罪ある者には弁護させよ
いつもは音が止まない街だが今日はやけに静かな気がする。
まるで俺の緊張している心を映しているかのような。
いや、違うな。だって、今の俺の心は揺れまくっているのだから。
「どんな顔で接しろとぉお~!?」
考えれば遠藤とは隣だしね!否が応でも顔を合わせてしまう!
昨日あんなカッコよさげなこと思ってたけどやっぱ無理!ゴメンよ妹よ。お兄ちゃんにそんな勇気はなかったよ。
そうこうしているうちに学校にたどり着く。
「もう行き当たりばったりでいいや……」
言われるまでもなくヤケクソです。
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廊下を歩きながら頭の中で必死にシミュレーションする。
もし遠藤が教室にいた場合はとりあえずおはようと言うべきか?それとも謝るべきか。何を謝ればいいかわからんが。教室にいなかった場合は……………耐えよう。来るまでひたすら耐えよう。来たらまたいた場合と同じ方法で。あとは俺のアドリブに託す!
教室のドアを開ける。はたして……………
ガラッ
『この男は処刑するべきだ!』
『意義なし!』
『ちょっ、ちょっと待て!納得いかないぞ!?』
パタン。
え?なにあれ?
ほんとなにあれ!?
俺の想像をはるかに越えていたんですけど!?
朝に見てはいけないものを見た気がするんですけど!?
いや朝じゃなくても見てはいけないと思うけど!
気を取り直してもう1度ドアを開ける。
『見苦しいぞ!被告人はいい加減自分の罪を認めたらどうだ!』
『罪でもなんでもない気がするんだけど!?』
目の前で繰り広げられる言い争い。
これ本当に自分の教室だろうな。疑いたくなってきたぞ。
周囲に目を配ってみると近くに見知った顔が見えた。
とりあえず声をかけてみる。
「おい、川谷。これどういうことだ?」
「久城か。裁判しているんだよ」
いや、そんなさも当然のように言われても。
よく教室内を見れば確かに机の配置が裁判所みたいになってる。真ん中にいるのが恐らくいわゆる被告人なのだろう。
なにがあればこうなるんだ?
「いったい何があったんだ?」
「今回の件は女性強制勧誘罪だな」
川谷がそう告げてくる。
そんな罪あったっけ。というか説明になってないし。
「どういう罪状?」
「どうやら被告人は昨日、隣のクラスの女性を誘ったらしい」
「誘ったって?」
「部活だよ。たぶん好意があったんだろうな。一緒の部活に入ってくれと言ってそそのかしたんだと」
ふむふむ。まあこれも一種の青春というやつだろう。自分が好きになった女性に積極的に声をかけるというのは全然悪くないと思う。思うのだが…………
「なんでそれが罪になるんだ?」
「もしかしてお前、"リア充撲滅会"知らないのか?」
「そんな絶妙に物騒な会は知りたくもない」
まるで常識とでも言うように言い放つ川谷。その目はありえないものを見るような目で。
え?なに?俺がおかしいの?別に間違ってはないよね?
ていうかなにそれ。突っ込みどころ満載なんだけど。
「実際どういうのなんだ?そのリアル暴行会ってのは」
「全然違ぇよ。なんだそのヤンキーどもが集まりそうな組織は。リア充撲滅会だ。少しはサイト見とけ」
川谷がそんな提案をしてくる。おぉ、その手があったか。
スマホを取り出し、恋愛学園サイトを開く。上部に検索欄があるのでそこに"リア充撲滅会"と入力をし検索する。
ま、出てくるとは思わないけ……………出てきちゃった…。
検索結果は確かにリア充撲滅会が存在することを教えていた。検索してちゃんと出てくるということは学校公認なのか?よくこんなの認めたな。
ざっと流し読みしてみる。どうやらリア充撲滅会は学年ごとに支部があり、代表取締役が全体を仕切っているらしい。
いったいどこの会社だ。学年ごとに分けられているということは何気に巨大組織なのか?すげぇなおい。
そして更に読んでいると6ヶ条というのが存在した。リア充撲滅会の6ヶ条は以下の通りである。
リア充撲滅会6ヶ条
1条 我らは恋愛学園においての学園生活では決して女性を汚すような行動をしてはならない。
2条 女性は敬う存在とし、いかなる場合においても礼儀を持って拝まなければならない。
3条 男が女性から求められる存在であってはならない。
4条 問題が生じた場合は全ては男の責任である。
5条 男は死して女性を守るべし。
6条 以上を守れない場合は裁判にかけ、執行される。
ふむふむ。一通り読んで分かったことがある。
………………………リア充撲滅会めんどっ!!
