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閑話:白く無が広がる世界で

こちら閑話となっていますが、物語にも関係しているので、呼んでくれたら幸いです。

明日で連続投稿最後となります。

「ここは...どこ?」


 ただ白い水面がずっと続いているような空間。見渡す限りの無。


「死後の世界とかかなぁ?」


 適当に呟いたその声もすぐに空間に飲み込まれてしまう。小さく溜息を突き、この何も無い世界でも歩いてみようかと、一歩踏み出した瞬間。


 不意に後ろに気配を感じ、腰に手を向ける。


「死後と生者の中間あたりの世界だ」

「君は...誰?」


 白い空間に浮かぶように浮遊する球体。だが、それの背景に広がる世界には見覚えがあった。


 死体、燃え上がるような街並み、そしてまた死体。


「後ろのそれは?」

「あちらと同じで貴殿は質問が多いな」


 軽く笑われた、ような気がする。口も顔もない存在なのに、それを少年は知っている気がした。


「心象風景、と言われるのであろうな。」

「心象...風景」


 心が描いた世界。それでは目の前のこれはいつもこれを描いていたのだろうか。こんな凄惨たる光景を。


「我はもうこの世界に留まるマナがない。」

「ならどうして?」

「...貴殿に最後に会おうと思ってな。」


 不意に流れる一雫の涙。その表情に、目の前のそれは少し動揺したように言葉を続けた。


「呑まれるな。我らの汚らしい信念に。

 殺されるな、貴殿のその美しい心を」


 そう言って振り返る少年。ただの白ばかりの世界。何にもないような、全てを消してしまうようなそんなただの無。


 だが、足元が広がるように風が、水がその何も無い風景を彩る。そして一輪だけ花が咲き誇った。ゆっくりと少年は振り返る。


「貴方を殺してよかった。」


 自然に口から飛び出したそんな言葉。驚きながらも、溢れ出る涙。そんな表情の少年を見守りながら、目の前のそれは納得したように姿を消していく。


 それを見送り、先程の光景に目を向けた先にぽつんとある漆黒。


「......!」


 本能で告げる。あれはやばいものだと。自然と伸びる手が腰に着くが、先程感じた違和感を漸く理解する。


「剣が......」


 いつも自分のそばにあるものがない恐怖。相棒とさえ言えるようなそんな関係性の物がない。


 その恐怖を感じた瞬間、黒い何かから幾重にも触手が少年を蝕む。


「ぬぐぐぐぐぐ!」


 口元に巻き付けられ、身体中を締め付けるように触手は動きを封じ始める。


「ぬぬぬぬぬぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」


 いつの間にか地面に倒れる少年。もがくように体を暴れさせるが、全く拘束が緩まることも無く、次第に締め付けられる力が強くなる。


 その間にも少年の心の中に様々な感情が流れてくきた。


 殺したい。悲しい。寂しい。憎たらしい。羨ましい。


 そんな負の感情がどんどん流れてくる。揺れる水面は消えるはずもなく、次第にその波紋が小さくなる。


 コロス、オカス、ケス、コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス


 殺意や負の感情、酷く冷たいその感情に心が染め上げられそうになった時。


「男の触手プレイは守備範囲外だわぁ〜」


 突然響くそんな声に、少年を蝕む感情は止まる。


 暴れる波紋の他にもうひとつ。ゆっくりとした波紋を作るその人物に少年は目を向けた。


 本と人間のパーツのようなもの、そして機会で組み立てられたような無愛想な椅子に腰掛けた女。


 紅蓮に燃える長い髪の毛と、夜の帳のような長いコートを身にまとった人物。そして恐ろしく整っているその顔。


 その女はさも興味のないように、少年に声をかけた。


「あー続けて続けて。一定の需要もないような行為(プレイ)だけど、どうせここ心の世界とかなんとかだし。」

「(心......)」


 その言葉を聞いた少年は暴れる体を沈め、ゆっくりと感情に語りかけるように心から話す。


「(これは俺の心の中だ。なら俺に主導権がある。俺の殺意も悲しみも、寂しさも俺のものだ。でも、俺から生じていない負の感情はいらない!ここから出ていってくれ)」


 しばしの間触手は蠢いていたが、ゆっくりと少しずつ少年から離れていく。そして名残惜しそうにゆっくりと最後の1滴が少年からその体を離した。


「ありがとう...ございます」

「あら、あれに打ち勝ったのね?なかなかやるじゃない」


 面白そうに言葉をかけると、女は玉座から飛ぶように降り立つ。


「で、この世界に来てからあんたはどうなったのか教えなさい?」

「貴方は―。」

「質問しているにはあたしよ」


 不意に伸びた腕に、少年は貫かれる感覚に陥る。


 ただ痛みはない。あるにはうちに何か得体のない何かが入っているという、耐え難い不快感だけ。


「あ、あああ、ああああ―」


 叫ぶ少年を全く気にせず、白く伸びた腕を少しの間動かす。


「ふむふむ、空中から落下?

