最初の1歩
カリストと風斗が協力しなんとか貢物からリシュを解放することに成功した。当の本人は額を汗で拭う仕草をしながら一息付いて言葉を紡ぐ。
「風斗さんの緊張をほぐすために美味しいものを食べてもらおうとしたんですけど、次から次へとサービスサービスって言われて気づいたら前が塞がっていました...」
よほど重かったのか腕を揉みながらそう事の次第を二人に伝えた。
「リシュ君は良い意味でも悪い意味でも目立ってしまうからね。それに断ることが苦手ときている。」
カリストは苦笑しながら風斗に肩を竦めてみせる。
「し、仕方ないじゃないですか、わざわざ私に贈ってくださるのに!」
リシュがふんふんと鼻を鳴らしながらカリストに講義する。その様子はまるで子供のようだと風斗は思った。先程の悪戯っぽい可憐な笑顔はどこへやったのやら...。風斗の困ったような楽しいような視線に気づいたリシュが、思い出したかのように手元にあった串を風斗に手渡した。
「猪狼の串焼きです。とっても美味しいんです!」
たしかに手渡された串からは食欲が掻き立てられるような匂いがした。この世界に飛ばされてからほとんどちゃんとした食事をとっていなかった風斗にとっては、魅力の詰まった食べ物であった。
もう既にカリストとリシュは美味しそうに食べ始めている。
ゴクリ
唾を飲む混む音が聞こえる。一体誰のだと錯覚してしまうが迷う事なく風斗のである。風斗は我慢ならないとその串にかぶりついた。
瞬間、香ばしい醤油に似ているソースの匂いが鼻を通り抜ける。噛むたんびにシャクシャクとやわらかすぎず、だが硬すぎない弾力が歯を鳴らし、とめどなく溢れる肉汁で口の中はさながらノアの方舟の豪雨だ。
飲み混むとするりと喉を通り確かな喉越しを与えてくれる。日本では味わえないほどの美味さに体が打ち震えた。
「美味しいですよねこの串料理。私大好きなんですよ~!昔から食べてて美味しいなぁって。ぜひ風斗さんに食べて欲しくて!あ、猪狼っていうのですね猪の体に狼の頭が2つあるモンスターの事です。危険度は少し高いですがその身の美味さや毛皮は重宝されているんですよ~」
好物を食べた影響か頬が緩みっぱなしのリシュを置いといてカリストが話し始めた。
「それでね風斗くん、これから私たちはギルドという所に行って少し用事を済ましてくる。その際に良ければでいいんだが君の通行手立てを作りたいんだけれどもいいかい?」
通行手立てというのは身分証のようなものである。この世界で生活をしていくには何かとこの身分証が必要らしく、それを作りたいと申し出てくれているのだ。
断る理由もなくついて行くことしか出来ないのでその話を承諾すると一行は商業区を抜けて王都へ向かった。
この都市は商業区、住民区、貴族区、王都と区分されておりギルド関係は王都にある。ただ住民区と貴族区は大した差はなく、納めている税の違いによるものだという。
貴族と言われる人々と一般住民の間での争いはなく皆国家を反映させようと一致団結しているらしい。王の威厳とカリスマ性が伺えるような国家体制。
様々な風景や人々を見ながらギルドカウンターにつく一行。大理石のような石を基調とした巨大なオルガンのような外見に圧倒されながら中に入ると、受付と思わしき人がざっと30人。さらに10人ずつ赤、青、緑色の違うカウンターになっており、様々な人とやり取りをしている。
「私はあそこの赤いカウンターに行ってくる。リシュ君、風斗くんの通行手立てを作ってきてくれるかな?」
リシュは頷くと風斗と共に緑色のカウンターへ移動し始めた。赤と緑の距離は少し長かったので風斗は色の違いを聞くことにした。
「赤色は討伐系の依頼、青色は採取系の依頼、緑色は質問や通行手立てやほかの雑務などの依頼に使うことが多いですね」
丁寧に教えてくれるリシュ。風斗を助けた時も討伐依頼の帰りだったのだろう。カリストは袋からモンスターの一部を出してみせている。ほかの人も青色のカウンターでは袋ごと計量器のようなもので重さを測ったり、数を数えている。
