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はじめまして、リシュ

少し前から文章の作りを変えてみました。

読みやすくなったら幸いです。

 ダンジョン攻略から数日後。

第一等級の座学を終えた帰り道、風斗とリシュ、ジアの三人は学生寮の前で人だかりができていることに気づく。


 観客が多く、学生寮の窓から顔をのぞかせる生徒も多い。

 不思議に思い観客の中に入り、偶然一番前に躍り出る三人。そこでは二人の女子生徒が戦っていた。


 第二等級ハンナ・ローラントと見慣れぬ女生徒。鉄球を大きく振りかぶりながら相手を追い詰めるハンナと対照的に、女生徒は水魔法を駆使しながら戦っていた。


 何ヶ所も地面がえぐれ、その中に水たまりが出ている。

 その光景を眺めていると、横からフレデリックが話しかけてくる。

どうやらこの戦闘の理由を知っているようだった。


「フレデリック君、久しぶり」

「やぁ風斗。最近授業に出れていなくて申し訳ない。」

「いや、大丈夫だよ。それよりおうちの方は平気?」


 たわいない会話がしばしのあいだ続く。その合間にも鉄球が空気をなぶる音や、水圧の上がった銃弾のような水が弾け飛ぶ。


 そして風斗は本題に入った。


「これはどうしたの?」

「これは...」


 フレデリックは目頭を少し押さえながら困ったように話し始めた。

 どうやら第一等級に上がったフレデリックに対して、妹のハンナにちょっかいが続いたそうだ。


 当の本人は気にしていなかったが先日兄に暴言が吐かれているのを知り、決闘を申し込んだようだった。


「いい子」


「お兄ちゃん想いですね。ハンナさん。」


 その台詞に肯定とも否定とも捉えるような笑顔をこぼすと、目の前の戦闘に目線を向ける。


 特殊な呼吸法と固有技能により、鈍重な鉄球を振り回すハンナに対し、安定をなくしつつある地面の上での戦闘を強いられている女生徒は、次第に余裕がなくなる。


 そしてマナ枯渇症状がではじめた頃に、ハンナが力を振り絞る。


「はああああああああ!」


 踏み込みと気合いの入った掛け声と共に、鈍重な鉄球が女生徒の体に食い込み、嫌な音を響かせる。


「が、はぁ..!.」


 肺の中の空気と血液が口から飛び出し、後方の木に激突する。

 哀れな木は半ばから折れており、女生徒はぐったりとしている。


 なおも悔しそうな顔を向けながら、体を動かそうとするがここで教員は勝利宣言を述べた。


「これまで。第二等級ハンナ・ローラントの勝利とする。」


 その瞬間ハンナは、けたたましい拍手と歓声に包まれる。


 滝のような汗とマナ枯渇症状を体に出していたが肩を揺らしながらも快活な笑顔を携え、兄に向け手を振る。

フレデリックも手を振り返そうとした。


 だが瞬間、ハンナの後ろに浮かぶ殺意に気が付き声をあげようとする。


「ハンナ!」


 言葉が届く前に、ハンナが背中に大きな衝撃を受けた。


 突然背中に走る鈍痛に体が耐えきれず、地面に倒れる。そしてその痛みを放った人間のことをキリッと睨みつけた。


 先ほど負けた女生徒がその顔を醜く歪ませ、せせら笑っている。

 勝負のことよりも相手を下すことを選んだ悪魔。


 ハンナは怒りに任せて反撃しようとするが、マナが少ないのと先ほどの攻撃の痛みで身体が思うように動かない。


 周りの制止を振り切り、先程とは比べ物にならないほどの高密度な水弾がハンナを襲う為、空中を疾走する。


 すぐさま覆い被さるように、ハンナを守るフレデリック。

 周囲の生徒達が数秒後の惨劇を思い描き、目をつぶる。


 だが数秒もしない刹那の脈動の中、氷の女王が姿を表した。


「リシュ!」


 パリン


 誰の声かわからない音が、場に届く前に水の殺意が氷の壁を破る。

 勢いが弱まった水弾が、リシュの顔の左側に被弾した。


「くっ!捕縛魔法『氷雪の縛り』!」


 動じないリシュによる捕縛魔法と教員によって、問題の女生徒は取り押さえられる。

 騒然とした場はすぐに沈静化されたが、周りにいた生徒や学生寮の窓から見ていた生徒は口を閉じる。


 いや言葉が出ないという表現の方が、適切かもしれない。

 嫌に静かな場に、急いでリシュの元へ向かう風斗。

 なにか大事があったのではないかと確認をしに行った彼だったが、その光景に彼も言葉が出なくなってしまった。


 なぜならハンナを守った学園の首席の姿はそこにはなく、光が透き通るような淡い色。


 この国で忌み嫌われる銀色の髪の毛を携えた、美少女がそこには居たからだ...。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「リ...シュ...?」