これ女性側からしたらいい迷惑だろ。むしろ撲滅会の存在自体が全てを汚しているだろ。大丈夫かこれ。校長はよく認めたよなこんなもの。
「これって強制じゃないんだな」
「まあな。皆が皆、女性を敬おうとか思ってるわけじゃないし。そういう感覚の持ち主が集まったいわゆる部活みたいなものだぞ」
川谷は遠い目をして告げる。
いや、そんな遠い目をされても。
「校長はいいのか?この部の存在を許している時点でカップルを減らそうとしているもんだぞ?」
「なにも校長だって強要しているわけじゃないだろ?人には人の恋愛というものがあるし、それぞれの青春の過ごし方があるんだよ」
これを恋愛っていったらストーカーも立派な恋愛と言えるような気もするんだけど!?いいのかな!?青春をこんな過ごし方で終わらせて!
そんな中、裁判はまだ続けられている。
『べ、弁護人!ヘルプ!助けてくれ!』
「ん?弁護人もいるのか」
「まあ撲滅会だって鬼じゃないからな。被告人に対する救済処置ってやつだろう」
「へぇ。それじゃまだ助かる余地はあるんだな」
「ちなみに過去5年間で弁護が成功したことはないとか」
「助かる余地がねぇ!!」
ダメじゃん!それ救済処置のように見せかけてなんも意味も持たないやつでしょ!被告人がかわいそうだ!あんたら鬼だよ!
被告人が弁護人に助けを求めると一人が前に出てきた。
その人は…………………女子か?
どうやらクラスの女子と思わしき人物は被告人を弁護しようとする。
『待って!平一君は悪くないの!』
女性がその言葉を発した瞬間、空気が一瞬にして凍った。
俺もその言葉に首を傾げる。
平一って苗字じゃないよな?ということは名前か。入学して1週間しか経っていないのにもう名前で呼びあっているというと…………
『弁護人。あなたは昨日この男に誘惑されたんですよね?』
俺の知っている事実がねじ曲がっている気がする!
『え?誘惑されたわけでは…………』
『先程の発言を聞いた限りだと何かしら親しいとお見受けしますが、いかがでしょうか』
『あ、はい。あ、あの、その……………』
女性が言い淀んでモジモジしだす。
あれ?これってまさか…………
『実は……………中学からお付き合いを……』
『有罪!刑はリア充撲滅会1-B支部会員全員によるコンパス刺殺刑!執行せよ!』
『死ぬかァ!』
一瞬にして戦場と化す教室。教室にいる男子生徒の7割がコンパスを持ち、思いっきり投げる。それに対して被告人(平一)は机を盾にしてやり過ごす。
すげ。あの平一とか言うやつの反応が悪かったら全身にコンパス刺さってたぞあれ。
被告人(平一)はコンパスをやり過ごしたあと、近くのドアから全力で逃げ出す。それを殺気立ちながら男子が追いかける。
教室に残されたのはまだ顔を赤らめている女子と机を片付け始める生徒たち。
いやいや。君たち、何普通にスルーしちゃってんの?順応早くない?
