後味の悪い戦闘
一週間連続投稿5話目です。
主要都市国家ルーゲンを離れて数日。
舗装された道を歩きながら、たわいも無い話をしていた風斗達。
会話の内容は先日泊まった小さな村の宿屋での出来事だった。
「まさか一部屋しか空いてなかったなんて、あの時は焦ったよ。」
連日の野宿により、さすがに疲れが蓄積している三人にとって宿というのは、極上の休息の時間であった。
しかし立ち寄った村ではちょうど改装工事が行われており、一部屋しか案内できない状況であった。
「私は別に風斗さんと一緒でも構いませんでしたけど」
真顔でそんな事言わないで、という言葉をぐっと押し込め風斗は困ったように笑みをこぼす。
「い、いやでもジアも居るし」
「んっ?マスターと一緒でも困らない」
「ごめんジア空気読んで」
さすがに三人で一緒とはいかず、風斗だけ宿屋の隣で野宿という結果に落ち着いた。
さすがに悪いと思ったのか、店主からのサービスで美味しい料理や本などは無償で貸して貰えたので風斗自体悪い気はしなかったが。
宿を出てから数時間、今後の宿事情で三人で話し合っていたのだった。
風斗と一緒でも構わない女子二人に、倫理観と理性が持たないと主張する風斗による、ディベート大会が行われ結論が未だ出ずにいた。
どうしたものかと頭を捻っていた、努力の天才は不穏な匂いを感じ取る。
どうやら横の二人も同じようなことを感じたようで目配せをした後、前方に風斗が観察眼を発動させる。
フォーカスのように観察眼を使う風斗。
はるか遠くまで見渡せる高性能な技能は、遥か前方横転している馬車と、数名の盗賊の姿。
そして地面に広がる血を見つける。
「この先で戦闘が起きてるみたい。」
「行きましょう。」
二つ返事で返すと、物の数秒でその惨劇の場に到達する三人。
豪華な馬車が今は見る影もないほど壊され、数名の女性は服が破かれ今まさに理不尽に身をされされようとしていた。
数匹の狼が血を吐きながら倒れており、守っていた兵士風の者たちも皆マナ反応を無くしている。
三人の姿を見つけると数十人の盗賊は嫌な顔をし、暴言を吐きながら近づいてきた。
あとすこしで性欲をぶちまけようとしていたのであろう。
それを邪魔したものに殺意を向けていたが、リシュとジアを見つけると舌なめずりをし始めた。
鴨がネギをしょって来たとでも思っている様に醜く顔を歪ませる。
眼帯のリーダーらしき人物は風斗に向かい挑発的に話しかけてきた。
「おう坊主、俺らにお恵みでもくれんのかァァァ?」
「リーダー早くそいつころしてやりましょうぜぇ。」
後ろでガヤガヤと盗賊たちがまくし立てるが、風斗は冷静に問いただす。
「これはお前らがやったのか。」
「見りゃわかんだろ。お前坊ちゃんか?二人のお姉ちゃんに守られて強いでちゅねえーーー」
「「ギャハハハハハハハハハ」」
下卑た笑いが場にこだまする。
リシュとジアは、ゴミを見るような目を相手に向けていた。
「こっちはこれから味見だってのに邪魔されてんだ。
てめぇを殺さねぇぐらいに痛ぶってから目の前で犯してやるよぉぉ!」
「じゃあお前は俺たちの邪魔をするって事でいいな?」
風斗の質問に、盗賊のリーダーは青筋を爆発させた。
「クソガキが、こいつをやれ、てめぇら。」
命令を下すように突き出した右腕。しかしその右腕が突如、空中を舞う。
「は?」
疑問の声が出てすぐ、盗賊のリーダーはその痛みに立っていられず言葉にならない言葉を口から吐き出す。
「ああああああああああああああああああ!!!」
リーダーを見下ろす形で、風斗が殺意を漲らせる。
「お前らがどんな非道なことをしようと関係ないし興味もないが、俺たちの邪魔をするなら全力で潰す。」
「コノォクソガキィィィィィィィ!!!ころせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
