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ジャックインテスト


 処置服を着たままの俺達をカガネさんが寄宿舎へと連れて行く。三階まで吹き抜けの高速エスカレーターを登った後、壁の色がベージュ色の方へと向かった。

 建物の作りは学校時代と同じで、素っ気の無い風景が続く。大きなホールと小さな部屋を繋ぐ廊下。壁面には時々建物の地図が書かれていて、宿舎は6階建てらしい事がわかる。

 そして俺達はその二階の一部屋に入れられた。


「ここがあなた達の部屋。と言っても、寝るぐらいにしか使わないわね」


「小稲もここに?」


「ええ、ここでは……というよりこれから先、男女が別室になる事は殆ど無いわ。まぁ、たまにはHな気持ちになるかもしれないけど、そういう時は看護師さんに言った方がいいわよ」


「もしかして、看護師さんは色々サービスしてくれますか?」


 とコーブがふざけていうと、カガネさんがこくこくと小さな頷いた。


「そういうのを仕事にしている人もいるわよ。人間である以上、そして動物である以上は、性の問題が完全に解決される事は無いから」


 カガネさんの言葉にコーブは個人的な勝利を確信していた様だった。


「あなた達は手術の傷が癒えるのと、きちんと生体部分に各種機器が馴染むかどうかの検査を終えるまでの一週間は安静。大人しく寝てないと死ぬわよ」


 と続く言葉を聞いて、コーブは小さく握りしめた拳を緩めていた。


「特にセンサーとジャックが神経に馴染んでいるかどうかは毎日検査を受けて、少しずつ治療していくわ。そんなに簡単に機械と肉体がくっつく訳じゃないから」


 それはそうだろう。自分でもなんとなくわかる。この首筋に空いた小さな穴は脊髄まで到達している。故障や不良があればそれは死にも繋がりかねない。

 その自覚は皆もあるので、俺達は大人しく、与えられた個室で寝つつ、NCWのマニュアルを流し読みしていた。

 毎日、朝から一人ずつ、検査室に行き、そして微調整を受ける。そして部屋に戻る事の繰り返しだが、寄り道をする事ぐらいは許されていた。

 館内を歩き回って分かったことは、この宿舎は6階建てなのに、人が居るのは一階、二階、三階だけだった。各階には4室の大部屋があり、それぞれ6人が入る。単純に計算してもワーカー搭乗者は100人も居ない。


「本当に、事故で死んでるのかな? そんなに危険な作業なのかな?」


 そうトシが不安を口にしていたが、今年はたった6人しか来てないのだ。ワーカーに乗りたい人自体が圧倒的に少なすぎるだけだろう。


「10年でも60人だぜ? だとしたら最年長は何歳なんだか」


 とコーブがふざけて言うと、トシの不運は少し紛れた。誰だって死にたくない。しかしカガネさんからは危険な所だと脅されていた。

 外では毎日NCWの訓練が行われている。俺達があれに参加するのは来週の事だろう。

そこからは毎日訓練して、そして作業の手伝いに入る。勿論新入りは難しい作業はせずに資材運びばかりだ。まずはあちこちに資材を運んで、各場所がどんな所で、どれだけ修理が必要なのかを見てくる事。現状把握が第一だった。

 この建物は、もっと人が集まると思って作られた建物なのだろう。でも、人々は平穏した一生が約束されるのなら、手術を受けてまでNCWに乗ろうとは思わない。普通の土木作業ならクレーン等の土木作業機器で十分だった。


 やがて、一人ずつ検査が終わり、ジャックインテストというシミュレーションが始められた。これはNCWの操縦席の部分だけを外し、そこに乗り込んで精神直結回路が正常に動作するかどうかを試すテストだった。

 このテストも個人差によって調整する部分があり、右手の神経が過敏すぎるととか、胴体部分の反応が鈍い、などの微調整が個人個人で行われる。


「全てにおいて、グリーンゲージ振り切り状態か。それも異常なんだけどね」


 俺のジャックインテストを見て、カガネさんが困った様な顔をした。確かに他の人は全てグリーンになる事はなく、レッドゾーンが出ている奴も居れば、ブルーゾーンでなんとかという奴も居た。


 NCWシミュレーションの成績で俺と同等だったエルイルでさえ、足まわりはブルーからグリーンを維持出来るという事で十分上等なのだが、それでも俺には届かない。


「よっぽどジャックインに適した体質なのか、それとも手術が上手くいきすぎてるのか、逆に要注意ね。今までこういう事は無かったから」


 という事で、俺自身には誰よりも厳重な検査を繰り返す事が課されてしまった。

 このテストの次は、いよいよNCW本体に乗り込み、まずは動かずに、その場で人間の身体の動きをしながらの調整をする。

 下で毎日訓練をしているのは、この調整が必要かどうかを見る為でもあった。人間である以上、そして端末接続機器である以上、不調と劣化は必ず起こる。

 中には端末から神経にリフレックス(負荷逆流)が起こり、神経を傷つける事もあった。そして二度と手が動かなくなるという不幸も過去にはあった。

 そういう過去を二度と繰り返さない為の精密検査であり、そして負荷逆流が起こった場合には神経に到達する前に回路が遮断される事で、修理するまでその部位は使えないが、パイロットの安全は確保される様になっていた。

 カガネさんの言う危険はそこにあった。オールグリーンで全てが回路と良好に最大同調で接続されているという事は、負荷も直撃を受けるという事だった。

 レッドゾーンで回路と神経がいまいち反応が遅い場合ほど、負荷が起こってもパイロットに被害が届く事は無い。


 そしていよいよ、本物のニューロンコントロールワーカーに乗り込む日が来た。この訓練用のNCWも含めて、全てのNCWはミシュテカの工場で作られている。

 訓練用は60式と呼ばれる黄色い、何の装備もない機体と、パワーアームがついている66式がある。

 実作業に使われるのは汎用形の88式とベテランが使う細部作業ができる98式。そしてバックアップ用の機体としてFM七式という後方支援形とFM七十七式と呼ばれる重量形がある。街を走る10トントラックが七十七式に相当し、壊れたNCWを運ぶ時に使われる様だった。


 俺達はまず、その60式から始める事になる。



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