閑話:少年の炎
閑話を三話分投稿しようと思ったのですが、執筆の時間が足りず全話投稿できずすみません。
少し時系列が戻ります。リッケル視点のお話です。
風斗達が主要都市国家ルーゲンから旅立ち数日。
王都グラン学院の校内を必死の形相で走り回る少年がいた。
「くそ!どこにもいねぇ!」
名はリッケル。彼の自称弟分であり、第3等級の制服に身を包んだ彼は授業中の教室を開け舌打ちを打ちながら、校内を走り回る。
何度も彼と通った道、街並みも既に全て見終わっていた。
何度も何度も同じ言葉が彼の中をめぐり巡る。
どうして、どこに行ったのか。
いつしか流れ出る汗か涙とも分からない雫を体に滴らせながら足が止まる。
「はぁ、、、はぁ、、、」
酸素がうまく回らず思考が止まってしまう。
あんなに練習した身体強化も解けてしまい、膝の力が抜けドサッと体が地面に着いてしまった。
「リッケル。彼は旅立ったよ。」
いつの間にか後ろにいるマッシー教授に静かに諭される。
その言葉に振り返り、言葉を練ろうとするが上手く言葉が出ない。
代わりに出るのは溢れんばかりの涙のみ。
いつしかマッシー教授の胸の中で、とめどなく溢れる物をこぼしながら大声で嗚咽していた。
彼が黒髪だということは数日前に知った。密かに憧れていた彼女の髪の毛が銀色だと、数日前に知った。
彼が、彼女らが学園から消えるように旅立ったことも知った。
「俺は、、、別に髪の毛の色なんて気にしないのに...。ずっとそばに、入れるって...。」
独り言のようにこぼすリッケルをそっと抱きしめながら、マッシー教授は何度も背を撫でる。
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次の日死んだ目のように授業に出席するリッケル。
ならず者等級時代からの学友達はみな一律に心配そうな視線を向ける。
その視線すら今は鬱陶しく感じてしまい、そんな自分にも嫌気がさしてしまう。
授業終了の鐘の音と共に、教室から飛び出すように出て行ってしまうリッケル。
「なんなのよあいつ...」
「リ、リリー姉さん...。今はそっとしておこう...」
「そうだねぇ〜」
彼女らの言葉が届いているのかは分からない。当のリッケルは諦め半分、希望半分の気持ちを抱きながら、ある場所に走り続けていた。
荘厳な校舎から飛び出し、その校舎にも引けを取らない綺麗な学生寮。
受付嬢の心配する声も振り切り、階段をかけ走る。
「(エレベーターなんて待ってらんねぇ!)」
綺麗な舗装された階段をどんどん駆け登り、リッケルは目的の場所までたどり着いた。
7階、かつて彼がいた、生活していた部屋。
ドアノブを祈るように捻ると、軽く扉が開く。
「ふ、風斗兄ちゃん!むかえに来た...ぜ...」
そこにあったのはとんでもない量の本に囲まれながらも、にこやかにリッケルを歓迎する風斗ではなく、ただ無機質な綺麗な部屋だけだった。
「嘘...だ...。」
ぽつりと呟き部屋を見渡すように眺め、膝が折れてしまう。
とめどなく流れる涙の星屑が彼の頬を駆け抜ける。
「だ、だって、先に待ってるって...。約束、したもん...。」
そして顔を隠すように泣き出してしまう。
第五等級という不名誉な等級に不貞腐れ、お山の大将でいた自分。
転校生で年上だということで噛み付いたのに、何時もそばにいさせてくれた兄の様な存在。
兄のようであり、ライバルであり、対等だと思える存在。
そんな彼が、もう居ない。
自分を置いてどこかへ行ってしまった。その事実が重い。
虚しく天井を眺め、何分たっただろうか。
込み上げる虚しさと少しの怒りが拳にみなぎる。
「(ほんとに居ないんだ。もうこれで終わりにしよう...)」
振り上げた拳をめいいっぱい地面に叩きつけた。リッケルなりのケジメの付け方だろう。