怒号のような野次が飛び、目の前の光景に呆気に取られていた盗賊が動き出した。
「言葉にもっと意味を持たせなよ。言葉に使われてるみたいだ」
嘲笑が盗賊のリーダーに飛び、戦闘が始まった。
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数分が経ち、数十名居た盗賊の数もぐんと減った頃、地面に這いつくばっていた盗賊のリーダーはその光景に恐怖さえ感じていた。
風斗に襲いかかる数名の盗賊。
シミターと呼ばれる曲剣が空中を舞うように風斗を狙うが、上手くいなされ、足を掬われ攻撃が当たらない。
そして瞬間移動にも似た移動で背後を取られ、一人また一人と急所を突かれマナの反応が消えていく。
勝てないと悟った盗賊たちがリシュとジアを人質に取ろうと襲う。
だが、ジアには水魔法と大きなランスで串刺しにされ、水の球体では窒息まで追い詰められる。
リシュは氷魔法で氷漬けにされ、部分的にも魔法を当てられ男のシンボルが凍るという悲劇。
そしてレイピアの一撃がそこを突き、目も覆いたくなるような光景で死んでいっていた。
「風魔法『風刃の木枯らし』」
「氷魔法『氷結の咲き薔薇』」
「水魔法『水球の鉄の処女』」
三者の魔法が場を蹂躙尽くした頃、そこには盗賊達の姿は居なかった。
その光景に、粗相をしながら逃げるようには這いつくばる盗賊のリーダーの背中に、風斗の足が伸びる。
「ぐへあっ!」
背中を踏まれ凍てつくような目で見られ、自身の死を悟る。
口々に出るのは贖罪の言葉。だが、風斗はちらりと壊された馬車を見る。
数十名の兵士の死体が転がり、着飾太った人間が腹を割かれて死んでいた。
そして奴隷の刻印がされたまま死んでいる多くの狼。
おそらく競売にでもかけようとした商品達だろう。
その横で涙を流し体を震わせる服を無残にも破かれた女性たち。この男に慈悲を向ける余地など無かった。
「なぁぁぁぁたすけてくれよぉぉぉ謝るからよぉぉぉぉ!たすけ...あぎゃ!?」
腐った液体のような言葉を垂れ流す男の首を跳ねると、剣を鞘に入れる。
気持ちの悪い後味を残しながら怯えている女性達に近寄るとおもむろに鞄から服を取り出し、女性達に分け与える。
そしてリシュに言葉を伝えると狼たちの死体へと近づいた。
直接的な外因ではなく内から破壊されたような死体たち。
奴隷。学院時代に読んだ本の事に、書かれていた言葉が浮かび上がる。
おそらく太った人間が主人だったのだろう。主人の死は所有物の死ということだ。
無残な死を遂げた狼たちに手を合わせると、倒れた馬車の中を確認する。
後ろでは服を着替え直した女性たちが走っていく。
リシュに近くの村の地図を貰ったのだろう。これは風斗の指示だ。
風斗は完全な偽善の中では生きていない。今回盗賊を殺したのも、邪魔だと判断したからだ。
人助けは自分の力が及ぶ範囲で、それは二人にも伝えている。
幸い周囲に魔物の反応もなく、村も近いのでここまでと判断したのだ。
そして風斗が馬車に近づいたのにも理由がある。
戦場の中にあった一筋の小さなマナ反応。それを確かめるために馬車の中を見ると、それはいた。
馬車の中で絞り出すように息を吐いている小さな白い狼。
体中には生新しい傷が多くあり、綺麗な白い毛並みは赤く染っている。
そして黄色い眼が風斗を捉えた瞬間、目にも止まらぬスピードで襲いかかった。
咄嗟に風斗は腕を防御に使ったが、その腕を噛みちぎろうと白い狼は大きく顔を振る。
飛び退いた勢いで馬車の外に出たが、風斗は声を挙げずじっと狼の目を見つめる。
荒く相手を殺そうとしていた狼も不自然な相手に、疑問をこぼすような顔をし、そっとその荒くれな牙を離した。
風斗から滴る血に口の中が満たされたのか、それとも自らの体から出た血なのか、狼はもう分からない。
そしてゆっくりと後ろにあと退るようにして、狼は意識を失った。




