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昇格と正式依頼

ここ数話は動きがあまりないですが、よろしくお願いします。

 アクアダンジョンでの戦闘後、数時間にも及ぶ回収作業が行われた。

 リシュにはギルドの方に行ってもらい、残った面子で散らかった魔物のコアや、タートルデモンズの解体を行う。


「ほんどにジアの姐さんが?」

「うん、俺達は一切手を貸していないよ」


 ポポがタートルデモンズの硬い甲羅を器用に肉体から切り離しながら、壁にもたれ掛かるように眠るジアを見る。


 機械人形である彼女は、材料とマナさえあれば自己修復が可能である。

 長引く精神を削る戦いに打ち勝ち、今はつかの間の休息時間だ。


「でも、意外と使える部位は無さそうだね」


 風斗が足元に散らばる複数の死体に目を向ける。依頼の内容ならまだしも、突如沸いた魔物の波。


 食材としての意識を向ける暇も配慮も出来ずに殺された魔物達。

 タートルデモンズの粗方の解体を終える頃、駆けつけたギルド職員と共に残りの回収作業を行った。


 そして使える食材、コアを集め終わりギルドに足を運ぶ頃には朝日が風斗達を照らす。


「ギルドに達成依頼を出す時は、いっつも朝方な気がする」

「そうですねぇ...」


 疲れ気味な風斗とリシュに、無表情なジアが近づき、二人の間に入るように座る。

 ゆっくりと目をつぶり、ぎゅっと二人の手を握ると絞り出すように話し始めた。


「少し、昔のことを...思い出した気がする。」

「どんなこと?」


 少し言いづらい様に顔を顰め、ぽつりぽつりと呟く。


「沢山の...人形を破壊していた。何度も何度も何度も...」


 握りしめてる手に力が増す。悪夢といった方がいい記憶だろう。

 自分と同じ種族の者を相手取り、殺した記憶。


 やっと取り戻した記憶の断片が呪いのように心に纏わり付く。

 いつしか流れ出る涙と小刻みに震える肩。


 そんなジアにゆっくりと寄り添うように二人は体重を預け、優しい音色を奏でた。


「大丈夫だよジア。」

「貴方は私達の仲間です。」


 ゆっくりと撫でられるようなそんな言葉達に、薄く瞳に雫が宿る。

 ジアはゆっくりと、二人に対する確かな安堵感を噛み締めた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アクアダンジョンでの戦闘後、数日経って風斗達が過ごしている宿宛に封書が届いた。

 内容はジアの昇級の件と、報酬金の受け渡しだそうだ。


 大量のコアに、小型ではあるが龍種のタートルデモンズの死体。

 ギルド側も測量などに対して時間を大幅に取られてしまい、後日ということになっていた。


 封書が届いた日のお昼に、ギルドへ向かう風斗達。

 肌寒くなってきた昼の匂いを感じながら、少し大きくなってきたサンドラに会話は向かう。


「サンドラ、大きくなったよね?」

「狼の成長は早いということでしょうか。」

「モフモフ、気持ちいい」


 最初は膝下程の小さい子犬のようだったのに、今では膝上まで来ており、ジアは歩きながら毛並みの布団に舌鼓を売っていた。


 小さく喉を鳴らしながら気持ちよさそうに撫でられるサンドラの様子に、当初の噛み付いてきた面影は既にもうない。


 その事実に胸を撫で下ろす。


「ジアの昇級の件ってどれくらい上がるんだろうね。」

「ん、A級?」

「そこまでいかないでしょ」

「ありえない話ではないですよ。実際タートルデモンズは数十人規模のパーティー推奨の魔物です。風斗さんとジアが規格外なだけで、基本はCランク以上の依頼は複数人推奨なんです」


