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戻ってきた日常、後編

「ガルルルルルルルルルル」

「サリックス」


 何処も彼処も地面が抉れた森の中、地面だけではなく木々もその被害を存分に受けている、風情も糞もないその場所で両者は睨み合うように立っていた。


 殺意の武器である牙を余すことなく威嚇のように使っている白き獣。サンドラ。

 その身は大きく人を越し、大柄であるオーガのポポさえも軽く乗せられるのではないかと思うほどの巨体。頭を低くしながら、ゆっくりと相手の出方を見ている。


 そして対面するように立っている彼女。水に溶けてしまいそうな程の水色の髪の毛を、練り上げたマナによって漂わせながら大きなランスを手に眼前の獣を睨みつけている。

 機械人形の唯一の生き残りにして、風斗達の旅の仲間である、ジア。


 その傍らには主を守るように浮遊している盾のような機械。風斗が名付けた自立支援浮遊型ユニット『サリックス』。

 ジアのマナしか介せず、攻撃にも防御にも転じることが出来る非常に使い勝手のいい二つの代物。


 そして風斗。完全においてけぼりのこの状況を理解しようとも頭が熱くなるので、もうその事は忘れた。近くの綺麗に削られた岩にリシュと共に腰掛けると、その戦闘を見学しようと心に決める。


 二つの殺意が混じり合い、場を支配していく。風の音すら二人には聞こえていないだろう。瞬きすら許されないその張りつめた空間。そして場を邪魔していた風が一瞬、泣き止んだ。


 両者の立っていた地面が、爆発する。一般人が見たら、二人が急に消え、地面が爆発したことすら理解に時間がかかるだろう。


「ガアアアアアア! 」


 唸る咆哮と共に、直線に走る白い獣。鎌鼬にも似たその剛刃にも似た前足の攻撃をいかんなく、相手に振るう。


 切り捨てる爪をサリックスで防ぎ、ランスの少女は、その体重を利用した攻撃で相手に返答をした。


 前方の地面にわざとぶつけたランスを利用し、体を捻った遠心力と体重の乗った一撃。

 強風のような音ともに繰り出されたその一撃を、白き獣は難なく後ろ蹴りで弾くと、鞭よりも重い尻尾の一撃で相手をなぎ倒す。


 常人には目で負えないようなそんな、攻防。だが、砂埃さえも置いていく二人の攻防はさらに続く。スピードと圧倒的な力、文字通り獣のような戦いのサンドラと、サリックスと体重移動を利用したランスの攻防のジア。


 永遠とも続くような攻防だったが、一瞬サンドラの地面が主の体重に耐えきれずに砕け散り、体制を崩してしまう。


 その瞬間をジアが見逃すはずもない。


 重みはない、だが光にも似た素早いランスの攻撃が哀れな運のない獣の体を血で染めた。かのように思えたが、槍の矛先が体を貫く寸前、水滴が落ちるかのようにサンドラが地面に落ちた


 比喩表現ではなく、実際に風斗の目の前でカサンドラが地面に落ちるように消えた。

 だが、ジアはそれを承知というように、ランスの先にマナを込めて地面を抉るように攻撃を始める。


「影魔法、姿写です。」


 状況が分からないといった風斗に、リシュは説明を続始める。あまり脳に負担をかけたくない風斗は観察眼を止め、リシュの話に耳を傾け始めた。


「自身を影の中に潜ませたり、影自身を武器として扱う稀な魔法ですね。サンドラがいつ習得したかはわかりませんが。」


 影を追うようにジアがランスをふるが、影自体が法則を無視し、縦横無尽に走り回る。空中に飛散した地面の残骸や、太陽の光をさえぎった木々の影。


 そして小さきその影が、ジアのランスと削り上げられた土の塊とを繋ぐ影を移動し、突如空中から白き獣が湧いてでた。


 噛み砕こうとした牙の一撃を避けるが、サンドラはあくまで誘導とでも言うようにその大きな口に笑みを浮かべる。


 ジアの避けた場所を狙っていた、先出しの尻尾の一撃をもろにくらう。あまりの突然のことにサリックスでは対処出来ず、なすすべもなく大木にその体を叩きつけた。


 サリックスが目の前で倒れている主を守るように展開されるが、カサンドラの斬ることを主体とされた爪の前では紙も同然であった。


「うっ、ぁぐぅ、、」


 呻き声を上げながら立ち上がろうとするジアだが、カサンドラの唸り声を聞き、負けを悟ったようにランスを手放した。


「また......負けた」

「グルル」

「ん、ありがとう」


 サンドラは甘えた犬のようにジアの頭に自らの頭を押し付けている。数秒前まで命を取り合う試合をしていたとは思えない程の行動である。

 そしてそれに応じるように頭を撫で回すようにモフるジア。


 一連の流れを呆然と見ていた風斗だったが、もう戦闘が無いことを悟りゆっくりと二人に声を掛けようと足を運んだ。


「二人ともだいじょ―」


 声をかけようとした瞬間、風斗の喉にジアのランス、頭にはサンドラの牙が置かれる。

 和やかな雰囲気は一変。蛇に睨まれたカエル状態になってしまう。そして非常にカサンドラの息が生暖かいと風斗は流れる汗と共に感じる。


「俺です俺です!風斗です!え、嘘なんかすいません! 」

「......ヘタレ」

「誰今失礼なこと言ったの!? 」

「ふふふ」

 騒がしい喧騒が今度はその場に居座り始めた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「弱いから?」

「......うん」


 ジア、サンドラを回収した後、ポポのお店に足を運んだ一行。杖をつく風斗の姿を見てポポが文字通り鬼のように抱きしめる事件や、リシュとジアの腕が外れそうになるほど握手をするなどとった珍事があったのだが、ここでは割愛しよう。


 食事後の紅茶を飲みながら、風斗がジアに戦闘訓練の理由を聞いた時の返答であった。


「魔人討伐......何も出来なかった。 」

「いや、十分―」

「魔人の攻撃の後の記憶......ない」

「それは......」


 リシュが上手く言葉をかけられずに詰まらせる。魔人との戦いのさなか、ジアは単騎で任された役割を全うしている時不意の一撃の餌食になってしまった。そしてリシュを巻き込みながら吹き飛ばされ、再起不能状態に陥る。


 機械人形である、ジアは文字通りその機能を停止し、討伐後風斗が血を分け、リシュのマナを注ぎ込み再び活動可能状態まで回復した。

 そのことを悔やんでいるのだろう。


 悔しさで今にも泣き出しそうなジアにかける言葉が見つからない一行。だが、風斗はゆっくりとジアの手を自らの手で包み込む。


「ジア、君の気持ちが全て分かるとは言わない。けれども、急いで全てをこなそうとする必要もないよ。あの戦い、ジアがいなければ確実に俺たち二人ともメフィストフェレスに殺されていた。」


 事実をしっかりと口にする。実際メフィストフェレスのマナを消費させるような行動が無ければ殺すに至らなかっただろう。


「それでも強くなりたいなら俺も手を貸す。ジアは1人じゃない。手伝える時が来たら教えて欲しい」


 一人で抱え込むことの大事さ、一人で抱え込みすぎてはいけない線を風斗は理解している。

 精神的に支えあえることも仲間のいい所だと風斗はそう信じたい。その考えと共に風斗はジアに伝えたのだった。


 ゆっくりと咀嚼するように風斗の言葉をジアは心の中で繰り返す。そして、ゆっくりと風斗の手を握返すと、可憐な微笑みを浮かべ言葉を紡いだ。


「ありがとう......マスターっ」





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