騒動の多い料理店
一週間連続投稿の最後とさせてもらいます。
ここまで付き合ってくださり、ありがとうございました。
来週からはいつものように一週間一話投稿にしたいと思います。
部屋の外から眩しいほど入ってくる太陽の匂いと、賑やかな人々の声で目が覚める。
軽く伸びをし、休んでいた細胞たちに朝の目覚めを教えると、風斗はチラリとサンドラの様子を見た。
白狼族、白い綺麗な毛並みの狼は既に起きており風斗が起きたのを確認すると、促すようにドアを開ける。
どうやら早く部屋をでろと言っているようだ。風斗は急いで、かけていたフードをとると下に降りた。
小気味よい木々が軋む音が階段の中を響く。
下では既に身支度の終わった、リシュとジアが風斗を迎え入れた。
「マスター遅い」
「ごめん、結構寝ちゃってたみたい」
笑みを浮かべながら髪の毛を触る。装飾魔法をかけていない黒髪が、風斗の指先で踊った。
カリストに貰ったフードは様々な効果が着いている優れもの。
認識阻害のようなもので、風斗の黒髪も他者にはさほど気にならない程度にまで色が変わって見える。
宿には数日滞在するお金を払っているので、鍵を返すことで自由に外で活動ができる。
一行はとりあえず朝食を食べるために、街へ繰り出した。
「わぁ〜、綺麗ですね!」
ドアを開け飛び込んでくる光景に思わず風斗は言葉を失う。
夜の帳に抱かれた街の姿しか見ていなかったが、太陽の光に満ちた海の国はそれ以上に美しかった。
白を基調とした家々に、深い青を落としたような海、海、海。
光を反射しキラキラと輝く海は、絶えずゆっくりと潮風を街に運んでくる。
海の匂いが満ちたこの国では、人々は海にも負けないキラキラとした顔で活気をあげていた。
海から街へ、街から海へ積荷を運ぶバンダナを巻いた人々が目に泊まる。
「んっ、マスター?」
ジアの問いかけに意識を取り戻す風斗。気を取り直すように、宿から貰った地図を広げ店先を探す。
「じゃあ行こっか朝食を取りに。」
その言葉に同意するように一行は頷くと、宿の紹介された店へ行く。
露店から漂う匂いに釣られそうになりながらも、目的の店につく。
木製の扉を明け、綺麗なウエイトレスにテーブル席へと案内される。
店の中は混んでいるようで、一人対応のウエイトレスはとても忙しそうに料理を運んでいた。
手書きのメニュー表を見ながら各々が注文を通し、今か今かと待ち望んでいると突然大きく喚きながら店内に入る客に目を奪われた。
「まだこの店やってんのかよ!」
「魔物が作った飯なんて食えねぇよなぁ!」
口々に話す冒険者風の三人組。整えられていない髭がトレードマークの額に傷が見える男性。
無作法に席に座ると、ほかの迷惑も顧みずに大きな声で注文を施す。
「イカ焼きとビールよこせ!」
「お客様、すみません。朝からビールの販売は...」
「うるせぇなぁ!」
男は突然叫ぶとウエイトレスの胸ぐらを掴み、激しい剣幕で脅しにかかる。
口から放たれる汚い言葉がウエイトレスに降りかかり、周りの客もどうしたものかと様子を見ている。
「(どこの世界にも居るもんだな。ああいうのは)」
ため息を付き、助けに入ろうと席を立つ。
しかし席に手をついて立ってしまったせいか、大きな音が店内に響く。
憤りに眉間に青筋を立てていた冒険者は次なる標的を見つけたと舌なめずりをすると、古典的な台詞とともに風斗の元にやってきた。
「おうおうおうおう、兄ちゃん。なんか文句でもあんのか!?」
笑いながらまくし立てるように話す冒険者。
風斗より体格が優っていることで自分より下だと思っているのだろう。
悠然とした態度でしっかりと相手の目を見ながら風斗が口を開く。
「店や他のお客さんの迷惑になるので、これ以上はやめていただけないでしょうか?」
「てめぇ誰に物言ってんだ!俺達『老狼の囀り団』だと知っての物言い...」
男は突然言い淀んでしまう。風斗は疑問に思うが、遥か後方をずっと見続けている男の視線に気づくと内容を察した。
