ブレイクダウン
先ほどのワイヤーを使った身のこなしでも、映画のニンジャっぽく見えたが、まさしくその通りだった。アサリナ大佐の人選に隙は無い。ちょっと射撃でいいスコアを出したからって鼻を高くしていた俺は、心の中で反省した。
ちなみに俺の武装にはカタナとネイルは空欄になっているが、咄嗟に使える自信は無いので、見なかった事にした。
「良かった! 近接武器はベースでは作れないので、予備がなかったんですよ。それにガーダーも少ないですし」
「どうしてベースでは作れないんですか?」
「消耗品を作る余裕が無いんです。大抵が一度の戦闘で折れたり投擲に使ったりしてしまうので、現実的ではないですよね」
「確かに……」
俺と古川さんが近接武器を手に入れている間に、大佐達はタンクを始末してロケランを手に入れていた。4360階で落ち合う事になり、何事も無く合流出来た。
「どうだ? 4300までの様子は?」
「変わりません。巡回ルートにいるのは四足形のみです」
「では行こうか」
大佐が先頭に立ち、カガネ隊長がしんがりを勤めて、4300階までの通路を走破する。途中に居る四足形は手っ取り早く沈黙させて弾丸を頂いていく。巡回は三機居たが、そのうち一機は故障しているらしく、突き当たりで壁に向かって歩いていた。
――BF4300
ネクスターのサブベースを出てからようやく200階。メインベースまであと300階。5000階から4500階まで登った時の、数倍の疲労感があった。当然敵はこちらを殺すつもりで攻撃してくるし、容赦もしなければ撤退もしない。センサーロボットが居れば仲間を呼び、判断を間違えば袋だたきにあってあっという間に死ぬ可能性があった。
特にタンクという存在の怖さに加えてガーダーという厄介な敵も現れ、進めば進むほどストレスは増すばかりだった。
(遠い……)
惑星C9に来た人達は地下5000階にミシュテカを築いた時、これで地上の敵から逃げる事が出来たと安心しただろう。そしてその5000階という遙かな空間に迷宮を作る事でさらに要塞化する事が出来た。
ミシュテカに居れば、平穏に暮らせた。ごく普通に仕事について、街で働き、女性と知り合い、家族を持つ事が出来た。ただし、子供の数は管理されている為、家族が自分の子供を持つ事は出来ない。そうしなければ、食糧難に陥る為だった。
老人は尊厳死を選ぶ事も出来るし、寿命を全うする事も出来た。自分の人生の殆どを自由に決める事が出来る世界。それがミシュテカだった。
彼らは知らない、自分達の頭上に、こんな地獄の迷宮が広がっている事を。それを知ろうとする者は、自由を捨ててここに来る事になる。
「4250までの敵は12機。うちタンクは4台。それぞれ別の巡回ルートです。4機がセンサータイプ。2機がガーダータイプ。残り2機は四足形です」
「センサーの動き方次第か。タンクがひっかからなければいいんだが」
センサーロボットはランダムに移動する為、こちらの思い通りに動く事はまず無い。予測も出来ないので、チャンスが来るまでひたすら待機するしかなかった。
「補給と弾薬は十分にあります。センサーを一機でも楽に仕留めましょう」
カガネ隊長がそう言うと、エルイルを中心に、センサーが通りそうな所で待ち伏せをする事になった。
そのまま三時間。小稲の事を気遣ってシアリカさんが見張りを代わり、小稲は少しの間休憩していた。さらに二時間。ひたすら、根気との勝負だった。センサーロボットが曲がって欲しい所で曲がらなかったり、せっかく曲がっても元に戻ったりという事を繰り返し、近づいて来ない。
しかし短気をおこして下手にセンサーにひっかかれば、タンクが二台以上来た時に困る。もう一つの作戦としては、センサーを反応させた後、ひたすら地下へ戻って後退しながら、タンクをなんとか倒す方法だが、事故率が高いと言って大佐は却下した。
「!!」
突然、エルイルが真上に向けてスナイパーライフルを撃った。皆が驚いてエルイルの方を見る。
「真上だ。真上ギリギリに一匹、センサーが居た」
休憩していた小稲が再度スキャンすると、エルイルの言う通り、センサーを一機倒す事が出来ていた。シアリカのセンサーでは届かず、エルイルのセンサーでも、真上にギリギリの所しか反応しない位置だった。エルイルが咄嗟に反応したから出来た事だった。
「ふう……よくやった。これでかなり楽になるぞ」
残り三機になったセンサーは、探知する範囲がかなりばらけていて、一機ずつ狙う事がとても楽になった。
4290階まで登ると、一台のセンサーが、通路の向こうを通るのが見えた。隊列を組んでいた為、エルイルは狙う事が出来なかったが、今なら追いかけてすぐにしとめる事が出来るだろう。
アサリナ大佐と俺が通路を走り、そして奥のT字路を曲がったセンサーを見つけて撃ち落とす。
「一機、ガーダーが反応しました。来ます」
ひとまずはタンクでなくて良かった。更にこの長い通路に呼び込めば、楽に倒せるだろう。俺達は通路の左右に分かれ、エルイルの射線を遮らない形でガーダーがくるのを待った。
ズシン、ズシン、という重い足音が聞こえ、通路の先に巨大な影が見えると同時に、20ミリ弾とスナイパーライフルを打ち込む。ガーダーは不気味にも撃たれるがままになりながら俺達の目の前まで歩いてくる。なんとか頭部のセンサーを撃ち抜くが、ガーダーは動きを止めず、俺達の前へと歩いてきていた。
「私が行きます」
古川さんはそう言うと、ガーダーの目の前に駆け寄り、そしてするりと壁の横から回り込むと背中側にレーザーナイフを突き立てて、動力を停止させた。
「一機、四足形が来ます。古川さん、下がって」
小稲の忠告を聞いて、古川さんはガーダーを盾にする形でこちら側へと戻った。カガネ隊長がガーダーの横まで駆け寄ると、通路からこちらを見つけた四足機のカメラに向けて発砲する。向こうも容赦なく、こちらに発砲してきたが、ガーダーが盾になってくれたおかげで、被害を受ける事は無かった。
「良い感じだな。これでタンク4、センサー2、ガーダーと四足が1ずつか」
残りはもうタンクさえなんとかすれば良い状態だった。センサー2とガーダー、四足はさほどの脅威では無い。センサーをまず仕留めるのは当然だが、2機ともバラバラになっていて、どちらもタンクの側には居なかった。
「速攻でセンサー二体を倒そう。ガーダーは相手にするな。逃げれば追いつかれる事は無い。四足も油断せずに確実にしとめろ」
アサリナ大佐、古川さん。カガネ隊長と俺。シアリカさんとエルイルが組んで、手分けして迷路を進む。小稲は中央で皆に情報を伝える通信棟になっていた。
「カガネ隊長、近くにセンサーが居ます。エルイルの近くにはガーダーと四足」
手早くセンサーロボットを見つけた俺と隊長が、まず一機を破壊する。エルイル達は交戦するのを避け、俺達と合流する事にした。
「タンクが一台来る。どういう事だ?」
アサリナ大佐からの通信に、小稲が状況を判断すると、巡回ルートを外れているという事だった。おそらくは故障だろう。下で四足形が壁に向かって歩いていた。
「タンクとセンサー、同時に来ます。おそらく反応します」
「一旦退く。そちらのガーダーと四足を先に仕留めよう」