そう思いながら俺も片付ける。あれ?そういえば…………
あることが気になりリア充撲滅会には所属していない男に聞く。
「あのさ。もう一時間目始まってる時間じゃない?」
「ん?あぁリア充撲滅会の裁判は授業の時間割いて行うことができるんだよ。過去になにがあったかは知らんけど」
リア充撲滅会、恐るべし。
そして、今度は珍しく川谷が聞いてきた。
「久城よ。俺も聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「お前さ、遠藤と佐々波と知り合いなの?」
『これから久城紅葉に執行判決を言い渡す。坂上、罪状を』
『はい、罪状は美女となにイチャついてんだよクソやろう罪です』
「ちょっと待てぇ!いきなり現れたかと思ったら変な罪擦り付けんな!てかさっきの被告人はどうした!?」
『大倉は血の海に沈んだ』
大倉ぁ!死ぬなぁ!
裁判長(?)の言葉を聞いた瞬間教室を飛び出す少女が。それを憎たらしそうな目で見る裁判長。
裁判長。裁判は公平にやろうぜ?明かに私情挟んでござらんか?
「被告人、何か言いたいことはあるか?」
「山程あるんだけど!?」
「よし、有ざ……」
「頼む裁判長!少しでもいいから話を聞いてくれ!」
この裁判長自分が気に入らないことがあったら即座に有罪かよ!もはや情の欠片もない!
「まず裁判長、俺が言いたいのは俺がリア充撲滅会に所属していないという事実です」
そう、俺はリア充撲滅会に所属していない。というかさっき初めて知ったばかりだ。サイトを見てみた限りだと会員ではない限り、罪の対象にはなり得ないはずだ。
それに対して裁判長の意見は
「知るか。単純に幸せそうにしているやつがムカつくんだよ」
「裁判長がなに言ってんの!?本音駄々もれじゃんか!」
「皆の者。異論はないな?」
『『『なし』』』
「よし、ではこの男を飛び降り自殺の刑に処する」
「人の意見無視するな!というか飛び降り自殺の刑って!?人を自殺に追い込む気!?」
「そうすれば手を汚す必要がないからな」
「既に1名やられているけど!?」
「大丈夫だ。大倉は笑顔で逝ったよ」
「大倉が惨めすぎるぅ!!」
ダメだ!この裁判長、いや撲滅会全員が常識の範疇を越えている!
絶望しかけた俺。そんな中、必死に川谷にアイコンタクトを送る。何を伝えたいかというと
〈頼む!弁護してくれ!〉
もうそれしか手はない!過去の事例を聞く限り望みはミジンコよりも薄いがもう俺の声は裁判長には届かないんだよ!
必死にアイコンタクトを送ると、川谷は俺の伝えたいことを理解したのか、1歩前に踏み出す。
おぉ、アイコンタクトでいけた。
まさかとは思うが顔を読まれたわけじゃないよね?
そんな俺の思考はさておき、前に出た川谷を不審そうに見る裁判長。
「なんだね?弁護をするのか?」
「いや、するつもりはない」
え?しないの?
「むしろこいつが幸せになるのは腹立つから不幸になっちまえぐらいに思っている」
「被告人!妙な真似はするな!」
「離せ!あいつの首をへし折ってやる!」
『落ち着け久城!それ川谷が死ぬからな!?』
男子生徒が羽交い締めにしてくる。
すでに犠牲者が出ているのに何を今更!
それよりもあの男を………!!
なんとかして川谷を仕留めようと画策していると、川谷からアイコンタクトを受ける。
〈俺が言ったところでどうしようもないなら本人から伝えたほうが説得力があるだろ?〉
む………確かに川谷ごときが喋ったところで裁判長は聞く耳を持たないだろう。確かにその判断は正しいかもしれない。
-ところで川谷とアイコンタクトでやり取りできたな。あいつ、遠藤と同レベルの超能力を持っているぞ。-
ん?なんかさっきの川谷のセリフどこか引っかかるな。
「ただ、そのかわり俺の他に弁護してくれる人物がいる」
〔本人から伝えた……〕って、本人って…………俺のことじゃ?
「ほぉ、いったい誰だ?」
俺以外となると……………………まさか
「本人に聞いたほうが早いかと」
川谷が手で指し示す。その人物は…………
「え、私?」
このとき俺が思ったこと。
思いっきり忘れてたー。
感想等受け付けております!
感謝がありましたら喜びます。
文句がありましたら萎えます。