うさぎと亀
ジア主体の戦闘です。
弾け飛ぶ水しぶき、反響するダンジョンの破壊音と共に多数の残骸がポポの足元に転がる。
「ヒィィ!」
悲鳴のような声を上げながら怯えるポポとは対照的に、静かに戦闘を見つめる風斗とリシュ。
その眼差しはジアを案ずる瞳ではない。旅の仲間として信じる瞳である。
大きなランスを片手に、両側に浮遊する『サリックス』を巧みに使い、魚群を蹴散らすジア。
「この程度?」
首を可愛らしく傾げながら、手応えのない感触に感想をこぼす。
その台詞の意味を理解したのかは分からないが、突如ジアの背後の壁から魔法群が飛んでくる。
カスタ貝。別名鉱石貝とも言われ、硬い外殻に突き出ているコアが特徴の貝型の魔物である。
煌めくコアで獲物をおびき出し、ビームにも似た攻撃で相手を仕留める油断ならない敵だ。
「...」
海の中で不自然に熱量の伴ったビーム攻撃。しかも死角からの攻撃。だが、ジアは背後もみず大きなランスを後ろにかたむけ攻撃を防ぐ。
ランスを滑るように流れるビーム攻撃が前方から襲いかかる魔物に直撃。
左右から同時に襲いかかるリザードマンもサリックスにより防がれ、回転する盾に両断されていく。
ものの数分で数百と超える魔物たちはその数を減らして行った。
「ふぅ...」
一息つく様に最後のリザードマンの首を跳ねると、後方の風斗達のことを振り返る。
戦闘が一段落したのだろう。
ここまでの大群を相手取ったことは無いようで、無表情の顔にも若干の疲れが見える。
「マスター、終わり...」
疲れから出るミスか、それとも風斗達の存在が甘さを産んだのか。
一際大きな魔物のマナ反応に、気づくのが少し遅れてしまう。すぐさま遠距離からの亀の殻のような槍の攻撃。
「まだ一匹...!」
言葉が言い終わらないうちに咄嗟にランスを構えるが、踏み込みが甘く逸れた攻撃が左目に直撃してしまう。
「くっ...!」
顔面に走る激痛に膝をついてしまう。
苦し紛れに前方に展開したサリックスも、次の攻撃で吹き飛ばされ、その余波でジアも壁にからだを叩きつけられてしまう。
「ガハァ...!」
血は流れないが、左目の損傷が激しく、コードのようなものが少し見え隠れしている。
その様子に既に気を失っているポポを置いといて、風斗はジアに語り掛ける。
「手を貸そうか?ジア。」
風と共に現れた同情などではない言葉に、確かに首を振る。
そしてジアは眼前からゆっくり現れる魔物に対し、殺意をみなぎらせる。
「いらない。もう油断はしないから」
その言葉に彼女の意志を感じると、風斗はその場から風のように消える。
はるか真上に位置する太陽の光が海水を通り、陽光が差し込む暗いダンジョン。
照らされながら姿を表した大きな亀の魔物に、ジアはゆっくりと言葉を向ける。
「もう油断はしない。行くぞ、雑種!」
その言葉を皮切りにお互いの背後に多数の魔法陣が浮かび上がった。
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「あの亀の魔物、竜種の反応が少しする」
観察眼により、相手の特性、少しの固有技能を眺めながら風斗がこぼす。
観察眼の成長による恩恵、『体質把握』。それを活用しながら前方の戦闘を眺める。
「タートルデモンズと呼ばれる小型の竜種です。成長すると、完全に龍になります。」
リシュが補足説明を入れた。その言葉に風斗は拳が固くなる感覚を覚える。
竜種。この世界で上位の魔獣に位置する最強格のひとつだ。
この世界に来て襲われたあれを思い出すが、リシュは依然とした態度でジアを見守っていた。
「信じましょう。私達の旅の仲間を」
「うん、そうだね。」
その言葉が戦闘音にかき消される程の攻撃を交わしながら、ジアは奥歯を噛み締める。
タートルデモンズは姿を現してから、その場から一切足を進めていない。
いや、進める必要がなかった。
カン、カン、カン
「(装甲が、硬すぎる!)」
ジアの水魔法や、隙を着いたランスの攻撃。さらにサリックスを織り交ぜた連撃攻撃にも微動だにしない。
乾いた音が場に木霊するだけ。
物理攻撃により防がれる殻の反動、魔法を放っても弾き返され、自滅するようにジアは追い詰められたいた。
消費するマナに、右手が痺れる感覚を蓄積しながらの戦闘は長引く。
その間にもタートルデモンズの硬い外殻から発射される槍の攻撃を防ぐのに精一杯になってしまう。
「槍技『水龍の咆哮』!」
大きなランスに渦巻くように水が集まり、流れるように近づいた龍の一撃が弾け飛ぶ。
ガァァァァァァァン!!!
