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どんな君だろうと受け入れる

「風斗......?」


 ぽつりと出たそんな言葉が、風にさらわれどこかに消えていく。元気に笑いながら、そして彼女に街を託したあの彼とは風貌があまりにも違うから。


 全身血まみれ。折れ曲がった左腕に、足は明後日の方向を向いている。腹に突き刺さる折れた長剣から、ゆっくりと血が滴り落ちていた。


 それでも立てるのは、もう既に彼の中に痛みという概念がないからだろうか。


 縫い付けるように無理やり着けた折れた長剣、右目に走る剣の傷をさらに広げたような大きな傷跡。そんな彼は白濁とした白目で周りをぎょろぎょろと見渡す。


それはただ敵を殺すだけを考えているような、そんな狂人の瞳。


「マ、マスター?」

「あ、兄貴......」


 リシュの後ろに追いついたメンバーが、ただそんな口を開くだけ。


「風斗!!!」


 それでも彼女は走り出す。


「リシュ!」


 制止の手を振り切り、ただ今は彼のそばに...そんなことを考え走り出す。だが、声の方に振り向いた彼の目に映るものは、かけがえのない人ではなかった。


「テキィィィ!!!」


 叫び声をあげながら、一心不乱に剣を振り回すもう人と呼べないようなそんな代物。彼があの学園を出たと言われても、誰も信じるものなどいないだろう。この場にいる者以外は。


「リシュ、危ない!」


 不意に轟く満身創痍のジアの声。ただリシュは両手を前に出しながら、泣きながら彼の名を叫ぶ。


「コロスゥゥゥゥゥイウススススススススス!!!」

「風斗。」


 彼が彼女の元にたどり着いた瞬間に吹き出す血。噴水のように流れ出る鮮血は、降り注ぐ血の雨のように二人は身を染めていく。


 まるで、今まで会えなかった記憶を、体験を共有するように。


 リシュの体に抱かれるような狂乱の彼が突き刺す。何度も何度も、半狂乱になりながら何度も折れた剣を突き立てる。


 リシュの後ろに迫っていた大きな大蛇の額をその折れた長剣で突き刺しながら、流れ出る涙を零しながら。


 同じように流れ出る涙を零しながら、リシュは傷だらけの彼に頬を擦り寄せる。


「オレガ...オレガマモル...カラ......」

「ほら...やっぱ...り...風斗...だぁ......。会いたかった...会いたかったよぉ......!」


 静かに狂人は目を閉じ、力なく長剣をぶらりと下げる。そして力なくただその場から膝を落とした。


「風斗...!?」


 目を閉じ、降りしきる雨をその身に受けながらも、彼は力なくただリシュに揺さぶられる。


 近寄るアキレスが彼の状態を確認し、静かに頭を振った。


「血を流しすぎている。それにこの状態では...もう......」


 度重なる戦闘。そして一人に受ける傷としては多すぎる外傷の数々。誰が見ても、もう救われないのは一目瞭然である。


 それでも彼女は、彼女らは諦めない。


「応急措置を...私がやる!」

「血はオデから、それしかできないゲド!」

「周りの敵は...私が引き継ぎます。」


 ジアが水を使いながら彼の怪我を直し、ポポはまず彼の血を自身に入れ血液を混ぜ合わせ始める。


 リシュは涙を拭きながら、結界を貼り迫り来る魔物達へ走り出した。


「彼はもう助からない!そんなことをしても無駄だ!ポポ、君だってわかつているだろう!?魔物の血を輸血した所で拒絶反応が出て―。」

「それでも......!」

「......!」

「それでも...マスターを見捨てられない......!」


 感情のない機械のような彼女の、初めて見せるその感情に、アキレスは気圧される。


 ボロボロになり、穏やかな顔で静かになっている彼を見下ろす。


 ただの少年。そう、この街になんも関係の無い赤の他人がここまでボロボロになるまで街を守ろうと、ただ大切な人を守ろうとしていた事実をただ見つめる。


「...ちっ!どうなっても知らんぞ!」


 そう言いながらアキレスも彼女に手を重ねた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 度重なる災害に襲われた海の街ナーシアス。

 損害状況。死人34名。重傷者3288名。軽傷者64193名。家屋、船共々その6割を破壊され、とてもじゃないがすぐに国として出航できない状況ではあるが人々の顔には先へと進む不安など微塵もなかった。


 死者への同時葬儀を終えながらアキレスは遺族へと言葉を述べ終える。深く刻まれた皺が、さらに大きく強く現れる。


 その背中を大きく叩くもの。額に大きな傷のあるあの船長だ。


「おいおい、シケたツラしてんなぁ?」

「む、船長。君か」

「おうよ。」

「復興の方は?」

「この間の事なんかみんな忘れて今は修理、修理、修理の毎日さ。ま、アイツらの士気が下がんねぇうちは俺もまだまだ船を出すぜ!」

「そうか...。たくましいな君達は」

「あんたの作った街だ。命ありゃいつでも漕ぎ出せるぜ。うん、それじゃあな。いつまでもうじうじしてっとあいつに笑われちまうぜ!」


 嵐のように去る船長の背中を眺め、より深くなった皺をほぐしながら、次の仕事へ向かうアキレス。


 その横を通り抜けるような銀髪に、アキレスは一瞬目を向けるが、口元に笑みを浮かべ彼を呼ぶ方へと歩みを勧めた。


「リシュちゃん、これもお願いね!」

「はーい。これはどこへ?」

「あーそっちは船の方に、いま渡したのは南の修理の奴らに持ってってあげて」

「はい!」


 揺れる銀髪を気にせず、大きなバスケットを持ちながら走る彼女の背を見ながら弁当屋はぽつりとつぶやく。


「働き者だねぇ、リシュちゃんは」

「ああ、彼女の風貌には驚いたけど街を救って貰ったからな。」

「昔話を信じるより、今生きてる人を信じた方がご利益があるってもんだい。それであんた何しに来たの?」

「ちぃとばかし休みに......」

「バカヤロー!!!」


 フライパンが飛び交う、そんな海の町の日常がそこにはあった。



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