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語らい

「ああああがぁああああああ......」


 瞳を抑えながら、地面に屈する風斗。手のひらに伝わる生温い物を感じながら、傷に触れる。大きく皮膚を切り裂いたようなその跡。


 瞳を動かそうとすると、酷く皮膚が痛むが、自身の瞳に触りながら、ゆっくりと瞳を開けた。


「(見えてる?皮膚だけしか傷ついていないのか?)」


 眼前に座るような格好のフォルネウス。その様子を眺めた後、ゆっくりと風斗に喋りかけてきた。


「瞳は無事か。ふむ、それは良かった」

「良かった?どういう意味だ」


 大斧を放っておきながら、傷が大きくないことを喜ぶ魔人の言動に些か違和感を感じながら、風斗はフォルネウスの返答を待つ。ゆっくりと口を動かすのが辛そうにフォルネウスは返答した。


「なに、貴殿を傷つける為に放ったものでは無いからな。まぁ、どの道貴殿はほぼ死ぬが。」

「どの道死ぬ相手に、何故だ。貴方が俺には分からない。」

「魔物と人間なんぞそのようなものだ。まぁ我の戯れに過ぎない」


 戯れと称されたその会話。風斗は死闘を終えたばかりの相手から殺意が完全に消えている物を感覚的に感じる。眼前に座る魔人からは海の街サーシアスのアキレスのような、長の雰囲気を感じていた。


「我の戯れはいつまで続くか分からないぞ? 今なら質問に答えてやろう」

「なぜ今になって、俺に親切に? 」


 暫しの間残った右腕を顎につけ、考える素振りを見せた後語る。


「我は確かに、魔王に敗北し眷属にさせられたがな。もう我はほぼ死んでいる。貴殿のような最高の戦いを我にもたらしてくれた存在には、最後に手助けと悪あがきをしたいと思っただけだ。長寿の戯れと考えてくれ。」


 その証拠というように残った右腕を風斗に見せる。ゆっくりと岩のように変色し、砂のように指先から崩れていく。いつの間にかゆっくりと風斗の横に並び立つ、ポポとサンドラ。


「なら、質問だ。その黒い扉はなんだ?」

「魔物は吐き出す物。我はあまり知らないが、強いマナが流れるものを媒介とし魔物を生み出し続ける。」

「海にもあったな。なぜ魔物がこれからは出ない。」

「魔人が黒い扉を使うのには制約がある。一度召喚した瞬間、この扉は壊れるが、時間が経てば我のマナを媒介とした魔物が数万ほど召喚される。あまり時間はないぞ」


 その言葉を聞いた瞬間、ポポとサンドラに振り返る風斗。


「話は聞いていたね、サンドラとポポさん。今から街に戻って、この事態を知らせて」

「デ、デモ兄貴は?」

「俺は、時間稼ぎにここに残る」

「!?」


 その場にいた全員が、風斗の言動に驚愕を露わにする。風斗は言葉をかけながら、自身の服をちぎり。それを綺麗に包帯代わりと、サンドラの傷付いた足に巻き付けた。


「ごめん、サンドラ。俺が回復魔法を使えたら良かったんだけど......」


 風斗は回復魔法がほぼ使えない。使おうにも、長い詠唱の後、とても効果の薄い治癒魔法がかけられるだけだ。効果は紙で切れた指を一時間かけて治す程度。


 それを知った風斗が、枕を涙で濡らしたのは言うまでもない。


「貴殿は、死ぬつもりか?」

「んなわけないだろう。街に要請を出して、防衛戦を敷いてもらう。俺は引きながら、合流でもするさ」


 風斗はポポにゆっくりと語りかける。


「だから、頼んだ()()。君を騙していた俺が、頼める筋合いでもないけど......」

「髪の毛の色ナンデ関係ナイ。」

「ありがとう」


 ポポはそう言うと、サンドラにまたがる。傷を負っているとはいえ、風斗に並ぶ脚力の持ち主だ。さすがにポポよりは早いだろう。ポポは最後に、と言ったふうにフォルネウスに問いかける。


「オデより人間知ってるあんたが、なんで人間と縁が結べない? 」


 その問いに、ゆっくりと瞳を閉じながら、記憶を探るように言葉を吐く。


「魔物というだけで襲われる。争いが起こる。そして憎しみ、悲しみ、殺意は自然と戦いを呼び込む。我だけでは何もなし得ない」

「そうガ......」

「だから、生きていけるのならばその関係を大事にしろ。お主を殺そうとした魔物の言葉だがな」


 ポポは小さくああ、と声を漏らすと風斗に持っていたポーチを渡した。


「この中、全部使ってぐれ。兄貴、必ず助けに戻る」

「ああ、頼んだよ」


 名残惜しそうなポポとサンドラが、クレーターのようになってしまった森の名残を後にする。引きずるように、けれど懸命に走るサンドラとそんなサンドラにまたがるポポを目にした後、風斗はフォルネウスに語りかけた。


「貴方も大変な立場だな。同族が人質になんて」

「!? 何故それを......」

「数ある中の憶測だよ。貴方の置き土産の魔物たちは最悪だが」


 数ある思考の一つの回答。戦闘を楽しむような魔人ではあるが、王という言葉と、配下がこの場にいない理由。そして先程の眷属という言葉の関連性で導き出した答え。


 命を削り合った仲ではあるが、二人は軽く笑い合う。風斗はその後、ポーチの中を確認した。マナポーションが二本と、ダガーが三本。心もとないが、風斗はマナポーションに口をつける。


「貴殿と会うのがあと数百年早ければな」

「冗談を。遅かれ早かれ、殺しあっていたさ」


 その後久々にあった級友というように数分話し合った後、ゆっくりと言葉を吐くようにフォルネウスは口を動かす。こんな状態でなければポポと同じように友人に馴れたのだろうか。しかし、現実は時として残酷に風斗を蝕む。


 そのようなことを胸の奥で考えながら、フォルネウスの言葉に耳を傾ける。


「最後に...殺され...たのが...貴殿で...よかった......」


 か細く泣くようなそんな声。先程まで、暴虐の限りを尽くしていた魔人の顔とは思えないほどに満たされた表情。


「ああ、俺も貴方のおかげで自信を成長できた気がするよ。あなたを殺せてよかった」


 その返答が聞こえたかどうかは分からない。だが、フォルネウスは閉じた瞳のある顔に小さく微笑み、遂に動かなくなった。岩のようなその体が、空中の塵と化し舞うまでにそこまで時間はかからない。

 その様子を眺めた風斗は、膨張するような黒い扉を背に、その場を後にした。


 そして数分後、風斗が森の出口に差し掛かったあたりで、腹に響く爆発音とともに大森林の半分が魔物達で消失される。







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