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答え合わせと決着

今日から一週間の間だけ毎日23時に新話投稿します。よろしくお願いします。

「防御魔法『風花の花弁(アニー・モス)』」


 開花した花弁に守られ、その姿をさらけ出す風斗。朽ちた花々のようにその防御の壁が崩れると同時に、ガゼルが膝から崩れだした。


 確実に勝つ一手、いや殺そうとした一手を容易く破られたのだ。しかも格下に。


 その事実を否定するかのようにガゼルが咆哮する。


「ありえない!あの一撃をくらって無傷なんて、お前まさか私より格上の固有技能を...!」


 その言葉を受け、風斗は眼前に広がる大樹の木々に目をやる。木々たちはマナ補給が得られなくなり、徐々に萎みかけていた。


 確かに物量やマナ保有量は風斗のはるか格上。この偉業も、今の風斗では真似出来ない代物だ。


「確かに君はすごいよ。こんな強力な固有技能による魔法、マナ総量どれをとっても、僕より格上だ。それに...」


 説明しながら徐々に気持ちに芽生えかけていた気持ちに答えを見出す。元いた世界ではなかった、ありふれた感情の正体、それは。


「君が羨ましいとさえ感じた。」


 嫉妬。強い技能、恵まれたマナ。生まれも育ちも恵まれた彼に対する純粋な嫉妬。


 元いた世界では人形のような振る舞いしかできなかった風斗に、なかった感情。


 だがその感情と比例するように怒りが込み上げる。疑問符が波のように何度も、浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返す。


