第一等級の日常
動きのない回です。第一等級について少し触れました。
また、今日はもう一話投稿します。
元第一等級ガゼル・プランサスを下し、見事第一等級の制服に身を包んだ風斗。
朝日が照らす学生寮の中、彼は今リシュの部屋の前に来ていた。
第一等級になり一緒の授業を受けれることになり、一日交代ずつで迎えに来ている。
もちろん風斗の髪の毛の色は既に変色魔法で変わっている。
鏡を見ながら自分でもやっているのだ。色は少しばかり暗い色だが、さすがに少しの変化に気づける人間は少ないだろう。
木製の真新しいドアをノックする。小気味よい音が部屋の中に響いたかと思えば、彼女が顔を出す...はずだったのだが。
数分経ってもリシュの姿が現れず、不思議に思った風斗は少し大きな声で呼びかける。
「リシュー、迎えに来たよー!」
その声が部屋に中に響いた瞬間、野獣が暴れ回るような音が部屋の中から聞こえた。
その音に焦り、部屋の中のリシュに呼びかける。
「リシュ!?どうしたの!?開けるよ!」
しかしそこで待ったがかかる。焦ったような口調のリシュにより。
「だ、だ、大丈夫です!少し寝坊してしまって、ああもう最悪。少し待っててください!」
そうして再び、とてつもない騒音が中から聞こえだした。
数分、風斗が持っていたこの異世界の本を読み終わるのと同時ほどに、部屋の中の騒音はなりを潜め木製の扉がゆっくりと開く。
そこには白い制服に包まれたこの学園で生徒の頂点に君臨する美少女がいた。
絹のような金色の前髪を手鏡を見ながら弄っているリシュ。
きめ細やかな白い肌。調和の取れた顔のパーツ。そして可愛らしさだけではない学園最強と言われる魔法技術。
だが今の彼女に圧倒的な強さによる威厳はなく、ただただ寝坊して恥ずかしい思いをしている少女が居た。
風斗は本を閉じ鞄に入れると、話しかける。
「おはよう、リシュ。じゃあ行こっか!」
晴れやかに言う風斗の言葉に陽の暖かさを感じながらリシュは頷く。この日がずっと続けばいいなと感じながら。
「はい、行きましょう!」
朗らかに笑いながら二人は歩みを進めた。
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校舎に引けを取らない荘厳な学生寮から出て、風斗は朝から疑問だったことをリシュに聞く。
「リシュが寝坊なんて珍しいね。どうしたの?」
今まではなかった事態だ。そのことに対し少し考えながら返答をした。
「今日風斗さんが来ることは分かっていたのですが、風斗さんの声を聞くまで完全に寝てました。どうしてでしょう?」
うーんと小首を傾げるリシュ。少しの間考えていたが、思い当たる節があるように口を開いた。
「安心...ですかね。」
「安心?」
「はい。今まで気を張りつめてましたから、朝風斗さんに逢いに行く時も。ですが今は風斗さんが起こしてくれますし、多分それですかね。」
咲き誇る笑顔を向けられて風斗は頬が赤くなるのを感じた。ぷいと視線をそらし、顔を見えないようにする風斗。
このところリシュを意識してしまうことが多い気がすると、彼は考えていた。
「(どうにかしないといけないなぁ...)」
まだ知らぬ感情に少し振り回されながら、リシュを少し見る。彼女は変わらず楽しそうに風斗の横を歩いている。
だが、風斗は少しの違和感を彼女に感じた。いつもと何かが違う。感覚的なものを。
「(少しだけ...髪の毛が暗い感じがする。)」
そのことについて考えようとした瞬間、ジアが後ろから来たので思考を中断させた。
「マスター、リシュ、おはよう。」
クールな少女は水髪を風に揺らめかせ、二人の後ろに着いてくる。
機械で出来た装甲と背丈を超える大きなランスはなりを潜め、今は第三等級の制服に身を包んでいる。
三人で会話をしながら巨大な校舎へ入っていく。一階でジアと別れ、二人は第一等級の教室へと歩みを進めた。
いつもと同じ閑散な教室にカリストが一人佇んでいた。風斗達が来たのがわかると閉じていた目を開け、挨拶をする。
「おはよう二人とも。」
「「おはようございます。カリスト先生」」
「今日も君たち二人だね...」
少し落胆させたように言葉を吐くカリスト。風斗がしばしの間、第一等級の授業を受けてみて分かったことがある。
カリストによる座学はとても素晴らしく、様々なことが吸収できるが、いかんせん座学に来ている生徒が少ない。
リシュと風斗は全ての授業に出ているが、ほかの第一等級の生徒たちは実技以外はほとんど顔を出していなかった。
フレデリック・ローラントもしばしば授業に顔を出していたが、どうやら家の事情で顔を出せない期間が続いている。
