地獄に咲く花
再び、パラダイスへと戻り、MZ式にそれぞれ搭乗する。小稲が皆の機体に500階までのデータを転送すると、そこに現れたのは、地中に裂いた巨大な花の様な構造体だった。
「これ……何……?」
「地下1000階にあるコアステーションを栄養源として、フィーンド達が作った彼らの為のエネルギー炉です。その花の丁度めしべの部分にヘルアビスがあり、その花を作り続けています」
「そして彼らはこのエネルギーコアを避けて横道を掘り、ハイヴを攻撃しているのか」
「彼らはそのエネルギーコアを自分達だけの物にしたい様です。彼らのエネルギー源は灼熱の中にのみ生きている植物と生物の中間の様な生き物から得ているみたいです」
そこまで小稲が話した時、コンピュータのAIが反応して、ディスプレイ上にヘルプが必要ですか? という文字が表示された。
(ヘルプって……OS臭いなぁ……)
そう思いながらも、俺はそのヘルプがどのような物なのか、説明を求めた。するとフィーンドの生態について地球側が調べた内容がリスト化されていた。
大凡の所では、彼らはその食料としている生き物を育てる為にヘルアビスを作り、そして地球人が作ったエネルギーコアを改良し、更に勢力を拡大していた。
ルゴール博士が、いずれは負けると言っていたのはこの事で、このヘルアビスを破壊して彼らの勢力を殺がない限り、いつかは力で押し負けてしまうという事だった。
「この花をよじ登って、ヘルアビスを強襲する事は出来そうか?」
『十分可能だと思いますが、敵との戦闘は避けられません』
「敵の数と規模は?」
『数は無数ですが、デーモンタイプと呼ばれる巨大な敵は居ません。また、敵としてはこのエネルギー炉を傷つける事は、極力避けると思われます』
「それはどうかな……」
俺はAIの返事に納得出来ないまま、他の機体にこの花を登っていく案を伝えてみた。
「他に良い案は無いとは言え、実物を見てみないと登れるかどうかの判断は出来ない」
(……何もかもが、想像を超えた話だからな……)
俺達はMZ式に乗ったまま、パラダイスの中央にあるメインシャフトエレベーターに乗り込んだ。このシャフトは文字通り大動脈であり、荷物もエネルギーも全てこの縦穴を通ってパラダイスを通り、そしてハイヴへと通じている。
そしてハイヴからはあの親玉の芋虫たちが2500階のアビスへと物資とエネルギーの運搬を行っていた。
2000階から2500階までのメインシャフトは既に破壊されていて、そうする事でしか地下へ供給する事が出来なくなっていた。
上層部から下層部への物資が、常に行われず、定期的なのはこの為だった。2500階のあの生体型アビスは物資をある程度溜め込むと、それをビーストの生産と下部への供給へと振り分けていたが、親玉芋虫の運ぶ資材の量によっては、時々遅れる事もあり、それが所謂、上からの物資補給が遅れているという下層部の言葉の正体だった。
パラダイスから500階上のコアステーションまでは、メインシャフトの昇降機で移動する事が出来た。本来は、こういったメインシャフトが500階毎に繋がっていて、行き来が出来るものだ。敵と味方に保護されているからこそ、このシャフトは最前線にありながらも安全という矛盾した事になっていた。
やがてエレベータと呼ぶには大きすぎる昇降機が最上階に到着すると、心が締め付けられる様なプレッシャーを感じた。スキャンデータで見ただけでも、花の形をしたこの部分を見て、俺は唖然とした。実際に現物を見たらどう思うだろうか? 昇降機の出入り口が開くと、搬入路へと続く広い廊下が続いていた。
センサーに敵影は無い。その代わりに気温はかなり高い様だった。この廊下の中でも六十度以上あり、外では八十度近いとセンサーのデータが出ている。
「この機体は何度まで耐えられるんだ?」
『2000セルシウス度までは問題ありません』
「溶岩ぐらいなら大丈夫って事か……」
メインシャフトから外界に出る扉の前まで来ると、隊長は立ち止まって俺達の方を向いた。
