表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/77

決闘

 あの日から一週間、何不自由なく風斗は過ごしていた。


 第二等級に上がってからというもの授業や図書館で借りられる本の内容の質も向上し、より一層勉学に励んでいる。


 二日に一度ある第一等級との合同授業の甲斐あってか、風斗はさらなる知識を蓄えていた。


 そして昼時の賑やかな食堂にて、リシュ、ジア、リッケルと共に将来の夢について会話をしていた。


「将来の夢かぁ、考えたことも無いな」


 元いた世界では親が敷いたレールの上を歩くことしか許されていなかった風斗。


 今なおその影響が強く残り、自分の成りたい物のビジョンが浮かばないでいた。


 それに同意するように、言葉を借りるリシュ。


「私も考えたことは無いですかね。」


 困ったような笑みを浮かべながら話すが、ふと思い出したように続ける。


「でもこの世界を見て回ってみたいという夢はあります。」


 叶わない夢のように虚空を見ながら悲しく話す。リシュも風斗同様、自らのビジョンが浮かばないのであろう。


「私はマスターのいる所に居る。」


 ジアが厳然たる決意を胸に話すが、その事がより一層風斗を困らせた。


「俺は世界最強!」


 可愛くぴょこんとはねながら自分の夢を話すリッケルに対して、子犬を撫でるようにわしゃわしゃとジアは頭を撫でる。


 和やかな雰囲気の中食事は進むが、突然その平穏は壊された。


 怒りを顕にしながら、風斗に詰め寄ったガゼルによって。


「春野風斗!時間だぞ!何を優雅に昼食をとっているんだ!」


 ガゼルの姿と言葉の内容に、きょとんとした態度で返答をする風斗。


 完全に決闘のことを忘れており、ガゼルのこともうろ覚え気味に覚えている様だった。


「えーと、なんだったっけ?」


「決闘だ!決闘!一週間前に申し込んだだろう!」


 風斗の左手の紋章が煌めく。ガゼルの左手にも同じ紋章が煌めいた。


 そういえばそんなことあったなと思いを巡らせていると、愚痴愚痴と文句を言っていた眼前のガゼルから嘲笑が飛んできた。


「ははん、そういうことか。負ける事に臆してそんな態度をとっているんだな。」


 その言葉が場に木霊した瞬間、殺意が三箇所から湧き出す。源泉のようなその純粋な殺意に、ガゼルがおののく。


周囲の人間までも巻き込んだ、殺意の源達が口を開いた。


「風斗さんがあなたに臆するとでも?少し大きくですぎでは」


「マスターが負ける?何をぬけぬけと、この雑種が」


「風斗兄ちゃんは負けねぇよ!」


 そのやり取りに風斗が席を立つ。三人を窘めるように言葉をかけたあと、ガゼルに向き合った。


先程までの和やかな雰囲気はそこにはなく、真剣な眼差しでガゼルを見定める。その瞳に少しばかり喉がなる感覚を覚えたガゼル。


「じゃあ行こうか。ガゼル・プランサス」


 その返答を聞く前に風斗はその場を去った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 爽やかな風が草原の背丈を撫でる。柔らかな日差しの元、二人の決闘者は並び立っていた。


 お互いが得意の武器をたずさえ、その時が来るのを静かに待っている。


 第一等級と第二等級の決闘という事で数百にも及ぶギャラリーや、教師が離れた位置からその場を見ていた。


 そしてついにその時が訪れる。監督官役の教師の言葉が静かな草原に響き渡った。


「第一等級ガゼル・プランサス。第二等級春野風斗。お互いのどちらかが降参もしくは戦闘不能になった場合を決着とみなす。両者、ともに初め!!!」


 が、しかしその声が大きく響くが両者ともに動きはない。


 相手の動きを見ているのか、はたまた違う理由か。数十秒が経ち先に動きを見せたのは風斗だった。


「ガゼル君。確認をしておきたいんだけど、君が勝ったら何を望むんだっけ。」


「私からはお前とリシュとの接触を禁じる。またあのジアと言ったな、あの少女を...その...私のメイドとして雇う。」


 突然のジア、メイド化発言に場が凍りつく。


 リシュとの接触という自分の願望と、ジアをメイド化するという欲望を、ちゃっかり入れている辺り抜け目がないと本人は思っているだろう。


 しかし会場はこのむっつり眼鏡が!!!という共通認識でガゼルを見ていた。


 さらにリシュとジアに至っては、本当に気持ち悪そうにガゼルを軽蔑している。


 この要望を軽く無視し、風斗は己の勝利した時の内容を話す。


「じゃあ、僕が勝ったら第一等級に進級。さらに君の等級を下げるってことでいいかな?」


 ガゼルはその言葉に肯定をするように眼鏡をクイッと持ち上げ、武器に手を添える。


「最後に」


 風斗も同じように武器に手を添え、相手を見据えながら言葉に力を込め、そしてライカンスロープを目の前にした時と同じ以上に殺意を放つ。


「君がどんな思いを抱いて僕の友達を見ているかは知りたくもないし、興味もない。だけど僕と僕の友達の邪魔をするならその時は、全力で潰す。」


 その言葉を放った瞬間、ガゼルの足場が弾けた。


 ガキーン!


