道化師のサーカス
長い間お待たせしました。少しの間不定期投稿にします。
メフィストフェレスは、52枚の全てのカードを空中に漂わせニタリと不敵な笑みを浮かべる。
カードにはたっぷり鋭いマナが塗られており、漂うクラゲ達が触れるだけで切られ、消滅していく。
対して風斗は風纏を掛け、目前の敵に殺意をみなぎらせていた。
相手を殺すことだけに心を委ねるが、体は恐怖に震え、剣の柄は汗で濡れている。
「クラゲ達、踊ろう」
その掛け声と共にどこに居たのか、幾数百匹のクラゲが風斗を同時に襲った。
地面が爆ぜ、壁に肉塊が吹き飛び、砂塵が周囲に漂う。
「『風花の花弁』! 」
爆風を凌ぎ、空中に躍りでる風斗にさらにクラゲの追撃が疾走する。
「ゴホッゴホッ...氷魔法『氷雪の結界』」
むせ返るような魔人の濃いマナにリシュはむせ返りながらも、風斗を追撃する全てのクラゲたちの動きを止めた。
「風斗さん! 」
風斗はすぐさまメフィストフェレスの眼前に瞬間移動にも似た移動を行う。
足場にした風力場がはじけると同時に、風斗の光の速度を超えた剣技が魔人を襲う。
だが。
「甘いよォ〜。魔人の目! 」
数枚に束ねられたカードに防がれ、体が完全に膠着してしまう風斗。
ゆっくりと腹に置かれたメフィストフェレスの手から光が零れる。
「道化師の玉」
「風斗さん! 」
「マスター! 」
風斗の体は吹き飛び、壁にぐしゃ、という嫌な音を立てる。
メフィストフェレスは口元を三日月に歪め、クラゲとリシュ、そしてジアに視線を這わせる。
「空間ごとクラゲを凍らせたんだねぇ」
ゆったりと天気の話でもするような口調と雰囲気に、二人は背筋に冷たいものを感じる。
「こんな状況なのに...! 」
「なんで、笑って...」
ニタニタと笑いながらゆっくりと歩みを進めるメフィストフェレスにゆっくりとあと退ってしまうリシュとジア。
「どうして逃げるのぉ〜、友達になろうよ〜! ね? 」
「「くっ! 」」
二人が覚悟を決め、武器を握り直す。頭にある魔法を唱えながら、メフィストフェレスに視線を向ける。
メフィストフェレスはなおもゆっくりと、確実に歩みを進めていた。
「まずは握手だよね〜、あく-」
空気の切れる風切り音と共に、メフィストフェレスの体が大きく後方に吹き飛ばされる。
何が起きたかわからない二人に、風の主は声をかける。
「ごめん、少し意識が飛んでた」
「風斗さん! 」
「マスター! 」
頭から血を流しながら、不敵に笑う風斗。左腕からは血が流れ出している。
風纏で限界まで速度を上げたのだろう。左腕が速度と衝撃に耐えられず、その代償を受けていた。
「リシュ、ジア行くよ! 」
「「はい! 」」
その一言で三ヶ所の地面が爆ぜ、三つの流星がメフィストフェレスに流れ込む。
「はぁぁぁぁぁぁぁ! 」
「...... 」
風斗の風纏からの剣戟をカードとクラゲを使い、凌ぐメフィストフェレスだったが、圧倒的な手数の風斗に徐々に体には傷が増えていく。
「海月の爆弾」
突如風斗とメフィストフェレスの間に無数のクラゲが生成、そしてすぐにその場を爆風で包み込む。
「く...! 」
爆風からステップするようにその場をあとにした道化師を追うレイピアの一撃、いや一撃に見える三連撃。
「剣技『三連撃』! 」
「......! 」
哀れな道化師の急所を狙い定めた迅速の殺意たち。だが一歩足らず体に突き刺さったレイピアを持ち上げられ、リシュが地面にたたきつけられてしまう。
「かはぁっ! 」
「離れろ! 槍技『戦乙女の槍』!」
ジアによる不意の攻撃、だが片手で受け止められてしまう。そしてメリメリ と嫌な音が受け止められた槍から音が鳴り始めていた。
「ジ、ジア... 」
「く...! 化け物め」
メフィストフェレスの瞳からはいつの間にか血涙が流れ出し、口元は醜く三日月に歪んでいる。
月夜に浮かんだ道化師の無邪気な笑み。
「あれあれぇ〜」
吹き出る黄色い血と無くなった右手。解放された槍と自分の腕を見比べながら不思議そうに見ているメフィストフェレスの腹に、強烈な蹴りがお見舞される。
肉の塊が、壁に当たるような衝撃音が洞窟内にこだました。
「大丈夫!? リシュ、ジア」
風斗がリシュを立たせ、ジアに槍を渡す。
「ありがとうございます! 私は大丈夫です」
「ん、平気」
ゆっくりと三人は目線を魔人へと動かす。壁に叩きつけられて以来、ピクリとも動かない魔人・メフィストフェレス。
だが、ゆっくりと瞳を開けたかと思うとケタケタ と笑い始めた。そして笑っているのか、叫び声を上げているのかわからないその声が突然ピタリと止み、耳まで裂けた口元を狂気の笑みに歪ませた。
「ここまでするなんてぇ、すごいよぉ〜! だから僕もとっておきを出すねぇ〜」
そう言い残し、ゆっくりと残っている方の腕で自らを突き刺す。一連の奇怪な流れになぜだが体が動かない風斗達。
初めから決められていたような、半機械化されたそんな動作で魔物の心臓部コアを抜き出す。
小さいクリスタルのような輝きを見せるそれを恍惚な表情で眺めたあと、メフィストフェレスはそれを口で砕いた。