無意識に纏っていた炎の拳が大きな音を立てながら、地面を焦がす。
切ない火花がチリッと散らし、天井に当たる。
「...?」
その光景を眺めたリッケルに違和感が走る。
直感にも似たその違和感の正体を探るように、天井に向けて1番弱い炎魔法を放つ。
「炎、魔法...『炎弾』」
マナも少量にした弱々しい炎の塊が天井に直撃した瞬間、壁の割れるような音が響き渡り、そして紙の渦が部屋の中に渦巻いた。
「う、うわぁぁ!」
咄嗟に顔の前でかざした左手に、渦の中から一枚の手紙が張り付くように着弾する。
「な、なんだこれ!」
疑問符を浮かべながら左手の手紙を取る。いつしか渦巻いていた紙の、いや手紙の渦は窓の外に飛び出すように出て行ってしまった。
ぽつんと残されたリッケル。状況を把握しようにも、残されたのは一通の手紙のみ。
訝しげに眺めたあと、意を決して手紙の封を開けてみると、そこには見慣れた字が並んでいた。
『リッケルヘ
多分この手紙を読んでいる頃っていうことは、君が俺も部屋に一番で来たんだろう。
その時のためにこの手紙を残すね。』
自分の行動を把握されていたことよりも、失った希望が手にある事に驚きと共に涙が込上げる。
拭うように涙を拭き取り、続きを読み進めた。
『突然こんな別れになってしまって、本当にごめんね。
信じられないかもしれないけど、俺はこの世界の住人じゃない。
違う世界から来た人間なんだ。』
達筆な字で書かれた衝撃の事実にリッケルの体に電撃が走るような感覚が疾走する。
『初めて教室のドアを開けた時、一番初めのリッケルの攻撃。あれは効いたなぁ。
そこからかな、絶対負けたくないっていう初めての気持ちに気づけたのは。
そこからリッケルに負けないよう努力して体育祭とか、色々な経験を心の底から楽しめた。
ありがとう、リッケル。』
再びながれでる涙で文字がかすむ。
『本当は卒業までリッケルや他のならず者等級の皆と一緒に居たかったけど、助けたい人ができたんだ。
だからこれは俺の我儘。ごめん』
手紙の文字が何度も滲んでいる様子にリッケルが気づく。
風斗もこれを書きながら、涙を流していたのだろうかと考えたら少し笑みが零れた。
『卒業は出来なかったけど、もし旅の終わりや学園に戻ることがあったら、また俺のライバルとしてリッケルの少し先を歩きたい。』
「お、俺だって...!」
掠れる願いを口にする。
『最後に、照れくさくて手紙なんてもの書いたけど全然足りないや。
伝えたい言葉も感謝も、次に会えるその時まで俺の中で取っておくね。
それじゃあ元気で、向こう水で突っ走りがちなリッケルだけど、これからも皆をその炎で照らして欲しい。今までありがとう。
またね。』
手紙はそこで終わっていた。握りしめたかのような手紙の端々に風斗の気持ちを感じ取る。
そして部屋の中から大きな音が響いた。
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翌朝、手紙を貰ったならず者等級の皆は心がどこか軽くなるような足を教室へ向けていた。
今は慣れた第三等級の扉を開けると、そこには頬が赤く腫れた、一人の少年が一番目の前の机の上に仁王立ちしていた。
その姿に生徒やマッシー教授は驚きを隠せないでいる。
「皆!なに突っ立ってんだよ!」
少しの間失われていた、炎のようなきらめく瞳に彼らは見覚えがあった。
「このリッケル様がお前らを導いてやるよ!」
「リッケル!お前...また!いやこれではないな」
ぽつりとマッシー教授は呟くと、生徒達とおなじ笑みを浮かべながら、声を揃える。
「「「おかえり!リッケル!」」」
その台詞に込み上げるものを感じながら、リッケルは大きな声で返事をした。
「ああ!」
穏やかな暖かい風が教室を包み込む、そんな気がする。
眩しいぐらいの少年の炎は、また燃え始めた。