 風斗を射殺そうとする大量の樹木から外れるように、これまた少なくない量の木々が散らばっていた。


 おそらくマナ操作が中途半端で、操作できなかった木々だろうと風斗は考える。


「でも、それを驕り、自らの強さだと勘違いし、何もしなかった君には何も言われたくないしその資格さえ今の君にはない。」


 つかつかと萎んだ木樹を踏みしめながらガゼルとの距離を詰める。ゆっくりとだが、しっかりと諭すようにガゼルに言葉を届かせる。


「答え合わせをしようか。僕の固有技能は君の攻撃から守る強力な技能でも、剣の扱いを成長させるようなものでも無い。ありふれた技能の『観察眼』だよ。」


 その発言に目を見開き、動揺を顔に出す。ありえない、そう彼の顔には書かれていた。


「この世界に来てから僕は僕なりに努力をした。その結果が君を追い抜いた、それだけだ。」


 答え合わせをした途端ガゼルの顔が醜く歪む。


「ふ、ふははははははは!」


 突然笑いだすガゼル。体についた剣先の傷から血が空中に躍り出るが、気にせず喋り出す。


「努力で補ったと?だからなんだ!努力など凡人がすること。恵まれた私がすることではない!」


 さっと立ち上がると、殺意の目線を風斗に向ける。戦意を奮い立たせ自らの誇りと、信じてきたもののために魔法を展開させるガゼル。


「浴びる陽、漲るマナ、木々に祝福されし我に力を貸せ」


 魔法陣がガゼルの下に大きく開かれ、地面に生えてる草や、種子から生まれた木々がガゼルを守るように成長する。


「樹木装備魔法『樹木の巨人(プラント・ギガンテス)』!」


 唱え終わると、ガゼルの周囲の草やポケットから湧き出る樹木が彼を完全に覆った。


 それは木々がうねりをあげながら生成された二本の脚、幾重にも絡まった木々が腕を形成させており、観客が恐れを成すほどの迫力を持ち合わせた巨人。


 それがもとは人だったと誰が思おうか、青空に広がる大樹がゆっくりと歩を進める。


 ニョキっと心臓部位に顔を出し、酷く歪んだ笑みを携えたガゼル。そこにはもう第一等級として、人としての尊厳を踏みにじった者しかいない。


「これは私の奥の手だ。これを出させたことは評価してやろう。だが、お前はもう生きて再び学園の土を踏むことは無い!」


 その言葉が終わる瞬間、ガゼルの足場が爆ぜた。鈍重な見た目とは裏腹に、目にも止まらぬスピードで風斗をなぶる。


 すかさず空気を蹴るようにして避ける風斗だが、なぶった後に空中を這うように動き出す体中から出たツルが足をつかんだ。


「くっ!」


 ツルを切り離すが、その時に空中での体制が壊れてしまう。


「貰ったァァァァ!」


 空中で身動きができない風斗の身体に巨人の拳が飛んでくる。乾いた空気が振動し、はるか何倍にも見える錯覚を起こす、刹那の一撃。


 空中で体を丸めるようにしていた風斗は静かに、だがしっかりと自らの成果を述べる。


「技能魔法『風の名残残し(ウィンド・ビジョン)』」


 その瞬間風斗の体を拳が貫く。観客はその惨状に思わず目をつぶり、ガゼルは勝利を確信する。


 が、違和感がガゼルの身体中を駆け巡る。貫いた感覚がない、と。


「なぜお前がそこに立っている...!」


 繰り出した左腕の拳の先に立っている違和感の正体。


「春野風斗!!!」


 涼しい顔をした風斗がガゼルの拳の上に立っていた。


「君は僕の残像を貫いただけだ。」


 風斗の追加技能である[空中歩行]と[縮地]を使った新しい移動方法。


 マナを足元に任意で薄く張ることができる空中歩行と、瞬間的な移動が可能な縮地。それらと風纏を組み合わせ回避を行い、縮地を発動させたため残像が残った。


 そして拳の上から後ろに軽くステップし、目の前の巨人の腕に斬撃を繰り出していく。


 空中歩行と風力場を巧みに使い、腕を回転するような形で削いでいく。暴風のような攻撃のコンボに硬い樹皮は削がれ、網目のように縫われた腕を破壊されていった。


「風魔法『迅速の風槍』」


 背後に展開された魔方陣から迅速の風が巨人の体を突き抜ける。


 疾風の如く槍の一撃達は凄まじい衝撃を伴いながら巨人の足を貫き、膝をつかせた。


 攻撃の嵐に大きな巨人のからだは徐々にそがれていくが、急速に回復するように地面からツタが伸び、えぐれた箇所を修復していく。


 反撃をしてきた右腕を躱し、魔法をさらに展開させる。夏休みの間に特訓をした成果がありありと実戦で活用されていくのが分かる風斗。


「風魔法『風刃の雷雲(ふうじんのらいうん)』」


 突如地面に出現した大きな魔方陣から、大地と空気を飲み込む大きな竜巻が生まれ落ちる。


 さらにその中に、風魔法の『風刃』と雷魔法『雷撃』が飛び交い巨人の命を削ろうと竜巻の中を走り回る。


「があああああああああ!」


 硬く、深い樹皮に守られている本体に雷のダメージが蓄積していく。その間にも風斗により斬撃の舞踏会は続いていく。飛び散る魔法群を掻い潜りながら巨人の体を削いでった。


 もちろん多少の魔法コントロールはされてはいるが、物量が多いため大雑把なコントロールしかできていない。


 風斗めがけ飛んでくる魔法も少なくはないが、観察眼を併用し避けていく。


 中を確認できない嵐の竜巻に観客が目を凝らしていると、徐々にその災害は小さくなっていく。

そして嵐が収まる頃には、いきも絶え絶えな巨人と無傷の少年がその場に立っているだけだった。


 顔には血管が浮き出し、目は赤く充血、マナ枯渇症状が顕著に現れているガゼル。


 マナ受動という追加技能を持った風斗には相手のマナの流れや、マナを放つ者がどこにいるか頭にマッピングされる。


 そして観察眼との応用で、ガゼルのマナを把握していた。


「(巨人になると確かに脅威。だけどマナ消費が激しいようだね。いや、消費というよりかは...)」


 木々にマナが吸われているという表現の方が正しいだろう。現にガゼルは巨人の体の修復さえ、ままならない状態に陥っている。


「がはぁ...はぁはぁ...。まだだ、まだ私は、はぁ、戦える...!」


 勝ち以外の結果に価値をみいだせない狂った人形のように、風斗を定める。


 血走った目は、もはや人間のそれとはかけ離れていた。


「もう終わりにしよう、ガゼル。」


 そう呟くと軽く力を込めながら柄を握り直す。


 その言葉が届いているかは定かではないが、無い左足を無視しながらデタラメに足を動かしながら風斗との距離を詰める。


「はるのぉぉぉふうとぉぉぉぉぉ!」


 叫びは絶叫に変わり、その形相にふさわしい狂気の一撃を風斗めがけ飛ばす。


 だが刹那の狂気の一撃を見切り、風斗は技の名前を繰り出す。そうあの日と同じように。


「剣技『神威豪風斬』」


 瞬間横に振り払われた嵐の斬撃が、巨人の胸を通り抜けていく。繰り出していた右腕も、深い樹皮も全てを切り払いながら嵐の斬撃は突き進んだ。


 その衝撃でガゼルの体は吹き飛び、巨人の身体から抜けていく。


 核を失いぽっかりと心臓部分が抜け落ちた巨人は、徐々に朽ちた樹木へと姿を変えていく。

 後方に吹き飛ばされたガゼルは受身を取れずに地面を突き進む。ゴロゴロと力なく転がり終わると、ゆっくりボロ雑巾のようになった身体を起こした。


 美しく白い基調の取れた制服は無惨にもその威厳を失い、胸の部分には嵐の斬撃の痕跡らしき切り傷が痛々しく残っている。


 滴り落ちる血が制服を赤く染め上げる頃に、ひび割れたメガネの奥に潜んだ負の感情が風斗を睨みつける。


「私はぁ...まだぁ...やれるぞぉ...春野...風斗。」


 そしてマナ枯渇症状が出ている右腕を突き出し、魔法を練りあげようとする。

 だが風斗が縮地と風纏で眼前に瞬間移動する。そして目の前の敵に話しかけた。


「今やったのは僕が単独でライカンスロープを殺した時の威力をだいぶ弱めた剣技だ。」


 そう言い放つと、誰もいない平原にライカンスロープの時とおなじ斬撃を放った。

 草原はパックリと割れ、低地にはいでていた雲を切り分けていく。その様子に観客も、ガゼル自体も驚きを隠せないでいた。


 そんな様子を知ってか知らずか、再び眼前の人間に話を続ける。


「これ以上続けるなら僕も加減をしない。今度は...」


 風斗の背後に魔法陣がいくつも立ち並び、風纏により風斗の髪の毛が逆立つ。

 観察眼とマナ感知によるオッドアイの奥に潜む、野獣のような殺意がガゼルを完全に射抜く。


「全力で潰す」


 音をさせない、目で追えぬ程の速度で出された剣がガゼルの目線の先で止まる。


 ガゼルの目の奥に潜んでいた負の感情はなりを潜め、細胞一つ一つが敗北を悟っていた。

 音がなりそうなほど歯をかみ締め、視線を地面に落とす。


 地面に彩られた緑や赤が、嫌に目に入る感覚に陥りながら重い口をガゼルは開いた。


「参り...まし...た...。」


 その言葉が風斗に届くのと同時に会場は大きく揺らめく。

 歓声に次ぐ歓声が場を振動させるが、風斗は一人眩しいぐらいに輝く太陽に手をかざした。


 そして誰にも聞こえない声で、静かに独り言をこぼす。


「やっと、、、ここまで来たよ。リシュ」




うちの風斗やっとここまで来ました。

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