なら、なんとかなりますよ」


「セトルってすごい自信があるのね……」


「だって殺されないなら、走っていけばいいじゃないか」


「そういう手もあるんだ……」


「冗談だよ。俺はセンサーも地図も無しで500階も走りたくない」


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