風斗の後方、テーブルではリシュとジアが朗らかに談笑している。
完全に風斗がなんとかすると信じているからこその行動。
さては一目惚れでもしたかと考えていると突然、冒険者が歩き出す。
不意の行動に避けきれず、風斗は男にあたるがそんなことは関係ない。
ずんずんと一行はテーブル席へと移動をすると、咳払いをした後に口説き始める。
「俺は老狼の囀り団リーダーのアカシっつーんだ。
お嬢さん方、俺たちと呑まないかい?」
アカシと名乗った後ろでは、団員の二名がニタニタといやらしい笑みを浮かべている。
リシュは完全に無視し、ジアは軽蔑の表情を向けている。
その軽蔑の表情すら性の対象と見なし勝手に興奮をしている冒険者に、風斗はため息が増すばかり。
「なぁ俺たちと飲み行こうぜ!」
耐えきれず強引に手を引っ張り、連れていこうとする。
しかしその行為自体が彼らのカンに障ってしまった。
「離せ、雑種。」
「生理的に無理です。」
「グルルルゥゥゥ」
三者三様な対応に、面食らった冒険者たち。次第に増える青筋を確かに感じながら乱暴に得物に手をかけた。
その瞬間、殺意が彼らの目の前に繰り出される。
「...っ!」
三人とも喉元にいつの間にか剣先や矛先が触れており、すぐにでもその命が刈り取られるようであった。
「お前たちが何を考え、どう行動しようが俺には興味も無いしどうでもいい。
だけど俺達に危害を加えるつもりなら、全力で潰す。」
「ヒィィィィィィ!!!」
か弱い鳴き声を上げ、ズボンを濡らしてしまう冒険者。
這い出でるように店を出て、口々に汚い言葉を言いながら姿を消してしまう。
しんと静まりかえった店内。居心地の悪さと視線を感じながら、風斗が席に着いた瞬間店内が震えるほどの歓声に包まれた。
「すげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ありがとぉぉぉぉぉぉ!!!」
口々に感想を述べる客たちに風斗とリシュは苦笑いしながら手を振る。
ジアは運ばれているお茶を飲み、サンドラは欠伸をかきながら瞳を閉じている。
先程絡まれていたウエイトレスが若干の涙を浮かべながら、謝罪と感謝を同時に述べる。
「すみません、あの方々最近凄くこの店に絡んでくる方々でして...。その、ありがとうございました!」
その対応にマニュアルのような対応をする風斗。するとおずおずとウエイトレスが、話しずらそうに口を開く。
「それで、ですね。うちのコックが、そのぉ、お礼を言いたいそうなんですけどぉ、えと...
」
歯切れの悪い言葉の端々に違和感を覚え、記憶をなぞりながら言葉を選ぶ風斗。
「あの冒険者が言っていた『魔物』っていう言葉と関係がある?」
「はい...。うちの店はほかの店とは違い様々な魔物の素材を、その、魔物が作っているお店でして...」
魔物の料理ということで抵抗がある人も少なくはない。
初めてのお客にはきちんと説明をしているそうなのだが、風斗達に説明する前に冒険者たちが来てしまって説明が遅れたそうだ。
だが魔物料理は既にリシュ宅で食べているので二人は関係はない。
ジアも食べることの抵抗はないようで、サンドラに至っては野生動物のようなので問題がなかった。
その趣旨を伝え、ウエイトレスが頭を下げてから数分。
風斗が久しぶりに飲む日本茶のような物に舌鼓をうっていると地震のような振動が店内を襲う。
お腹の下に響くような鈍重な一定のリズム。店内の客は慣れたような手つきで食事を進めるが、風斗たちはキョロキョロと辺りを見渡した。
そしてその現象の主に目が吸い込まれた。
大きな角が生えた顔に、白濁とした瞳。大きな牙が重力に逆らうように下顎から伸びている。
フリフリの可愛らしいエプロンから覗く黒光りした肌に、風斗の背丈を優に超えた筋骨隆々な肉体美。
それは魔物とも魔獣とも論争がなされる存在。
上級の位置に君臨する、冒険者の宿敵、オーガがそこにはいた。
「魚定食、持ってギタ。」
悠長な言葉を添えて。