 必死の思いで縛り出すように出した一言は、視線を怖がるような彼女に防がれる。

 もう一言答えようと彼女に近づくが、ビクッと身体を震わせ怯えた目で風斗を見るばかり。


 光を反射するような綺麗な黄金色の髪はそこにはなく、光を透き通すような銀髪。

 海を彷彿とさせる美しい青色の瞳は、真っ赤に燃え上がる赤い瞳に変わっていた。


「騙し...てた...の?」


 誰の言葉か分からない。だが、誰かがその言葉を落とした瞬間、声がそれに続くように場にひびき出す。


「なんで、どうして!」

「尊敬していたのに...」

「騙してたのか!?」

「嘘ですよね、リシュ様!?」


 溢れ出る憎悪にも似た言葉が、か弱い一人の少女に無残にも刃を剥いた。


「...っ!」


 淡い色の唇を噛み締め、目から滴る雫たちが地面にその後を残す。

 そんなリシュを守るように、ローラント兄妹が前に出る。


「り、リシュさんは私を守って...!」


 しかしハンナの必死の抵抗の言葉も、言葉の嵐にかき消されてしまう。


 主要都市国家ルーゲンでも差別や迫害は少なからず出てしまう。これは民族国家の逃れられない運命なのだろうか。


 か弱いものを守る理性も、今まで信じていた強き者の裏切りには耐えられなかった。


「リシュ...」


 泣いている彼女に何も出来ず、風斗までも泣きそうな顔になってしまう。

 いつしか横にいるジアも、心配そうに風斗とリシュの顔を代わる代わる覗き込んでいた。


 そんな彼の脳裏に、約半年間のリシュとの会話が湧き溢れる。


『はーい騎士様〜』

『でもこの世界を見て回ってみたいという夢はあります。』

『当然のことをしたまでです。何より助かってよかった。私はリシュ・アンベリールと申します。』


 昨日のことのように思い出すと、泣きそうな顔はすぐさま消え、ふと風斗の顔に笑みがこぼれる。


「多分」

「んっ?」

「多分彼女を救うために、この世界で彼女に会えたのかもね」


 自分に言い聞かせるように言葉をこぼすと、ジアに向かって話す。


「ジア、お願いしてもいいかな」


 真剣な瞳に言葉を加えずとも、その意図を察する。


「本当にいいの?」

「ああ」


 そしてジアはゆっくりと魔法を唱え出す。その姿を眺めていると突然後ろから少年の声が、風斗に届いた。


「僕達のことを忘れるの?」


 今にも泣き出しそうな少年の声。風斗は振り返らず、誰にも聞こえない声で返答をする。


 この声に聞き覚えがあった。


「忘れないよ」

「そういったやつは全員僕を裏切った」


 今度は腹に響く、全てに絶望したような声。この声にも。


「僕は忘れないよ。僕自身の事を」

「本当にいいの?彼女を忘れれば、今までみたいに、見て見ぬふりをすれば今まで通りだよ?」


 最近までの声だ。


 身に降りかかった理不尽に、泣くしかなかった小学時代。


 諦めることと恨むことでしか、自分を保てなかった中学時代。


 利用すること、心に仮面を被ることを覚えた高校時代。


 自身を形成していた全ての過去と人格に、なおも風斗は言い放つ。


「結局全部僕なんだ。でも今代われなかったらこの世界でも同じだと思う。だからさ...」


 そうして風斗は最後の仮面を捨て去り、自分たちに約束するように話した。


「俺はお前たちのことを忘れない。俺がお前たちの生きた証だから」


 その言葉に納得したように少し寂しそうに、彼の心から影は消える。

 そして寂しそうに風斗は小さく呟いた。


「ありがとう。今まで」


 風斗の言葉が風に乗るのと同時に、ジアの魔法が完成した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ハンナとフレデリックの抗議もむなしく、彼女を責め立てる声は一向に減らない。


 彼女自身ももう既に涙を流すほどの気力もなく、モノクロのような世界をただぼうっと眺めていた。


 思い浮かぶのは彼の顔。だが、もう既にその希望すら、捨てていた。


「(これまでですかね...)」


 悲しく顔を下に向けると、前方の声が少しやんでいることに気づく。

 だが、そのことすら今の彼女にはどうでもよかった。


 だが次第になり止む暴言の嵐に、顔を少しだけ上げ前方に視線を向ける。


 すると今まで罵詈雑言を浴びせかけていた生徒達が、少しずつ道を開けるように横に移動していた。

 泣き疲れた顔に疑問符を上げる彼女。だがすぐにその状況を理解した。


 理解を、してしまった。


 再び溢れ出る雨粒を手で拭いながら驚きを顔に表す。

 そしてやっとでた、絞り出た言葉がその場に響く。


「どう...して...?」


 自然に笑みがこぼれてしまう。雨が去ったあとの地面のような、くしゃくしゃな顔でその少年を見た。


 つかつかと歩みを彼女の前で止めるとその少年は、春のような笑みを浮かべ言葉を紡ぐ。


「初めまして、リシュ」


 黒髪黒目、この国家で忌み嫌われる色を宿した少年が目の前で笑っている。


「やっと、君を見た気がする。」


 なぜ?その疑問が浮かんでは消えるが、少年はなおも笑みをこぼしながら彼女の手を握る。


「ねぇリシュ?」

「はい...なんで...しょうか?」


笑みと涙が顔から消えない。嬉しさ悲しさ、様々な感情で胸はもういっぱいだ。


 だが青空が広がるような風が吹き、彼女の顔の涙だけをさらっていく。


「僕と...いや俺と一緒にこの世界を見て回ろう!」


 その言葉でモノクロだった世界に色が落とされた。


 どんな苦い経験も、嫌な言葉も、全てが彼の笑顔と言葉で吹き飛んでしまう。

 また少しの涙を浮かべ、初めて彼と会った事を思い出しながら彼女は言った。


「はい...よろこんで!」


 その言葉を聞くやいなや彼女の手を引っ張り、ジアを呼ぶ。


「ジア!お願い!」


「んっ!」


 いつしか隣にいたジアが水魔法で、その場から離れるような水をその場に作りだす。


「リシュみたいに上手じゃないけど...!」


 その水を氷魔法で形作りながら、滑るようにしてその場を後にする三人。あの体育祭のようにお姫様抱っこで。


「あはははは!もうめちゃくちゃです!」


「でもさ!楽しい!」


「はい!」


 三人がその場を離れた後には綺麗な虹だけが微笑むように、そこに架かっていた。





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