幼女です、幼女
「おい、起きぬか。バカ者」
足に転がる肉袋にエルフの女王は、容赦無く目覚まし時計の役割を果たす。
げしげしと蹴る音が次第に大きくなり始め、最終的にスパーンと大きく心地よい音が場に木霊する頃になり、ようやく目を覚ました。件の彼女は銀髪を振りまきながら、咄嗟にレイピア片手に、臨戦態勢を整える。
「痛ったああああああいいいぃぃぃ!!!なんですか!?敵襲ですか!?」
「昨日のお主らの方が敵襲だろうが」
適切な言動であると言えよう。昨夜の惨状を目の当たりにすれば、誰でもそのような言葉が飛び出るだろう。というか、たったの二人と1匹でこなしたとは誰も思わない。
苦笑気味のポポが現状把握に勤しむリシュに、湯気香るお茶を差し出す。
「あ、ありがとうございます。ポポ」
清廉なエプロン姿に、慈愛の充ちた表情を浮かべるポポ。料理が上手く、気配りも出来る。エルフの女王は、それはそれはなんとも言葉にしがたい表情を浮かべながら、その光景を眺めていた。
「こほん。して、お主に頼みたい事がある。」
「?」
「お主らの来た理由を先に聞くのが礼儀ではあるが......まぁあの後この日の上がった刻まで寝ているとはなぁ。話が聞けないではないか。」
「そ、その件では返す言葉も......」
「よいよい、してお主に頼みたい事というのは...簡単な採取依頼と、こやつの護衛じゃ。ほれ挨拶せい」
お願いしますと小さく呟きながら、女王の背から小さな影が飛び出した。
淡く輝くブロンドヘアーに短いボブカット。透明感のある白い肌に、もう既に整いすぎているほどの幼い顔に、エルフ特有の長い耳。
そして大きなリボンが特徴的なワンピースのその少女は、小さな鞄を背負っていた。
「か、か、かわわわ!―」
「落ち着いて姐さん。リシュの姐さんよりずっと歳上。」
「え?」
地上に舞い降りた幼女天使のあまりの可愛さに、発狂しかけたリシュの耳に届く非情な真実。
エルフは長寿であるために、幼子であっても実年齢はかなり上である。このテレビに出れば一躍有名になれそうな金髪幼女でさえ、二十代半ばであり、リシュよりも歳上であった。
もちろんエルフの中では幼女ではあるが、自身より実年齢では上という事実はリシュを冷静にさせるには十分役立つ魔法の言葉。
ちびちびとポポの淹れたお茶を飲みながら、エルフの女王の頼み事の内容をリシュは沈んだような、えも言えぬ態度で聞いた。
内容は、弓や矢に使う木の収集というありふれた依頼。魔法が跋扈する世界とはいえ、弓矢も剣も存在し、その材料は常日頃必要物資としてよく依頼に出されていた。
リシュ達もよくその依頼をこなしたものだ。
「かしこまりました。その依頼お受けします。」
か弱そうな少女と自身達の目的を天秤になんてかけられるはずもなく、すぐさま返答すると、エルフの女王は軽く頷いた。フードから見えない顔が少しだけ、険しいようなそんな雰囲気をリシュは感じ取る。
「ついでに現在のこの里、いや森の現状も知る良い機会だ。」
意味深な言葉を残し、エルフの女王はその場を後にする。残されたリシュ、ポポ、そして金髪幼女。
エルフの女王が場を後にしたことで、隠れ蓑が無くなり若干のショックを受けながら、次の影を探す幼女。
昨日の夜までそれこそ鬼のように食事を食べ進めていた恐怖の対象、リシュ。対して、筋骨隆々の文字通り鬼のポポ。
ガクブルと震えながら、ポテポテと可愛らしい擬音で、金髪幼女はポポの後ろに隠れた。
その様子にショックを受けるリシュは想像に固くないだろう。
「お、お姉ちゃんは怖くないですよ〜」
「......」
ふるふると頭を振りながら、若干の涙を浮かべる幼女。キリッとポポを睨みつけるリシュにポポが小さくため息を着いた。
「おで、エルフの皆に昼食作らないとだから......」
そう言いながら、場をあとにしようとするポポの清廉なエプロンを必死に掴む幼女。昨日の惨劇を見たら子ども全員が、敵対心にかられるということも頷けるが......。
流石にリシュも泣きたくなってきてしまう。初対面の幼女に、ここまで警戒心を顕にされて、さらにポポの方を選ばれては。
少しだけ頭を捻ったリシュが、ゆっくりと金髪幼女の視線に腰を折ると、白く透き通るような手のひらの上に、一輪の花。
「私はリシュって言います。良ければあなたのお名前を教えてくれませんか?」
雪の結晶で彩られた雪の華。太陽を反射しながら、煌めくそれを見た瞬間、金髪幼女は頭をひょこっと出した。
「綺麗......」
「ふふふ、ありがとうございます。」
「ミ、ミア......」
「ミアちゃんって言うんですね!可愛らしいお名前......。お姉ちゃんもミアちゃんのお仕事お手伝いしてもいいですか?」
「うん......!」
一瞬で金髪幼女もといミアの心を鷲掴みにしたリシュ。ポポにドヤ顔とほら見た事かという勝ち誇った顔を見せるリシュ。
ほんとそうゆう所だぞ、という言葉を飲んだポポは微妙な表情を残しながら、その場を後にした。




