特訓です!
小説の名前をわかりやすく変えました
この異世界と元いた世界では明確な違いが多数存在している。その中でも一際目立つ存在は『マナ』と呼ばれる存在と、『魔物』の存在だろう。
マナとは魔法を使えるエネルギーである。いってしまえばゲームなどに登場するMPのことだ。この世界の空気中にも存在しており、体内に存在しているマナを使うことにより様々な魔法や身体強化を行える。
保有しているマナには個人差があり、それによって使える魔法も変わってくるようだ。マナの回復手段は主にマナポーションと自然に回復するものの二つがある。
マナポーションとはマナが凝縮された液体で、全世界に配布されているものであり、誰でも気軽に買える。
自然回復は体が失ったマナを空気中にあるマナから自動で吸収する代謝のようなものである。これには個人差はなく基本的には皆同じ速度で回復していく。
そして魔物とはこの世界の三分の一を閉めている大陸から攻めてきている生物である。様々な種族間での[認識外敵]となされていて現在最も対処しなければならない問題として世界を悩ましていた。
以上の事柄をグラン学院の体育館のような場所でリシュに教えられる風斗。時刻は早朝、柔らかな日差しと鳥のさえずりが聞こえてくるとても良い日だ。
「言われたとおりに朝ここに来たけど...リシュって目悪いんだ?」
その言葉を聞くとリシュはムンっと胸を張り、こっちの方が知的に見えるじゃないですかと言わんばかりの表情を浮かべメガネの端をクイクイしている。
その行動になんともいえない表情を浮かべる風斗だったが、何やらこの眼鏡自体に効果があるみたいで風斗にも手渡してきた。
どこにでもあるような黒縁メガネで変わった点はない。恐る恐るかけてみて周りを見渡しても変化は特に感じられなかった。頭にハテナマークを浮かべながらリシュの方に向き直ると今までにない光景が目に飛び込んでくる。
リシュの体がシルエットのように半透明のような青白いものになり、代わりに心臓の位置に揺らめく青い炎がメラメラと燃え盛っている。
「気づいてくれましたか?この魔法道具は他人のマナ量を見ることが出来るんです。それだけだと使い道はあまりないんですが、鏡を併用して使うと...」
リシュは懐から持ちやすい片手サイズの袋を取り出し、そこに手をかざすと魔法陣が現れ、姿見が飛び出し見事にリシュと風斗の前に降りたった。
「え、今何したの!?」
「まぁこれも魔法道具の仲間なんですけれど今は説明を省きますね。目の前の鏡を見てください」
促されるまま見ると、リシュと風斗の体を写していた。眼鏡を通して見ているのでどちらの体も半透明で心臓の位置に青い炎が揺らめいている。
ただ、風斗の青い炎はリシュのそれとは比べ物にならないほどに小さくおおよそ五分の一程度であった。並び立つことで二人の背の高さも明確になってしまっている。
「なんか小さいね…僕の...」
「ま、マナ量は日々の鍛錬である程度は大きくなりますよ!」
表情を暗くする風斗に、必死にフォローをするリシュ。もうこの風景も慣れてしまったが、今回は少し違うようだった。
「ごめんごめん、ついその顔のリシュが面白くって。大丈夫、こんなことするためにここに来たわけじゃないから!」
もう〜と言いながらも決意に満ちた風斗の目を見るリシュ。確かな思いを受けて、始めますといったふうに講義が始まった。
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時は進み今は夕方。茜色の優しい色に染まる校舎は絵画の中から出てきたかのように優美で、観光客なら誰もが足を止め被写体にしていたであろう。辺りは既に夜の気配を感じ始めている。
「おさらいしますね」
咳払いをしながらそう言うリシュの隣では、息も絶え絶えといった風に風斗が膝に手を着いて流れる汗を地面に滴らせていた。
「初歩的な身体強化は保有するマナを全身に巡らせる事で、通常の何倍もの身体能力を手にすることです。イメージは心臓が全身に血を巡らせるって感じですね。風斗さんの『観察眼』もマナを目に集中させることで、周りがスローモーションのように見える固有技能だと言われています。」
幾度となくされた説明を身体強化を施しながら聞く風斗。保有するマナは底をつきかけている。
だが身体強化をマスターするまでは個人差がある。その理由はマナという実際には目に見えないものを扱う以上、本人の感覚に頼るしかないからだ。それは首席であるリシュでさえ教えるのが困難である。
「一日でここまでできるのは凄いですよ!もう夜になってきてしまいましたし、そろそろ切り上げましょうか」
感心しながら本心を言うリシュに対して風斗は以前変わらず、目元だけ厳しさを携えている。
「でもまだまだだね。一日中意識しないでできるようにならなくちゃ」
身体強化で重要なのは一定間隔で薄くマナを全身に巡らせることである。保有マナが少ない風斗でも身体強化を意識しないで一日過ごすことは可能である。
