討伐?
赤く淀んだその赤いコアを砕いた瞬間、魔人フォルネウスが蒸気に包まれた。音を立てながら立ち込める重く白いその蒸気。唸り声をあげるようなその蒸気が消え去る頃、一回り小さくなった魔人が姿を表す。
一回り小さく放っているが、風斗やサンドラよりも大きく、場を支配する様な濃密な殺意。
燃え盛る角が生え、引き締まった筋肉と、黒く染った瞳。切り落とされた左腕と、穿たれた胸の風穴からは炎のようなものが流れ出ている。大きな斧を肩に担ぎながら、確かめるように体を動かす。
「ふむ、初めてやったがこのようになるのか。存外悪い気分はない」
「な、なんてことを。そのままでは死ぬぞ! 」
風斗の問いに面白いことを言われたようにニヤリと笑うフォルネウス。絵画に描かれた様な悪魔の姿のフォルネウスは口を動かす。
「貴殿は勘違いしているな?魔人という存在を」
「?」
「下級の魔物や魔獣はコアを潰されたら、それこそ死ぬが、魔人はそうそう死なん。そうだな、この分だと一時間ほどで、我は衰弱して死ぬがその前に人間を捕食すれば生き長らえる。」
風斗は恐怖に身が竦む。この魔人は、必ず殺さないと、殺せないのだという考えが頭に廻る。
「コアを砕くことは、確かに危ない橋ではあるが、この先の町の人間を数千人ほど喰らえば、元には戻るだろう。」
怯える膝と、悲鳴をあげる体に鞭をうち、風斗は立ち上がる。呼吸を整え、眼前の敵に剣を向ける。
「ここで貴方を止める......!」
「ああ、第二ラウンドといったところ......だ! 」
速度と体重の乗った大斧の攻撃を避け、下から剣を振り上げる。風斗の軌跡をその瞳に放たれ、血飛沫が上がるが斬撃に痛みを感じる暇もなく、繰り出された大斧を風斗は剣で受け止めた。
剣戟により火花が散る、その攻防、片腕のフォルネウスは狂ったような笑みを、苦虫を噛み潰したような表情の風斗達は己の腕を競う。
「ガルゥ! 」
「邪魔をするな! 」
飛びかかろうとしたサンドラの体が鎖で固定され、さらに二人の攻撃は続く。
「ああ、楽しい、楽しい。これだ、これこそ我が求めていたしのぎを削る戦いだ!」
「もう貴方は、倒れてくれ!風魔法『暴風の飛剣』!」
背後に表れる風の剣、風斗の放った全てを断ち切る風の一撃。だが、魔人フォルネウスの斧技にも似た一撃が、軽く弾く。
空中に弾き出され風のように消える魔法の剣。
そしてそのまま剣戟が続くが、度重なるマナ消費と、一瞬の油断さえ許されないその戦闘。先に限界が訪れたのは風斗の方だった。
暴力の限りのフォルネウスの大斧を堪えきれず、倒れるように後方に飛ぶ。すかさず、フォルネウスは近づき、無理やり立たせ、強引に二人の剣戟が続いていく。
「はぁはぁ...くっ! 」
「まだまだ倒れさせん。」
息も絶え絶えな風斗と、生き生きと斧を振るうフォルネウス。片手で風斗の体に傷を増やしながら、迫り来るサンドラを蹴り飛ばしながら、その戦闘は続いていく。
「風魔法『暴風の飛剣』! 」
「その技はもう見切って...なに!?」
空中に存在した風の剣。無骨なロングソードのようなその魔法はフォルネウスに殺意の斬撃を加えることはなかった。だがその代わりと風斗は鷲掴み、フォルネウスの体に傷をつける。
フォルネウスの体に生暖かい血が流れはじめる。
「ここからは俺の、俺達のターンだ! 」
柄の部分から流れる血。風斗の風魔法はその全てを傷つける為、持てるように魔法理論は組み込んでいない。例えるなら、割れたガラスを掴んでいる様な状態。
だが、風斗はなりふり構わず鋼の剣と、形のない風の剣を振り続ける。痛みすら置いて、自身の大切な者たちを守るためだけにその剣を振るう。
二刀を使いながら、風斗はフォルネウスに攻撃を重ねて行った。両刀で斧を滑るように弾きながら、重心を乗せた二刀の十文字の攻撃。お互いに防御を無視した命の削り合い。
初めて使う二刀流だが、素人筋のデタラメなその剣の動きに、経験の先読みができず後手に回るフォルネウス。
二人の攻防は逆転し、フォルネウスの体には無数の傷が増えていく。
「それでこそだ......! 」
「フォルネウス......!」
未来視と観察眼、ありったけのマナを使いながら風の剣を維持し続けながら、風斗はがむしゃらに剣を振るう。鎖を避けながら、空中で回るように剣を振り回す。フォルネウスの斧に弾かれ空中に飛ばされた瞬間、空中歩行と縮地を扱い、瞬時に背後に周り切りつける。
時には鋼の剣を投げ、サンドラとの波状攻撃をしながらフォルネウスの一手、また一手を潰しながらフォルネウスの血飛沫を上げ続ける。
徐々に押されながらも、笑みと血を増やすフォルネウス。その姿はさながら悪魔のように見えるだろう。
「滾ってきた。」
「「うおおおおおおおおおおおお! 」」
二人の得物にマナが集まる。光り輝くお互いの得物と、咆哮にも似たその一撃が、ぶつかりあった。
「うおおおおおおおおおおおお!剣技『神威業風斬』!」
「うおおおおおおおおおおおお!斧技『断ち切る斧』!」
周りの木々さえ巻き込んだ、二人の懇親の一撃。爆発にも似たその一撃により、小さなクレーターのような場所が形成される。
地面に吐き出されたような大量の血液。むせ返るほどの血の匂いと、立ち込めるように鎮座する土煙が止む頃、立っている者の姿が表れる。
「はぁはぁはぁはぁ......」
息を吸うのもきついといったような表情を浮かべ、流れる血と溢れる汗、ぶらりと力なく下げられている左腕。
剣を地面に突き刺し、立っている者。風斗。
眼前に膝を着くようなフォルネウス。角がへし折られ、その体には大きな斬撃がつけられている。
「これで......!?」
「ふん! 」
唐突に投げられた大斧。大斧とは名ばかりに半ばほどから切り落とされた、その大斧を既のところで避ける風斗。その様子を眺めたフォルネウスは笑みを浮かべ、ゆっくりと座り直した。
「貴殿との戦いに最大の感謝を」
「フォル...ネウス」
ゆっくりと近づく風斗。だが、フォルネウスは勝ち誇ったように、笑みを浮かべた。それはもはや魔人と呼ぶにはあまりにも純粋な瞳。
「貴殿との死合には負けたが、この勝負は我が貰うぞ! 」
「何を言って......!?」
フォルネウスの後ろに、空から落ちてきた黒い扉が着陸する。そしてフォルネウスの放った大斧が振り返った風斗の瞳に傷を残しながら、黒い扉にぶつかり、砕け散った。
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