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ならず者学級

  教室を振動するような大歓声もなりを潜め、静かにマッシー教授は講義を始めた。


  大歓声の主の風斗は素早く席に戻ると席の横にかけていた鞄から教科書を取り出し、シャーペン代わりの筆ペンも机に出していて、いかにも授業を受ける気満々だ。


  異世界へ来てからというもの全ての事柄に、興味や関心が向いている風斗。まるで生まれたばかりの赤ん坊のようだ。


  それは抑圧された環境から抜け出したお陰か、それとも飾らない自分で生きてゆける世界であることか、どちらにしてもいつの間にか風斗は心の仮面を外していた。


  リッケルに対して脅迫にも似た行動をとってしまった事も、自分の行動を邪魔された苛立ちによるものである。普通の人であれば幾らか我慢を覚えるのであるが、我慢我慢の人生の中で初めて得たこの感情に未だ整理がついていないのであった。


  風斗の中で興味を邪魔する相手ならば、誰であっても容赦はしない。その考えが浮かび始めてしまっていた。リッケルといえば、教室の後ろについているロッカーにとぼとぼと歩みを進めている。


 教室での絶対的地位を転入生、しかも一度ボコボコにした相手に奪われたのだ。それにクラスメイトの目の前で。自尊心はボロボロになっているだろう。体よりも小さくなってしまったように見える背を見つめながらマッシー教授はどうしたものか、と内心ため息を吐いた。


  講義を一旦中断し、未だざわざわとする生徒達に鋭い視線を向ける。


 一瞬その眼光に皆がたじろぐが、小学校低学年の子達が多く集まっているのだ。興味の対象への意欲までは抑えることが出来ない。


  一息、ため息をとると呆れたような口調で話し始める。


「今日のこの時間は自習とする。はぁ...みんな興味津々らしいから風斗くん、ここまで来て教えてやってくれないか?」


 やれやれと肩を竦めながら要求するマッシー教授に風斗は楽しみにしていた授業を中断されたことに複雑な心境を持ちながら渋々教壇に立ち、起こったことを淡々と話し始めた。


  「えーとまず、さっきリッケルを受け止めたのは身体強化と観察眼の合わせ技です。身体中にマナを張り巡らせるのと同時に、目にもマナを集めて観察眼を発動しました。観察眼っていうのは周りがスローモーションになる固有技能です。」


  一息をつき、さらに続けた


「土曜日の朝から夕方まで初歩的なマナについて友達に教わりながら実際にマナを使う実技を何度も反復しました。

  そこからはほとんど寝ずに自室で、借りてきた本を観察眼で読み進めていました。歴史やら魔法のことやら、片っ端から目に付いたものを一日で大体、う〜んと100冊ぐらい?かな。読んでいました。借りるのも返すのも大変だったね」


  淡々とこなされる説明と想像の斜め上を行く体験にマッシー教授含め、全員が息をするのも忘れ、口をぽかんと開けていた。リッケルでさえ、いつの間にか着替え最前列で食い入るように聞いている。


  元いた世界でも読書家であった風斗だが、異世界に来てからはその欲が気持ち悪いほど増幅し観察眼を扱うがてら、読書をしていた。


  ライトノベルを読んでいなかったのは不幸なのか幸福なのかは神にでも知らないところである。風斗が練習した身体強化は初歩中の初歩であり、観察眼も別段珍しい技能でもない。


  観察眼が使われる場面も備品チェックや本の整理などの目を使う事務的な場面が多い技能だ。その他もあるにはあるのだが、あまり日の目を見るような技能ではない。そのことは生徒全員が知っておりリッケルは自分の疑問を風斗に、もじもじと聞き始めた


「身体強化は授業で習ったしよ〜一通り固有技能も勉強したぜ。受け止められたのも分かるけど俺の火竜を弾いたのが分かんねぇよ。しかも見ないで。」


  それは当然の疑問だ。風斗に向かうとはいえほぼランダムな着弾点を、見ずに跳ね除けていたのだ。

 

  そのあとの空間移動のような出現もその全てが異質といえる。


「色々な魔法についての文献を読み漁っていた時に見つけたんだけど、同じ威力の魔法同士のぶつかり合いは属性に限らずお互いが打ち消し合うんでしょう?

