魔人:メフィストフェレス
遅くなってしまい申し訳ございません。
「ふーやっと最奥か......」
水がゆっくりと音を響かせる、暗い最奥の地にて風斗が疲れたようにこぼす。
アクアダンジョンの最奥。大きな扉の前に壁にもたれ掛かるように風斗達一行は体を休めていた。
第十二階層からなるこのアクアダンジョン。各階層ごとの大きさが尋常ではなく、さながら海の中を途方もなく歩いているかの錯覚を受ける。
さらにアクアダンジョンは膨大すぎる海のマナを受け、一定期間で中の構造が激変してしまう。
そのため階層ごとのモンスターや種族も場所が変わってしまうため、定期的にダンジョン捜索依頼がギルドから出されていた。
構造の変わる広大なアクアダンジョンに、多すぎる魔物達に翻弄されながらもやっとの事で最奥へと一行はたどり着いたのであった。
「それにしても魔物の数がほんとに多いね......」
魔物達の心臓部、コアがこれでもかと詰まった魔法の鞄を見ながら風斗が溜息を漏らす。
「二階層分でこれだけの収穫はほんとに異常ですね。」
「ん、疲れた」
十階層までは道順をほぼ暗記しているので、魔物をある程度蹴散らしながら来たが、未探索の残りの階層ではそうとは行かず、時間が多くかかった。
その分戦闘も増え、生傷が少しだけ増えた風斗達。
何故ここまでの事をなしえながら最奥を目指していたか、それには理由がある。
おもむろに風斗は地面に剣を刺し、マナを集中させる。
「この扉の向こう、確実に異常なほどのマナが集まってる」
獲得技能[龍脈受動]。
マナ受動と観察眼[マナ読み取り]を同時に行ったことにより、偶然手に入れた技能。
地形や物体に流れるマナをより体感的に分かる技能で、隠された道や罠などの探知に使える。
第七階層辺りで偶然地面に剣を刺した風斗が、奥底に寄生するような物体の不穏なマナを感じ取り、今に至る。
「ここまで来たんだ。何があっても良いように...準備お願い」
少しの真剣さと殺意を込めながら、ゆっくりと扉を押しあける。
鈍重な音を響かせゆっくりと、歩みを進める鉄製の大きな扉。
潮の匂いに満ちた薄暗い部屋の中にあったのは、いやそこに居たのは。
大きな魔物や小さな魔物の腐乱した死体が散らばっている、吐き気を催す臭いが充満している部屋。
その最奥に数名の干からびたような人間と、その頭に付けられた寄生虫のようなクラゲ。
それを操るようにカードを振るう道化師。
そして暗い海よりも、暗いひび割れた大きな黒の扉がそこにはあった。
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「な、なんだこれ......?」
目の前の惨状に思わず声が上擦る風斗。
前方ではボロ布を着た数人の男女が涎を垂らし、白目を剥きながらアーアー、と声にならない声を挙げている。
地面の人か魔物か分からない肉片が嫌な感触と共に風斗の靴に触れた。
「あれれぇ〜他の人間んんん~?」
ピタッとタクトを止め、三日月のような狂った笑みを浮かべる道化師。
タクトを止めてしまったのか、そのせいかは分からない。
だが、クラゲの着いた男女は言葉にならない声を上げ、喉を掻きむしり始めた。
その様子にリシュは言葉を失い、ジアでも冷や汗が流れている。
「自己紹介はしないといけないって、魔王様言ってたっけなぁ〜?