 ふむふむといつの間にか取り出しているお手製のノートに情報を書き込んでいく。

 マナ受動と観察眼による視覚補助で器用に避けて行く風斗。


 ながらスマホならぬ、ながらノート書きだ。しばらくした後ノートを鞄にしまう。その様子に不思議そうな顔なリシュが話しかける。


「風斗さんノートはもういいんですか?」


 その様子にキョトンとしながら仕舞ったノートを取り出し目を向けると、たしかに半分しかかけていなかった。


「またか...」

「どうかしましたか?」

「最近観察眼を使っているとよくあるんだよね」


 サラサラと続きを書きながらも話は続く。


「描き終わった光景とか、読んでない先のページとかが浮かび上がるんだ。そのせいで後で確認したら書いてなかったり、ページが読みずらかったりで最悪だよ。」


 愚痴をこぼし終わり鞄にノートをしまい込む。目的地のギルドの扉を開けると、数日前にはない光景が広がった。


「「「お待ちしておりました!」」」


 大きく揃えられた声で歓迎される。堂々とその中を歩く風斗、興味なさげにその後を歩くジア。

 そしておどおどと慣れない姿であとに続くリシュ。


 満面の笑みに包まれた道を歩く風斗に、そそくさとリシュが寄り小声気味に話しかけた。


「(ふ、風斗さんなんでそんなに慣れてるんですか!)」

「(元いた世界で慣れてるからね。それにあまりオドオドしてても相手に失礼だよ?)」

「(そうは言っても...)」


 学園にいた頃とは違う挙動不審なリシュの様子に、微笑みがこぼれてしまいそうになる。

 ぐっと口に力を入れ、前方に立っている男性に話しかける。


「この度はお呼び頂きありがとうございます。海の街ナーシサスギルド長、アキレス様」


 ゆっくりと腰に下げていた剣の柄を地面に着けながら一礼する。

 その姿にほぉ、と小さく感嘆の言葉を挙げ、アキレスと呼ばれた金髪の40代ほどの男性も同じ行動をとる。


 キョトンと置かれたままのリシュとジアに、そっと受付嬢が耳打ちをした。


「あれはここナーシサスに伝わる作法のひとつです。剣の柄を地面に置くことで敵意がないことを示すんです。よく知っておられましたね」


 リシュとジアは羨望に瞳がみちる感覚に心が彩られる。


 その土地の作法などを知っていないと出ない行為。さらに相手はギルド長、この街の町長の次に権力を持っている人間相手だ。


 風斗の手回しに速さにリシュ達同様、ギルド職員も目を見張った。


「若い方を呼んだので、ある程度の無礼は承知していましたが、ここの作法で挨拶されるとは。これはいっぱいやられましたね」

「古くからの風習に習うことは、最低限のマナーとして昔から鍛えられているので」


 にこやかに握手する二人。考えていることはお互い同じだろう。


 こいつ食えないな、と。


「それで呼んでいただいたのは、ジアの昇格の件ですか?」

「それもありますね。とりあえず奥の部屋へ」


 三箇所の色のカウンターの後ろ。小さい螺旋階段を上がり、左右についている部屋をスルーし一番奥の部屋に入る。


 綺麗な置物や、海産物の模型に装飾された綺麗な部屋という印象を受けた風斗達。


 ソファーに促され、アキレスと対面するように座った。


「今日はお時間を頂いて、申し訳ない。何個か話さないといけない件があってね。」


 幾分口調が砕けたアキレスと、緊張した面持ちで座る風斗達。

 実際緊張しているのはリシュだけなのだが。


 そう言い、アキレスはジアのギルドカードを取り出した。

 数日前に預けていたものだ。


「今回、タートルデモンズを単独で討伐した事に関して偽りはないという反応を得た。

 これを持ってジアくんのクラスをBクラスとする」


 ジアのカードが光り輝き、海の街ナーシサスのランクにBと記される。

 ギルドカードを受け取り、そのランクに少し不満げなジア。


 やはりいきなりAランクになると思っていたのであろう。その様子に苦笑気味にアキレスが答える。


「これでも一応色々と尽力したんだけどね。いきなりAランクは私の力では流石に...」

「ん、気にしない。ありがとう」


