ただ一人での殲滅戦
「......はっ!」
いつしか降り続く雨に打たれ、風斗は目を覚ます。
「どれだけ寝てた!? というか死んで...うぐっ......」
全身を貫くような痛み。それだけで風斗はこれが現実だと感じる。
そして痛みに悶えるまでもなく、脳裏に浮かぶ小さな魔物の姿。燃え続ける森を見ながらその魔物は目の前に転がる焼かれた何かを拾い上げ......。
「俺の頭から出ていけ!」
いつしか流れ出る涙を拭いながら、大きな声を出していた。
「いけない、とりあえず現状の把握に務めないと......。」
火球から守る為に咄嗟にだしていた左腕はほぼ使い物にならないほど焼け焦げていた。服をちぎり、応急措置程度に包帯代わりにまく。
体全体が焼け焦げてはいるが、体は動く事を風斗は確認し、そして自身に寄り添うように地面に刺さる剣を拾い上げた。
そして指が何本か折れている右手に、無理やり縫い付けるようにちぎった服を巻いた。
「つっ......!」
痛みを無理やり納得させ、周囲を見渡す。
森から大きく出た何も無い平原。こんな状況じゃなければリシュ達とピクニックにでも行けば楽しそうな場所ではあるが、現在は風斗の墓標が立つかもしれないようなそんな救いようのない場所。
前のように、木々や暗闇を利用した奇襲はほぼ出来ない。
ある程度の高低差やくぼみは存在しており、そのおかげで今まで助かっていたかもしれないが、絶望的な状況に変わりない。
そしてこの草原は、森と街を繋げる道。必ず魔物達はこのルートを通る。
「先行部隊は潰したけど、他にどれだけいるか分からないな。森から見える土煙からここに到着するまでだいたい10分。森に押さえつける作戦はもう使えない...か」
ゆっくりと腰を下ろし、窪みに隠れるように空を見上げる。冷たい雨に目を瞑り、ぽつりぽつりと言葉を吐く。
「ここまで結構来たなぁ。サンドラとポポは無事着けたかな?もっと話しておけばよかったかなぁ。最近ジアとも訓練してないし、というか綺麗な町だし、海行けばよかったな。あれ...戦闘では行ってたっけ?」
思い出がゆっくりと風斗の胸を駆け走る。剣を握り、学園を出て、ここまで来たことが思い浮かぶ。そして思い浮かぶ大切な人。ゆっくりと膝を抱きしめ、ぽつりと呟いた。
「ああ...最後にリシュに会いたかったなぁ......。でも」
泣き続ける体を起こし、少年の瞳にやどる修羅。
「でもそれはもう叶わない。今俺が成すべきことは、彼女の、彼女たちの笑顔を守るためだ。」
感覚の無い右手に力を込め、窪みから姿を表す。森の先頭を走っていた魔物達が、風斗を見つけさらに速度を上げた。
「お前達がどんな理由を持ってこの街を攻めているのか、興味もなければどうでもいい。」
馬の下半身と人間のような上半身の着いた魔物が槍を振り回しながら間合いを詰め続ける。
「だけど、俺の―。」
おおよそ二十体の魔物が。
「俺の大切な人たちの笑顔の邪魔をするなら―。」
我先にと風斗の胴体目掛け槍を―。
「全力でぶっ潰す!!!」
瞬間、視界が反転した様な景色と、自身の胴体が地面を滑る様を目の当たりにする魔物。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
放ったはずの槍が顔面に突き刺さり、死を迎える魔物。足を切られ、両腕を切り落とされ、心臓に剣が突き刺さり、襲ったと思った相手の姿が消え仲間の槍の餌食となり、魔物の数がものの数秒で半分に減る。
残りの半分の魔物も対処しようとするが、目に見えない速度と、重力を無視したような空中からの攻撃に為す術もなく、その命を投げ捨てていく。
残りの魔物を切り落とし、森に目を向けた風斗に移る多数の魔物達。
デタラメに走りながら街を目指すゴブリン、およそ1000体以上。その後方で弓を引き絞り放つ狼人達。
そしてさらにその奥、怪しげなローブに身を包んだ魔物達が呪文の準備をしているのが見える。
「対大型魔物用の陣形......!防御魔法『風花の花弁』!」