 あらら、座標ミスったなぁ。まぁ寝不足だったし......。んで、体育祭で学園から出て...あらこの子可愛いわ。

 それで海の街。米って、あんたバカァ?

 それで...ふむふむ、あぁ道理で......。」


 何やらブツブツとつぶやく女に対し、必死に腕を外そうともがく少年。だが、ここは心象風景。生きとし生きるものと死んでいったものの狭間にあるあらゆることが不安定な世界。


 実体など無いものを掴もうともがいているだけだ。今までの記憶を見漁ったのか、少年から手を離した女は非常にガッカリとした調子で、声をかける。


「はぁぁぁぁぁ。チートとかなかった訳?錬金術で銃とかさぁ、死に戻りでなんか頑張るとかさぁ、超魔法が強いとかさぁ、スマホで世界征服とか、裏切りからの実は超強いですとかは?

 悪役令嬢には?なんか土地の王様とか貴族とかには?

 あんた今まで何やってたのよ。」

「はぁはぁはぁ...は?」


 何を言われているのかがわからず適当な返事をしてしまう。その返事に対して、その女は青筋を浮かべながらなおも詰め寄る。


「は?ってなによ!は?って。わざわざあたしがここまで来たのにその反応は何よ!......ちっ。ちょっと待ってなさい。」


 嵐のように消えた女に驚いている少年。だが、少し消えてからまたその女は現れた。


「現国の橘先生、急に当てるからめんどくさいわね。」

「え、今橘先生って......。」


 久しく聞く名前に少年は思わず口が開いてしまう。というか日本のような名前に違和感を感じていると、その表情に気がついた女は面白そうに口元を歪めた。


「...ああ。自己紹介まだだったわね。初めまして、そしてお久しぶり。あんたをその世界へ送った張本人よ?」

「な、な、な......」

「呼び名は適当でいいわ。女でも、元魔王でもなんでも」

「な、なんだってーーーー!!!」

「うっさいわね。ここで100点満点のテンプレかましてんじゃないわよ!

 どうせならこの世界に来てからやりなさいよ、つっかえないわねぇ!」

「今になってなんで......」

「様子見よ。様子見。

 というかあのクソ野郎めんどくさいことしてるわね......。」


 少年の事なんて気にも止めず、また何やらぶつくさと呟くその女。少年はわけも分からずその様子を眺めていたが、女に気持ちを伝える。


「...何よ突然土下座なんて」

「ありがとうございます。元魔王がなんで俺を飛ばしたかなんてわからないし、興味も無いけど、俺はこの世界でやっと本当の意味で生まれることが出来た。だから...ありがとう」


 この世界に来てから辛いこともあったが、それでも少年にとっては全部大切な思い出だ。その気持ちを伝えられずにはいられないと思っての行動。


「ふーん。久しぶりに見て身も心も別人みたいだけど、まぁいいわ。色々面倒くさそうなこと起きそうだし、あたし自ら特訓してあげるわ」

「特訓?」

「ええ。あんたが起きるまでかなりの時間が必要だし、その間何もしないなんてバカの極みでしょ?」


 色々なことが同時に入ってきて全く分からない表情を浮かべる少年に、女は面倒くさそうな顔をしながら説明した。


「あんた今死にかけてんのよ」

「はっ!?」

「当たり前でしょ。あんた一人で魔物の軍勢と戦ったのよ。体はボロボロ、心もボロボロ。しかもあんたの体には魔物の血が混ざってんだから」

「魔物の血。............さっきの殺意と関係が?」

「ええ。ま、そんな訳だから目覚めるまでには五分五分よ。このまま狭間で消えるか、生き返るかの。何もしないのと、あたしの特訓どっちにすんのよ」


 答えるまでもないという決意の表情を浮かべる少年に対し、下卑た笑みを浮かべる女。


「そう、ならいいわ。色々とやって欲しいこともあるし。やり遂げなさい。ただまぁ死んだ方がマシだと思うけどね?」


 そう言った通り、少年はこの言葉の真意を知ることになるが、それはまた別の話であった。



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