出会いと別れ
ネクスター達の基地はNCW訓練所ほどの広さもない、小さな所だった。また、人の数も20人ほどしかおらず、とても70年間戦ってきた組織とは思えない。或いはもう力尽きかけているのかもしれない。
「ようこそネクスターへ、私がリーダーのアサリナ大佐だ」
NCWから降り、休憩している所に銀髪の女性が現れて自己紹介した。はじめは白髪かと思ったのだが、光の加減によって色が変わる事に気付いた。
「初めまして、私がリーダーのカガネです」
どうしてNCW乗りの上官には女性が多いのか、と心の中で思い、そして一つ心当たりがあったのは、男はアサルターとして死んでしまうからの様に思えた。小稲のように後方支援の方が適していれば死ぬ危険は少なくなるだろう。何度も突入し、何度も生還した結果が、上官という地位に繋がっている。
「過酷なテストをしておいてなんだが、さほど休む時間は無い。まず君達にはネクスターになるかどうかを選んで欲しい」
ネクスターになるかどうか。そはれ目の前のアサリナ大佐を見てもムーゴ少尉を見ても、何を意味しているのか分かる。首だけではなく全身に精神直結回路のジャックを取り付け、もはや人間ではなくサイボーグになるかどうか選択しろという事だった。
「俺は、無理です」
そう言ったのはバイレスだった。
「頑張れるかとも思ったんです。チームの皆の役にも立てると思ったし、その手応えはあった……でも、無理です。今、ここは地下4500階。たった500階で、しかもテストで、これだけ辛い思いをしたんです」
そこまで言うと、バイレスは両手を握りしめて、身体の中から押し出す様に言った。
「この先は、俺が耐えられそうな世界には思えない。殺すなら、楽に殺して下さい」
「殺しなんてしない。記憶を消すだけだ。君は記憶喪失者としてミシュテカの病院に送られ、そして自律できるようになったら自由に残りの人生を暮らせばいい」
「……ありがとうございます」
「他の者はいいのか? ご覧の通り『人間』に戻る事はもう出来ない。あのNCWはデスドラグナータイプと呼ばれているが、乗ると言うより着るという物で、私達自身が機械の一部になるのと変わりない」
アサリナ大佐の言葉に、誰も異論はなかった。その覚悟をもって、ここまで来たのだから。
「君達のその憂鬱な顔を、少しだけ和らげてやる事も出来る。ここは元ネクスターベースであって、今の本部は地下4000階にある。70年近くの間に、なんとか500階上に進む事が出来たという事だ」
大佐の言葉に、俺達は僅かながら希望という物を持つ事が出来た。70年という時間は途方もなく長い時間だが、それでも無駄に終わってはいなかった。
「仲間の多くはそこにいる。ここは処置室と、君達のような新人をテストする為のメンバーが残っているだけだ」
それを聞いて更に心の中に余裕が出来た。先ほどの俺の予想――人類は既に力尽きかけている。という想像はこれで否定された。そして更に上層階に侵攻しているという希望も持てた。まだ人間は負けてはいないらしい。
「あともう一つ。このフロアのアビスの定期的な暴走を止める為の最低限の戦力」
アビスという言葉はもう何度も聞いたし、それが勝手に迷路を作るとも聞いた。それが実際にこのフロアにあるという。
「どうしてアビスを壊さないんですか?」
「壊せないんだ。そういう仕組みなんだ。それは君達がアビスを見た時にわかるだろう」
各自ネクスターになる事に対して問題が無いならば、サイボーグ化の処置室へ行く事を薦められた。そして俺達はバイレスと別れを告げる事となった。
「すまんな。ガタイばかりが大きくて」
「礼を言うのはこちらだ。バイレスのおかげでここまで来れた」
カガネさんはそう言って、握手をした。
「私もそう思う。私一人じゃ無理だったと思う。バイレスさん、ありがとう」
小稲が申し訳なさそうにそう言うと、バイレスは笑って自分一人でも無理だったよ、と小稲に気遣ってくれた。
「戦いに向いてない、と自覚するのは悪い事じゃない。平穏に暮らしてくれ」
エルイルらしいが、それでも少しは素直な台詞だった。
「この先も頑張ろう。お互いに」
「ああ、うん。そうだな、みんな、頑張ってくれ」
こうしてバイレスがチームから離れ、俺達はネクスターになる為に処置室へと入る事になった。ただのジャックインを取り付けるのとは違い、専門の医師が付き添いで一人ずつ丁寧に改造を施していく。アサリナ大佐が時間が無いと言ったのも、この処置には随分と時間がかかるからで、俺達4人が改造を終えるまでに二週間は経っていた。
そしてその後、改造が安定しているかのチェックと調整の為に更に一週間は検査を受けた。そうして合計三週間の後に、俺達は人間でなく、ネクストタイプと呼ばれる存在になった。
「あ、あの……これって……こういうものなんですか……」
再度顔を合わせた時、小稲が顔を赤らめながらそう言った。何の事かと思ったのだが、どうやら服を着ていないのが恥ずかしいという事だった。
「これって、殆ど裸ですよね……」
「言いようによってはそうだが……しかし、水着というべきかスーツというべきか、そういうものだろう」
決して露出度が高い訳では無いのだが、レオタードの様な感じとも言えた。ジャックインの様に身体の内部にまで貫く器具がない代わりに、全身に電極を埋め込まれ、指の関節に至るまで、電気回路の配線が伸びていた。男は水色、女は桃色の淡い光が灯っていて、それで性別は見分ける事が出来る。
「ちょっと……慣れないなぁ……」
小稲のそんな個人的な恥じらいとは他所に、俺達には俺達用の新しいNCWが用意された。X零式と呼ばれる機体で、小稲の乗る後方支援機はX壱G式という機体だった。隊長機はX壱T式、重火器とスナイパーはX壱式という名称だった。全て基本はX零式を元に作られていて、88式とFM式の様な全く違う機体では無かった。
ダイレクトリンクテストも誰も異常を訴える事もなく終わり、そして俺達には新しく先輩二人がチームに入る事になった。
「古川です、アサルト担当です」
「シアリカです、後衛担当です」
どちらも女性だという事に、俺とエルイルは顔を見合わせた。そしてアサリナ大佐にどうして女性が多いのかを改めて聞いてみた。
「バイレスがいい例だ。ここまで来た男は、帰ってしまう事が多いんだ。そして、君達の想像通り、男性のアサルターの死亡率は高い。あとは志願の問題だ」
「志願……というのは、このチームに志願したのが、こちらの二人という事?」
大佐は頷いて、俺の顔を、少し厳しい顔つきで直視した。
「セトル君。分かっていると思うが、君は敵を作りすぎた。皆が君の超人的な働きを見て、嫉妬と絶望感を抱いた。エルイル君に関してもそうだ。ここには良い年をした年齢の男性も居るが、エルイルの反応速度を見て、レベルの違いを思い知らされた」
「私は、お手伝いが出来れば、と思ったので」
と古川は言った。少し丸顔で優しい笑顔の年上の女性だった。
「私はバイレスの後継として。後衛二人が生存率を高くする、という考えは元々からあったんだ。そしてバイレスはそれを証明した。だからこのチームに同行して証明したい。後衛は最低でも二人は要るという事を」
シアリカという名の金髪の彼女は、とても気が強そうな女性だった。しかしどうも元看護師らしく、時折、医療的な専門用語を使う事があった。
こうしてカガネ小隊はセトル、エルイル、古川、小稲、シアリカの新しい6人で編成される事となった。