 感謝を言いギルドカードをしまい込むと、アキレスは咳払いをし先程の雰囲気とは打って代わり真剣な眼差しになる。


 その様子に風斗も同じく眉間に力を入れた。


「今日呼んだのはジア君の昇級の件もあるが、君たちにお願いしたいこともあってね。」

「お願いしたい事、ですか」

「ああ。君達はアクアダンジョンに入った時に感じたことはないかい?」

「「?」」


 その質問に疑問符が浮かぶ風斗とジア。しかしリシュはじっくりと考える様子。

 しばしの後にリシュが答えを導き出した。


「魔物の量が異常に多い、ですか?」

「そう、今ダンジョンでは魔物たちが異常に発生している。」

「タートルデモンズのような龍種が普通、ダンジョンに現れることはそうないですし、私自身おかしいとは思いました。」


 ダンジョンはマナをたっぷり含んだ土地が変容した場所である。

 その性質上多くのマナを土地に取られてしまい、自然発生する魔物は質が低い。


 だが、タートルデモンズの様な龍種の魔物やおびただしい量の魔物たちの数は流石におかしいとリシュは補足説明を風斗にする。


「そこで、君たちにはダンジョンに一定期間潜って貰いたい。」


 アキレスは手練の冒険者達にも同じ話をしているという主旨を伝えながら言葉を紡ぐ。


「ここにいる間で構わないし、正式にギルドの方でも依頼を出しておく。時間がある時で構わないからダンジョンに潜って、魔物の数を減らして欲しい。」


 深く頭を下げられ、ジアとリシュは対応に困ってしまう。

 ただ風斗はゆっくりと言葉を返答した。


「頭をおあげ下さいアキレス様。」


 その言葉に頭をあげるアキレス。彼なりにこの街の状況を良くしようとしているのだろう。


 見えないように積み上げられた魔物やダンジョンの書物に目が留まる風斗。


「私達は旅の者です。短期間、あるいは長期間滞在するか分かりません。

 なのでお約束を取り付けることは出来ません。申し訳ない。」


 その言葉にアキレスの眉間のシワが少しだけ深くなる。


「ですが、この街に良くしてもらっているのも事実。

 ダンジョンの依頼が出ていて、その時お時間がる時でよろしければ、そのお話に一枚噛みたいとは思っています。」


 そのセリフにアキレスは安心したように、感謝の言葉を向け、おもむろに右手を差し出してきた。


「ありがとう風斗君。これからも君たちとはいい関係でいたい。」

「こちらこそよろしくお願いします」


 二人は握手を交わし、その場は終わりを迎えた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの風斗さん」

「ん、どうした?」


 ギルドを後にし、ポポの店で夕食をとっていた時に、リシュが風斗に話しかけた。


「先程のギルドでの会話。アキレス様が仰っていたことを反復させただけに思うのですが?」

「ああ、あれね」


 風斗はナイフとフォークを置き、軽く口に飲み物を含むと少し難しい顔で喋りだした。


「あれは俺達をこの街に縛り付けようとする考えの表れだよ」

「?」

「タートルデモンズを単独で討伐するような冒険者を、易々と他の街に送る?」

「おく、らないですかね。その方がいれば人件費を削減出来ます。」


 強い冒険者が一人いればその分報奨金は多くかさむが、複数人の報酬よりかは格段に安くなる。


 タートルデモンズが複数人推奨の討伐対象ということを思い出しながら、風斗はアキレスとのやり取りを説明した。


「だから釘を刺したんだ。それに自由に冒険をしているから、今ここに居るのであってアクアダンジョンに潜るためにいるわけじゃない。」


 そう言い飲み物を飲む込む風斗。処世術や会話の主導権。その他もろもろの交渉術は中学生に上がる前には既にマスターしていた。

 その経験がここで生かされる皮肉に、心が痛くなる。


「ここは守りたいけど、まだまだ俺達の旅は続くからね。でもギルドには積極的に顔を出しておこう。」


 そう言い飲み物飲み込むと、会計を頼んだ。







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