言わぬなら 吐かせてみせよう リア充よ
なぜだ。なぜこうなってしまった。
桜に言われたじゃないか。
悩むのやめよう、と。
決意したじゃないか。
自分がしたいことをする、と。
揺るがない自信があった。実際今朝まではあった。
少しは迷っていたかもしれないが迷うだけではダメだと思ったから。
自分からなんとかしようと思えたから。
それなのに------
「え、えっと」
目の前で遠藤が言い淀んでいる。
どうやら場の雰囲気についていけていないみたいだ。
なぜだ。なぜこうなってしまった。
謝るつもりだったのに。ほら、向こうも気まずくなってる。
俺のこの気持ちはいったいどこにぶつければいい?
この場を借りて遠藤に謝るべきか?
いや、余計に場を混乱させるだけだ。
でも、このままで言い訳でも………………
「遠藤様、いったいどういうことですか?」
裁判長がさらに問い詰める。
さすがリア充撲滅会支部1-B代表。女性に対する礼儀は忘れていないらしい。まさか様付けをするとは思わなかったぞ。
ほら、他の女子が汚物を見る目で見ているではないか。
あれ?俺も睨まれてる?
問い掛けられても遠藤は何も言わない。
その近くで川谷が困ったような顔をしている。
遠藤の気持ちは分かる。
昨日あれだけ気まずいことになったのに今更何が言えるのだろうか。
だからこれだけは言いたい。
アイコンタクトで川谷に伝える。
〈キサマ空気読めえぇ~~!!〉
最悪だよこの男!なにしてくれとんのじゃ!そりゃ何も知らないからしょうがないかもしれないけどさぁ!
アイコンタクトで俺の怒りが伝わったのか川谷が申し訳なさそうな顔で
〈スマン。余計なことしちまったみたいだな〉
一見すると俺の理不尽な怒りのようにも見えたが川谷も場の雰囲気で分かったのか謝ってきた。
分かってるさ。川谷は何も悪くない。
確かに本人に喋ってもらったほうが早いだろうし、その考え方は間違っていない。最善の選択肢だ。
けどタイミングが悪い。今はダメなんだ。ダメなんだよ。
頭を悩ませる。ここは俺がなにか喋ったほうがいいのか。
しかし、それでも……………。
ひたすら頭をフル回転させて悩みだした末にある方法を思いつく。
あ、そうだ。誰かに擦り付けちまおう。
なんか俺が悪人みたいに思えてきたが、この際はしょうがない。見逃して貰いたいものだ。そっちのほうが早いし。
実際、俺は巻き添えくらっただけなんだから別に悪くは………………
そして、ふと思い出す。
あれ?俺、誰のせいでこうなった?
ゆっくりと川谷のほうを向く。そしたら川谷と目があった。
すると川谷は俺の目から何かを感じ取ったのか一瞬で目を反らす。
冷や汗をかきながら。
てめぇのせいかあぁ~~~!!!
そうだ、そうだよ。あいつが余計なこと口にしたせいでこうなったんじゃんか!こいつ、一生許さん!
俺と川谷がアイコンタクトをしている間にも遠藤は何も喋ろうとはしない。
そして、裁判長が堪えかねた顔をしている。
マズい、マズいぞ。これは俺がなんとかしなければ!
「さ」
「黙れ」
「ひでぇ!あまりの扱いに涙が出そうだ!」
1文字しか言ってないんだけど!?
せめてなにか言わせて!
とうとう痺れを切らした裁判長が何か言おうとしたとき、扉が勢いよく開いた。
「ちょっと待ったぁ~~!!」
その人物は血の海に沈んだ人………じゃなくて大倉だった。
生きていたのか、大倉。お前すげぇな。
その後ろにはあの女子の姿も見える。
あれか、愛の力というやつか。かっこいいぞ、大倉。
ん?でももう一人いる気も………
「てめぇ、まだ生きていたのか」
裁判長がすごい剣幕で言い寄る。
それと同時に周りの男子生徒数人もコンパスを構える。
裁判長よ。そんなに露骨な表情をしなくてもいいだろ。
なに今度こそ仕留めてやる的な雰囲気出してるんだ。
「その男の処刑は止めてもらおうか」
大倉はそんな状況にも屈せず正面から言い放つ。
おお!大倉!助けてくれるのか!
大倉が神様に見える!
「ほぉ、あの男を助けようとでも言うのか。」
「そんなつもりはない」
なんか一瞬デジャヴったぞ!!
お前にとって俺の存在価値は蟻程度なのかな!?
大倉が魔王にしか見えねぇ!
「まぁ、そうだろうな。あいつは所詮ミドリムシぐらいの存在価値しかないからな」
「違うぞ!少なくとも蟻ぐらいの存在価値はある!」
「今騒ぐとややこしくなるから動くな!」
「離せ川谷!あいつらの脳みそを握りつぶしてやる!」
暴れ出そうとする俺を羽交い締めにする川谷。
あいつらなんなんだ!どんだけ俺を怒らせたいんだ!
てか、大倉マジで蟻程度だと思ってたの!?