だがそれは一定の速度、同じ位置で永遠とボールを投げ続けるのと同じくらい難しく、現に五分も持たないうちに保有マナがつきかけてしまうのが現状であった。寄せられている眉間のシワを戻すと、リシュに笑いかけ汗を拭う。
「ごめん、最後に寄りたいところがあるんだけど良いかな?」
「いいですけれど...どこですか?」
「本が借りられるところ」
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雲一つない晴れ渡った空に爽やかな風がなびく心地のピクニック日和な日。白を貴重にした廊下に真紅に染まった赤い絨毯の上を歩く人影があった。
「風斗くん!本当に大丈夫かね!?あの日はすごく心配したんだよ!ああ...私がいながら不甲斐ないばかしで君に本当に申し訳なく思っている!カリスト君に見せる顔がないよ...今日は私の後ろにいたまえ!そうすれば君のあ...」
「先生。大丈夫ですよ」
マッシー教授の言葉を遮り風斗は静かな笑みを向ける。安心させるために言った気休めの言葉ではない。
静かな闘志をその目に宿し悠然と隣を歩く風斗に驚きながらも心配はいらないと思いマッシー教授も歩みを進めた。
第五等学級の教室のドアに立つ。中からは騒がしい喧騒が聞こえて来て、深い深呼吸をし心をなだめる風斗。特にあがり症という訳では無いが否が応でもあの光景がフラッシュバックしてしまう。
「本当に大丈夫かい? 」
「はい」
会話の終わりを告げるように起動音をあげながら教室のドアが開く。先程までの喧騒はどこへ行ったのやら教室はしんと静まり返った。教授が教室に入ったからではない。その横にいる風斗に目がついたからである。
一昨日リッケルに吹き飛ばされた転入生。その彼がどことなく違う雰囲気を携えて来たのだ。見定めるような目線の中、空気も読まず元凶の彼はその威勢のいい声を張り上げた。
「一昨日吹き飛ばされたやつがーーーー!!!!何しにきやがったーーーーー?????」
前と変わらず下半身に力を込めると真っ直ぐ一直線に風斗に飛んでゆく。周りの男児はキラキラときらめく目で、女児はハッと目を覆い隠す準備をしている。マッシー教授でさえ目を覆い隠している。なんともまぁ頼りない教師だ。
誰もがあの時と同じような光景が起きることを考えその後の惨劇に思いを募らせる瞬間。
とてつもなくでかい衝撃音が耳の奥まで響いた。前回とは違う音に皆がその音の原因を見つめる。息をするのも忘れる数秒間に皆が囚われている中、飄々とした声が響く。
「あれ?こんなんだったっけ?前はもっと早く感じたんだけどなぁ」
片手でリッケルの彗星にも似た頭突きを受け止め、ひょいと後方のリッケルの元いた場所に投げ返す風斗。
本人以外は何が起きたか分からないという表情を浮かべている。投げ返され椅子に着席する形になっているリッケルとさえ、口をぽかんと開けていた。
驚きを隠せないマッシー教師に自分の席を聞き、スタスタと歩く風斗。着席状態になっていたリッケルが次第に状況を飲み込み始めたのか小さい顔を紅潮させプルプル震えている。
「て、てめぇ〜...何しやがった!」
風斗は一瞥すると何食わぬ顔で、壁際の席に着き話し始めた。
「身体強化と観察眼を使っただけだよ」
あいも変わらない顔で言う風斗に堪忍袋の緒が切れたのかリッケルが怒号をあげながら魔法を発動してきた。
「唸れ火竜達!!!あいつを食い殺せ!」
そう言うと手のひらを前に突き出し始めマナを集めだす。マナが集まり無数の火の玉が風斗に飛び始めたがそれは竜とは名ばかりのただの火球だ。
ただ威力は相当で空気をチッと燃やすような音が聞こえながら凄まじい速度で風斗に向かってゆく。周りの生徒には頭を抱えたり、涙目になる生徒が居る。
あの魔法の威力を知っているのであろう。リッケル本人もニヤァと嫌な笑みを浮かべながら既に勝利の余韻に浸った顔になっていた。
誰もが二度目の勝利を確信した瞬間、呆れ顔の風斗の行動に度肝を抜かれる。
席を立たず左手、しかも何も見ないでひょいひょいと軽く手の甲だけで火球を弾いてみせた。風斗の後ろの壁は火球をもろにくらいボロボロと崩れかけ始めた。
ふぅと一息つくと風斗も一言小さく呟いた。
「風纏」
瞬間突如としてリッケルの前に現れると静かにただ確実に殺意を乗せた目を向けて言った。
「君が何をしようと構わない。何を思い何を生きていこうが僕には関係ないからだ。ただ僕の歩く道を邪魔するならその時は子どもであろうと...全力で君を潰す」
そう言うと氷のように冷たい表情をリッケルの顔に近づける。その顔にリッケルは身体中が強ばり、心の中が冷えていく感覚に陥りながらも、股間は温かいものでジュワァと広がっていた。
それに気づいたのか、ふといつもの柔らかい顔に戻すと髪をぐしゃぐしゃとかきながら申し訳なさそうな顔に戻る風斗。
「ご、ごめん。ここまでするつもりは無かったんだけど、昔の癖でつい...ごめんね」
教室の中は以前としてしんと静まり返っていた。だが、新たなる教室の覇者に部屋が揺れるほどの大歓声とリッケルの大音量の泣き声でその日は揺れた。
最後にちょろぉと戦闘が出ました。やっぱいいですね。次回は今回のことに触れながらも日常を描いていきたいと思います。