思い立ったが最初は吉日、最後は厄日
土曜日―――――――――
「めんどくさいなー。」
一人愚痴をこぼす。なぜ、休日なのにこんな愚痴を呟いているのかというと………………
ま、食材を買いに行くだけだけどね。特にこれといった重要なことでもなんでもないよね。もちろん桜に任せたら食卓が崩壊するので食材は俺が直々に買いに行く。本当だったら昨日の学校帰りに買えば楽だったんだろうけど、昨日はいろいろあってすっかり忘れていた。
「恋愛活動部、ねぇ……」
略して【あいかつ】?違うな。これじゃただのパクリだな。 何がいいのだろう、と悩みながら歩いているとちょっと離れたところから声が聞こえて足が止まる。
『あのー。すいません。この場所ってどこだかわかりますか?』
どうやら道に迷った女の子が人に聞いているらしい。まあ聞かれた人がちゃんと教えてくれるだろうと思いスルーする。
気にはならないのか、だって?バカ言え。そんなご丁寧にフラグを立てる必要がどこにある。俺はめんどくさいことは極力やらない派なんでね。
ここで部活はめんどくさくないのか?と思われたあなた。しょうがないんです。部活は強制なのですから。いわゆる妥協ってやつ。
止めた足を再び歩き始めようとしたら、
「あのー。すいません。ちょっといいですか?」
目の前にさっきの女の子がいた。んなアホなぁ!?さっきまで向こうにいたよな!?
「あれ?さっき向こうで別の人に聞いてませんでした?」
「あ、そうなんですけど、わからないらしくて」
なるほど。全然納得がいかないが一応納得しておこう。こうして改めて正面から少女を見る。
金髪のロングヘアーで目が大きい。
背は俺よりちょっと低いぐらいでついでに巨乳。
…………………………外人?いや、でも見た目は日本人だな。ハーフかなんかか?
「それで、この場所を教えてほしいんですけど」
「あ、そこ?そこならここからあまり遠くはないですよ」
「え?そうなんですか?」
「引っ越してきたばかり?」
「はい。こちらに引っ越してきたあと、散歩してたら道に迷ってしまって」
「それだったらそこまで送りますよ。あまり遠くないですし」
「あ、ありがとうございます」
送っていくことを提案する。なぜめんどくさがりの俺がこんなことをするか、ただ単に向かう先が一緒だったからだ。じゃなきゃわざわざこんなことしないって。漫画の主人公じゃあるまいし。
とりあえず二人で歩き出す。あ、そういえば
「名前はなんて言うんですか?」
「あ、佐々波[さざなみ]美麗[みれい]と言います。高校一年生です」
「へ?それじゃ俺と同い年?」
「あ、あなたも高校一年生?そうだったんだぁ、緊張して損したぁ」
同い年だと知り、一気に脱力する佐々波。いや、態度が変わりすぎだろ。丁寧な印象があったのに今じゃ全然感じられない。
なんか喋り方にちょっと特徴のある子だな。
「俺は久城紅葉。よろしくな」
「はい、道案内お願いします」
可愛らしく微笑む彼女。これまた遠藤とは違う類の美女で。
そして歩いていてふと思う。…………………佐々波が身につけているやつ高そうだよな。あれブランド品だよ絶対。
佐々波が身につけている物はテレビで見たことあるようなやつもあり、家の人は金持ちなのかな、と予測できる。
しばらく歩いていると佐々波が突然足を止めた。何かをジッと見ているようだ。その目線の先には…………………焼き鳥屋台だった。
「食べたいの?」
「え!?あ、いや大丈夫、大丈夫だよぉ!」
大丈夫って何の話かさっぱりわからんが確かにあと少しで昼時だからな。腹も減ってるのかな。あ、やべ俺も腹減ってきた。
「佐々波。ちょい待っててくれ」
「え?」
思い立ったが吉日。ぱっぱと3、4本……………いや、7本買っとこう。買って佐々波の元に戻る。そして焼き鳥を取り出して
「食べるか?」
「え、その…いいの?」
「いいよ。俺が食いたかっただけでこれはついでだし」
そうでもなければ奢らないって。
「う、うん。ありがとう」
そう言ってはにかむ佐々波。そしてさっと目を逸らす俺。
なぜかって?こんなの直視できないって。耐性ないもん俺。何かを誤魔化すように焼き鳥を口に放り込む。
お、これは旨いな。また買いにこようかな?隣を見ると焼き鳥を食べながら本当に幸せそうな顔をする佐々波がいた。
「もしかして焼き鳥好物?」
「え、あ、いや。そういうわけじゃなくてー。その、えっと…………………………………………………………………やっぱり変?」
誤魔化すの諦めた!もうちょい粘れよ!!
「別に変じゃないだろ。俺だって好きだし」
「うぅ。でも思春期真っ只中の女の子が焼き鳥好きというのはいささかなものかと……………。モテないだろうしー。」
「そんなことないって焼き鳥好きだからって悪いことないだろ。それに………」
佐々波は俺の言葉に食べる手を止めて聞いている。
「それだったら焼き鳥好きな男子を見つければいいだろ」
そう言うと佐々波は驚いた表情をした。ちょっと適当すぎたかな?
しかし佐々波は微笑んで
「それじゃそうしようかなー?」
あ、マジでそうするの?自分が言い出しっぺなのを棚に上げてでも思ってしまう。
「あ、それはそうと………」
「ん?」
「もうちょっと買ってきていいかなー?」
恥ずかしそうに言う佐々波。足りなかったのか。
――――――
俺たちは今見上げている。なぜかというと………
「デカっ!!」
漫画でしか見たことないような高級住宅(いや住宅かこれ?)が目の前に存在していた。
「ここがお前の?」
「うん。家だよー。」
どうやら家に帰りたくて迷ったらしい、て今更どうでもいいわそんなの!!金持ちだろうなとは思っていたが想像を遥かに越えているよこれ!!庶民の考えは所詮ちっぽけなものだと思わざるを得まい。
「今日はありがとうねー。送ってくれてー。」
「お、おぉ。」
言うが否や家の中に入っていく。ま、無事なんとかなったみたいだし、よしとしますか。
――――――
「あ、お兄ちゃんおかえり。」
家に帰ると桜が家にいた。どうやら午前の間だけ外出していたらしい。
「おう、ただいま。」
時計を見るとまだ夕飯の準備ををするには早い時間だった。しょうがない、ゲームでもしますかな。そう思い部屋に戻ろうとすると桜が聞いてくる。
「あれ?お兄ちゃん何も持ってきてないみたいだけど何しに行ってたの?」
「ああぁぁあ!!?」
結局食材を買っていなかったことに今更気づく俺だった。
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