「俺が言いたいのはそういうことじゃない」
「もういい、生きていたのならまた殺るまで!」
『『『おお!』』』
「こうなればまず裁判官から………!」
「お前も1回黙っておこうか!」
「え、えっと……」
場が更に混沌に満ちる。
もう誰も止められないかと思われた。
「………………言っとくが今2時間目入っているからな」
『『『『へ?』』』』
皆が大倉の言葉に疑問符を浮かべる。
そのとき、大倉の後ろからある人が進み出た。
「お前ら、どうなるか分かってるんだろうな?」
俺たちは一斉に表情を強ばらせる。
その人は、我らが担任の篠沢愛子先生だった。
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「言い訳を聞こうか」
「なんで俺だけっすか!?」
現在、放課後。俺は生徒指導室にいる。
一人で。
俺は篠沢先生に問う。
「俺巻き込まれただけなんですけど!?」
「もちろん他のやつらも罰の対象だが、お前が一番悪さしたらしいからな」
「嘘でしょ!?」
バカな!?俺は被告人になってたのに!
むしろあのリア充撲滅会どもが一番悪いだろ!
人を殺しかけてるんだし!
「嘘ついてもても無駄だ。私の目は誤魔化せないぞ」
正直言って節穴にしか見えない。
「俺がいったい何をしたと言うんですか!?」
「なんでも大倉が処刑されかけたのはお前がチクったからだとか」
「身に覚えねぇ!あと処刑されかけたんじゃなくて処刑されてたからな!?血の海に沈んだからな!?そっちのほうが重要だろ!!」
「大倉本人の証言だが?」
「大倉ぁ~~!!」
あいつあとで絶対殺す!
彼女さんには申し訳ないがあいつは生きてはならないやつだ!
俺の心の中で大倉は要注意人物の仲間入りとなった。
「それに処刑に関してはリア充撲滅会の判決だ。学校側は何も手出しはできない」
「学校情けないぃ!」
学校はなにやってんの!
リア充撲滅会どんだけの権力持ってるんだ!!
「それにリア充撲滅会はルールを破ったからな」
「ル、ルール?」
「忘れたわけではないだろうな?」
忘れたどころか元から聞き覚えありましぇん。
「確かにリア充撲滅会の裁判において授業の一時間を使うことはできるが、それ以上は教師が干渉することができる」
「なるほど。確かに、あのときはもう2時間目に突入してたからな」
「というわけでリア充撲滅会も罰の対象になる」
ほぉ、なるほどね。は、ざまぁみろ、リア充撲滅会。
俺を陥れるからこうなるんだ。
そして、そうなると疑問が出てくる。
「だからお前が責任とるんだろうな」
「はい、そこおかしいですよ」
俺は無関係だ。ましてや被害者だ。
だがそこ吹く風と篠沢先生が言う。
「お前は支部長なんだから当然だろ?」
「………………………………………………は?」
ちょっと待て、それは絶対おかしい。
俺は今日リア充撲滅会の存在を初めて知ったばかりだぞ?
支部長は他のやつらだろ。裁判長とか。
「他の会員に確認をとったところお前が支部長だって言ってたが?」
「バカなあぁ~~~!?」
嘘だろ!?いったいなんでそんなことに!!
「あと他の生徒の証言だと無関係の男子生徒の首をへし折ろうとしてた、とも言ってたな」
「……………………………………………」
あれか。川谷のあれか。
………………………………………否定はしません。
「否定はしないんだな?」
「で、でも!俺は本当に違いますって!信じてください!」
「まぁ、違うだろうな」
「……………………へ?」
いきなり篠沢先生が俺を無罪だと言っているように聞こえる発言をした。
「そ、それって」
「お前は本当は無関係なんだろ?」
マジで!?いきなり心変わりか!?
逆に怖ぇ!
「実はある生徒からお前を肯定する証言を得られた」
「だ、誰ですか?」
「遠藤だよ」
俺は心底驚いた。
な、なんで遠藤が……………。
「なんか凄い真剣な表情してたぞ。久城は無罪ですって、何度言われたことか」
俺を庇ってくれた…………?
なんでなのかは分からない。
しかし、それでも分かることはある。
遠藤は俺を気遣ってくれたんだろう。
昨日あんなことがあって、遠藤も遠藤なりに悩んでいた。
だから、俺を庇ってくれた。
もしそうなら……………俺はこんなことをしている場合じゃない。
「篠沢先生、俺用事を思い出しましたので失礼します」
「ん?そうか。ならさっさと行ってこい」
篠沢先生は俺の突然の申し出に止めようとはしなかった。
「いいんですか?俺を指導するんじゃなかったんですか?」
「言っただろ?私の独断で判断するがお前は無関係者だ。前にまともに相手してやれなかった借りを返しただけだよ」
篠沢先生のそのセリフに思わず苦笑する。
そういえば俺、前にサイトの件について先生に相談したんだっけ。
あのときは先生が暴走して俺が逃げちゃったんだよな。
「ついでに言うと、川谷も言ってたぞ。久城の件については俺のせいだった、と」
そうだったのか。
あいつも俺を気遣ってくれたのか。
あとで謝らないとな。
そう思い、指導室を出ようとすると
「あ、そうそう。部室についてなんだが、東棟の2階の空き室を使うことになった。遠藤にも既に伝えてあるぞ」
まるで今思い出したかのように言う篠沢先生。
………………………ありがとうございます。
一生感謝します。
「あと、」
「はい?」
「あまり心の中でフラグを立てるなよ」
「それ言っちゃう!?」
やっぱ感謝しねぇ。
1週間に1話のペースになる予感が………!