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魔物のような人間

お久しぶりです!間隔あけてしまい申し訳ないです。

この話は魔物視点です。

 そこが森だということを認識できる人間がいるのかは定かではないが、今現在そこを森と呼ぶ人間や魔物はいないだろう。


 半ば蹂躙されたような森の有り様。森林と呼べるような広大な土地には、蠢く地面のようなものが何かを目指しその地ならしを続けていた。


 魔物。人間と他を分かつ異形の存在として君臨し続ける唾棄しなければならぬ存在。そのもの達が地面と錯覚してしまうほどにまで、現在も尚森を我が物顔で闊歩していた。


「アゴュジラミボム? (これだけ魔物がいりゃあんな町一瞬だな?)」

「ィデスジャィスニ (そりゃそうだろ)」

「るルジャォポミヌブヴェ (それにしても魔人のマナも大したことねぇな。)」

「ヲヲヌスダェヌシム! (命捧げてたったの三万しか俺達を呼べねぇんだもんな!)」


「「「ギャギャギャギャギャギャ!―。ギャ?」」」


 瞬間、風が吹いた感覚を受けた三匹の先行部隊の魔物の首が落ちる。魔物達は己の首が落ちたことを認識するまで、数秒のラグが生じた。前方に落ちた自らの頭が、己の体に踏み潰されるまでに、殺されたことを自覚するまで数秒のラグが起きた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アヴィャビャビャ!!! (急ぎ報告を!!!)」

「デウァウ? (何が起きた?)」


 森の中、そのさらに後方に陣地を築くような魔物の中を傷だらけの魔物が迫真の表情で駆け抜け、膝を着く。その伝令を受ける、モンスターロードと呼ばれる魔物。知恵が高く、能力も高い魔物の位に着く知将。


 ボロ布や全裸の魔物とは違い、人間のような装飾が施された骨で出来た鎧を着込む魔物。その魔物は傷だらけの魔物の言葉に耳を傾けた。


「デハクァクデオスバカアクウェチ!ウッバ......。 (先行部隊の魔物が百体ほど殺されました! それに......。)」


 嫌なものを思い出したかのごとく、魔物は目の前で胃のものを吐き出してしまう。髪の毛が多く含まれたそれを、愉快そうにモンスターロードは眺める。


「(魔物の嘔吐する姿はなかなかに見られない。それほど恐怖する対象や、恐怖を感じる感受性がない。ふむ、街の方の軍隊?と呼ばれるものが対応してきたか?)」


 数十年前に起きた小さな戦争を思い浮かべながら、あの時はどうしたのかを探る。だが、その考えは次の伝令の言葉にかき消された。


「アビャビャビオヤ! (敵は人間一人です!)」

「アビヤ?(それは本当か?)」


 人間一人、人間一人に先行部隊は蹂躙されたのか?と考えが巡る。


 魔物とて馬鹿ではない。その日々肥大化する魔物達の種族としての繁栄が知力の無さに結びついてはいるが、戦を始めれば人間と同じように考え、同じような役割を託した魔物も作り上げる。


 それは現魔王となった今でだから言えることではあるが。


「テヅシズバリカエウスアケオパズムアク―。 (それに人間は我らの死体を使い、士気を下げるような罠も多数―)」


 言い終わる前に、魔物の首が跳ねられる。話を聞いていた側近の数十名の魔物達はぎょっとした顔でモンスターロードに目を向けた。


「アジュミババ。ハグミババグジュル(何をしている。この場を放棄し、右舷の部隊に合流するぞ)」

「アミバ!?(何故ですか!?)」


 モンスターロードは暫し考えながら、軽く地面に三角を描く。

 側近には仕事を任せており、この陣形の説明や、他の部隊の事は話していなかった。今回はその必要性すらないと考えていたからだ。


 度重なる黒い扉により異常な魔物達の発生、そして三万にも及ぶ魔物達の進軍により、すぐさまこの戦は終わると考えていたからだ。


 だが、それも怪しくなってきた。ただ一人の人間によって。


「ヤスレーニルバ。ヤレニ。(軽く説明する。すぐに覚えろ。)」


 モンスターロードはこの陣形を側近達に説明する。


 先行部隊である自分の陣営の5000にも及ぶ魔物達。無策であっても数で圧倒すれば勝てる戦争もあるが、今回はそれに適していない。


 それほど弱い町であれば、もう既に滅んでいるのだから。


 モンスターロード率いる先行部隊のさらに奥に一万。左右に残りを分割した魔物達がゆっくりと進軍しながら、街に近づいてはいることを説明する。


 逆に言えば、先行部隊さえ潰されてしまえば各々の身勝手な進軍が始まってしまう。その責任や考えを一手に担っているのが自分だということを、地面のような図式とジェスチャーで説明する。


「(能力は高いが、頭の悪いのがこいつらの悪いところではあるな。次回に改善せすべき案件として魔王様に報告しよう。)」


「ディジャク。ドソパヌムバ?(一応分かりました。ですが、この場から離れる理由は?)」

「アビーグ、ソウジュクァワ?ソニア。アベベグリスセヅ。 (一人で我らの先行部隊を殺す手練が、なぜ一人を活かしたか分かるか?この場所を探す為だ。その証拠に、血が流れるように切っている。)」


 モンスターロードは殺した魔物をひっくり返すと、その背中を側近達に見させた。幾重にも傷付けられた背中、しかもご丁寧に血が固まらないように細々とした葉っぱもねじ込まれている。