僕、メフィストフェレス。めーちゃんって呼んでね!」
ニタニタと笑う道化師に自然と、武器に手が伸びる風斗。
その様子に笑みを止め、メフィストフェレスは声を吐き出す。
「どうして武器をとる」
その冷めた顔に対して風斗は体が強ばってしまう。
「お前が害をなすものかもしれないからだ」
「同じ言葉を話すのにぃ〜?」
冷めた態度はどこ吹く風か、やけに陽気な声が響き渡った。
「一つ質問を」
「どうぞぉー」
「その人達は...お前のなんだ」
その問いにニタリと大きく口を歪ませると、ゆっくりと耳に残る声で答えを提示した。
「と・も・だ・ち」
「!?」
そのセリフと共にふらりと波のように、風斗の前に現れるメフィストフェレス。
「君はどっちかなぁ?」
咄嗟に剣を振るう風斗だが、波のようにゆらりと避けられてしまう。
「アハハハハハハ!楽しいねぇ!沢山のお友達が出来そうだよ〜!」
数匹のクラゲを風斗の目前に出し、剣にわざと触れさせた。
「なんだこ、、、うわっ!」
切られたクラゲが爆発し、さらに周りに誘爆。色とりどりの魔法の爆弾が風斗を襲う。
爆風の中から飛び出すように風斗が吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。
頭から滲み出す体の悲鳴の液体を垂らしながら、しっかりと腰を落としながら剣先を今回の理不尽に向ける。
滴る血を感じながら、痛みと共に殺意を漲らせいつもの呪いをその身に宿す。
「話はできた。だが理解はできない。
お前は敵だ。
お前がこの人達をどう使おうが関係も興味もないが、俺の邪魔をするなら全力で潰す。」
呆気に取られていたリシュとジアもすぐに武器に手をつけ、メフィストフェレスは愉快に笑った。
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「くっ!クラゲの数が多すぎます!」
メフィストフェレスから湧き出る、ほぼ無尽蔵なクラゲの攻撃に三人は苦戦を強いられていた。
攻撃すれば、様々な魔法のような爆発。攻撃せずに数を減らさないでいれば触手による攻撃。
さらにメフィストフェレス自身によるカードの攻撃が、風斗に降り注いでいる。
爆風とカードの斬撃によって地面が抉れ、鼓膜が直接音で撫でられる感覚に陥りながら剣でカードを受けきる。
「(柔らかい体から繰り出される攻撃がきつい!何より剣と同等の鋭さのカードってなんだよ!)」
頭に中で状況を整理しながら悪態をつく。
実際風斗の剣の腕は、度重なる戦闘で上がってはきているが、カードの方が単純な物量が多い。
回転するようなカードの攻撃。次第に体には血が滲み出す。
「デタラメすぎるマナ量...だ!」
「ニヒヒヒヒ!」
強大な強度を誇るダンジョンの地面すら抉りながら、カードの無慈悲な殺意の嵐は風斗を付け狙う。
カードがマナで鋭く塗られ、そのせいで剣と同等の鋭さを放っていた。
「マスター!」
ジアが風斗とメフィストフェレスの間に入ろうとする。
だが怒号のような風斗の掛け声に、止められてしまう。
「ダメだ、ジア!」
「二ヒィ」
邪悪な笑顔のメフィストフェレスのタクトを振るう動作によって天井に張り付いていたクラゲが、猛スピードでジアに張り付こうと接近した。
「くそ!」
迅速の風の如く移動する風斗の一撃がクラゲを仕留めるが、爆風でジアは後方に風斗は未だメフィストフェレスの眼前から離れないでいる。
そして風斗とメフィストフェレスの身体に生傷が増え続け、五分とたっただろうか。
息をするのも忘れるほどの攻防。
地面の肉片が弾け飛び、ダンジョンにも生傷を増やし続ける。
風を纏った斬撃が、紫に発色するカードの攻撃が火花を散らし続けた。
「風魔法『迅速の風槍』!」
「殺しの笑顔」
迅速の空気の槍が空中を走り出し、黄色く発行したカードが笑みを作るように空中に散乱し風斗を狙うようにランダムに空中を泳ぐ。
お互いの魔法を駆使しながらの攻防が、続くが先に体に異常が現れるものがいた。
「あれれぇ〜息切れ〜?」
「はぁはぁ...はぁ」
精神を削る戦いが数十分以上続き、マナ消費が重なり風斗の膝に力が入らなくなり始めた。
だが、眼前のメフィストフェレスは依然ひょうきんな態度と冷たい態度のミルフィーユを風斗に向ける。
いつに間にか背中合わせのリシュと風斗。
「リシュの方は大丈夫?」
「風斗さんこそ」
肩を息で揺らしながら、突進してくるクラゲの軍隊を切り伏せながら二人は思考を巡らせる。
「リシュ、考えがあるんだ」
「なんでしょう」
切り伏せたあとの爆風を氷の壁で器用に防ぎながらリシュが即座に返答した。
「クラゲを氷漬けに出来ないかな」
「そ、それは」
クラゲの猛攻が凄まじい事には変わりない。だが一瞬でも動きが止まれば、活路が見いだせると風斗は考えた。
「それにメフィストフェレスは魔人だよね。きっと」
「ええ、マナを吸収している様子が見られません。」
「マナに拒絶された者、か」
記憶の中の魔人の説明を思い出しながら、ある程度話が終わる。
そして見計らったようなタイミングで風斗の背筋に、嫌な気配が滴る。
「話は終わったか?」
「くっ!」
海よりも暗い顔のしたメフィストフェレスが、カードを携え風斗に襲いかかる。
クラゲをまとめて切るような神速の一撃を、空中歩行で紙一重で避けた後、風斗は後方に飛び退いた。
「メフィストフェレス。お前を俺は潰す。その一手だ」
風斗の目にハイライトが消え、心を修羅に身を落とすと彼は言葉を吐いた。
「武装魔法『風纏』」
その様子にニヤリと三日月を歪め、メフィストフェレスは愉快に踊った。