 それと強い魔法と弱い魔法の打ち合いは弱い方が消される。合ってる?」


  風斗の講義に夢中だった生徒達は我を取り戻したかのように頷き始めた。


  魔法には様々な種類がある。魔法の発動には体内のマナを外に放出し、様々な命令式をマナ自身に書き込む事で具現化を果たし、様々な効力を発揮する。

 

  命令式とはいったが個人的な感覚で発現、命令できるので慣れた魔法なら体の一部を動かすような感覚で操ることが出来る。


  一つ一つ思い出すように頭に浮かべながら丁寧に話を続ける。


「それでふと思ったんだけどね。弱い魔法でも強い魔法に影響を与えられるんじゃないかなって思ったんだ。」


  ここまで話すと察しのいい生徒やマッシー教授はカラクリに気づいたようで、感心したような羨望するような眼差しを向け始めていた。


「まず席に着いた時に周りに自分のマナを少し体の周りに風にして漂わせておいたんだ。絶対リッケルなら反撃してくると思ってね」


  軽くリッケルにウインクをしてみる風斗。とうのリッケルは非常に居心地悪そうに苦笑いを浮かべている。そんな表情を見てからさらに話を続けた。


「文献で読んだマナ感知の技能みたいなことがしてみたくて、やってみたんだけど成功したみたい。

  強いマナを感じれば頭にどの位置から、どのスピードで、どれぐらいの数で来るのかを把握出来るように調整しておいたんだ。

 そしてあとは迫り来る火球に『ボンッ』。今みたいな弱い風魔法を角度をつけて直前に当てて起動を逸らしてみたって感じかな。」


 長い説明だが、頭の中で整理しながら、ゆっくりと話していく。生徒はその言葉に耳を傾けている。



  「さらに身体強化に加えて体全体を風で覆って全身の行動の速度をあげれるようにしてみたんだ。う~んと全身を追い風で纏っているみたいな感じ。

 それが僕の『風纏』。

  色々な動作の速度をあげれるんだけど今はまだ簡単な体のコントロールしかできていないんだけどね…。

  まぁでも土曜日にマナの基礎訓練、日曜に魔法の基礎訓練と今の知識を形にするのでだいぶ時間が掛かっちゃったけどちゃんと身に染みていて良かった」


 いつの間にかしんと静まり返った教室に柔らかい笑顔が咲いた。


  風斗はこの二日間の猛特訓で得た知識、経験、練習がしっかりと形になっていることを実感し、確かな実績と喜びに体のそこからジンと熱くなってくるような快感を覚えながら、拳を握りしめていた。


  一人だけで余韻楽しんでいるとリッケルを含めた数十人の生徒が風斗の元に駆け寄ってくる。


「風斗!いや、風斗兄ちゃんすげぇ〜!!!」

「私にも教えて!」

「いいや僕が先だね」

「私もシュバって移動してみたい!」


  自分よりも半分ぐらいの身長の子達が目をらんらんと輝かせながら口々に賞賛の声を風斗に浴びせている。


「なぁ風斗兄ちゃん!全部一人で特訓したのか?」


  あんなに邪険に扱っていたリッケルはもう弟分の気分のように、はしゃぎながら聞いてくる。

 

  敗北よりも未知の技能や知識を持っている風斗が単純にかっこいいと感じたのだろう。


「いや、ずっとリシュと一緒に鍛錬してたよ」


  リシュという人名を聞くやいなや生徒達の目がじわじわと広がって最終的には目が点に、といったふうな光景が出来上がっていた。リッケルが堪らず声をあげる。


「す、すげぇ!!!リシュ姉ちゃんと特訓してたのかよ!!!」


  瞬く間に広がる歓声にまたひとつ驚きながらも風斗は賑やかに過ぎていく時に、そっと身を委ねるのであった。


 ---------------------


  次の日、いつもの様に優しい日差しを受けながら身を起こし、可憐な鳥のさえずりを聞きながら身支度を整え、リシュに髪の毛の色を変えてもらう風斗。


  昨日の出来事や特訓のあとの一人での鍛錬を話しつつ部屋を出る。


 リシュの反応といえば、一人の時間の時を話すと心配の二文字が額に浮かんだんじゃないかと思う表情を浮かべ、教室の出来事を話せば、歳上の冒険者に憧れる無垢な少年のように顔を輝かせ、嬉しそうに笑いかける。


  風斗もその百面相に楽しさを覚えながらも名残惜しそうに教室へ向かうエレベーターで別れを告げた。


  長い白を基調とした壁と、真紅に染まった絨毯を歩きながら様々な文献で得た知識を自分なりに整理していく。


  この世界に来て驚いてばかりの風斗だったがいち早くこの世界に慣れようと必死であった。


  空いた時間には身体強化、風纏の練習。


  自室に帰ると数百にも及ぶ鈍器のような本の読破、その間にも観察眼の併用などとてつもない過密スケジュールをこなしていた。


  何が彼をそこまでさせるのかというとおそらく家庭の割合が大きいだろう。


  政治家の息子として日夜様々な習い事や処世術を学ぶにつれて、興味、関心、意欲などが著しく下がっていた。物心がつく頃には自分を機械だと言い続け()()な息子や一人の人間を演じてきた。


