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また逢える日まで

 夕暮れ。静かな波の音が、部屋を満たす。眠りにつこうとする太陽の光が優しく部屋に差し込み、風に揺れるカーテンと花瓶に入れられた大きな花。


 そのベッドに座るようにリシュが、擽ったそうに髪の毛を撫でる。


「あの日から色んなことが変わりましたよ。街の人達はとても、とても悲しみにくれましたけど、すぐに動き始めました。

 海に住む人達ってとっても強い人達が多くて、頼もしいです。私も見習って頑張らないとな、なんて思っちゃいます!

 私も少し変わりましたよ?髪の毛...ここでは隠すのやめたんです。それに大きく切ったんですよ。

 結構驚かれましたけど、石を投げられるかな?とも思いましたけど、思いのほか快く受け入れてもらって。

 今では嫁に来ないか?なんて言われて、嬉しいんですけど...正直困っちゃいますね。あはは......」


 ベッドのシーツの上に、ぽつりぽつりと小さな雨の後が足跡を残し始める。。


「ジアも髪の毛が伸びて...ポポも...みんな頑張って...頑張ってるんです......。

 だから...だから...目を覚ましてください。

 風斗......。」


 死んでいるように静かに眠る風斗の胸に抱きつきながら静かに涙を流すリシュ。


 髪は白く染まり、肌が少し焼け、右目を切るような大きな傷跡が目立つ。ゆっくりと呼吸する彼の心臓の音を聞きながら、涙を拭うリシュ。


 ゆっくりと風斗の顔に触れ、傷跡をなぞる。


 あの後、風斗は一命を取り留めた。オーガの血のおかげで体が不自然に回復し始めたからだ。


 折れ曲がった腕も足も、傷ついた体さえも治ったが、傷跡だけは呪いのようにこびり付いて治すことが出来なかった。


 そして傷は塞がったのにあの日から風斗は目を覚まそうとしない。病室の一室を借り、風斗の安全をただ願いながら日々リシュ達は過ごしていた。


「私達、旅に出ようと思うんです。また、あの時みたいに。」


 ぎゅっとリシュは風斗の手を握る。


「風斗の剣も治さないと行けませんし、ポポがそろそろ故郷に顔を出すって言っていて。

 エルフの里なんですって。だから...だから待っていてくださいね。すぐに帰ってきますから......」


 独り言のように呟くリシュの手を握り返すように、風斗は手を動かした。その温かさに驚くリシュだが、以前変わりなく眠る風斗の寝顔にまた瞳が潤う。


 そして柔らかな笑みを風斗に向け、病室を後にした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あの大攻防から1ヶ月という時間がすぎた朝。


「本当に行ってしまうんだね」

「はい。長い間お世話になりました!」


 ぺこりと大きくリシュは頭を下げる。晴れ渡る快晴の元、髪の短くなったリシュと変わって少し髪の毛が伸びたジア。


 そして少し人間に近づいたようなポポが大粒の涙を流しながら、何度も頭を下げる。


「全くポポさん、ちーとばかし姿変わっても、全然変わらないんだから。」

「おで、本当に、おで!」

「ハイハイ、わかったから。あんたの居ない間は私たちで店守るから、行ってきんしゃい」


 空に負けないように大きく笑う従業員のその笑顔を見て、ポポはまた大きな涙を流した。


 ポポの血を輸血するに至って、血液が合わないと風斗はそれで死んでしまう。なので風斗に残った血液をポポにまず混ぜた結果、少しだけポポも姿を変えた。


 身長も筋肉も変わらないが、髪の毛の色が少し黒に近づき、眼も白濁としたものとは違い人間の目と彩色違わないようなものに。


 そして口周りの牙は少しだけ小さくなった。そのおかげか喋りやすくなり、訛りのようなものが消えている。


「ここでの恩忘れません!本当にありがとうございました。」

「ああ、気をつけて。それとこれを持つといい。」


 アキレスから手渡される綺麗な書面。リシュは渡されたそれをマジマジと見つめた。


「それはこの先での宿で使うといい。金銭面では何も返せなくてなんとも歯痒いが、それがあれば宿代だけでもタダとなるだろう。」

「...!ありがとうございます!」


 丁寧に紙切れを鞄に入れると、アキレスは続ける。


「風斗くんのことはこちらで任せなさい。行ってらっしゃい」

「はい!行ってきます!」


 様々な事を体験し、得て、失ってしまったそんな街に向かい手を大きく振り上げながら彼女達はゆっくりと歩み出す。


 そんな彼女らを後押しするように、大きな風が吹いた。




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