 これは下級の魔物達が刃に塗る薬草の一種。効果は血が固まらずに流れ続けるものだ。


「ディバガ......。デゥジナバ?(悪魔が......。お前は遠隔伝令が得意だな?)」


 側近の一人に頭をコンコンと叩きながら、伝える。


「エルガ! スナオシバフゲツレニァハジャ― (はい!昔から遠くに思念を伝えるのは得意で―)」


 嬉しそうに話す伝令の頭にナイフが通り抜ける。?マークを浮かべながら、地面に倒れる側近を気遣うことも出来ず、ナイフの飛んできた場所を凝視する。いつの間にか暗雲が立ち込め、森の中は薄暗く、どこから獣が出てもおかしくない状況だ。


「アギャブバ!?(大丈夫ですか!)」

「ニナビブ!?(お怪我は!)」

「デクバィヌブハ!ビブレ!(下手に動くな!我は大丈夫だ!)」


 実際は側近の頭を難なくぶち抜いたナイフが腕に突き刺さったが、この程度の傷はなんでもない。五千の魔物を束ねる彼にとってはかすり傷にも及ばないような傷であった。


「!?」


 そう思った瞬間、口から血が溢れ出す。止めようと右腕で押さえようとしたが、その右腕の先が無いことに気付く。


「アビブベガ?(いつの間に?)」


 その間にも、瞬きする間に一人、一人と魔物首が跳ねられ、腹からは臓物が溢れ、足を、腕を、首が胴体から離れていく。その場が、右腕がなく血が溢れる屈強なモンスターロードだけになるにはそう時間が掛からなかった。


「ニンゲン」


 軽く呟いたその一言。返答があるとは思いもよらないような適当に投げつけたそんな言葉。だが、虚空から人影が現れる。


 ボロボロの冒険者の服にも負けないほど傷だらけの少年。


「喋れる個体種とは、この戦闘で初めてだ」


 こんな少年に?そんな疑問しか浮かばないが、血に濡れたロングソードを見るにこれが現実であろうことを認識する。モンスターロードはゆっくりと言葉を考えている。


「お前のおかげで、大体の現状は把握出来た。」


 距離は程よくあるが、今にも命を刈り取られるようなそんな威圧的な殺意が場を支配する。溢れ出る汗が、沈黙するしかモンスターロードには残されていない。


「先行部隊、もしくは偵察部隊に分けられた魔物。後方と左右に分けられて、先行部隊の、恐らく隊長辺りのお前に早めに会えて運が良かった。」

「ビャビァウバ!(貴様、魔物の言葉を!)」


 状況の把握がえらく早いことに、思わずモンスターロードは魔物の言葉で返答してしまう。だが、目の前の少年はまるで言葉がわからないように返答した。


「魔物の言葉はわからないんだ。でも、その反応、俺が言っていたことが正しいようだな」

「!?」


 しばしの沈黙が場を流れる。重い暗雲も増して、いつ襲われるか分からない。頭に浮かぶ時間稼ぎの文字が、口を走らせる。


「イツカライタ」

「いつからも何も、お前に手負いの魔物が説明を始めた頃にはもう居たよ」

「キヅカナイハズガナイ!」


 目の前にいる手負いの魔物に意識が奪われていたとはいえ、数々の戦闘をこなしてきた魔物でも有数の自身。

 気配や殺意、匂いでさえ場を把握出来る筈なのに......。


 そこで気が付く。


「チノニオイ」

「ご明察」


 辺りに充満するさびた鉄のような匂い。そして目の前の少年が、握るロングソードの刃の部分から滴り落ちる血。剣はそれこそ手入れをしなくては、すぐに使い物にならなくなる。なぜ、拭かないのかという疑問が魔物の表情と共に現れる。


「おかしいとは思ったんだ。森を埋めつくす魔物がなぜ一気に責めてこないのかと。」


 目の前の少年からは人間という概念さえ感じられない。同じ対等の、いやそれ以上の魔物の威圧を感じる。


「色々な事を考えたけど、目に映る魔物達からでも情報は取れる。たとえ言葉が分からずとも」


 己は罪をおかした。この人間に時間をかけてしまったという。

 手負いの魔物なぞ放って、すぐさま場所を移動すればよかった。普段なら気がつくはずだ。


 こんな場所に手負いの魔物が来れること自体おかしいことに。


 腰に着けてあるロングソードに手を付け、戦闘を始めようとするモンスターロード。だが、左手に力が入らず、その場に膝を着いてしまう。


 先程から息が荒い。目の前の少年が幾重にも重なって見える。威圧的な殺意かと考えたが、そうでは無いらしい。目の前の少年はゆっくりと足を運ばせながら、言葉を吐いた。


「言葉がわからずとも、魔物からは情報が取れる。恐らく愚痴を吐き、笑いあっていたことも、地図のようなものを見ながら進軍しているであろうことも。自らの糞尿をナイフに着けていた意味さえも」

「(ゴブリンの毒か!)」


 ゴブリンを先行部隊に入れていた自らの敗因を考えながら、モンスターロードは震える左手で腰に着けていたポーチを探る。そして黒い破片を持つと、絞り出すように言葉を彼に向けた。


「マタ...アオウ......」

「させるか!」


 瞬間、視界が一転し、死体が転がる過去の場所から魔物たち群がる場所へと転移する。驚く魔物達と、自身の満身創痍の体に嘲笑う同じ位の魔物に対して、モンスターロードは一言だけ残す。


「ニンゲン......。」


 そうしてモンスターロードは気を失った。




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