雨のように流れる矢をアニーモスで防ぎながら、ゴブリン達との間合いを詰め、その頭をはね続けるが、ゴブリンも風斗を囲むように陣形を組み始める。
その間にも流れる矢の雨と、色とりどりの魔法軍。
「くっ......」
全てが風斗に当たりはしないが、広範囲にばらまかれたそれを全て避け続けるには限度がある。
さらに肉壁となるゴブリン達のせいで遠距離部隊に手が、足が届かない。その間にも左右から、違う魔物の部隊が街を目指しながら、進み始める。
「行かすかぁぁぁ!!!『暴風の飛剣』!!!」
風斗の背後に顕現した、全てを切り落とす魔法の剣。その数二十本が縦横無尽に平原を駆け走る。
「アギャ!」「グギョ!」「ルジュ!」「グエン!」「ルビグ!」「アギギ!」「ブブビ!」
様々な声を上げながら絶命し、体の切り落とされた箇所から湧き出る痛みに苦悶の表情を浮かべる魔物が多数。
口から流れる血を拭き取りながら、風斗はその間にもあっけに取られているゴブリンの首をはね続ける。いつしか見えない風は、血で濡れた風として平原を掛け走りながら魔物たちを減らし続ける。
そうしながら森から溢れ出る悪意を、風斗はただ切り続ける。
「剣技!神威ごっ......!」
口から吹き出るように出た血と、体に走る悪寒と寒気に体が倒れてしまう。
倒れる目の端で捉えた窪みに体を落とし、咄嗟に壁側に背中を預ける。
雨による体温低下、マナ枯渇症状の持続、肉体の酷使。体の限界が、完全に風斗の意志を跳ね除けてしまった。
「ガッハ......」
自身の眼前に恐れるように立ち並ぶ魔物達。雨と血と泥で霞む世界で、左腕の無い魔物が姿を現した。
「お前......」
掠れる声で絞り出すように、言葉を吐く。
「オマエヲコロス」
憎しみの籠った言葉を吐きながら、左腕から刺し抜いたナイフを握りしめる。
ゆっくりと歩き始め、そして走り出しながら持っていたナイフで―。
絶望に歪むその瞬間を待っていたかのように、ニヤリと笑う。
だが、その笑顔を目にし、魔物は恐怖した。
「この時を待っていた。」
「!?」
瞬間、出現した多数の武器に身体中を貫かれるモンスターロード。口から血が流れ、持っていたナイフがするりと落ちる。
「指揮を取っているのは複数居るだろうが、俺を狙い続けるのはお前しかいない......。そして俺の脅威を身をもって知っているのも指揮官の中ではお前だけだ。」
開かれる瞳に驚愕と憎悪と、そしてあまりある恐怖が存在する。
「お前達が落としてくれた武器を被せた物が他にも何個かある。」
「ナ...ニ......?」
「武器を土で被せ、魔法を発動させればいつでも発射可能の、その場しのぎにしかならない即席の罠。バリスタのような物だがな。」
風斗は戦い続けながら、魔物達の武器を収集、いくつか点在する窪みの中に投げ入れ、風纏で土を被せていた。
憎悪によって風斗しか見えず、しかし風斗の驚異を知っているものをいち早く殺すことが風斗の目的。
何度も実際に死にかけながらも、おびき寄せた甲斐があったと、風斗は内心思う。
広い落ちたナイフを拾い上げ、風斗はモンスターロードの首元に当てた。
「お前を殺すには十分だったようだ。」
そう言いながら弱々しい左腕で切り裂く。風斗の顔に血が飛び散り、モンスターロードの首がガックリと力を無くす。
「このナイフはお前に返して―。ぶっ!」
吹き出すように流れ出る誰かの血。腹に宿る非常に熱く、鈍い痛み。紛れもない自身の生暖かい血に、文字通り血の気が引く。
モンスターロードの体、いや死体を突き抜けた長剣の先が風斗の腹に突き刺さっていた。
「お...前......」
返答はない。
だが笑顔のまま命を終えたモンスターロードの後ろに、憤怒の顔を浮かべた魔物達。
モンスターロードの死体が粉微塵にされ、長剣を突き刺し続ける猫の顔をした魔物。
「くっ!」
視線が会い、風斗は剣を咄嗟に半ばから折った。そして風斗と魔物達の憎悪がぶち上がるその戦場に一筋の雷が降り注いだ。