大きな音と土気ぶりを上げながら、対象が見えなくなる。
「ガアアアアアアアアアアアア」
大きな咆哮が聞こえたのを確認しランスを地面に突き刺す。そして体を上下させながら空気を肺に送るジア。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
だが、現実がその目の前に姿を現す。
外殻が少しだけえぐれるような姿のタートルデモンズ。
唸るような咆哮を上げながらその重い腰をあげるように、動き出す。
ジアも大きなランスを構え直し、魔法を構築する。
「水魔法、、、はぁ、『激流葬』!」
左腕に現れた十字架に様な水から溢れる、直前上の激流がタートルデモンズに向かう。
だが、大きく尻尾を振りそこから飛び出す殻の攻撃に、ジアの魔法は掻き消されてしまった。
殻の攻撃を既のところで避けながら、ジアは決意を決める。
損傷部分が多くなってきている体に、少ないマナ。ジアに残された時間は少なかった。
「この一撃で終わらせる。」
その小さな決意の言葉が終わる後、サリックス達は所有者の体に戻る。
一つは大きなランスをさらに鋭く、頑丈に、強くするために。
もう一つはジアの両足の太ももに小さく収まるように。
サリックス達に内蔵されているマナが、ジアに流れ込む。
サリックスは直接扱うことも、自動的に扱うことも出来るゴーレムの様なものだ。
実際はゴーレムとは違う魔道具のようなものなのだが、ジアはサリックスに流れている己のマナを取り込むために内包した。
息を整え、前方のタートルデモンズに意志を向ける。
タートルデモンズは口に多大なマナ反応を集めている。周囲のマナが口に現れた球体に集まるように渦をまいていた。
「水魔法『水球の鉄処女』」
唱えた瞬間、タートルデモンズの体が水に包まれる。しかしそんな攻撃は今に効かない。
そのことはジアも承知である。
ただ対象がその場から動かないように固定するだけで良かった。
「ガアアアアアアアアア!」
確実にジアを狙い、大きな咆哮とともに水色の熱は放たれる。
地面を抉りながらの迅速の攻撃は、ジアの足元に着弾する。
バァァァァァァン!
大きな爆風と共にジアが弾け飛んだと思われた。
しかしタートルデモンズは捉えていた。目の前の敵が、寸前に兎のように跳躍した事も、現在上にいることも。
「ガァァァ…」
再度ブレスを吐こうとするこの大きな亀に、懇親の一撃をくれてやる。
「穿て、槍技『戦乙女の水槍』!」
風と水が入り交じった渦巻く槍の一撃。
天井を蹴り、真下に急降下したその一撃は地響きを伴う。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
回転するような槍の一撃。硬い装甲を削り取りながら、確実に仕留めようよ両手を添えながら力を込める。
「ガァカァァ!ギャアアアアアア!」
大きく否定するような声がダンジョンにつんざく。そして数分その叫び声が聞こえた後、大きな振動とともにジアの音も、タートルデモンズの音も聞こえなくなる。
パラパラとこぼれる天井のゴミ達が風斗達の前に散乱した。
前方の土気ぶりが消える頃に現れたのは、胴体に巨大な穴が空き、だらしなく舌を伸ばす亀の死体。
そして無表情ながらも勝利の余韻に浸る美しい少女の姿であった。




