目的地設定と日常
連続投稿四日目です。
主要都市国家ルーゲンが見えなくなる位置に来た頃、一行は野宿のための準備を行っていた。
なんでも入り、質量を感じさせない魔道具のカバンから様々なキャンプ道具を取り出す。
「この世界の道具ってほんと使いやすよね。」
風斗がテントを組み立てながら会話を始める。しかし組み立てると言っても実際にはマナを込めるだけで、半自動的に出来上がっている。
「風斗さんの世界は色々と大変そうですね」
しばらく談笑が続くとジアが川辺から戻ってきた。
「マスター」
魚が数匹水魔法の球体の中で優雅に泳いでおり、自らが捕まったことなど思ってもいないだろう。
「ありがとう、ジア。」
風斗はバケツに移った魚数匹をすぐさま捌き終わると、焚き火の近くに刺し二人に声をかけた。
「そろそろご飯にしようか。」
「んっ」
「はい!」
満点んお星空の下三人で焚き火を囲み、リシュ特性のシチューと川魚の姿焼きに舌鼓を打ちながら、今後について話し合いを始める。
飛び出すようにルーゲンを出た三人にとって今後の動き方を定める必要があった。
「どうしよっか?」
「考えてないの?」
ジアの鋭い指摘が刺さる。
「うーん、この世界自体そんなに知らないからなぁ。」
「当分はジアの記憶探しということはどうでしょう?」
リシュからの提案に風斗はうなづくと、おもむろにカバンから一冊の本を取り出す。
でかでかと『コボルトでも分かる旅行名所!』と書かれている。どこかで見たようなネーミングセンスだったが、付箋が何個も貼られたそれを勢いよく開けると興奮気味に風斗が指を指した。
「ここに行きたいんだけど、いいかな?」
指された箇所を確認するようにのぞき込む二人。そこには綺麗な絵と共にある都市の説明が添えられていた。
「海の街ナーシサスですか!いいですね。」
ナーシサス、海洋国家と言われるほどの名高い所有面積と、豊富な海洋物の輸出で成り立っている美しい街。
主要都市国家ルーゲンとは違い様々な種族が、そこに住んでいるという。
そして極めつけは。
「マスター、どうしてここ?」
「お米が食べられるから。お米が食べられるからさ。」
大事なところなのか二回言った風斗に、二人は疑問を呈したような表情を向ける。
だが、風斗は拳に力を込め悠然と演説を行う。
「この世界に来てからパンやパスタが主流なのは分かったけどもやはり日本男児。
あの米の味を忘れたことは一度だってない!一度は絶望をしたけれど、この世界にはお米の存在があり、僕は今自由だ!
なのでお米食べにナーシサス行きたいです。」
一通り熱弁したあとはゆっくりと食後のお茶を飲む風斗。小さく拍手が止むと、まとめるように切り出した。
「じゃあ当分の目標は、ジアの記憶探しとナーシサスに行くってことでいいかな。
途中で魔物を狩って路銀は稼ぐとして、街に着いたらゆっくりと今後行きたいところを確認する感じで良いかな?」
その内容に異議は無いと二人が頷くとそこから三人はたわいもない話をしだした。
焚き火が消えると共に三人は睡眠へと意識を向けた。
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朝日が上がる頃、ジアの所有物である機械の音によって風斗は目を覚ます。
『サリックス』と呼ばれたジアの操る機械により24時間体制での監視、迎撃が成されていた。
そのため三人は絶対的な安心の中眠れていたのだ。
もう既に起きていたリシュとジアに向かい挨拶を行い、川辺に顔を洗いに行く風斗。
川辺周辺に差し掛かると、複数のマナ反応を感じ取る。
追加技能『マナ受動』。マナ感知とは違い、視覚的情報ではなくイメージとして頭の中に流れてくるので、見えない状況などでは大いに役立つ。
そっと腰の剣に手を添える。あの日ネモに貰ったお手製の頑丈なロングソード。
試運転も兼ねて川辺の魔物の前に躍り出る。すると風斗に気づいたのか魔物たちは攻撃体系に移行した。
「スライムか。」
様々な本で描かれる中級レベルの魔物スライム。
肉体を持たない水状のそれを殺すことは難しく。手練の冒険者も手を焼く魔物だ。
眼前のスライム数体もコアが常時移動しながら出方を伺っていた。
「体育祭の時は、使役されていたからコアが止まっていたけど。野生は動くって言うのは本当らしいね」
一体のスライムが突然風斗の前に躍り出て、柔らかな体からは想像もできない鋭い水の刃を飛ばしてくる。
ヒュン
風切り音と共に、風斗の後ろの木々が数本倒れていった。
「(攻撃が早い。当たったら危なそうだね)」
追加技能『空中歩行』で空中を蹴るようにその攻撃を避けると、迅速の剣技で襲ってきたスライムを切り刻む。
バシャッという音ともにスライムの体が液状になりコアが露出する。
回復する暇を与えるわけもなくコアを破壊すると、後ろに控えているスライム達に魔法を放った。
「風魔法『迅速の風槍』」
風斗の背後に浮かび上がる数個の魔方陣から、目にも止まらない殺意の槍がスライム達に降り注ぐ。
流星群にも似た軌跡を描きながら、確実にそして的確にコアを全て捉えていく。
ビー玉のようなコアが弾け飛び、真ん中からぱっくりと割れスライムが消失していった。
全てのスライムの反応が消えたことを確認すると風斗は落ちているコアを拾って、二人の元へと戻っていく。
朝の朝食と香りだかいコーヒーの匂いに包まれながら、旅行本を持ち今後の経路の確認をした。
スライムという魔物を殺したことなど風斗達にとっては何事でもないような日常。
彼らの次ゆく海の街ナーシサスはまだ遠かった。




