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悪夢との戦い


――BF4200


 メインベースまであと200階。4150階までスキャンして発見した敵は6体で、しかも4体がガーダーだった。さきほどの乱戦に比べれば、はるかに楽だと思ったが、それは必然の結果だった。


「どうやら、メインベースからヘルプが来たみたいだな」


 倒していないセンサーロボットの残骸を見てアサリナ大佐がそう言った。


「迎えに来る余裕は無いが、一人か二人が来て、センサーロボットを壊してくれたらしい。この先はかなり楽だろう」


 残り二体は巡回している四足機で、避けて通れば上の階に行けた。4150までの道は殆ど障害が無く、30分もかからずに50階を走破できた。

 4150階に着き4100階までの敵をスキャンすると、二台のタンクと6機の四足機のみで、やはりセンサーロボットが居ない。四足機とタンクは巡回ルートにいて倒さなくてはいけなかったが、タンク二台はどちらも狙撃可能で難なく倒す事が出来た。

 これなら楽にメインベースへ辿り着ける。そう考えたのは甘すぎた。


――BF4100


「これは……新しいタイプの敵が居ます」


「どんな奴だ?」


「それが……機械ではなく生命反応なんです」


「データを転送しろ」


 小稲から新しいタイプの敵のデータを受け取った大佐が、息を呑む声が聞こえてきた。


「この敵の場所は? 距離は? 全員即時退避。この敵から逃げるぞ」


「あの、敵はおそらく4060階、距離は300メートル以上あります。上へ登るルートからは離れていて、迷宮の奥の方に居ます」


「それは、メインベースから来た味方が、その敵を私達から引き離したんだ」


「つまり、強い敵って事ですか?」


「どうしてメインベースを越えて、下に来たんだ……いや、突破されたから追いかけたんだ。それで自動警備ロボット達を倒したのか」


「敵、4080階に移動。床を壊して降りてきてる!? 味方の反応が二体、その敵を追いかけてきます」


「彼らに任せろ。最短ルートでメインベースを目指す」


 小稲がルートを探し出し、シアリカが近づいてきた敵の反応を報告する


「敵、四足式、二体来ます」


「即時対応。10秒で倒せ」


 アサリナ大佐は小稲を先行させ、カガネ隊長と共に護衛につく。エルイルが続いて遠距離センサーで回りを警戒し、俺と古川さんは四足機の頭部とバッテリーを壊してすぐに皆の後を追う。


「敵、4090階に下降、止まりません! こ、こっちにきます!」


「くそっ、私達の方がザコだと分かって狙ってきたのか。北東の開けた所に行く。そこで待ち伏せして、追ってきている味方と挟撃するぞ」


(俺達の方がザコ?)


 この機械じゃない敵は、俺達の方が弱いという事を理解して、俺達を狙いに来た。丁度俺達がセンサーロボットや四足機をザコだから優先して倒すのと同じ様に。


「敵、4105階……いえ、私達と同じ階に登ってきています……何、この形……これ……生物なんですか?」


 そこまで近づけば俺達のセンサーにも相手の大まかな輪郭は分かる。センサーには、直径5メートルはありそうな球体がアメーバの様にぐにゃぐにゃと形を変えながら、こちらに向かって来ていた。

 俺達は通路が二本分並んでいる所に出ると、その一番奥まで行き、壁を背にして構える。


「言っておく。やるかやられるかだ。姿が見えたら、弾が無くなるまで打ち込め。相手に弱点はない。あるとすれば、それはそいつの心臓だ」


 バゴン! バゴン! という壁を叩く音と共に、壁がきしんで壊れる音がきこえる。その音はどんどんこちらに近づいてきていた。アビスは迷宮を作り続けているが、この敵はそんな迷路の壁など壊しながら、俺達へと近づいてくる。

 そして、目の前の壁がボゴン! という音と共に膨れあがり、次の一発で甲板の壁は避けて、その敵が姿を現した。


「ひ、ひぃ……」


「こ、こいつは……何なんだ……?」


 小稲が小さく悲鳴をあげていた。俺も壁から見えている敵を見て、一瞬、恐怖で身も心もすくんでしまった。


「撃て!! 小稲! ロケットランチャーを!」


「は、はいっ!!」


 その敵は、生白いミミズみたいな肌をしていて、ぶよぶよと身体を震わせていた。太い配管の様な手足からは赤や青色のコードが何十本も伸びていて、その一歩ずつが地面や床を這い回って足場を探している。

 何よりも気味が悪く恐ろしいのは、その5メートル近いぶよぶよとした巨大な虫の幼虫みたいな身体の上には、2メートルもありそうな人間の顔らしきものがついていた事だ。

 しかもそれは正確には顔ではなく、目に眼球は無く、鼻の穴からは緑色の機体がぶしゅっ、ぶしゅっと拭きだしていた。


「う、うわ、来る……」


 こんな奴に近づかれたら死ぬしかない。それもきっと喰い殺される。その恐怖だけでトリガーを引いた。弱点は心臓と大佐は言っていたが、本能的に顔の部分を狙ってしまっていた。しかし人間とは違って、その頭部を弾き飛ばしても、緑色の体液が噴き出すだけで、致命的なダメージにはなっていなかった。


 小稲の発射したロケット弾は相手の左側側面に当たり、身体の一部を破壊していたが、その裂け目からは内臓のような物がだらしなく垂れ下がりつつ、不気味に脈動していた。

生理的嫌悪感で吐き気を感じつつも、俺はその内臓の部分に狙いを変えて弾丸を撃ち込む。


「アサリナ機、残弾40%。カガネ機、残弾50%、セトル機、残弾60%、古川機、残弾30%、エルイル機、残弾10%」


「エルイル。予備弾薬のカートをそちらに投げるから受け取って」


「すまない。あと12発しか無い」


 シアリカ機がバックパックにつけていた弾薬ボックスを丸ごとパージして床上に落とすと、それをエルイルの方へと蹴りつけて滑らせる。弾薬ボックスは摩擦で火花を散らしながら床上を滑り、エルイルが受け取っていた。


「止まれ、止まってくれよ!」


 いつの間にか頭部の人間の顔の部分が復元していて、そして口らしき裂け目を大きく開けて、咆吼をあげた。その口には円周状に針のような牙が並んでいて、明らかに何かを食べる為に存在していた。

 しかし、その口の中に数発の20ミリ弾を撃ち込んでも、全く効いている様には見えない。ロケットランチャーがもっとあれば、破壊力だけで吹き飛ばす事も出来たかもしれないが、こんな小さな武器では食い止め様がなかった。


(こちらをザコだと分かって、狙ってきた……)


 大佐の言葉の意味がよく分かった。そして最初に逃げると言った気持ちも。

 この機体とこの武装では、この化け物は倒せなかった。

 ぬるりとした白い巨体が目の前に迫り、触手なのかコートなのか血管なのかわからない細い管が床上を這ってくる。その先端が俺の足下まで届いた時、左から青白い光弾が化け物の巨体に間断なく打ち込まれ、その弾圧そのもので巨体が右へと押されていった。


「大佐、すいません! 4人やられました! 後退してメインベースに逃げて下さい! 俺達もそう保ちません!」


「全員退避! 最短ルートでメインベースまで走れ! シアリカ機と小稲機は遠距離センサーユニットを外して身軽になれ、もう必要無い!」


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