リモコンも手から滑る
「見た感じはまだ使えそうだよな」
「そうだよね」
今俺たちの目の前にはテレビが置かれている。
このテレビってあれじゃね?液晶ハイビジョンテレビってやつじゃね?なんでこんなところにあるんだ?
「あ、でもこの回線をここと繋げればなんとか………」
「美麗ちゃんわかるの?」
なんかいきなり佐々波が弄りだした。
方向音痴のくせにこういうのはできんの?
「うん。私好きなんだー機械を弄るの。一時、自作のパソコンも作ろうと頑張ってねー」
「すごいね!難しくないのそれ?」
遠藤が絶賛する。
なにそれ。あなた無駄にハイスペックですか?というかこういう自分の能力ってもう少し前置きとかしてほしいものなんだけど。
こんなあっさりと披露しちゃいます?
「あ、そこ持っててー」
「うん」
女の子が2人仲良く作業する光景。
おぉ、俺恐ろしいほど除け者にされておる。
俺が女子の会話の輪に混ざる度胸があるわけもなく、ゴミ袋を持って部屋を出る。
――――――
「ふぅ~~~いい仕事したぁ~」
「お疲れ様。これ飲む?」
「ありがとー」
俺は幻覚を見ているのだろうか。
おかしい。少なくとも最初に見たときテレビはおよそせいぜい60インチほどしかなかったはずだ。
それなのにちょっと見ない間に
120インチのルームシアター並のスクリーンになっていた。
「ちょっと待てぇえ~~!」
「あ、お疲れ様。久城くん」
「おかえりー」
「平然と流すな!どうやったらこうなった!?」
「私頑張ったんだよー。労ってー」
「治すだけだよな!?なんでサイズまで変わってんの!?特大サイズじゃねぇか!」
「どうせだったら大きな画面で見たいし、ね?」
ね、じゃない!ある意味すごいな!そんなに部品もあったっけ!?ここまでとは思わなかったわ!
「アンテナはもちろんネットも繋いでついでにスピーカーも取り付けたんだよ。美麗ちゃん凄いよね」
「この短時間でよくそこまでできたな!?俺も見たかったよ!ごみ捨てにいかなきゃよかった!」
くそぉ~!なんでごみ捨てに言ったんだ俺のバカァ~!
「とりあえず折角だから早速見てみようよ」
「だねー。あ、でも道具とか片付けておかなくちゃ。ちょっと行ってくるー」
そう言って道具を持って部屋を出て行く佐々波。
佐々波には申し訳ないが……
「先に見ちまおうぜ」
「早く見てみたいな」
なんだかんだ言って遠藤も早く見てみたいらしい。
いつの世代になってもこういのには興奮するもんだよな。
リモコンを手に持ち電源を入れる。
間も置かずに映像が映しだされる。
『リア充は死ねぇ~~!!』
『死んでたまるかぁ~~!』
ブチッ
思わず消してしもうた。
「遠藤よ。説明を求む」
「美麗ちゃんが折角だからってカメラハッキングしたんだよ」
「犯罪じゃないのそれ!?折角だからっていうのもおかしいし!」
「私もそう言ったんだけど美麗ちゃんがいつか役立つかもしれないって」
佐々波、なんて恐ろしい子。どう考えても役立たないぞ。
というかハッキングまでできるのか。
テレビといいハッキングといいあんたのそのスキルはいったいなんですか?
「このボタンを押せば切り替わるから」
そう言ってリモコンを手に取る遠藤。
ポチッ
『それでさー』
『そうなのぉ~?それじゃ今度そこ行こうよ』
ブチッ
バゴォン!
画面に映しだされたのは………女子更衣室だった(女子着替え中)。
「久城くん……今の見た……?」
「み、見てませんよ?見てないから壁に投げつけて粉々になったリモコンをどうにかしようよ、ね?」
こ、怖い!遠藤がなにかの扉を開いた!
女の子にあるまじき扉だぞそれ!
最近遠藤が可愛いと思えなくなってきたこの頃。
女の子は見た目だけじゃないよね。
「そういえば番組を見るんだったらこっちのリモコンだったよ。ゴメンねー間違えて」
「い、いえ……大して問題は」
そう言って取り出したリモコンのボタンを押す。
ポチッ
ブチッ
え!?今何があった!?
「遠藤さぁん!?今何をやったの!?」
「久城くんは何も見てないよね?」
「早すぎて見えなかったっス!遠藤は見えてたん!?」
1秒も経たなかったぞ!遠藤変なところで実力を発揮してくるよな!すげぇ気になるよ!いったい何が放送されてたの!?
「ただいまー」
そんな中佐々波が戻って来た。
「おかえりー」
「あれ?どうしたの?」
「ゴメンね。手が滑っちゃって」
「別に大丈夫だよー。また作ればいいしー」
なるほど。手が滑るとリモコンが粉々になるのか。
……………………怖ぇなおい。
佐々波もなんで納得する。疑問を持たなきゃおかしいからな。
「テレビの調子はどうだった?」
「うん。完璧だったよ」
絶対「完璧」の前に「ある意味」がついてるよな、その言葉。
「よかったー。うまくいったみたいで」
しかも佐々波は自覚がないらしい。
この人たちは破壊兵器なのかな?
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早くGWになんねーかなー。
早くこの地獄から抜け出したいと思うこの頃。
次話からGW突入です。




