海上決戦終幕
次は金曜日辺りに投稿しますー
少女と少年はただ走る。陸上を、空中を、泳ぐ魚のように、飛び跳ね、その速度を増していく。横から湧き出るように流れ出す海。湧き出る魔物、それらを一緒くたに流れる水のブーツ、剣で切り刻みながら、一直線に走る、走る、走る。
「邪魔」
繰り出された脚。ただの脚ではなく、流れる水の刃が常に存在する。触れるだけでも、その存在を斬られるようなマナのブーツ。水の魔物の多数が、接近した瞬間肉塊へと変貌する。
「俺の邪魔をするな」
繰り出される剣。異常な硬さとマナによる鋭利化のされた最強の剣。道に出た瞬間に、幾重にも切られ肉塊と化していく魔物達。
溢れ出る体液すら、置き去りにして二人はさらに進み続ける。
「ここは通さねぇぜぇぇぇぇぇぇ」
特大の斧を軽々と持ちながら、大きな口を開け笑う魔物。冒険者複数人危険討伐推奨である大型の魔物。ミノタウロス。
牛の頭に人の体をデタラメにくっつけたようなその外見と、人の身を大きく超えるその巨体。防具の代わりをなさないボロ切れを身につけながらも、恐れられるのはその巨大な筋肉であろう。
「お前のお陰で、泳がずに―。」
「邪魔」
大きく笑いながら話すミノタウロスに、間髪入れず螺旋状の槍の一撃。不意の一撃にも、さすがは危険生物と称される事がある。ジアの横に切った薙ぎ払いに反応し、縦に斧を振る。
体重の乗った破壊の一撃。だが破壊されたのはミノタウロスの斧。砕け散るような破片がミノタウロスの眼前に広がるのと同時に、両腕が切り落とされる。
痛みに叫ぶ前に、銀色の剣に首が吸い込まれ、綺麗な放物線を描き、頭部が海の壁に飲み込まれていった。
「ジア、海が元に戻る!急ごう」
「ん、了解。マスター」
二人は空中歩行でさらに進む。前方おおよそ100mに差し掛かり目に入る海に溺れるように配置された黒の扉と蠢く魔物達。
そして扉を護るように仁王立ちで立つ三叉槍を片手に持つ魔物。ぎょろぎょろとした目が特徴的な半魚人のような魔物。瞬間的に切りつけようとするが、魔物が掲げた三叉槍から飛び出す雷に阻まれてしまう。
風斗は観察眼を発動し、相手の情報を盗み見る。
「(雷魔法特化。しかも自動標準? 厄介だね)」
魔物の名前は、マームモン。魚人族である事と、そのほか様々な技能が風斗の目に飛び込んでくる。雷魔法特化というアンバランスのような魔物だが、あまりある自動標準の技能が、二人を苦しめる。
左右に分かれた攻撃も、風斗の風纏による移動も雷の正確無比の攻撃に阻まれる。その間にも、魔物は二人に群がるように集まり、残りは陸へ侵略を続行する。次第に苦しくなるような二人の姿に、マームモンは声高らかに宣言をしていく。
「ギャギャギャ! お前ら弱い、お前ら殺して、魔王様に魔人にしてもらう。ギャギャギャ! 」
その台詞に血管がブチ切れる音のする風斗とジア。おそらく二人とも同じことを思っているだろう。お前何もしてねぇじゃん、三叉槍振りかざしてるだけじゃんと。
二人の周りに群がる魔物が一瞬で瞬殺され、肉片、いや刺身がマームモンの顔面に付着する。
「ギャ!? 」
「全力で潰す」
「雑種が 」
ジアが空中に飛び、螺旋状の槍にマナが大きく集まる。海から吸い上げられるような形で、水が集まり、天を隠すような程の巨大な槍と化す。
マームモンの眼前には、剣にマナを込める風斗。青筋を浮かべたその姿に、空中に存在する天をも穿つ槍の姿に、憐れな魚類は涙を浮かべながら自身の失言に気づく。
「お前の技能は強いが、範囲外からの攻撃に対応できるか? 自称魔人候補」
この世界に来てから、魔物に煽られたことの無い風斗が、ブチギレる貴重なシーン。
「ギギャギゥガ!ギャギャギャギャギャギャ―」
言葉にならない言葉と、大量の涙を浮かべながら必死に三叉槍を振るマームモン。だが、一向に届かない雷を最後に、哀れな魔物は二つの閃光を目にする。
「剣技『神威豪風斬』!」
「槍技『戦乙女の槍』!」
後から聞いた海兵の証言では、海神のごとく凄まじい音が海から響いたという。
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マームモン討伐後、二人は急いで件の黒い扉を破壊する。この中から魔物が湧き出るように出ているからだ。風斗の支持で、マナの配給を一旦切った武器で破壊することにした。
無事扉が破壊されるのを見届け、軽く安堵に包まれるが、風斗とジアはすぐにその場を離脱する。
それは生み出された魔物の多さは異常で、風斗が不用意に観察眼を発動させた瞬間、おびただしい量のマナに眼球に激痛が走るほどだからだ。
二人は一旦、戦場から離脱し、浜に戻る。二人を称えるような声が上がるが、それもすぐに魔物達の攻防に遮られる。一旦戦線から離脱し、アキレスの横に並び経ちながら会話を交わす。
「アキレスさん、無事黒い扉は破壊出来ました。」
「ありがとう、風斗。それで、あれの正体は?」
風斗は黒い扉の話を聞いた時からあれが破壊しないといけないものであることは直感で分かっていた。それは、昨日無かった場所に出現した異物のせいで現在の惨状が出来上がっているという簡単な考察。
だが、扉の破壊にはさすがの風斗も五分五分ではあった。
「どんな原理かは分かりませんが、マナを吸い込むことをトリガーにして召喚しているのかもしれません。」
「扉、脆い」
「ふむ、ありがとう風斗。ありがとう、助かったよ。」
「ありがとうございます。ですが、俺だけの力じゃ成し遂げられませんでした。ジアと、サンドラと、それに―」
風斗は後ろを見る。街を包み込み様な巨大な結界。それらが全ての攻撃魔法を弾くように無力化する。当たった瞬間雷がのたうち回るような光とともに、魔法が消失する。
リシュの貼った大結界が、街を守る。だからこそ後ろを気にしないで戦うことが出来たのだと、風斗は確信する。風斗の視線を察し、アキレスが言葉をかける。
「そうだね、彼女のおかげだ。今は回復させているがね。」
「リシュに何かあったんですか!? 」
困惑したような表情に、年相応な反応が見られアキレスは不意に少し驚く。彼らはまだ十代だということに改めて気付かされる。
「大丈夫。一時間ほど維持した後に、魔力枯渇症状が出ただけだよ。今は町専属の魔法使い100人規模のローテーションで回している。」
アキレスは笑みを軽く浮かべながら、風斗とジアに問う。
「君たちは何者なんだ、まったく」
風斗とジアは軽く目を合わせ、満面の笑みを浮かべながらアキレスにしっかりと言葉を届けた。
「「冒険者」」




