守り龍
「ふんふんふーん」
木漏れ日が差し込む自然の道を、鼻歌交じりで楽しそうに歩くミア。手には、先程拾った木の棒が握られている。
木の先にはリシュお手製のお花が咲いており、結界を用いて接着されている。
そしてその横をゆっくりとした足取りで歩むリシュ。楽しそうなミアを見ながら、時折笑みをこぼしていた。
とても可愛らしい日常だが、ミアの方が年上ではある。エルフ歴的に。
「そういえば、どこまで行くんですか?」
「えっとね、まもりりゅうのいたとこまで!」
「守り龍?」
聞きなれぬ名前にリシュが返答すると、ミアは自分の記憶を探すようにゆっくりと語ってくれた。
エルフの森は基本的に外敵と呼べるような種族からは、秘匿されているがそれでも迷い込む、もしくは悪意ある侵略は、少なくはない。
エルフはその美貌、その知識から奴隷としての価値が非常に高い。なので、その外敵から守るために龍が昔から住んでいたそうだ。
だが、しかし現在その龍は居ない。ミアが言うには毒に侵されておかしくしまった、との事だった。守るべきはずの森を半分ほど焼き付くし、今は所在がしれないとの事。
「だから、おそといけなくて、つまんないんだー」
「そう......ですね。」
にこやかにミアにそう微笑み返すが、内心は笑顔とは裏腹である。背中になにか冷たいものが走るような感覚。
森を古くから守る龍がもし襲ってきてしまったら、自信がこの子を守れるだろうかという不安。
そんなリシュを知ってか知らずかか弱い少女は、語り終わってもご機嫌な調子で歩いている。
「守ります。貴方のように......絶対に」
「おねーちゃん、どうしたの?」
「ふふふ、いえ、なんでもないですよ?」
静かなる決意に満ちたリシュの笑みに、ただミアは返すように微笑んだ。
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「こ、ここが......森......?」
嫌な予感はしていた。
一時間ほど歩きながら、徐々に周りの木々が無くなっていた事。そしてさらに進むほどに、鼻に着くような臭気と血の匂い。
横で歩いているミアも徐々に汗をかき始め、鼻を手で抑えるような仕草を時折していた。そしてさらに歩いて着いた、守り龍と呼ばれたものが居座っていたとされるその場所。
巨大な大木が腐り果て、周りにはおびただしい量の腐乱した死体や植物達。花咲き誇る美しいエルフの里とは打って変わるようなその場所に、ただただ絶句していた。
そして浮かぶ疑問。どうしてこのような場所に木材などというものを取りに行かせようと考えたのかという。
「ミアちゃ―」
「......」
かける言葉が途中で消えて途切れてしまう。少女はただ静かに涙を流していた。泣きじゃくる訳でもなく、ただ静かに、その頬を濡らしていた。
そして少女はポツリポツリとつぶやく。
「ほんとはね、おとうさんとおかあさんのねているばしょに......きたかっただけなの」
「それは......」
「うん、しんじゃったんだ」
守り龍と呼ばれるだけあり、その近くに多数の村も存在していた。だが、一夜のうちに龍が狂い、その殆どを殺し尽くしてしまった。
少女は語る。月が完全に隠れてしまった日に、両親は死んだことを。そして同じような人達が、離れた場所にある村長の村へ逃げ延びたことを。
言葉を掛けることも出来ない。リシュはゆっくりと少女を抱きしめる。そのか細い体は今にでも崩れてしまいそうな程に震えていた。
「うわあああああああああああんん」
「......」
「あいだいよぉあいだいぃぃ......おがあざあんん、おどうざんん......!!!」
「......会いたいですね。また、会えますよきっと......」
「ひっぐひっぐ......」
しばし泣き続け、そのまま泣き疲れて寝てしまった少女。その様子に安堵の表情を浮かべながら、リシュは小さくカタカタと体を震わせ始めた。
「はぁはぁはぁ......」
瞳が潤い、息が荒く、寒くないにもかかわらず体の震えは大きくなる。えも言えぬ緊張感に、胃の中の物が飛び出してきてしまいそうになるのを必死に抑えながら、結界を静かにさらに貼り直す。
慎重に、丁寧に、そして誰にも気が付かれないように。
「あ、あれが......守り龍......?」
少女が泣き疲れ始めた時から背筋に走る威圧感が降り立った。リシュはその瞬間、守るように結界と認識阻害を貼り、少女がおそらく遥か後方にいる存在に気が付かないように離さないようにしていた。
そして今現在、健やかに寝息を立て始めたミアを抱き抱えながら、後ろの存在を確認した。
「ひぃ......」
小さな悲鳴が体から反応するようにこぼれ落ちる。
身体中が腐ったような外見と口から流れ出る紫色の何かの液体。息をするだけで、その周囲の全てを腐らせてしまうような臭気を放つ生物。
目は血走っており、とうの昔に正気なんぞ捨て去ったようなそんな印象を受ける瞳。
焼け落ちたような巨大な羽と、溢れ出ているような内蔵。巨木の周りを歩く度に、その引きずられたものから血で地面が濡れていく。
そして何より、圧倒的な威圧感。場を飲み込むと言うよりは己こそが場の頂点だというその威圧感。
かなり離れているリシュにさえ、届くような殺意に、なぜかリシュは目が離せないでいた。
「......」
いつの間にかその場を君臨していたその龍は、何をすることも無く、ゆっくりと巨体を引きずりながら森の奥へと消えていく。
倒されるように、朽ち果てるように木々が消えていき、鳥がそこから逃げ出すように飛び立っていくのを確認してから、ゆっくりと息を吸い込んだ。
何分たったのだろうかと、空を確認する。だが太陽は以前、数ミリ程度しかその場を動いていなかった。
またまた1ヶ月ほど投稿できません。すみません。




