貴方が私のマスター?
新キャラ来たーって感じです。
凄まじい斬撃と共にその戦闘を終わらせた風斗に、二人はかける言葉が見つからなかった。
成長をまじかで見ていたリシュも成長を促していたカリスト自身でさえ、この結果は異常とも言える事だった。
当の本人の風斗はコートの裏に忍ばせていたナイフを使い、ライカンスロープの右胸の部分を掻っ捌く。
筋肉のような鎧をものともせずに、風斗が欲しいものを手に入れた。
それは石のような外見を伴い、紫色の筋を全体に走らせているライカンスロープのコア。
それを回収すると風斗はリシュ達の元へと歩みを進める。
しかし血だるまになった風斗に、どんな言葉をかけるかカリストは迷っていた。
純粋に褒めるには危なすぎる。だが、ここまで成長した生徒に何も無いのは幾分悲しすぎる対応だと。
カリストが考えを巡らせていると、リシュが風斗の所に走り出す。一筋の涙を浮かべて。
「リシュ、カリスト先生。僕やりまし...」
「風斗さん!」
言葉が言い終わらないうちに、風斗は抱きしめられる。
修羅のような殺意を放っていたとは思えないほど、風斗はその事で動揺し幾分かいつもの雰囲気に戻っていた。
「もう!あんな危ないことをして、どうして貴方はいつも!」
「でも、僕無傷だし。なんだかマナもあんまし失っていない気が...」
「そういうことじゃありません!」
リシュの怒りを孕んだ言葉が風斗に届く。
「正直、あの時の風斗さん。怖かったです。負ける訳ないと感じてましたけど、人としての感情がもう戻っていないんじゃないかと...」
リシュが感情を吐露する。実際あの場に居合わせた人間がいるならそう感じるだろう。
魔物と魔物の殺し合いだったと。
「そっか...」
悲しく呟くように風斗は言葉をこぼす。彼自身この戦闘での違和感は感じていた。
魔物を殺すことになんの躊躇いも躊躇もなかったと。実際最後の一撃、あれはなんにも考えず、目に前の敵を殺すためだけの斬撃だった。
無断にも散らばる肉塊と、後ろの家屋がそれを物語っている。
避難がすんでいなかったら、残りの住民がいたら、そんなこと風斗は頭になかった。
おそらく相手が魔獣でなくても、誰であってもという考えが風斗の思考に現れる。
そのことに気づき、リシュの心情を受け止め、沈んだ顔になってしまう風斗に見かねたカリストが声をかけた。
「風斗君、ここまで成長しているとは思わなかった、実際君には相応の力が備わっている。」
カリストの、風斗を見てきた経験から出る言葉だ。
「だけどね、忘れてはいけないよ。君は魔物でも、殺戮者でもない。心を殺さなくてもいいんだ。それを忘れてしまったら、本当の意味で人には戻れないよ。」
忠告ではない。様々な人間を見てきたカリストだから出る言葉に風斗はハッとさせられる。
未だそばで泣き出しそうなリシュを見ると、自然と心が痛みを増す。
ああ、知らず知らずに心配をかけ傷付けていたんだなと、心が体に訴える。
風斗は血で染まった手を拭き、リシュの頭を撫でると二人に、いや自分自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「そうですね。少し自分の感情を制御できていなかったかもしれません。」
でも、と言葉を続ける。
「同じ失敗は申しません。もう彼女を傷つけたくないので。」
そう朗らかに笑いかける風斗に、もう修羅の雰囲気はなかった。
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日が少し傾きかけた森の中、二人は歩く。風斗とリシュである。
ただゆっくりと森の中を歩く二人に先程までの雰囲気はなく、いつもの優しい陽だまりのような関係がそこにはあった。
ギルドなどに報告をすると言いカリストはその場を去り、村人達からは何度もお礼を述べられた風斗だったが、今回の理不尽の被害者は少なくない。
未だ心の整理がいかず泣き崩れる少女の姿に、なんて声を掛けたらいいか分からず二人はそそくさとその場をあとにしたのだった。
