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魔人フォルネウス

遅れてしまって申し訳ないです。

「じゃあ、残りを―。」


 言いかけた風斗が、戦場に戻ろうとした瞬間。眼球、脳が焼けるような痛みが風斗を襲う。


「あああああああ...ああああ」


 声を出すだけしかこの痛みの抵抗手段がなく、膝をつきながら、頭を抑える。それを心配するジアとアキレス。何事と声をかけるが、そんな二人の声は風斗に届かない。


 痛みに耐えるしかない風斗の脳裏に、詳細な風景が映し出される。それは森の中、空から落ちるような黒い扉と、巨大な斧を片手に友人とも思える彼が殺される映像―。


 映像が焼ききれるように無くなるのと、同時に痛みが無くなる。初めからそんな痛みがなかったかのように。


 風斗は自然に流れていた血の涙を拭かずに、アキレスに近付く。迫真の表情に彩られた風斗がアキレスの胸ぐらを掴みながら、大声で叫ぶ。


「アキレスさん! この周辺に大きな森は!? 」

「い、いきなりどうしたの―」

「いいから答えてください! 」


 尋常では無いその様子に、アキレスは冷静に答える。


「ここから、約六時間ほど離れた場所に、大きな森はあるが、どうしたのだね? 」


 その答えを聞くのと同時に、風斗は大きな声でサンドラを呼ぶ。その瞬間、大きな影が近づき、そこから風斗の後ろに白き大きな獣、サンドラが現れた。


「ジア、俺は森に向かう。黒い扉と、いや、何かをやばいものを視た。」

「じゃあ私も―。」

「ジアはこの街を頼む。アキレスさん、先程の無礼をお許しください。」

「いや、大丈夫だ。君ほどの人間があそこまで......。なにか私に出来ることはあるかい。」

「とりあえずは、今のこの状況に専念することが得策かと」

「ふむ、何かは分からないが、すまない頼んだ。」


 その言葉を聞くのと同時に、サンドラに乗って風斗はかけ走る。成長しマナ保有量も多くなったが、先程の戦いで何度もマナを多く込めた剣技を発動させている。体は消耗し、マナも回復はしていないので、サンドラにまたがっての移動になる。


 疲れた体を労りながら、風斗とサンドラは北へ北へと風の如く進んでいく。アキレスが指した場所は海の町から少し離れ、大きな草原を挟んださらに向こうの大森林。


 普通の人間では六時間ほどかかる道のりだが、風斗とサンドラの脚力であれば早く着くことが出来る。

 さらに風斗の風写しにより、擬似的な風纏を施されたサンドラ。一時間ほどで、風斗は映像と寸分たがわぬ場所まで来ることが出来た。


「な、なんだ。これは......」


 新緑の美しい森を染める様な血の海。臓物や、体の一部が木々に打ち付けられるように飾られている。


 眼前には数人の死体、もしくは肉塊。そして吐瀉物を吐きながら、涙をこぼすオーガのポポと、左腕がもがれた冒険者が今なおその死に対して許しを乞うている。


「た、頼みます!命だけは勘弁して......」

「お主は、そこの魔物を守るのが仕事では無いのか? 」


 筋肉の巨体に、首を掴まれた男はちらりとポポを見る。その顔に風斗は見覚えがあった。


 幾度となく海の町で絡むごろつきのような冒険者。ボロボロのダガーを震えながら握りしめているその顔。そう老狼の囀り団リーダーのアカシと呼ばれているその男に。


「(なら、あの木にぶらさがっている人達は......)」


 風斗が助けに入ろうとした瞬間、森の中に言葉が反響する。それは言葉と言うにはいささか乱暴で粗暴な物。


「んなわけあるわけねぇだろうが! あんなくそ魔物知らねぇよ! クソが! なぁ助けてくださいよ! 俺だけ...アギャ!? 」


 返答というように、目の前で肉塊が増える。肉が潰される音ともに、アカシの頭がその巨大な手のひらで握りつぶされ、体が引き裂かれる。


 その様子にポポは小さな悲鳴を上げ、腰を抜かしている様子。それでも風斗は、奇襲など何もせずポポの前に立つ。


 コートをはためかせ、悠然と、剣を構えながらその魔物に相対する。肉塊を投げ捨て、魔物はいつの間にかいる風斗に目を向けた。


 小さな山のように錯覚する程の巨体。海の街で攻めてきた魔物たちとは比べるのもおこがましい戦闘に特化した無駄の無い筋肉。白濁とした瞳に、槍のような牙。煙のような蒸気を上げながら、右手に巨大な斧と、左手には鎖の付いた巨大な鉄のハンマーを持つ魔物。


 そして、場を支配する緊張感と濃密な殺意。対面した風斗は肌がひりつくような感覚に陥る。かつてここまでの緊張感に支配された経験があるだろうか。


 目の前の魔物は、ゆっくりと言葉を風斗に向ける。


「お主はなんだ。」

「俺はポポを守りに来たものだ。」


 驚いたような様子で驚く、ポポに風斗は一瞬目を向け、笑みを向ける。親しみの篭った、優しい笑み。そして眼前に君臨する巨大な魔物はなおも疑問を問いかける。


「それは人間の言うところの仕事か?」

「友を守るのに理由なんていらないだろ」


 その返答を予想していなかったのか、白濁とした目が一瞬点になり、その直後魔物は突然大声で笑い出した。その声で鼓膜がはち切れそうになるが、風斗はその様子を眺める。傍には喉を鳴らしながら唸るサンドラ、いつでも襲えるように低くその体勢を保っていた。


「魔物と人間が、友だと? 戯言だな」

「貴様はなんで俺の友を殺そうとする。」


 依然自身の言葉を真っ直ぐに向ける風斗に対し、目の前の魔物は真剣な眼差しになる。それは、風斗の友だという発言は本当だと考えた結果なのだろうか。


「魔王、といえば分かるか? それに命令されてきた。この先の町を滅ぼせ、とな」

「退いてはくれないだろうか」


 風斗は考える。先に見えたあの映像にならない為の行動を、言動を、考えを。以下にしてポポを守るかだけに注力を注ぐ。だが、魔物の反応は嘲笑うかのような返答だった。


「否だ。我は数億にも及ぶ魔物の長として、あの魔王に負けた。君主の命令は絶対。退くことはない。」

「意思疎通できるのに、何故だ! 」

「それが今の我の在り方だ。それに貴殿には我を殺す動機があるであろう? 」


 眼前に広がる同じ人間の死体。それを風斗は無視できない。


「認識を改めよう、魔物を友と呼ぶ少年。()殿()を殺すには非常に心苦しいが、剣を抜け」


 風斗は剣を抜いてはいる。だが、敵に対する甘えがその鋭さを失っている。だが、目の前の魔物は大斧を構え、声高らかに宣言する。


「我は魔人として、魔王の手となり足となり働く物、フォルネウス。貴殿の考えに最大の敬意と、最大の死を」


 風斗も心を決める。この場で甘えを無くさないとあの光景が眼前に広がる。それだけは嫌だと、震える心が叫ぶ。風斗は剣を握り直し、心が冷めていく感覚に身を委ねながら、言葉を吐く。


「俺は冒険者として、俺という人間を慕ってくれる友として、()()と戦おう。俺の名は春野風斗。」


 剣を眼前に向けながら、魔人フォルネウスに向ける。


「貴方の使命や行動に対して興味などないが、俺の友の邪魔を、俺の邪魔をするなら全力で潰す! 」


 そしてその場で、金属音が森に木霊した。




これからは基本土日連続投稿の、平日は不定期出あげたいと思います。


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