  そんな彼が家庭から解放され、初めての世界で人間らしい感覚を取り戻しつつある。その事が大きな要因といえよう。また、言語や単語の意味などがほとんど元いた世界と同じであるのも要因の一つだ。


  二人に初めてあった時やところどころ出る単語に内心まさか、とは考えていたがその考えは的中していた。時間の概念や週制度などほとんど差し支えないレベルで同じであり、一つ一つの単語もおおよそ同じであった。


 もちろん食べ物や魔法に関する内容は初めてのことしかなかったが、図書館においてある辞書やリシュに聞いて一個ずつ覚えていく。


  そして早速土曜日の帰りに図書館に寄り、ドン引きする周囲の人達や苦笑いを浮かべるリシュに構わず嬉嬉として片っ端から本を借りて読破していたというわけである。


  色々なことに戸惑いながらも初めて興味を持ったこの世界に、どんなことが起きるのだろうと胸を期待で膨らませている風斗。


  昨日は有耶無耶になってしまったがどんな講義をするのだろうと足を速め教室のドアの前にたどり着く。荘厳なドアからつい先日のようなガヤガヤとした騒がしい音は響いておらず、代わりに静かな開閉音とともに自動でドアが開く。


  そこには各々が静かに席に座りただじっとマッシー教授が来るのを待っていた。あのリッケルでさえ何やら深く考え事をしているようでその眼差しを深く前に向けている。


  予想もしない光景に内心驚きつつも音もなく自分の席に座ることにした風斗。


  見慣れない袋が机の上に置いてあり、訝しげに見てみるが他の生徒の雰囲気に気圧されただじっと川辺の岩のごとく佇むことにした。カチカチと音を立てる時計がおよそ5分ほど進んだあたりだろうか。


  自動ドアが開きマッシー教授が現れた。いつもの少し頼りなさそうな柔和な態度はなりを潜め、教師の威圧を感じさせる態度で教卓に立つ。


「みんな、おはよう。」


  静かな重低音が腹の底に響く。


「突然だが私は皆にすまないと正直思っている。皆も知っているようにこの第五等学級は、よそのクラスから『ならず者学級』と呼ばれている。

 普通の新入生は第四等学級か優秀ならいきなり第三等学級に配属になるのが普通だ。しかし能力やその他私生活になにか不備があるとこの第五等学級に落とされ再教育を受ける。皆も心当たりはあるね?」


  その言葉に教室中がさらに静けさを増す。思うところがあるのだろう、数人の生徒は下を向いてしまっていた。


「かくゆう私もここの配属が決まった時に『何故私が?』と思ったよ。そして普段の講義の内容は君たち個人を成長させるようなものではなく更生させるものが多かった。実技魔法の訓練がないのはそのせいだ。」


  静かにゆっくりと言葉を紡いでゆかれる言葉を聞き逃さないように耳を傾ける生徒達。風斗もその一人だ。


「しかし、昨日みんなも風斗君を見ただろう。少なからず私は畏怖し、尊敬をした。魔法のまの字も知らない彼の成長を見て私は明るい未来を見てしまった!」


  いつの間にか熱が入ったような声に生徒達も答えるように各々の声をあげ始める。


「もう誰にもならず者学級なんて呼ばせない!第五等学級の皆でこの学級を飛び回りたいと思っている!そのために私の知識を余すことなく教えよう!そのために私の時間を余すことなく君たちに割こう!そのために皆の意欲を私に託してほしい!」


  その謝罪はいつの間にかお願いに、そして演説になり生徒の心を揺らした。


  冷たい底に響くような声色は、いつの間にか心の奥底に暖かい風を流すようにこの場にいる全生徒に駆け巡る。小さい歓声は教室を揺らすほどまでの歓声となり、生徒は皆立ち上がりそれぞれ片腕を空に突き出し吠えていた。


  風斗もその熱意に胸を焦がしながら片腕を突き出している。たしかに火種はまだ小さいかもしれないが、爽やかな風がその火を大火にしてくれるだろう。


  ポエミーなことを考えながらフッと微笑みこの先の事を思い描くマッシー教授であった。








お久しぶりです。書きだめをしながら書いていきたいなぁと思い1週間のうち土曜日投稿にとりあえずしようかなーと思います。

これからもよろしくお願いします

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