とても居心地の良い雰囲気と室温に身を落ち着かせながらリシュとギルドについての話をしていると、緑色のカウンターのところまでやってきた。待っている人達は居ないようでそのままカウンターの女性に話しかけた。
「あの、この人の通行手立てを作りたいんですけれどもお時間よろしいでしょうか?」
懇切丁寧にお願いするリシュとぺこっと頭を下げる風斗ににこやかに笑いながら受付の女性は受け答えをした。
「はい、ではお名前と血印をこの紙に書いてもらってもよろしいでしょうか?」
風斗は紙に自分の名前を書き、手渡されたナイフで指を傷つけて名前の横に押し当てた。カウンターについてすぐ横の男児が泣きながら血印を押していたので何をするかはわかっていたのだ。
手渡された紙に目を通すと落ち着いた口調で
「しばらくお席の方でお待ちください」
と風斗たちにソファーのような形でできた椅子に促した。
ふぅーと息を吐くと少し痛みのする親指を労りながら促された席へと着く2人。フカフカの椅子でまるでダメになってしまいそうな気分陥る。
「少し緊張しましたか?」
「うん、少しだけね。指を切るとは思わなかったけど」
少し肩を竦めてみせる風斗。リシュがすぐに治しますねとほほ笑むと魔法を唱えた。
『回癒』
リシュの手から緑色の光が漂い出ると風斗の親指に吸い込まれていった。みるみるうちに傷が塞がり、数秒後には完全に傷が元通りになる。
「す、凄いね!傷が治った!」
「ふふふ、子供みたいですよ?」
そう朗らかに笑うリシュに自分がはしゃいでいたことに気づき顔が少し赤く染まる風斗。それに気づいたのかまたにこやかに笑うリシュだった。
「今のは回復魔法です。傷の再生能力を早めて治す魔法で初歩にならう魔法ですね」
そう伝えるリシュに親指を見ながら風斗は驚いた。
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カリストがクエストカウンターから戻り3人で談笑をして少しの時が経った頃風斗の名前が呼ばれた。三人で呼ばれたカウンターに行くと、受付の女性が六角形のプレートのようなものを風斗に受け渡してきた。
「表面には風斗さんの身体能力やマナに対する関連事項のパラメーターが書かれています。
次に後ろをご覧下さい。裏面には各自魔法技能と風斗さん自身の固有技能が書かれています。
今風斗さんのお持ちの固有技能は...『観察眼』ですね。身体中のマナコントロールにより視覚を一時的に強化するスキルです。」
そのあとも説明はされたが風斗自身よくわかっておらず生返事な相槌を打つだけだった。これで説明を終わりますと丁寧に言われ一行は座っていた席に移動した。
人をダメにさせるような感覚に陥りながらも三人は会話を進めた。
「風斗くん。君には二つの選択肢がある。
ひとつはこのままここで別れて君の好きなように生きてゆく道。もうひとつは私たちの学校に泊まり込みで勉学に打ち込む道。
もちろん泊まり込みというのは学生寮で...という意味だよ。どちらの道を歩もうと私はどちらも尊重するよ」
カリストは真剣な眼差しを風斗に向けていた。単なる気遣いや上辺ではない。その言葉に嘘偽りがないことは分かりきっていた。
だが風斗の答えは決まっている。見るもの全てが初めてのこの世界で黒髪という忌むべき対象にここまで親切に接してくれる優しい人達。
おそらくこの人達に巡り合わなかったら自分などは道中でのたれ死んでいただろう。今までの事を振り返りながら風斗はゆっくりと頭を下げ丁寧に言った。
「学生寮に住まわしてください。」
風斗が顔を上げると嬉しさが顔一面に広がる二人の顔がそこにはあった。
やっぱりゆっくりですね。本心ではそろそろ戦闘してぇとか思いつつ今回もこんな感じでした。あと口調が3人一緒なので書きわけがしんどいですが楽しいので頑張ります。次回もよろしくお願いします