この学園では一定数の等級になってしまうと起こる現象のようなものだった。座学を必要とせず、実技にしか価値を見いだせない。
その結果がガゼルのような生徒を生んでしまうと、カリストは風斗との初めての授業の後にそう伝えていた。
そのことを思い出し、少し寂しい顔をした風斗にカリストはパンと手を叩くと、明るく言葉をかける。
「まぁこういう現状になってしまっているのは私のせいでもある。しかしいつも頑張っている君たちに何も無いと報われないから、今日は授業内容を実技に変更しようか。」
その言葉に二人は驚きを隠せない。だがそんな二人に、風斗が初めてあった時のような柔和な笑顔をうかべながら声をかける。
「皆には秘密だよ。」
そして三人は実技をするために学園のエレベーターに向かった。
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ダンジョン。多くの冒険者が、夢を胸に抱き向かう場所のひとつ。
多大なマナを多く含んだ土地が突如として迷路のような姿に変えた場所であり、中には大量の魔物や魔獣が潜む危険地帯だ。
主要都市国家ルーゲン唯一の教育機関である、王都グラン学院の地下深くにも、ダンジョンが生成されていた。
24時間体制で教員数十名が監視下に置いており、実技施設として運用、管理をしているこのダンジョンに足を運ぶ三人。
風斗、リシュ、カリスト。
制服に身を包み、己の得意な武器を腰に携えた二人は周りのマナを感じ取りながら歩みを進めていた。
レンガ造りの不格好な迷路を突き進みながら、二人は会話を進める。
「やっぱり実践が一番マナを伸ばせるね。」
ボロボロの衣類を着ていた骸骨戦士を、軽くあしらいながら風斗が話す。
そして骸骨戦士が頭蓋骨に持っている骨のようなコアを貫き、弾けたコアを回収しながら体の調子を確かめるように動かす。
マナの上限が少しずつ伸びていることに、確かな頷きを見せると二人は突き進む。
『マナ保有量は伸ばすことが出来る。』
元第一等級ガゼル・プランサスを見事打ち破った後のカリストのセリフである。
マナは魔法を使い、回復する度に徐々に増えていく。筋肉のようなものだ。
だが、自分だけでは限界がある。その成長限界を突破するのが魔物のコアである。
武器や防具の加工にも使われる魔物のコアを壊し、詰まったマナを吸収することで上限が上がる。さらに失ったマナも回復できるという代物。
風斗はその事と、夏にあった出来事を思い出していた。マナ消費をしたあとの戦闘のあの感覚。
「(なるほど、確かにマナを失っては増える感じがする。)」
長い階段を抜けると、そこは主要都市国家ルーゲンのダンジョン最奥。
しかしどこを見渡しマナ感知の上位互換であるマナ受動を発動しても、魔物の反応が一匹も見つからない。
カリストはここいらで、という顔をしながら二人に話しかけた。
「もうダンジョンの魔物を狩り尽くしてしまったそうだね。」
ダンジョンに潜って二時間しか経っていないが、全て倒してしまったらしい。
実技にも使われるダンジョンであるからそこまで広くなく、生まれる魔物も低ランクが多いのが原因か。
風斗とリシュは用事があるというカリストと別れゆっくりと歩き出す。
今日あったこと、感じたことや思ったことを話す、これまた新しい日課だ。
大雑把な作りのダンジョンとは異なるような、水で彩られた階層に躍りでる。
来た時とは違い、魔物の反応もなくゆっくりと川のほとりで話を続ける。
空には不自然にできた綺麗な虹がかかり、人口太陽のような光が差し込む光景は、この世のものとは思えないほど美しかった。
話を中断し、何をする訳でもなくただぼうっとしている。夏休みにはなかったつかの間の休息
風斗は何気なく、リシュを見る。水辺から少し離れ、今回得たコアなどを眺めている。するとふと、リシュと目が合った。
微笑んだ彼女は、空に生きる虹よりも可憐だと風斗は思う。そして風斗はリシュに問う。
「リシュってさ、水が苦手なの?」
突然の質問にリシュが少し動揺するが、少しの肯定を見せた。
「苦手...とは少し違いますが、概ねその解釈で間違いないと思います。」
回りくどい言い回しに少し違和感を覚えるが、まぁいっか、と草原に寝転ぶ。
様々なことが激流のように押し寄せたこの一ヶ月間は、風斗にとってはとても濃い時間だった。
ダンジョンの中に不自然になびく風に身をゆだねながら瞼をそっと閉じる風斗。
彼なりに初めてのダンジョン初攻略を、少しの合間噛み締めているのであった。