「なんも感じなかったと思ったけど、やっぱり色々考えちゃうね」
ぽつりと風斗がリシュに話し始める。疑問を挙げるリシュに、風斗が悲しい笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「もう少し早かったら、もう少し早く気づけたらって言葉がずっと頭の中で回ってる」
助けられた命があるかもしれない。自分以外はどうでもいいと感じていた、元の風斗なら出なかった答えだ。
「依頼というのはそういうものです。」
リシュが風斗に諭すように話し始める。
「難しいものや突発的に湧いてでた魔物とか、目の前で命を落とす姿を私も、何度も見ましたから」
風斗と同じように切ない笑みを浮かべながら話す。
「でも、風斗さん。」
「あの場にいなかったらもっと人が亡くなっていたかもしれません。」
風斗はじっとリシュの顔を見つめる。
「確かに修羅にはなりかけましたけど、救われた人も居るんです。」
「だから抱え込まないでください。もっと私に話してください。いつまでも私は貴方のそばにいます。」
ゆっくりとだが、確実に届く様に風斗の目をしっかりと見て話すリシュ。
告白チックの言葉に風斗は、ゆっくりとうなづく。
「ありがとうリシュ。君に助けられて、君に逢えて本当に良かった。」
心からの言葉に頬を染めながらそんなこと、と言いかけた瞬間リシュが一瞬怪訝な顔を浮かべる。
「どうしたのリシュ?」
「いえ、何だかここ違和感が」
そう言いリシュが空中に触れるように触ると、バチッとした音ともに手が弾かれる。
風斗も同じようにすると、同じように手が弾かれた。
「結界?」
「そうですね。しかも高密度の」
空間に作用し、膨大なマナと魔方陣により構築される上級魔法の一種、結界。
グラン祭にてリシュが小規模に行ったものである。だが、それとは桁違いの認識阻害結界がかけられており、二人は疑問符を挙げた。
「どうしましょう。」
「中に魔物が隠れていたら危険だし、一応見ていこうか?」
「そう...ですね。そうしましょう。」
そう言いリシュは、同じように軽く結界に触れる。そうすると今度は手が弾かれず、ガラスのようなマナが弾け飛んだ。
結界が壊れた合図のようなものである。
「結界はマナを維持し続けなければ、どれだけ高密度であろうが少し力を加えれば壊れてしまうんです」
そう続け、結界の中に入るリシュ。それを追うようにして風斗も結界の中に入った。
結界の中は森の中とは違い、野球場ほどの草原が広がっていた。
さらに花が道を彩るように左右に咲いてあり、その先に大きなそれはしっかりと鎮座していた。
朽ちた教会。これを説明するに適した単語はこれであろう。草のつるが手を伸ばし、しがみついている。
所々欠けているが、しっかりとした作りになっているのであろう、教会としての威厳は失ってはいなかった。
二人は会話をせず、目線で教会に行くことにし歩みを進める。
夕焼けを超え、星空が自らを主張し始める時間になり始め、二人は足を速めた。途中で咲いている何本もの花が月光の光を浴び、優しく発光している姿がとても幻想的だ。
その姿に目を奪われつつも、二人は教会の重い扉を開けた。
ギギギッと引きずる様な音が響きその内装が現れる。
「意外と綺麗ですね。」
「だね。」
教会の中は意外と綺麗で、掃除さえすればすぐにでも使えると思うほどしっかりとしていた。
何個も立ち並ぶ長椅子や、前に位置する大きな十字架、月の明かりに照らされたステンドガラスなど内装が、とても綺麗な印象を受ける。
その様子に心をときめかしたリシュが、子どものように走り出し、十字架の前で軽くコートをはためかせる。
ステンドガラスの光を浴びた彼女は、言葉に出来ぬほど綺麗で、風斗の頬が少し赤く染ってしまう。
知らない場所での危険や、いきなり走り出したことに言いたいことはあったが、全てが忘れ去られるほどに彼女は美しかった。
「風斗さんもこちらに、とってもいい眺めですよ?」