 ガゼルと風斗の剣が交差する音が場に散乱する。ガゼルは風斗と同じロングソードだが、金にものを言わせたかのごとくミスリル製の剣。


 大して風斗は何度も使っているネモ特製のブロードソードだ。


 弾ける火花と凄まじい音が場を支配し続け、二人の視線がぶつかり合う。


 殺意に無理やり抵抗するように目を見開いているガゼルに対し、子どもの相手をするように軽くいなす風斗。


 音を置き去りにしたような斬撃が鳴り止みガゼルが一歩引くと、再び会話が始まる。


「お前は剣が得意と聞いていた。だから完膚無きまでに、私がお前の剣の手ほどきをしてやろう」


 なおも高圧的に上からの態度を崩さず、相手を見下す。風斗はその様子になにか反応することもせず、ただ相手の動きを伺っている。


「早くきなよ。」


「舐めるなぁ!」


 挑発的な言葉に反応し、ガゼルが再び剣の攻撃を浴びせる。凄まじいほどの攻撃の数が風斗を襲い、剣戟の音が再び場を支配した。


 そして数分が経ち、音が鳴り終わった後に広がる光景。


 息も絶え絶えといったように汗を垂らしながら相手を睨む。


 それは第二等級のガゼルの姿だった。


 眼前に控える格下の相手になぜこれほどの差があるか、彼は理解ができなかった。


「もう終わり?次は僕の番だね。」


 そう言い終わると、身体強化で得たスピードを生かし、ガゼルの目の前に躍りでる。


「くっ!」


 既のところで風斗の剣を受け止めるが、次々に出される剣舞に追いつくのが精一杯な様子。


「剣を握りしめすぎてる。だから柔和に剣を扱えない。腰に力が入っていないから、簡単に弾かれる。ほらほら、腕力だけで振るから体の軸がぶれる。視線が剣に吸われすぎて、相手の動きが見えてないよ」


 さらに風斗の剣技による講義は引き続く。次第に受け止めきれず、体に傷が増えていくガゼル。


 顔に貯めた青筋が、色々なことへの我慢の限界を示していた。


「あああ、煩い!お前と私の差を思い知らせてやる!」


 そう言い放つと、後方大きく回避をし、それを()()()風斗は見逃した。


 ガゼルが剣に這うようにマナを這わせる、風斗も同じように剣にマナを這わせ、剣を振る。


 追加技能のマナ操作循環などの効果で手を這わせることなく、剣を強化することが出来るようになった風斗。


 ガゼルの準備が終わると、突然勝ち誇ったように語り始めた。


「絶大なマナ保有量!神に祝福されし固有技能!私とお前の絶対的な差だ!」


 しかしガゼルの剣をマナ感知で見ると、それは夏休みに風斗がやった棍棒のようなものと酷似していた。


 おおよそ多いマナにかまけて塗りたくったのだろう。


 その様子に気づかないガゼルに風斗は、知らぬ感情が湧き出ることに気づく。


「(何だこの気持ち?)」


 自分の中に湧きではじめている感情がなにか、考えているとガゼルが仕掛ける。


「はあああああああああ!!!」


雄叫びを上げながらマナを塗りたくった棍棒のような剣を、力任せに振り下ろす。


 ガキン


 振り下ろされたガゼルの剣を振り上げるように、軽く弾いたつもりだった風斗。


 が、結果は斜め上を行く結果となっていた。マナの鋭さの違いにより、ガゼルの剣が風斗の剣に斬られていたのだ。


 弾き飛ばされた剣先がガゼルの頬を切りつける。ミスリル製の質の良い剣先だ。触れただけでも軽く皮膚を傷つける。


 つーと流れ出す血が顎を滴り落ち、草原に赤い絵の具を落とした。


 怒髪天をつくような感情を体に宿したガゼルが、声を荒らげる。


「クソが!お前のような下等な人間にこの私が負けるはずがない!少し剣が上手いからと言って図に乗るな!」


 そう言いながら制服のポケットから植物の種子のようなものを取り出すガゼル。


「これが神に祝福された私の固有技能だ!」


 そう言い放つと、種子を放り投げる。すると突然空中から鋭利な枝が、風斗目掛けて走り出す。


 これがガゼルの固有技能、樹木魔法。対象の種子にマナを込めると急成長し、所有者の意のままに操る珍しい魔法。


 彼が複数所有する固有技能の一つ。


「相手を貫き、養分とせよ!樹木魔法『木々の咆哮』(プラント・バースト)!」


 走り始めた木々が更に増し風斗を真正面に捉えた。地面が抉れる衝撃と土気ぶり。


さらにどんどん地面に吸い込まれるように、攻撃を続ける木々達で風斗の姿が見えなくなる。


 その光景にギャラリー達は嫌に静かになる。誰かが喉を鳴らし、事の次第を見届けるために風斗のいた場所を見続ける。


 はるか後方戦闘を見ていた監督役の教師が止めに入ろうとするが、リシュがその体を止めた。


 心配する表情ではない。確実な信頼から出るその瞳の強さに教師は気づく。


「大丈夫です。風斗さんなら」


 その言葉に教師がうなづき、勝負は続いた。


 勝ち誇ったようにガゼルが高笑いをし、口々に汚い言葉を投げつける。


 よほど溜まっていたのか、言い終わる頃には息をゼェゼェと口からこぼれ、酸素を肺に運ばせていた。


「これで、私の...」


 そう言い放とうとした瞬間、目の前の木の大軍が弾き飛ばされる。


 その光景に数名の生徒を抜いた全ての人間が、ド肝を抜かれる。ガゼル自身も目の前で何が起こったか分からない様子。


 そして弾き出された木々の下に居たのは。


「防御魔法『風花の花弁』(アニー・モス)


 風力場で彩られた花弁に、身を守る風斗の姿だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