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恋愛学園  作者: りん
入学
8/17

決意は後悔より強し

「っ………!」



俺の唇に柔らかい感覚が訪れる。それがいったいなんなのかわからなかった。思考が追いつかない。頭が真っ白になっていると、柔らかい感覚がなくなる。



「それじゃあね、紅葉くん」



耳元で何かが聞こえた。そしてしばらくして立ち去る音が聞こえる。

静寂が訪れる。徐々に頭がクリアになっていく。さっきなにが……………………、いや、あれはまさか……………。


記憶を呼び起こそうとしていると突然殺気を感じる。

それは…………………遠藤からだった。


怖いっす。一歩間違えたら閻魔に変身しそうな勢いっすよこれ。何もなければ物静かで可愛らしい顔をしているのに、ふとしたことで般若の顔になるって、おちおち会話もできやしない。



「え、えーと。遠藤さん?」


恐る恐る声をかける。遠藤がゆっくりと顔を向けてくる。

あ、ヤバい。これ以上見たらダメだ。石化する。

目を必死に逸らしながら説得を試みる。


「えーとですね。遠藤さんの気持ちも分かるっすよ。そりゃ目の前で破廉恥なところを見てしまったら誰でもイラッときますもの」


明らかにイラッとするレベルを遥かに越える存在が目の前にいるけどね!


「で、でも佐々波は佐々波なりに考えがあってのことなんだろうし俺に限っては何もしてないですから。ど、どうかお気になさ」



「そういうことじゃないよ!」



…………………………え。今、遠藤が言ったのか?なんか今までとは何かが違う怒り方。



顔を覗いてみると、その顔は必死だった。



「違う、違うよ…………!久城くんは何もわかってない!」



何かを訴えるように叫ぶ遠藤。俺はただ困惑するしかない。

なぜこうなったのか。佐々波はいったい何をしたかったのか。遠藤はいったい何を伝えたいのか。

俺は悩むことしかできなかった。



不意に遠藤が我に返ったのか、顔を赤くする。



「あ、…………………ゴメン」



そう言い残し遠藤は去っていく。それを俺は止めることができなかった。



ただ唯一、理解できたことは


俺は今まで何も知らなかったということだけだった。




――――――




「お兄ちゃん?元気ないけどどうしたの?」



桜が気遣うように声をかけてくる。

今は俺のマンションで食卓にはサラダとハンバーグが並べられていた。だが、食べる手がなかなか進まない。まだ頭の中でモヤモヤと霧がかっている。


「なんでもないよ」

「嘘でしょ。だったらそんな顔しない」

「……………………………」


俺は黙りこむことしかできなかった。ははっ妹にさえバレバレだよ。

こんな単純でバカだから…………………俺は何も理解できていなかったんだ……………。


俺はまた顔を俯かせる。そうすることしかできなかった。


「お兄ちゃん。顔を上げて」


桜がそんなことを言ってきた。俺は意味がわからないまま、顔を上げる。すると



「むぐっ!」


口にサラダを突っ込んできた。がっ……………。急いで胃のなかに押し込める。


「ゲホッ……いったい何するんだよ!」

「お兄ちゃん!」


俺が叫ぶと桜も叫び返してきた。その言葉に俺は口を閉ざしてしまう。


「何があったのかは知らないけど、悩むのはやめようよ」

「でも………………」

「私の知ってるお兄ちゃんなら悩まないよ」

「え?」


桜を正面から見つめる。桜が言う言葉に耳を傾ける。



「悩んで後悔しても苦しいだけ、大事なのは自分が納得しているのな。お兄ちゃんは自分が納得したと思うの?」



そう言われて、思い返す。



佐々波は一方的にキスをしてきて立ち去り、

遠藤は理不尽に怒り、いなくなる。



ははっ。こんなんで…………………納得するもんか。

俺、何もやってないじゃないか。

あいつらばかり勝手にやって、俺だって言ってやりたいことは山程ある。


そして考える。明日いったいどうするべきか。まずは自分が一番納得のいくやり方で。


「よかった。いつもの顔に戻ったね」


桜が微笑んでくる。そういえば俺、自分の妹に慰められたんだよな…………。恥ずかしい、恥ずかしいですよ。兄の面目丸つぶれではないですか。

そこである提案をだす。


「今度、駅前に新しくできたファミレスで奢る、でどうだ?」

「え、いいの?やった!1回行きたかったんだよね~」


桜が大喜びする。よかった。こうでもしないと兄の立場がない。少しは兄の威厳を保たねば。



そういえば1つ思ったけど



「桜、俺って顔に出やすいと思う?」

「お兄ちゃんの場合は出やすいほうだと思うよ」


思わず顔を覆いたくなる。遠藤に言われてからというものすごく気になっていたが、まさか本当に顔に出ていたなんて。

恥ずかしい!恥ずかしいぞ!全部筒抜けだったんじゃないのか!?


「まぁ、お兄ちゃんは隠すほど秘密があるわけでもないしね。」

「な!?そんなことないし!1つぐ、ら………………………………」

「ね?」



はい、泣く。俺は所詮ちっぽけな人間なんだ。別にいいじゃん!隠すことがないっていいことじゃん!悪くないじゃん!


そう思わないとやってられなかった。




――――――




「ふぅ、疲れた」


風呂あがりでこんなセリフもどうかとは思うが、細かいことは気にしない。気にしたら負けなんだよ、ここは。


ベッドに横になり、少し考えてみる。


明日やるべきことを。後悔しないためにしたいことを。



「……………よし。寝るか」



新たに決意を固め、明日を待つのみとなった。

読んでいただきありがとうございます

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