十字架の天井に位置する場所が壊れているらしく、そこから月明かりが差し込んでいた。
風斗も同じようにそこに座り、満天の星空をリシュと共に堪能する。
しばしのあいだ無言であったが、穏やかな空気がそこに流れた。
ふと風斗が横に目をやる。扉が付けられているその部屋に違和感があったからだ。
リシュも同様に気づいたようで、二人は目配せをするとその部屋の前に足を運んだ。
ゆっくりと扉を押す。一応リシュは腰のレイピアに手を添え、なにがあってもいいようにしていた。
そして扉が完全に開かれるとそこに居たのは。
「女、、、の子?」
風斗が言葉をこぼす。
そこには水色のミディアムショートの髪の毛が良く似合う女の子が眠っていた。整った顔立ちに、世の男性を引きつける小さな体格だったがその異様な光景に二人は言葉をなくす。
大きなランスを抱き抱えながら眠っているその少女は、身体が壊れていたからだ。
「これはどういうこと?」
風斗が近づく。だが少女からは反応がない。まるで壊れた機械のように。
エクスマキナ
「これは、機械人形?」
機械人形と聞きなれない単語に風斗が疑問を浮かべると説明するようにリシュが補足する。
「無機物と有機物の混合で生成されていた種族です。いわば機械の体を持った人間ですね。」
「生成、されていた?」
言葉の違和感を風斗がつくと、リシュが考えるように言葉を紡ぐ。
「数十年前に現魔王に種族ごと全て滅ぼされたと聞いていました。でも、なんでここに...」
滅ぼされたと聞き、風斗が目の前の少女を見る。寝ているような少女の顔を裏目に、左腕は壊れ、右半身に至っては潰されたように粉々に壊れていた。
痛々しい少女を見ていると、なにか右手の近くに落ちているのが見えた。説明書ほどの大きさと厚さのそれを拾い上げる。
表紙には達筆な字で『オークでも分かる機械人形修復ブック』とでかでかと書かれていた。
どこかで見たことあるなと感じながらもページをめくっていく。
中には機械人形の種族としての説明と、修復方法が書かれていた。
「リシュ、これ」
「なんですかこれ?」
同じように説明書を受け取り、ページを進める。
「修復には人間の血と複数の素材が必要なんですね。」
そこに書かれた素材は幸運にも教会の壁などに使われている。しかもここには人間が居る。リシュは意を決して風斗に頼み込む。
「風斗さん、あの!この子助けませんか?」
「ん?ごめんもうしてる」
「へ?」
よく見ると土魔法の応用で壁から必要な素材を取り出し、指先を切っている風斗がいた。その姿に驚くと共に行動力に驚かせられる。
そのリシュの雰囲気を感じ取ったのか風斗は言葉をかける。
「昔の僕なら見ぬ振りをしてたかもね。でも今は出来ることはしたいと思ってる。」
真剣な眼差しで少女に向かう風斗にリシュは笑顔を見せた。
血の滴る指を少女の口に近づけ、血を口の中に流し込む。ただ流し込むだけではなく、マナを多く含むように体内のマナを移動させたものだ。
そして地面に描かれている埃の被った魔方陣にマナを込め始める。それだけで修復は終わるのだ。
だが数分経っても魔法陣は反応せず、風斗の額に汗が滲む。
「私も込めます。」
近くで様子を見ていたリシュも魔方陣に手を添えマナを込め始める。
そのまま数分の時がたっただろうか、二人にマナ枯渇症状が出始めてきたところで変化が起きる。
魔法陣が光を帯び始めた。月明かりを遮るように徐々に光は増していき、二人の視界を襲った。
「うわっ!」
「きゃっ!」
光に目を奪われ、目を閉じる二人。その後すぐに光が消え、ゆっくりと目を開けると。
少女が大きなランスを片手にし、月光を背に立っていた。
太もものラインに沿うように空中に漂っている機械が月光に煌めき、長年放置されていたとは思えないフォルム。
そして無垢な小さな少女の身体はしっかりと修復され、風に揺れる水色の髪が印象的な彼女が風斗に向かい口を開く。
「んっ、貴方が私のマスター?」
あまりの神々しいその姿に為す術なく、放心してしまう二人であった。