「MZ式の話では、外界温度は80度程度だそうだ。扉を開けると通路の温度は急激にあがる事になり、長く開けすぎればメインシャフトにも影響が出る。扉を開けるのは10秒を限度とし、10秒を越えて、まだ外に出ていない者は一度扉を閉める様に」
「了解」
そんなカガネ隊長の心配は無用で、俺達は10秒かからずに全員が扉の外に駆け出すと、互いに背中を合わせて辺りの状況を確認した。
「敵影無し。安全です」
センサーにも反応しない敵が居るかもしれない、という心配もどうやら無用だった。俺達はそれぞれ構えた武器を降ろし、そして、自分達が出てきた建物の方を振り返る。
そこには元、地球人が作り、そして今は未知の文明体によって強化された異様な構造物が天に向かって赤茶けた花びらを広げていた。
(なるほど……こういう事なのか……)
元々、このエネルギーコアは安全基準を満たす原子反応炉であり、建物の最上部にある炉内で反応させたエネルギーを得て、その後、建物の下部を延々と続く冷却パイプの中を流れた後、再度精製されて、炉へと戻るという物だった。燃料の再生率は100%まではいかない為、いずれは古い燃料を破棄して新しい燃料に変えなければならないのだが、どうやらその心配は、未知の文明体が解決してくれた様だった。
ビルの最上部にある炉心は網状の球体に包まれていて、その球体部分から、横の壁に向かって、無数の固定用の柱が伸びている。コアシステムが産み出したエネルギーを網目状の物質が再変換を行い、更に反応炉自身の効率を上げる事により、網状の球体の上部には、花の子房の様なエネルギー変換器が作られて乗せられていた。
そして、その花の子房部分から、余熱を発散させる為に、小さな花びらが無数に作られ、上に行くに従って、花びらは大きくなっていた。子房となるエネルギー変換器からは上方にエネルギーの光柱が伸びていて、おそらく、500階上のヘルアビスに供給されているのだろう。
「不思議な物だな。彼らはここまでのテクノロジーを持ちながらも、自分達で反応炉を作る事は出来ないのか」
カガネ隊長が頭上に広がるいびつな花を見あげて、そう呟いた。
「多分……あくまで想像だが、奴らは何かを利用する事は知っていても、何かを造り出す事は出来ないんだろう」
エルイルはそう言った後、ぼそっ、と小声で、そういう奴って居るよな。と言った。どうしても皮肉が言いたかったらしい。
だが、その皮肉も含めて、どうやらフィーンドという奴らは進化の途上にある存在の様に思えた。
「地球の科学者達の分析では、彼らは文明自体は恐竜時代から進化していないらしいわ」
「でも、えらく強い恐竜だし、応用するという事は知っているみいだよ」
「地球は、恐竜という巨大生物が生きるには小さすぎる星だったのかもしれない。もし、このC9ほど巨大な惑星だったら、恐竜のまま進化する事が出来たかもしれない」
「俺達だって元は猿だ。知恵では勝っているかもしれないが、生命力では雲泥の差で負けている。その結果がこの有様なんだろ」
「なぁエルイル。そういう強力な敵を倒すには、どうすればいい?」
「そりゃ、補給を断つしか無いだろ。相手にとってこっちは虫レベルだぜ? あのハイヴなんか典型的だ。スズメバチを造って巨人と戦ってるんだぜ?」
「ルゴール博士の考えは、今の所、常に正しいって事か」
「長生きすると、ロクな事にならないな」
そんな俺とエルイルの会話を聞いて、アベリアさんが小稲に何かを尋ねていた。多分、この二人は昔からこうなのか? という質問に対し、そうです、と小稲が答えたのだろう。
エルイルも俺も、幼年学校時代からの友人だからこうして言いたい事が言い合えるが、そんなエルイルでも隊長や小稲には言葉を慎むし、アベリアさんの様な金髪女性には見ているこちらが痒くなるほどの甘い口ぶりになる。アベリアさんとしては、初めて見るエルイルの本性を見て、少し呆れた様だった。
「ルゴール博士の言うヘルアビスは、あのエネルギー光を直接受けて、稼働しているのだろう。位置はそれでいいとして、どうやってそこまで登っていくか……」
カガネ隊長はそう言いながら、頭上の花を見上げていた。答えは一つしか無いのだが、出来ればもっと安全な所を進みたいのだろう。




