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借りを返す

かなり間隔あきました。

 虚空にすり変わるように現れたゴブリンを切り伏せると、その場に風斗は腰から崩れ落ちるように座り込んだ。


「はぁはぁはぁ、黒い扉の破片は転移にも使えるのか......。」


 度重なる戦闘による消耗が体に響く。風斗とて、今の知将を逃すつもりは無かった。だが、ここに来るまでに死地を察して自爆する魔物も現れ、下手に手を出せなかった。


 度重なる目の酷使により、観察眼でさえ発動できるかわからない状況。魔物が数万体いる以上、未来視などもってのほかだ。


 地面に描かれた図面と、先程の魔物達のジェスチャーを思い浮かべながら風斗は情報を整理する。


 魔物達が現在攻めてきている現状。数は分からないが、限りなく多いこと。部隊を分けて確実に歩みを進めていることを。


「あの魔物が頭を叩いていたから、急いでその相手を殺したけど、遠隔とかで会話されたらやばい。そういう魔物がいるかどうかの勉強もするべきだった。」


 ガシガシと頭を掻きながら、鉛のように重い体を叩き起す。


「......。」


 脳裏に浮かぶ見ず知らずの小さな魔物の姿。先程から何度も風斗の思考を邪魔するように入り込む。


 そんな光景を振り払うように、大きく息を吐いた。


「俺は春野風斗。大丈夫だ、大丈夫。大丈夫な...はず。」


 血に濡れた長剣の血を拭い、満身創痍の少年はその場を後にした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数では圧倒され、個々の魔物達の戦力もまちまち。体力はほぼ無いに等しい、無力な少年が生き残っている理由。


 それは、こと全ての利用できることを利用しているからである。


「アギャ!」

「クガアアアアアア!」


 森の中腹、ほぼ光が差し込まないような暗がりで、一匹、また一匹と叫び声をあげながら絶命していく。


 目視と龍脈受動の技能を駆使し、敵の位置をある程度索敵。そして奇襲をかけながら、敵を減らしていく。


 幸いなことに暗雲と所狭しと生えている木々が地形としての力を存分に発揮していた。


 一撃で無理ならさらに一撃。それでも無理なら、殺し尽くすまで何度も切り刻む。切り刻んだ相手の臓物を木々にぶら下げ、頭をぶん投げ、一瞬の隙を無限に作り上げながら、少年はただただ目の前の敵を殺していた。


 想像してみてほしい。ほぼ身の安全が確実とされているような格下相手に、先程まで喋っていた同族が殺され、目の前に散らばる臓物達。


 目に映る事さえしない殺意の風に晒され続ける恐怖。いつしか余裕は緊張を生み、その緊張さえも一手で隙が生じてしまう。


 いつしか統率は消え、憎悪と恐怖が入り交じった感情のまま武器を振り続ける魔物達。


 そしてまたひとつ、またひとつと部隊は消えていった。


 最後に生き残った翼の生えた馬の首を跳ね飛ばし、風斗は大きく聳え立つ木に背中を預けるように腰を下ろした。


「はぁはぁはぁ......何体殺した?......。」


 手足が震え、息を吸い込み続ける。何度も吸い込んでも酸素が体に入っている感覚があまりない。


 酷使し続けた体は悲鳴を上げ続け、疲労と痛みは思考を鈍らせる。


 なぜ、今こんなに苦しいのか?何故そこまでして動くのか?何度も行っている自問自答を繰り返す。


「もう...諦めようか...?」


 ぽつりと零れたそんな言葉。今まで命のやり取りなどなかった世界。そして今はその手を血で染め続けるような世界。


 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「もう少し、まだ少しやれる......」


 そう自身に言い聞かせるように発した言葉を遮るように、風斗の頬を矢が掠めた。


「!?」


 すぐさま立ち上がり、剣を構える。木陰、影とは生優しく眼前に広がる闇から魔物達が続々と現れ始める。


 一人の子どもを殺すには多すぎる数の魔物たちが興奮に口元を歪ませ、ジリジリと歩みを進めてきた。


「......」


 心を冷まし、脳を熱くさせる。


 剣を握り直し、何度も頭の中で体の動きをなぞる。


 木陰から何も知らない兎が一匹はい出てきた。何も知らない、ただ少しだけ道を外れて歩いてみようか、とでも思っていそうなそのキョトンとした顔。


 その瞬間、魔物達の首がはね飛ばされる。二匹の首が空を舞い、驚いたそばのゴブリンの額にはナイフが突き刺さる。


「ゴブミハマイウアアアアア!!!」

「ヒシェウノスモ!!!」

「何言ってんのか分からないんだよ!」


 近くに居た蛇の一撃を避け、体をなぞる様に剣を入れて行く。傍に立つ巨人の、蛇と風斗をまとめた一撃を避け、眼球に綺麗な横一閃を入れると、距離を取った。


 ぐちゃぐちゃになった蛇と呻き声をあげる巨人を後目に飛びかかってくる魔物たちを交わしながらの攻防は続く。


「はぁはぁ......うぐ!」


 集中力という言葉。その次元ではとうにない疲労が風斗を一本の矢から意識を消した。


 左腕に深々と根を下ろす矢から流れる血を、温かさを感じながら飛んできた方向に魔法を飛ばす。


「『暴風の飛剣』!」


 だがそれを読んでいたかのようにカウンターで、揺らめく火の玉が飛んでくる。深淵にも近い闇が一瞬照らされ、その奥にいる魔物と目が合った。


「お前かァァァァァ!」


 火の玉に直撃し、大きく吹き飛ばされる少年の姿。それに対して沸き立つ魔物たちとは後目に、装飾の施された魔物はただ淡々と次の司令を出す。


 右腕が切り落とされ、左腕に刺さったナイフを取ろうともしない大きな魔物。その魔物は小さく言葉を吐いた。


「カリハカエシタ。ニンゲン」








ゆっくり不定期で投稿しますー

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