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NCW訓練所

「終点、NCW訓練センターです。搭乗者は席を立たぬ様に。これは命令です」


 モノレールは三重の鋼鉄のゲートを抜けると、終点……というよりも格納庫のスリットゲートの中に入った。車両の扉が開くと、更にその外には油圧式の外部扉があり、プシュッという油圧音と共に開くと、即座にアサルトライフルを構えた男達が列車の中に素早く入ってきて、俺達に銃口を向けた。

 その後に続いて黒髪のポニーテールの女性が車内に身をかがめて入って来て、俺達の方を睨む。


「間違えてここまで来たのならば、そのまま席を立たずに帰れ。気が変わって街に戻りたくなった者も同様に帰れ。それ以外は外に出ろ」


 初っ端から新兵扱いだった。俺達が手をあげて列車から降りると、女性の上官が警備兵に手で下がる様に指示する。


「危険人物、及び一般人の存在は確認されなかった。この五名はこの訓練センターの新規訓練生だ」


 そう言うと、警備兵達はやれやれと言った感じで息を抜き、建物の中に入っていった。


「私はカガネという。今期の君達の直属の上官となる。今のチェックは反体制派に対する警備の一環だ」


「反体制派なんて……居るんですか……?」


「収容所から逃げた者が5名居る。彼らの要望はとても単純だ。全てを説明しろ。それが何を意味するかを知ってて彼らは言っている」


 カガネというこの女性は背筋を正したまま、正しい歩幅で訓練センターの建物へと入っていく。凜とした涼しげな顔の美女だが、隙は全くなさそうだった。

 入り口の警備兵に軽く敬礼をすると、警備兵も銃を立てて敬礼する。しかしビデオで見た軍隊ほどの毅然とした物ではなく、もうすこし柔らかな物腰だった。

 青年学校では太陽系防衛軍の古い映像を見た事があり、この惑星C9に地球人が移住する様子が写っていた。その兵隊達は片時も姿勢を崩さずに人形のようにしていたが、ここの警備兵達は休めの姿勢であくびをしている者も居た。


「今年は、5人……か……仕方が無い事だが」


 訓練センターの廊下はクリーム色で塗られていて、手すりがある。壁には第一訓練所とか精密検査室とかのプレートが書かれていて、そのうち俺達は第12講義室という部屋に入る事になった。


 30人ほどが入れる広い部屋にたった5人。正面には学校のような黒板があり、カガネさんが前に立つ。


「あの、カガネさん……俺達は……何なんですか?」


 トシが恐る恐るそう聞くと、カガネさんは小さく頷いた。


「私の事はリーダーと呼ぶ様に。お前達は今の所は訓練兵見習いだ。君達がこの施設で訓練する目的は一つ。NCWを乗りこなす事。その為にまず、この書類にサインをしてもらう」


 カガネさんは脇に持っていた小さなバインダーから薄い紙を取り出すと、俺達に一枚ずつ配った。そのサイン欄には圧着式の電子シールが貼られていた。


「五本の指の指紋を全てそこに押せ。それで了承した事になる。失敗したら左上のリセットを押すと消える。全部押せたら右上の確定を押せ」


 言われた通り、俺達は一本ずつ指紋を写し取ると、最後に確定という文字を押した。するとすう、と電子シールが乾き、指紋が固定される。


「これで契約した事になる。これ自体はどこの仕事場に行ってもされる事だから怖がる事は無い。私達は脱獄囚の五人を捕まえたいだけなんだ。彼らが逃げる前は、ただの鉛筆でのサインだった」


「脱獄囚ってやばいんですか?」


 ふたたびトシが尋ねる。


「危ない。ミシュテカはこの通り、隔離された地下都市だ。飲み水に毒物が入れられたらどれだけの被害者が出るかわからない。それにメインシャフト。地上から定期的に送られてくる補給物資のルートが壊されたら、人々は飢える事になる」


「どうして、すぐに捕まえられないんですか?」


「人が居ない。ご覧の通りだよ。君達15歳を経て16歳になったばかりの若者に来て貰ってもまだ、NCWの作業員は全く足りてない」


 カガネさんはため息を一つついて苦笑した。


「脱獄囚を捕まえるより先に、ミシュテカが老朽化で壊れて地面の中に埋もれてしまう方が先かもしれないんだ」


「わ、私……その為に……勉強してきました」


 と小稲が言った。俺達はああ、それで、とその場で小稲の顔を見ながら言ってしまった。


「てっきり、セトルに惚れてついてきたのかと思ってた」


 とコーブが言うと、トシも頷いた。


「そう言えば、機械とか工業とか、小稲は熱心に勉強してたな」


「……ミシュテカがまだ作りかけの頃に落盤事故があって、100人ぐらいの人が生き埋めになったってビデオを見たの。屋根が落ちてくる夢を何回も見るようになってそれで……」


「立派な理由だ。頑張ってNCWを扱えるようになってくれ。では早速、ジャックを埋め込みにいこうとしようか」


「あ、あの……ジャックって……首の後ろ一箇所だけなんですか? それだけはちょっと怖くって……」


「女の子には怖いかもね。でも一瞬だし、痛くもないし、この通り目立たないよ」


 とカガネさんは言うと、後ろを向いてポニーテールをかきあげてみせてくれた。

 そこには直径3センチほどの回路板と細い穴が空いていた。


「ジャックインする時に面倒なんでポニーテールにしてるの。それぐらいどうってないって事よ、安心して」


「すみません。ありがとうございます」


「ただし、これがある、という事は、もう一般人では無いって事。戻れないわよ」


「それはどうしてですか?」


「ミシュテカというこの街に住む人達が、平穏に暮らしていく為。知らない方が幸せな事ってあるでしょ。一つは今言った事。作業員が足りなくて、ミシュテカの天井が今にも落ちそうですなんて言ったら、街の人達は暴動を起こすわ」


「そこまでボロくなってるんですか?」


「その説明は手術の後にしようか。どうせNCWの訓練をして、そして現場に行ったらすぐに分かる事だ」


 小稲に緊張をさせない為だろうか。カガネさん、俺達のリーダーは、少しだけ優しい感じに口調を変えて話してくれた。

 でも、教室の最後尾に座る俺とエルイルは、冷たい視線でトシとコーブと小稲が笑うのを見ていた。そしてリーダーも、その理由を知っていただろう。



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